524 / 676
第八章 王国帰還編
512話 対面
しおりを挟む「ここが王の間だ」
兵士さんに連れられ、やって来たのは王の間と呼ばれる大きな部屋の前。
この扉の前に、新しい国王がいるってことか。
というか……城の中は、変わってないんだな。当然といえば当然だけど。
見たことのある兵士さんはいなかったけど、城の内装は以前のままだ。なにも変わってない。
本当なら、この向こうには新しい国王なんかじゃなく、ザラハドーラ国王がいるはずだったんだけど……
「国王様、例の黒髪黒目の人間を連れてきました」
「うむ、入れ」
兵士さんは扉をノックし、礼をしながら中へと呼びかける。
すると、すぐに部屋の中から返事が来た。威厳のある声だ。
それを受けて、兵士さんはゆっくりと扉を開けた。
「……」
促されて、私たちは部屋の中へと足を踏み入れる。
コツ、コツと靴音が響く。なんだか懐かしい気分になりながらも、ゆっくりと進み……正面にいる、見慣れない人物の顔を見た。
こいつが……
「国王様」
「あぁ、ご苦労だった。その者たちが、なるほど……確かに黒髪黒目だ」
ある程度の位置にまで進むと、兵士さんは膝をついて国王に礼の姿勢を見せる。
チラリ、と私たちに視線を向けてきたけど……いや、私たちがこの国王に視線よくする必要はないじゃんね。
なので、その場で突っ立ったままだ。
「確か……エラン・フィールドと言ったか」
「……そうだけど」
「貴様っ、無礼だぞ!」
この部屋にいたのは、国王だけではない。国王の側に、彼を守るように鎧を着た兵士が立っている。
他にも、メイドさんや執事と、いいご身分のようで。
「よい」
腰の剣を抜こうとした兵士を、国王は手で制して止める。
その一言だけでも、なんだか威圧感がある。それに、その顔には深いしわが刻まれていて、威厳を見せつけてくるみたいだ。
目は鋭く、ただこっちを見ているだけなのか本当は睨んでいるのか、わからない。
この人、ザラハドーラ国王より若いっぽいな。
……うん、確かに白い髪に黒い瞳だ。
「それで、私になにか? この場で捕まえる?」
「貴様っ……」
私の態度は、誰が聞いても無礼なものなんだろう。
だけど私には、この場で誰かに敬う必要なんて感じないし……一度は捕まえられたんだ、少しは腹も立つ。
周りの兵士はピリついているけど、そんなの私には関係ない。
「ふむ、噂通りの人物のようだな」
「噂?」
「どのような相手にも自分を曲げず、貫き通す。良くも悪くも、自分というものをしっかりと持っている」
……自分を持っている、か。
これは褒められているんだろうか? 褒められてないんだろうか?
というか、私のことそんな風に噂しているの誰だよ。
「なあに、一目会ってみたくてな……あのグレイシア・フィールドの弟子に。まさか、自分から来てくれるとは思っていなかったが」
「! 師匠を知ってるの?」
「あぁ、もちろんだ。むしろ、彼ほどの有名人を知らない者などいまい」
まさかここで、師匠の名前を聞くことになるなんて。
ははぁ、やっぱり師匠はすごいんだねぇ。魔大陸から帰って来るまでにもちょいちょい名前出てきたけど。
師匠の弟子だから、私に会ってみたかった……と。
それは、興味からなんだろうな。でも、私だって国王に会いたかったさ。
その理由は……興味もあるけど、それとは違う。
「で、主たちの要件を聞こうじゃないか」
さすが、話が早い。
私たちが望んでここに来たってことは、直接国王に言いたいことがあるから。それをわかって、こうして姿を見せてくれたってわけだ。
国民を洗脳しているクソ野郎かと思ってたけど……なんか、イメージと違うな。それとも、こっちを油断させるための演技?
「じゃあ単刀直入に。黒髪黒目の人間を捕らえろ、って命令を取り消してほしいな」
「ほぅ……」
なにを考えているのか、国王の表情は変わらない。
ただ、私を品定めしているような目線が……ちょっと、嫌だな。
「そもそもの話、私がそういった命令を出した理由を……キミは、理解しているのか?」
「うん。魔導大会をめちゃくちゃにした奴らが黒髪黒目だから、だよね。だからそいつらを捕らえるためってのはわかる。
でも、私やヨルはそいつらとは無関係だよ。とばっちりで捕まえられたんじゃたまったもんじゃない」
「主たちが無関係である、という証拠もない」
……さすがに、やめてくれって頼んですぐにやめてくれはしないか。
とはいっても、本当に無関係だ。今だって、周りの兵士たちは私たちを捕まえようと悩んでいる様子。
国王の一声があれば、一斉に飛びかかってくるだろう。
ここにいる奴ら程度なら、難なく倒せるとは思うけど……あんまり、大事にはしたくない。
危険人物の仲間、の前に王の間で暴れた危ない奴として捕まることになってしまうからね。
そんなことにはしたくない。だから……
「魔導大会を、そしてこの国をめちゃくちゃにした黒髪黒目の人間は、こいつらだよ」
私は、エレガ、ジェラ、ビジー、レジーの四人を突き出す。
フードを取り、四人の黒い髪を明らかにして。
黒い髪が露になった瞬間、周囲の兵士たちがざわめく。
そして……国王の眼光が、鋭くなった。ような、気がした。
10
お気に入りに追加
157
あなたにおすすめの小説
【R18】らぶえっち短編集
おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
調べたら残り2作品ありました、本日投稿しますので、お待ちくださいませ(3/31)
R18執筆1年目の時に書いた短編完結作品23本のうち商業作品をのぞく約20作品を短編集としてまとめることにしました。
※R18に※
※毎日投稿21時~24時頃、1作品ずつ。
※R18短編3作品目「追放されし奴隷の聖女は、王位簒奪者に溺愛される」からの投稿になります。
※処女作「清廉なる巫女は、竜の欲望の贄となる」2作品目「堕ちていく竜の聖女は、年下皇太子に奪われる」は商業化したため、読みたい場合はムーンライトノベルズにどうぞよろしくお願いいたします。
※これまでに投稿してきた短編は非公開になりますので、どうぞご了承くださいませ。
秘密多め令嬢の自由でデンジャラスな生活〜魔力0、超虚弱体質、たまに白い獣で大冒険して、溺愛されてる話
嵐華子
ファンタジー
【旧題】秘密の多い魔力0令嬢の自由ライフ。
【あらすじ】
イケメン魔術師一家の超虚弱体質養女は史上3人目の魔力0人間。
しかし本人はもちろん、通称、魔王と悪魔兄弟(義理家族達)は気にしない。
ついでに魔王と悪魔兄弟は王子達への雷撃も、国王と宰相の頭を燃やしても、凍らせても気にしない。
そんな一家はむしろ互いに愛情過多。
あてられた周りだけ食傷気味。
「でも魔力0だから魔法が使えないって誰が決めたの?」
なんて養女は言う。
今の所、魔法を使った事ないんですけどね。
ただし時々白い獣になって何かしらやらかしている模様。
僕呼びも含めて養女には色々秘密があるけど、令嬢の成長と共に少しずつ明らかになっていく。
一家の望みは表舞台に出る事なく家族でスローライフ……無理じゃないだろうか。
生活にも困らず、むしろ養女はやりたい事をやりたいように、自由に生きているだけで懐が潤いまくり、慰謝料も魔王達がガッポリ回収しては手渡すからか、懐は潤っている。
でもスローなライフは無理っぽい。
__そんなお話。
※お気に入り登録、コメント、その他色々ありがとうございます。
※他サイトでも掲載中。
※1話1600〜2000文字くらいの、下スクロールでサクサク読めるように句読点改行しています。
※主人公は溺愛されまくりですが、一部を除いて恋愛要素は今のところ無い模様。
※サブも含めてタイトルのセンスは壊滅的にありません(自分的にしっくりくるまでちょくちょく変更すると思います)。
さようなら竜生、こんにちは人生
永島ひろあき
ファンタジー
最強最古の竜が、あまりにも長く生き過ぎた為に生きる事に飽き、自分を討伐しに来た勇者たちに討たれて死んだ。
竜はそのまま冥府で永劫の眠りにつくはずであったが、気づいた時、人間の赤子へと生まれ変わっていた。
竜から人間に生まれ変わり、生きる事への活力を取り戻した竜は、人間として生きてゆくことを選ぶ。
辺境の農民の子供として生を受けた竜は、魂の有する莫大な力を隠して生きてきたが、のちにラミアの少女、黒薔薇の妖精との出会いを経て魔法の力を見いだされて魔法学院へと入学する。
かつて竜であったその人間は、魔法学院で過ごす日々の中、美しく強い学友達やかつての友である大地母神や吸血鬼の女王、龍の女皇達との出会いを経て生きる事の喜びと幸福を知ってゆく。
※お陰様をもちまして2015年3月に書籍化いたしました。書籍化該当箇所はダイジェストと差し替えております。
このダイジェスト化は書籍の出版をしてくださっているアルファポリスさんとの契約に基づくものです。ご容赦のほど、よろしくお願い申し上げます。
※2016年9月より、ハーメルン様でも合わせて投稿させていただいております。
※2019年10月28日、完結いたしました。ありがとうございました!
茶番には付き合っていられません
わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。
婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。
これではまるで私の方が邪魔者だ。
苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。
どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。
彼が何をしたいのかさっぱり分からない。
もうこんな茶番に付き合っていられない。
そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。
前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています
矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜
――『偽聖女を処刑しろっ!』
民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。
何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。
人々の歓声に包まれながら私は処刑された。
そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。
――持たなければ、失うこともない。
だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。
『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』
基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。
※この作品の設定は架空のものです。
※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。
※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)
今さら、私に構わないでください
ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。
彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。
愛し合う二人の前では私は悪役。
幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。
しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……?
タイトル変更しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる