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第八章 王国帰還編

512話 対面

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「ここが王の間だ」

 兵士さんに連れられ、やって来たのは王の間と呼ばれる大きな部屋の前。
 この扉の前に、新しい国王がいるってことか。

 というか……城の中は、変わってないんだな。当然といえば当然だけど。
 見たことのある兵士さんはいなかったけど、城の内装は以前のままだ。なにも変わってない。

 本当なら、この向こうには新しい国王なんかじゃなく、ザラハドーラ国王がいるはずだったんだけど……

「国王様、例の黒髪黒目の人間を連れてきました」

「うむ、入れ」

 兵士さんは扉をノックし、礼をしながら中へと呼びかける。
 すると、すぐに部屋の中から返事が来た。威厳のある声だ。

 それを受けて、兵士さんはゆっくりと扉を開けた。

「……」

 促されて、私たちは部屋の中へと足を踏み入れる。
 コツ、コツと靴音が響く。なんだか懐かしい気分になりながらも、ゆっくりと進み……正面にいる、見慣れない人物の顔を見た。

 こいつが……

「国王様」

「あぁ、ご苦労だった。その者たちが、なるほど……確かに黒髪黒目だ」

 ある程度の位置にまで進むと、兵士さんは膝をついて国王に礼の姿勢を見せる。
 チラリ、と私たちに視線を向けてきたけど……いや、私たちがこの国王に視線よくする必要はないじゃんね。

 なので、その場で突っ立ったままだ。

「確か……エラン・フィールドと言ったか」

「……そうだけど」

「貴様っ、無礼だぞ!」

 この部屋にいたのは、国王だけではない。国王の側に、彼を守るように鎧を着た兵士が立っている。
 他にも、メイドさんや執事と、いいご身分のようで。

「よい」

 腰の剣を抜こうとした兵士を、国王は手で制して止める。
 その一言だけでも、なんだか威圧感がある。それに、その顔には深いしわが刻まれていて、威厳を見せつけてくるみたいだ。

 目は鋭く、ただこっちを見ているだけなのか本当は睨んでいるのか、わからない。
 この人、ザラハドーラ国王より若いっぽいな。

 ……うん、確かに白い髪に黒い瞳だ。

「それで、私になにか? この場で捕まえる?」

「貴様っ……」

 私の態度は、誰が聞いても無礼なものなんだろう。
 だけど私には、この場で誰かに敬う必要なんて感じないし……一度は捕まえられたんだ、少しは腹も立つ。

 周りの兵士はピリついているけど、そんなの私には関係ない。

「ふむ、噂通りの人物のようだな」

「噂?」

「どのような相手にも自分を曲げず、貫き通す。良くも悪くも、自分というものをしっかりと持っている」

 ……自分を持っている、か。
 これは褒められているんだろうか? 褒められてないんだろうか?

 というか、私のことそんな風に噂しているの誰だよ。

「なあに、一目会ってみたくてな……あのグレイシア・フィールドの弟子に。まさか、自分から来てくれるとは思っていなかったが」

「! 師匠を知ってるの?」

「あぁ、もちろんだ。むしろ、彼ほどの有名人を知らない者などいまい」

 まさかここで、師匠の名前を聞くことになるなんて。
 ははぁ、やっぱり師匠はすごいんだねぇ。魔大陸から帰って来るまでにもちょいちょい名前出てきたけど。

 師匠の弟子だから、私に会ってみたかった……と。
 それは、興味からなんだろうな。でも、私だって国王に会いたかったさ。
 その理由は……興味もあるけど、それとは違う。

「で、主たちの要件を聞こうじゃないか」

 さすが、話が早い。
 私たちが望んでここに来たってことは、直接国王に言いたいことがあるから。それをわかって、こうして姿を見せてくれたってわけだ。

 国民を洗脳しているクソ野郎かと思ってたけど……なんか、イメージと違うな。それとも、こっちを油断させるための演技?

「じゃあ単刀直入に。黒髪黒目の人間を捕らえろ、って命令を取り消してほしいな」

「ほぅ……」

 なにを考えているのか、国王の表情は変わらない。
 ただ、私を品定めしているような目線が……ちょっと、嫌だな。

「そもそもの話、私がそういった命令を出した理由を……キミは、理解しているのか?」

「うん。魔導大会をめちゃくちゃにした奴らが黒髪黒目だから、だよね。だからそいつらを捕らえるためってのはわかる。
 でも、私やヨルはそいつらとは無関係だよ。とばっちりで捕まえられたんじゃたまったもんじゃない」

「主たちが無関係である、という証拠もない」

 ……さすがに、やめてくれって頼んですぐにやめてくれはしないか。
 とはいっても、本当に無関係だ。今だって、周りの兵士たちは私たちを捕まえようと悩んでいる様子。
 国王の一声があれば、一斉に飛びかかってくるだろう。

 ここにいる奴ら程度なら、難なく倒せるとは思うけど……あんまり、大事にはしたくない。
 危険人物の仲間、の前に王の間で暴れた危ない奴として捕まることになってしまうからね。

 そんなことにはしたくない。だから……

「魔導大会を、そしてこの国をめちゃくちゃにした黒髪黒目の人間は、こいつらだよ」

 私は、エレガ、ジェラ、ビジー、レジーの四人を突き出す。
 フードを取り、四人の黒い髪を明らかにして。

 黒い髪が露になった瞬間、周囲の兵士たちがざわめく。
 そして……国王の眼光が、鋭くなった。ような、気がした。
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