475 / 781
第七章 大陸横断編
463話 魔女のいたずら
しおりを挟む「……寝ちゃってたのか」
目を覚ますと、昨日寝たのと同じベッドの上だった。
まさか魔女さんが、あんなに師匠のことを語るとは思わず……逃げるように、布団に潜り込んだわけだけど。
……うん、リーメイの水のベッドも気持ち良かったけど、やっぱりこういうベッドはまた違うな。
魔大陸でガローシャに泊めてもらったところは、ベッド固かったもんなぁ。
おかげで、すっきり眠れたみたいだ。
「ふぁ、あ……」
目覚めに大きなあくびをして、ベッドから出る。
一人だけ、か……なんかちょっと、寂しいな。
ま、昨日の広間みたいなところに行けば、少なくとも魔女さんはいるでしょ。
「……わ、長い廊下」
部屋を出ると、そこには長い廊下が広がっていた。
確かラッヘとリーメイは、この家に来たときに部屋の奥へ行ったけど……私は、家の奥に来たのは初めてだ。
昨日だって、食事の途中に寝てしまった私を運んでくれたのは、魔女さんだし。
迷わずに、行けるかな……
「ま、一本道だし大丈夫か」
長くても、道は一本。迷う心配は、どこにもない。
私は部屋の扉を閉めてから、廊下に出て……あ、これ右と左どっちに行けばいいんだ?
まあ……なんとかなるか。広いって言っても、家の中だし。
「レッツゴー、なんちゃって」
声を上げても、当然返事は返ってこない。寂しいなぁ。
とりあえず右に向けて、私は足を進める。
コツコツと、靴の音が響く。窓はあるけど、全部閉まっている。開けたいけど、鍵がないんだよなぁ。
外は明るくなってきていて、朝みたいだ。
「うーん……廊下しかない」
歩いてしばらく経つけど、広間どころか廊下しかない。
一本道の廊下……他に道はないし、部屋もない。ただただ前に進むだけ。
おかしい……確かにこの村一番の大きさの家ではあるけど、ここまで大きくはないはずだ。
歩いた感じで、だいたいの大きさはわかる。明らかに、外観よりも広い。
しかも、廊下が一本しかないのもおかしい。
迷うはずのない道に、迷ってしまったかのようだ。
「おーい、みんなー! 魔女さーん!」
私は焦れったくなり、声を上げる。
声は室内に反響するが、それだけだ。返事はないし、声が反響するってことは完全な密室だ。
私、これ閉じ込められてない?
「どうしよう……杖もないしなぁ」
最悪壁を破壊して外に出ようにも、手元に魔導の杖はない。
杖がなくても魔法は撃てるけど、威力を誤ったらまずいよな。こんな場所じゃ、自分にも被害が及ぶ。
まあそれは最終手段だから……いや、最終手段というからにはクロガネを召喚してしまえばいいか。
クロガネの巨大なら、この廊下を破壊することも可能だろう。
「それも、みんなに被害が及ぶ可能性があるから、使いたくはないかな」
魔法を撃つなら自分だけに被害が及ぶだけで済むけど、家を壊したらみんなに被害が及ぶからなぁ。
それは避けたいし、なしかな。
となると、やっぱり力技以外の方法でなんとかしないと。
……とりあえず歩き続けるしかないのか。
「もー、家の中でこんなに歩くってなにさー」
ぶつぶつと一人でなにを言っても、誰も聞いてくれないんだもんな。寂しいよー。
それからもしばらく歩いていくと、ようやく一つの扉を見つけた。ここが広間に繋がっているのだろうか。
扉を開き、部屋の中へと入る。すると、そこには見覚えのあるベッド……
シーツが、よれたままだ。あれって……私がさっきまで寝ていた、ベッドだよね。
え、戻ってきた? まっすぐに進んでいたはずなのに、元いた場所に戻ってきた? なにそれ怖い。
「わぁー! ふざけやがってぇ!」
私は昂る気持ちを拳に乗せて、壁をぶん殴る。
魔力強化した拳だけど、壁にはヒビ一つ入らない。バカな……
こうなったら、全力の魔力強化をして壁に一点殴りつけて……
「おいおいおい、待て待て待て」
魔力を高めていると、どこからともなく少し焦ったような声が聞こえた。
すると、どこに隠れていたのか魔女さんが部屋の中に姿を現した。
「あ、いた」
「あ、いた……じゃない。なにをやろうとしているんどキミは」
「壁をぶち壊そうと」
「乱暴すぎるだろ!」
派手な魔法が使えないのなら、身体強化をすれば問題はない。そう思って、今から実行に移そうとしていたんだけど。
それを危惧してか、魔女さんが出てきた。
ていうか、このタイミングで出てきたって……確実に、見ていたよね。
「じゃああの長い一本道も、魔女さんのせい?」
「いやぁ……寝起きのサプライズ、みたいなものをな」
「いらないよそんなの!」
魔女さんの余計な気遣いは、本当に余計だった。
魔女さんはなんとか私を落ち着けようと、ポンポンと背中を叩いてくる。気安く触んじゃねぇよぉ……
「悪かった、少し驚かせようと思ったんだ」
「少しどころじゃないよ。まったく、私だからまだよかったものを……
まさか、ルリーちゃんたちにも同じことを……!」
「いや、キミだけだ。安心してくれていい」
私だけに、この長い一本道サプライズを仕掛けたのか……全然嬉しくない。
とはいえ、他のみんなに同じようなことをされてなくてよかった。
結局その後、魔女さんの案内で部屋を出て、右へ歩いていくと……その先にあった扉を開き、そこは広間だった。
十秒で着いた。
0
お気に入りに追加
169
あなたにおすすめの小説
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~
サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
公爵令嬢はアホ係から卒業する
依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」
婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。
そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。
いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?
何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。
エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。
彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。
*『小説家になろう』でも公開しています。
またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。
朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。
婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。
だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。
リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。
「なろう」「カクヨム」に投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる