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第六章 魔大陸編
405話 結界の使い方
しおりを挟む……魔導大会の決勝。その最中に、私たちはエレガたちの手によって、この魔大陸に転移させられた。
ここでは、精霊さんの活動も制限され、魔力の流れも悪い。私たちにとっては。
だけど、魔族やダークエルフ……ルリーちゃんにとっては、むしろ力の増す環境だ。と、思っていた。
実際は、ルリーちゃんにとってもここは良くない……どころか、命にも関わる場所だった。
そんな場所にルリーちゃんを転移させた、エレガたち。
こいつらは、私たちがいなくなったあとの会場で、いったい、なにをしてきたのか……
「みんなに……私の友達に、なにをした!」
「おー、怖いねぇ」
その場で踏み込むように足に力を込め、一気に走る。
クロガネと魔力を共有しているおかげで、今の私の体には魔力が満ちている。
そのおかげで、エレガとの空いていた距離を即座に詰めることができる。
「ぬぅうう!」
エレガの顔面に、拳を突き刺す。
避けられるか……とも思ったけど、エレガは避ける素振りすらしない。不敵に笑ったまま、拳が顔面にぶち当たった。
ドパァン……と、激しい音を立てて。
「……?」
だけど、おかしい……手応えが、ない。
なんでだ、殴ったのは殴ったはずなのに……
「あぁー……容赦ねぇな、ホントに……」
「うわっ」
次の瞬間、エレガの体に異変が起こる。
その体が……溶け出したのだ。ドロドロと、人の形を失っていく。
なのに、喋っている……なんだこれ、こんな魔法あるのか?
「そいつは分身だろ、ただ消えただけだ」
「にしたってこんなことある!?」
上は、クロガネに任せている……あっちに、本体がいるってことか。
落ち着け、私……あいつは、私を挑発して、隙を作ろうとしているだけだ。
確かに会場では、魔獣もたくさん暴れまわっていた。でもそれ以上に、あの場には魔導士が集まっている。
簡単にやられてしまうことは、ない。みんなを信じよう。
「はぁ、はぁ……」
「ルリーちゃん……!」
もうこの際、下で起きている魔族の戦争も、エレガたちもどうでもいい。
苦しんでいるルリーちゃんを、楽にしてあげたい。そのためには、早くこの魔大陸を出ないと。
でも、エレガたちは簡単に行かせてくれそうにない。
元々、ルリーちゃん一人だけを魔大陸に送って、じわじわと殺していくつもりだったんだろう。
なんて趣味が悪い。
「ルリーちゃん、大丈夫。絶対助かるから。だから……」
がんばって……と、ルリーちゃんを安心させようと思ってそっと肩に触れた。
すると……肩に触れた手のひらが、淡く光り始めた。
「え、え、なにこれ?」
「はぁ……っ、少し、楽になりました」
「え、本当!?」
なにが起きたのか、よくわからない。
でも、ルリーちゃんは少し楽になったと、話す。それが強がりではないことは、私にもわかった。
「まさか、無意識にそのダークエルフの体に結界を張ったのか? てめえ、どんだけ魔力を垂れ流してんだよ」
この様子に、ラッヘが予想を立てる。
結界……ってのは、あれか。いろいろなものから守ってくれるもの。
魔導大会でも、結界は会場に張られていた。要はあれと同じようなもの。
ルリーちゃんの体に結界が張られ、それによって毒が効きにくくなったら
「よかった……でも、油断はできないよね」
これはあくまでも、応急処置。そう考えたほうがいい。
魔力で結界を作ったのなら、魔力が切れれば結界もなくなるってことだからだ。
そのためにも、早くクロガネを呼んで……
「クロガネ!」
「させるかよ!」
クロガネを呼ぶ……だけど、私が見たのは驚くべき光景だった。
クロガネが、謎の球体に包まれている。半透明の、クロガネを包み込むほどに大きな球体。
これは、まさか……結界か!
「! この程度の結界……!」
「この程度、か。一応、四人の力を結束して作り上げた結界だ。そう簡単に壊されちゃあ困るな」
結界に、クロガネは閉じ込められてしまった。
クロガネの力でも壊せないなんて、よほど強い結界みたいだ。
あいつら、クロガネにひどいことを……!
「ぁう、うぅ……!」
「おいおい、またか!」
すると、再びルリーちゃんが苦しみ始める。今度は頭を抱えて、うずくまる。
これは……ただ苦しんでいる、わけじゃないのか?
ルリーちゃんの顔を、覗き込む。
その顔は……いや、瞳は。赤く、変色しつつあった。
「え、なにこれ……」
「魔大陸の毒……それが、命を削るものだと、誰がいった?」
やたら楽しそうに声を弾ませるのは……今度こそ、降りてきたエレガの本体。
その笑い方は、なんとも鼻につく。
「ぐぁ、ぅ……る、るる……!」
「ルリーちゃ……っ!?」
急に感じる、殺意……私はとっさに、後ろに飛んでいた。
その直後……私の視界に、パラパラと黒いものが散っていくのが見えた。
私の髪の毛の先が、千切れて舞っていた。
「っ……ルリーちゃん?」
私がさっきまで立っていた場所には、ルリーちゃんが立っていた。
頭を押さえ、とても苦しそう。でも、その瞳は赤く染まっていた。
エルフ特有の緑色の目が、赤色に……
「ねえルリーちゃん、どうかしたっ?」
「ぐぅ、ううぅ……!」
その姿は、いつものルリーちゃんではない……とても苦しそうで、そして……
「ぐうぅ……ぅあぁあ!」
「!」
歯を剥き、私に飛びかかってくるその姿は……正気とは、思えなかった。
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