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第六章 魔大陸編

388話 知りたい未来

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 私たちがここに来ることは、事前に知っていたのだという。未来を予見して。
 それは、聞く感じだと……自分で、未来を視ようと思って見れるものでは。ないんだろうな。

 ガローシャ……これまでに見た魔族よりは、小柄な魔族。
 いかにもお姫様って感じの彼女は、まっすぐに私たちを見ていた。

 彼女が、私たちがここに来ることを予見して……私たちを、この部屋に呼んだ。
 その、意図は……?

「あなた方……正確には、人間、エルフ、ダークエルフの三人の少女が、この地を訪れる。そう、夢で見ました。
 ただ、それだけではなく……近く、この国と、他の国とで戦争が起こることも」

 ゆっくりと、ガローシャは話し始める。
 夢で見たという、未来のことを。

「……国、って、もしかしてこの塔のこと言ってんのか?」

「えぇ。この塔は、外と中とで大きさが違います。結構、快適な空間なんですよ?
 この塔の内部で私たちは生活し、ここを我らの国としているのです」

「ふぅん」

 塔が国……とは、なんだか変な感じだ。ベルザ王国のように、とんでもなくおっきいところでもないし、たくさんの建物があるわけでもない。
 だけど、私は国なんてベルザ王国しか知らないし、ここは魔族の世界。いろいろ勝手が違うのかもしれない。

 ガローシャ曰く、私たちが来ることと、他の国と戦争をすることを、未来に見た。
 この二つの話をするってことは、それは無関係じゃあない。

「私が見る夢は、一つではありません。いくつもの可能性を秘めた、未来。
 例えば、あなた方が我々に協力してくれたことで、戦争に勝つことができた未来。
 例えばあなた方が現れないか協力を頂けず、戦争に負けてしまう未来」

「……つまり、私たちに、他国との戦争に勝つようにてめえらに協力しろってのか? バカバカしい」

 ガローシャの見ることのできる未来は、つまりはこれから起こり得るいくつかの未来……ってことか。
 それだけ聞くと、便利なのかどうかはわからないけど……未来の選択肢を選べる、ってわけだ。

 で、今ガローシャは例えば、って言ったけど……それは多分、例えばじゃない。
 ラッへの言うように、私たちが他国との戦争に協力するかどうか……その未来を見て、負けないため協力してもらおうってことだろう。

「そちらのエルフの方は、話が早いようです。ですが、改めて言わせてください。
 どうか、他国との戦争に勝つため、皆様の力をお貸しください」

「アホか。なんだって、んなこっちの得にもなりゃしねえことをやらなきゃいけねえんだ」

 ラッへの言葉はきついけど、実際そのとおりだ。
 困っている人は助けたいけど、私たちだって今困っている真っ最中だ。それに、戦争なんてそんな大きなものに関わりたくはない。

 初めて会った魔族のために、危険を犯す義理はない。

「得、ですか」

「魔族の戦争なんざ、聞いただけで関わりたくもない。それだけの話だってんなら、私らはここで……」

「エレガ」

「……!?」

 これで話はおしまい、と言わんばかりに、立ち上がるラッへ。それに続いて、私も立ち上がろうとしたけど……
 ガローシャがつぶやいた言葉……いや名前に、動きが止まった。

 今、この人……なんて……

「ジェラ、レジー……ビジー」

「え……」

 間違いない……その名前は、私たちをこの魔大陸に転移させた、人間の名前。
 そして、ルリーちゃんの故郷を滅ぼした奴らの、名前だ。

 エレガとジェラは、ルリーちゃんの過去を夢を通して初めて姿を見た。レジーは、王都で魔獣を出現させ、暴れまわった。
 そして、魔導大会に乱入して、ルリーちゃんを手に掛けようとした。

 なんで、そいつらの名前を、ガローシャは知っているんだ? それに……

「なんで、ビジーちゃんまで……?」

 その名前は、奴らとは関係ないはずだ。
 ビジーちゃんは、王都で出会った、迷子だった女の子。私が保護して、妙に懐かれた。ただの、かわいい女の子だ。

 なのに、エレガたちと並べて名前を言うなんて……まるで、あいつらの仲間みたいじゃないか……!

「なんで……あなたが、その名前を……!?」

 ルリーちゃんも、動揺している。自分の故郷を滅ぼした奴らの名前が出てくれば、当然だ。
 震える体を、必死に押さえている。

 その視線を受けて、ガローシャは……

「我々に協力していただければ、お話いたします」

 と、言ってのけた。

「……っ」

「というよりも、その戦争に参加してもらえれば、あなた方の知りたいことも、知れるかと」

 この子……幼く見えて、相当肝が座っているな。ここにきて、取引か。
 私たちが協力すれば、私たちが知りたい情報を教えてくれる。というか、自動的に知ることになる。

 現時点で、未来を知っているこの子は、その情報を知ってる可能性もあるけど……ここで力押しで吐かせることは、多分無理だ。
 この場所じゃ、私もラッへも全力のパフォーマンスができない。クロガネと契約している私はともかくとしても。

 それに、相手の実力もわからないうちから、そんな賭けに出るわけにもいかない、か。

「……ちょっと、考えさせて」

 ただし、ここで即答はできない。
 せめて、断らない……これが、今できる全力だった。
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