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第六章 魔大陸編
387話 未来の予見
しおりを挟むさて、私たちは塔の中へと、足を踏み入れた。
外観は真っ黒な塔だった。内観は、コンクリート造りみたいだ。
それに、外から見たより中は思ったよりは大きい。
ガロアズを先頭に、私たちは歩いていき……一つの扉の前で、立ち止まった。大きい扉だ。
「ここだ」
そしてガロアズは、扉に手をかけ……思い切り、引っ張った。
重い扉なのか、それでもゆっくりとしか開かない。
相当重たい扉なんだろうな……なんてぼんやりと思いつつ、私たちは扉が開くのを待った。
「さあ、入るがいい」
「ちっ、偉そうだな」
「ラッへっ」
魔族のえらい人なんだから、まあえらそうなのは仕方がないんだろう。
ラッへに、「しっ」と指を立てつつ、私たちは部屋の中へと入る。
この中に、ガロアズが私たちに見せたいものが、あるのだろう。そのために案内してきたんだろうし。
「わ、広い部屋……」
「お待ちしていました、人間の少女。それにエルフの少女、ダークエルフの少女」
「ん?」
部屋の中。そこには、大きな丸いテーブルが置かれていた。加えて、誰かが正面に、座っている。
それは、女の子の声……そして、それは正しかった。
座っていたのは、魔族の女の子だ。
やはり他の魔族と同じく、青色の肌をしている。額にも角が生えているけど……なんだろう、これまで見てきた魔族とは、雰囲気が違う。
まず、佇まいだ。姿勢良く椅子に座っていて、柔らかい表情。なんていうか、品がある。
それに、彼女が座っている椅子は、他の椅子よりも豪華に見える。
彼女が着ている服も、なんだか豪華だ。黒いワンピースみたいな服だけど、所々装飾品で彩られている。
「お前たちは外へ」
「え、しかし……」
「大丈夫です、お願いいたします」
「は、はっ」
着いてきていた兵士たちに、ガロアズは、そして魔族の少女は下がるように言う。
これで、部屋の中には私とルリーちゃん、ラッへ。ガロアズと、魔族の少女だけになった。
魔族の少女が、立ち上がった。
「はじめまして。わたくし、ガローシャと申します」
「え、あぁ、どうも」
立ち上がり、丁寧に腰を折るその姿に、なんだか気が削がれていく気分だ。
いったい彼女は、なんなんだろう?
とりあえず、私たちも座るように促されたので、座ることに。私が座って、その両隣にルリーちゃんとラッへがそれぞれ、座った。
そしてガロアズは、ガローシャの隣に座った。
「えぇと……ガロアズ、さん。見せたいものっていうのは……」
「さんは付けなくても構わない。
あぁ、紹介しよう。私の娘だ。この子に、ぜひとも会ってもらいたくてね」
ガロアズは、ガローシャを指して娘だと言った。あぁ、確かに似て……るかは、ちょっとわかんないけど。
名前の感じとかは、似てるような、気もするような。
まあ、そこはどうでもいいか。
「で、自己紹介とかいいからさっさと本題に入れよ」
「ラッへっ」
相変わらずこの子はもー。
ただ、二人は不快に思った様子はない。むしろ、ガローシャはくすっと笑っている。
こうして見ていると、普通だ……魔族って、怖いイメージがあったけど、全然そんなことはない。
「そうですね。では、早速本題に入りましょう。
私、未来を予見することができるんです」
「……は?」
「私、未来を予見することができるんです」
本題に入れ、とラッへは言い、ガローシャもそれに応えた……ただ、その内容があんまりにも、急すぎる。
いきなりそこまで話せとは言ってない。
未来を、予見できるだって? そんなこと……
「そういえば、さっきガロアズが、私たちがここに来ることを予見していた的なこと言ってたけど……」
「はい。あ、正確には、わたくしが自分で予見できるわけではありません。
なんの前触れもなく、未来が夢として出てくるのです。なので、予見することができるというより、未来を知ることができると言ったほうが正しいですね」
「あぁ、そう……うんまあ、そこはどっちでもいいや」
いやいや待て待て。ちょっと話が急展開すぎて頭がついていかないぞ?
この魔族の少女ガローシャは、未来を知ることができる。未来に私たちが来ることを知っていた。だからここに呼んだ。
私たちが魔大陸に飛ばされてきたのは、人為的なものによる。
もしも、転移させたエレガたちと、ここにいるガローシャたちがグル、ということなら、それは予見ではなく仕組まれていたってことになる。
でも、私たち……少なくとも、私とラッへが魔大陸に転移したのは、偶然だ。エレガにだって予想できなかっただろう。
だから、人間とダークエルフが来るっていうのは、事前に知ることはできない。
「未来を知る、ねぇ。どうにもうさんくせえな」
「ラッへっ」
「ふふ、いいのです。正直者ですね。
実際、初めの頃はわたくしも、この力のことは誰にも信じてもらえませんでした」
ラッへの言葉にも、気を悪くしないガローシャはやっぱり、心が広い。
うさんくさいなんて言われても、顔色一つも変えずに。
ただ、ラッへの言うことも、わからないでもない。
私だって、ガローシャが未来を予見した姿を見たわけじゃない。事前に私たちのことを知っておけば、未来を見たなんて偽ることは簡単だ。
第一……
「えっと、未来がわかるんだとして……私たちが、ここに呼ばれた理由って?」
人間、ダークエルフ、エルフが、ここに来ることがわかっていたとして。その後私たちを、どうするつもりなのか。
もしかして、私たちが悪いことをする未来が見えたから、そうなる前に捕まえておく……とかじゃ、ないよね?
私の疑問に、ガローシャは小さくうなずいた。
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