上 下
394 / 781
第六章 魔大陸編

386話 魔族と話そう

しおりを挟む

 魔物の暴走スタンピード……それを止めるために、クロガネにはなにやらいい案があるという。
 私たちよりも魔物に詳しいクロガネのことだし、本当にナイスなアイデアがあるのだろう。そう思った私は、素直にクロガネに任せることにした。

 クロガネに向かってうなずき、その動きを見守る。
 私に応えてくれたクロガネは、鳥型の魔物の上……私の隣に、ルリーちゃんとラッへを移らせる。

『よし。契約者らは、耳を塞いでおけ』

「わかっ……ん?」

 ルリーちゃんとラッへを移し終え、クロガネはまた移動していく。私たちがいる場所よりも、下降していく。
 去っていく際、クロガネが言った言葉に、私はちょっと不安なものを覚えた。

 なにが起こるかはわからないけど。とりあえず……

「二人とも、耳塞いで!」

「あぁ?」

「え?」

 言われた通りのことを、伝えるだけだ。
 私は耳を塞いで、ルリーちゃんとラッへも遅れて耳を塞ぐ。

 クロガネは、ある程度降下して、その場に留まる。そして、大きく息を吸う動作を見せる。
 ……クロガネの言う、いい案って……まさか……

「ゴギャアアアアアアアアアアアアアア!!!」

「……っ!」

 耳を塞いでいても、耳の奥底にまで響くかのような、大きな声。耳の奥というか、胸の奥底というか……とにかく、全身に重々しく伝わる、叫び声。
 その圧倒的な咆哮は、クロガネより上空にいた私たちも……そして、塔から魔物を攻撃している魔族も……

 地上に群がっている、魔物たちにも等しく、轟き、響き渡る。その身に、強制的な拘束でもかけられたように、みんなその場から動かなくなる。
 いや、動けなくなる。

「……っ、す、すごい、声……」

 味方であるはずの私たちも、あまりの圧に動けなくなってしまう。
 クロガネの、いい案ってこれか……なんていうか……

「なんてハチャメチャな……」

「さすがエランさんの契約モンスターですね……」

「ん?」

 無理やり、咆哮で魔物を黙らせるなんて、とんでもない方法だ。結果オーライだけど。
 ルリーちゃんがなにか言っていたような気もするけど、まあいいや。

 魔物たちはというと、その場に止まり、キョロキョロと周囲を見回している。
 さっきまでの暴走が、嘘みたいな静けさだ。

「くっ……なっ、ど、ドラゴンだと!?」

「あれも魔物の味方か!?」

「いや、だったら我々はすでに落とされている……!」

 クロガネを見て、魔族たちが口々になにか言っている。
 あー、そりゃそうか。巨大なドラゴンが急に現れたら、混乱もするよね。

「よっ……!」

「え、エランさん!?」

 私は、鳥型の魔物の上から飛び降り、クロガネの背中へと着地する。
 ちょっと足が痺れちゃったけど、まあこれくらいなら問題ない。

 ドラゴンの上に、誰か乗っているので、魔族たちはまた口々になにか言っている。
 うーん、こういうときは……

「ねえ、この中で一番えらい魔族って、誰なの?」

 一番えらい人に話を通すのが、一番早い! そのはずだ!

「なんだ人間! いきなり現れて、なんのつもりだ!」

「そもそもなんで人間がここにいるんだ!」

「帰れ!」

 魔族からの帰れコール……うわぁ、圧倒的アウェー感。
 それを受けて、クロガネが低く唸りを上げる。すると、魔族たちは一斉におとなしくなる。

 わぁい、暴力的力バンザイ。

「……わしが、この塔を治めている者だ」

「お」

 すると、塔の中から声が。
 奥から出てきたのは、他の魔族に比べてひときわ大きな体。声は少ししわがれているけど、なんていうか威厳のある声だ。

 青い肌の巨躯、額から生えた太い角、顎に生えた白ひげ、そして眼力のある瞳……
 明らかに、下にいる魔族たちとは違う。

「して、人間。人間が、なぜこの魔大陸にいる?」

 やっぱり、人間がここにいるのは、不自然なのだろう。
 どこにいても同じことを聞かれる……

「飛ばされてきちゃったんだよ。転移ってやつ」

「ほぅ……」

「それより、お話がしたいの」

 私が知りたいのは、魔物が人のいる大陸日報向かおうとしている理由だ。
 魔物自身、そのことはわからないという。それなら、別視点から聞いてみようってことだ。

 それに、えらい人ならいろいろ知っているかもしれない!

「ふむ……話、か。
 ……いいだろう」

「ガロアズ様!」

 一番えらい人……ガロアズって呼ばれた魔族は、私の要求を受け入れてくれた。
 さっき、魔族の子供の件があったせいで、魔族に対していいイメージ持ってなかったけど……話せばわかってくれそうな、いい人だ。

 やっぱり、種族を一括りにして見ちゃあ、いけないね。

「人間……名は?」

「エランだよ。エラン・フィールド」

「そうか。実は、近々この地に人間が現れると、予見があった。わしからも、話が……いや、見せたいものがある。
 しかし、その間、下の魔物たちが再び暴れ出さないとも限らない」

「その心配はないよ。クロガネ」

『……大丈夫か?』

「うん!」

 私は、塔へと飛び移る。そしてクロガネは、さらに下へ。
 魔物のことは、クロガネに任せるとしよう。また暴れ出さないように、そして魔族も変なことをしないように、しっかりと監視を。

 ルリーちゃんとラッへも呼び、塔へ降りてきてもらう。

「……魔族と話し合いだ? なにがどうして、そうなったんだ」

「エランさんすごいです」

「はぁ、もうなにがなんだかわからん。
 ……てか、大丈夫なのかよ」

 ラッへが呆れたように……そして、小声で私に話してくる。

「この塔の中で、魔族相手に私らだけだと? クロガネもいる外で話したほうが安全だろ」

「でも、塔の中じゃないと見せられないものがあるって話だし……敵意は感じないから、大丈夫だよ」

「のんきな……」

 魔族の、えらい人が言うには……私が、というか人間がここに来る、予見があった。
 それは、どういう意味なのか。そして、見せたいものはなんなのか。

 それを確かめるため、私たちは塔の中へと、足を踏み入れた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

公爵令嬢はアホ係から卒業する

依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」  婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。  そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。   いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?  何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。  エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。  彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。    *『小説家になろう』でも公開しています。

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

愛人がいらっしゃるようですし、私は故郷へ帰ります。

hana
恋愛
結婚三年目。 庭の木の下では、旦那と愛人が逢瀬を繰り広げていた。 私は二階の窓からそれを眺め、愛が冷めていくのを感じていた……

処理中です...