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第六章 魔大陸編

376話 契約

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「なあ、もうなにがなんだか私にはわからねえんだが」

「まあ、エランさんですからね……」

 ドラゴンとの戦い……というか、力を証明した後。私とドラゴンは、対面に立っていた。
 ずいぶん大きな体を、首が痛くなるくらいに見上げる。

「いやぁ、まさかドラゴンと契約をすることになるとは……世の中どうなるかわかんないよね」

「わかんねえのはこっだ」

 使い魔は、ほしいと思ってた。ゴルさんのサラマンドラを見て、先生の使い魔を見て……いや、それより前。師匠と使い魔に関する話をしてから。
 ただ、基本的には……召喚魔術により召喚したモンスターと、使い魔契約を結ぶというもの。

 でも、考えてみれば……いろんなモンスターを取っ替え引っ替え……げふん。いろんなモンスターと契約していた師匠は、召喚魔術はあんまり使っていなかったような気がする。
 その辺りのモンスターと仲良くなって、契約を結んでいた。

 だから、今から私がやるのは、それに近いんだろう。
 仲良くなった、かはわからないけど。一応、向こうから言い出してくれたわけだし。

「まさか魔大陸に飛ばされて、魔族に会って、ドラゴンに会って、エランさんと戦って、契約までするなんて……」

「そういやあの魔族、全然起きねぇな。死んだんじゃねぇの?」

「息はありますよ。よっぽどエランさんの攻撃が激しかったんですね」

 倒れた魔族は、そのまま放置。いくらルリーちゃんたちにひどいことしたとはいえ、殺してしまっては目覚めが悪い。
 けれど、どうやら気絶しているだけのようだ。よかったよかった。

 魔物や魔獣のように、死んだら死体も残らず消えちゃう……なんて可能性もゼロじゃないからね。

「てか、マジなのかよ。あの魔族のガキが、この村の魔族全員殺して、そこのドラゴンを地下に封じてたって話は」

「それは本人に聞いてみないとだけど……どうなの、ドラゴンさん」

 ラッへの言うように、魔族には聞きたいこともある。
 魔族がとんでもない種族とはいえ、子供が、この村全員の魔族を倒せるとはとても……
 それに、ドラゴンも手玉に取ってたみたいだし。

 せめて、ドラゴン自身のことはドラゴンがなにかわかるだろう。

『ソモソモ、ワレヲ誘イ出スコトガ目的ダッタノダロウ。
 魔力ノ乱レヲ感ジ、コノ地ヘト飛ンデキタ。ナニカヲ仕掛ケテイタノダロウ、地ノ底ヘト転移サセラレ、動キヲ封ジラレテイタ』

「転移……」

「おい、なんだって?」

 ドラゴンの言葉は、私にしか聞こえない。けれど、ドラゴンには私たちの言葉は通じているらしい。
 だから、ラッへの質問も意図を汲み取り、答えてくれた。

 正直、ドラゴンもよくわかっていない、ということがわかった。
 ドラゴンの言葉を、ルリーちゃんとラッへに伝える。

「じゃあ何か、あのガキは、ドラゴンを誘き出すためにわざわざ村の魔族を殺したってのか。しかも、誘き出したドラゴンは地下に封じた。
 なにがしたいんだそいつぁ」

「私に聞かれても……」

 結局魔族の狙いは、わからないまま……か。
 やっぱり本人が起きるのを待って、聞いてみるしかないか。

 ……いや別に聞かなくても、問題はないような気も……

「いやでも、今から契約を結ぶドラゴンが狙われてたってなると、ちゃんと知っておいたほうが……」

『ソロソロ始メテ構ワヌカ?』

「あ、うん!」

 そうだそうだ、今は一旦後回し。
 今から私とドラゴンは、契約を結ぶ。使い魔と主って関係じゃない、対等な関係として。

「んでも、私召喚魔術について、まだ習ってないんだよね」

 使い魔と主ではなく、対等な関係……それでも、使用する魔術自体は、同じはずだ。
 モンスターを召喚する魔術……それは、まだ習っていない。一年の後半で習うって、話だった。
 師匠も、教えてくれなかったし。

 私が習ってないんだから……

「私も、わからないです」

「だよねぇ」

 ルリーちゃんも、わからないってわけだ。はて、どうしたもんだろう。
 それとも、ドラゴンが知っているのかな。

「はぁ……てめえ、あんな複雑な魔法や魔術を知ってるのに、召喚魔術のことは知らねえのかよ」

「うん、なにも」

「はぁ……」

 呆れたように、ため息を漏らすラッヘ。二回もため息をつきましたよこの子。

「……別に、召喚魔術ったって、複雑な方法ってわけじゃねえよ」

 お……なんだかんだ言って、教えてくれるのか。
 やっぱり、口は悪いけど、面倒見のいい性格なんだなぁ。嫌いなはずの私にまで、教えてくれるなんて。

 モンスターを召喚する際、まずは召喚の術式というものを組み立てなければいけないらしい。
 ただ、私と契約を結ぶドラゴンはすでに、ここにいる。なので、術式云々はカットだ。

 ……カットっていうと、正確じゃないな。正確には、術式はラッヘが代わりにやってくれている。
 本来なら、モンスターを召喚する場合、召喚主が術式を組み立てる必要がある。なぜなら、術式を組み上げた人物と相性のいいモンスターが、召喚されることになるからだ。
 だから、私はやっぱり方法がわかんないまんまだ。

「じゃあ、ラッヘが作ったこの術式だと、ドラゴンさんとラッヘが契約することにならない?」

「ならねえよ。理屈は知らねえが、すでに契約するって決めたモンスターと、別の奴が上書きされることはねえよ」

『ソウダナ。術式ハアクマデ形式的ナモノ。コノ娘ガ、虎視眈々ト良カラヌコトヲ企ンデイタラ、即座ニ嚙ミ殺シテクレル』

「なんだって?」

「変なことしようとしたらお前を殺すって」

「こえぇな!!」

 すでに相性のいいモンスターがいる場合、術式を組み立てるのは誰でも構わない。必要なのは、この術式に、あることをすることだ。

「んで、互いに契約を結ぶことを同意した上で、この術式……魔法陣サークルに、互いの血を垂らす」

「え、血って……もしかして、手首切るの?」

「どんだけ出す気だ! 一滴でいい」

 私とドラゴンは、魔法陣の上に立つ。ドラゴンは巨大なので、魔法陣もそれなりに大きい。
 そして、お互いに指の先を噛み切り、血を一滴、垂らしていく。

 血が、魔法陣に触れたその瞬間……魔法陣は、青白く、輝きだした。

「これより、契約の儀式を行う」
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