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第五章 魔導大会編

339話 自由〜さ!

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「どうなってんのあの体!」

 撃ち込んだ魔法が弾かれ、エランは驚愕に声を荒げる。
 Cブロックの試合、見てはいたが、こうして実際に目の当たりにすると、また違った感覚を覚える。

 撃った魔法を弾く、という方法であれば、同じく魔法で弾き返す。魔力強化した肉体で弾き返す。いろいろと方法はある。
 しかし、目の前の男ブルドーラ・アレクシャンは……

「ケェッヘハハハハハァ!」

「わっと!」

 猛獣のごとく突進を、エランは飛んで避ける。
 脚を魔力強化し、男の頭上を超えて飛び跳ねる。そして、ブルドーラ・アレクシャンの背中を取る。

 彼は、確かに肉体で、魔法を弾いた。しかしその肉体は、魔力強化されたものではない。素なのだ。
 それどころか、ブルドーラ・アレクシャンからは魔力を感じない。正確に言えば、人は生まれながらに魔力を持っているので、最低限のものは感じるが……

 おそらく彼は、魔導を使えない。魔力があっても、すべての人間が魔導を使えるわけではない。ガルデなどがその例だ。

「けど、素で魔法弾くって、どんな体だよ」

 いくらエランでも、素の肉体で魔法を弾くことは難しい。しかも、ブルドーラ・アレクシャンは魔術さえも跳ね除けたのだ。
 そんな芸当、これまでに見たこともない。

 エランに突進をかわされたブルドーラ・アレクシャンは、急ブレーキ……そして、背後に回ったエランへと、再びの突撃。

「馬鹿の一つ覚え、って言葉知らない!?」

「知らない、なぁ!」

 走り出すために踏み込むブルドーラ・アレクシャン……その際、足元の地面が抉れ、抉れた欠片が跳ねる。
 それをキャッチし、キャッチした地面の欠片を、エランに向かって思い切り、ぶん投げた。

「ひっ、あぶな!」

 本来ならば、魔力防壁で防げる程度の攻撃……しかし、放たれたそれは、すさまじい速さでエランに迫ってきた。
 条件反射でしゃがんでいなければ、今頃顔面がえらいことになっていただろう。

 それが、わずかな隙となる……顔を上げれば、目の前には繰り出された蹴りが、迫っていた。
 迫るつま先、それを前にエランは動くこともできず……

「絡め取れ!」

「!」

 エランの鼻先に、つま先がめり込む……その直前。蹴りの勢いが、強制的に殺される。
 意図しない、別側からの力。ブルドーラ・アレクシャンは、一瞬眉を寄せるが、己の足首に絡みついているもの……ムチを見た。

「これも魔法か。つくづく魔法とは、便利なものだな!」

「女の子一人を、ずいぶんと執拗に狙うものだ。
 これはバトルロイヤルだ、私も混ぜてくれよ」

 ブルドーラ・アレクシャンの足を絡め取るのは、フェルニン。彼女は、魔法により作り出した光のムチで、ブルドーラ・アレクシャンを捉えていた。
 魔法とはイメージの力。なにも攻撃や防御だけではない。

 縛り付け、その場に拘束する。しかし……

「そう、これはバトルロイヤル! よって! 誰を狙うも自由~さ!」

 ブチィ、と激しい音を立てて、ムチが千切られる。なんのことはない、ただ力任せに足を引っ張っただけだ。
 それだけで、魔法で作り出したムチが千切れた。信じられない。

 だが、そのわずかな時間でも、エランがその場から逃げるのは充分だ。

「また距離を取られてしまったか……せっかくだ、私と接近で打ち合わないか?」

「それはごめんだ、よ!」

 接近での殴り合いなど、エランにとっては勝利のビジョンが見えない。浮遊魔法を使い、上空へと駆ける。
 魔法が使えないなら、ブルドーラ・アレクシャンは上空には追ってこれない。ここで、体勢を整える。

 ……相手がブルドーラ・アレクシャン一人ならば、それも可能だっただろう。

「キシャア!」

「ぅお!」

 突如飛んできたなにかに、危うくぶつかりそうになる、背を反らして、それを回避。
 けたたましい鳴き声を上げて、エランに突撃してきた物体。黒く、その姿はよく見えない。

「すまないね、空中はウォーリーの狩り場だ」

 上空のエランを見上げ、アルマドロン・ファニギースは言う。
 そう、今エランに突撃してきたものこそ、彼の使い魔であるウォーリーだ。

 黒いモヤがかかり、その全容が不明だった使い魔……しかし、今使い魔の姿は、エランの目の前にさらされていた。
 黒い体に、黒い羽。空を己の領分として滑空するその鳥は、狙いをエランに向けて再度向かってくる。

「か、カラス……!?」

 黒いモヤに包まれていた使い魔の正体、それを見てエランは、空中に退避したことを後悔した。
 羽のある使い魔相手に、空中戦を始めようなどと。そんな気は、さらさらない。

 なのでエランは、杖を向けまたたく閃光を放つ。まばゆい光を食らったウォーリーは、目を閉じ動きを止めた。
 しかし、それですべての行動が止まるわけではない。羽を振るえば、そこから幾数もの羽根が放たれた。

「っ、たぁ!」

 一歩反応が遅れ、頬に羽根がかする。切れ、血が流れる。
 すぐさま魔力防壁を展開し、幾数の羽根を防ぐ。これはまるで、鋭いナイフだ。

「……だから、お前ら……その女は、私の獲物だって、言ってるだろ……!」

 激しい攻防を前に、激しい怒りを露わにする人物がいた。
 己の魔力を限界にまで高めるラッへは、周囲を、そしめエランを睨む。

 ほとばしる魔力は、まるで電撃のようにバチバチと、昂る。目的を邪魔する連中、彼らに対しての怒りとともに、ぶつける。

「……ほとばしる幾千もの稲妻いなずま……雷鳴轟かせ、今こそ天より降り注げ……
 雷降万柱ライトニングボルジオン……!!!」
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