上 下
323 / 727
第五章 魔導大会編

315話 素晴らしい試合

しおりを挟む


「……っ」

 ゴルドーラの放った魔術と、ヨルの放った魔法……
 互いに、二重に重ねた魔術と、魔術クラスの威力の魔法、というとんでもない魔導のぶつかり合い。
 それが周囲を巻き込むのは、必然だった。

 水属性と火属性の魔術、雷をイメージした魔法……それらがぶつかり合い、激しい音を立てて舞台上の人間を包み込んだ。
 結界があるため舞台外の人に影響はないが、それでもその衝撃まで殺されるわけではない。

 衝撃から生じた風圧が、会場を揺らした。

「ぅ……」

「うひゃー!?」

 観戦していたエランも、ノマも、その影響を受ける。
 立ち見をしていたため、油断すれば吹き飛ばされてしまうそうだ。

『こ、これは凄まじい衝撃!
 か、会場の皆さん! 飛ばされてしまわないようにしっかりとへぶら!?』

 司会も、人々への注意勧告をするが、その最中ゴンッという音が聞こえた。
 多分、飛んできたなにかにぶつかったのだ。

 吹き荒れる突風は、人々を吹き飛ばす危険だけでなく、物を不意飛ばしそれが当たる危険もある。
 皆一様に、事が過ぎるまで待つ。

 そして、突風がやむのと、舞台を覆っていた土煙が晴れたのは、ほとんど同時だった。
 ようやく、目にすることができる。あの激しい魔導のぶつかり合いの後、誰が勝ち残り、立っているのかを……

『こ……これは!?』

 司会が、息を呑んで叫んだ。
 それを見ていた人々も、一様に驚いていた。

 舞台上に、立っていたのは……

『……ぜ、全員が倒れている!? ゴルドーラ選手も、ヨル選手も、他の選手も……
 みんな、倒れています!』

 ……立っている者は、いなかった。

『参加者全員が倒れています! 選手は誰一人として立ち上がれず、使い魔も一体残らず消失しています!
 これは……!』

 舞台の様子を、司会はできるだけ正確に伝えようとしている。しかし、その声は震えていた。
 動揺を隠しきれていないのだ。それほどに、予想もしていなかった光景だ。

 使い魔は、召喚者が自ら消すか、召喚者が気を失うなどの状態に陥った場合、消失する。
 サラマンドラさえも消えている時点で、ゴルドーラの意識がないのは明白だ。

 それから数秒……数分……時間は経つ。しかし、誰も動かない。
 誰も、最後に立ってはいない……こんなこと、滅多にない。しかし、こうして起こった以上……試合結果は、こう判断するしかない。

『えー……どうやら、誰も起きれないようです。
 よって、Bブロックの試合は、勝者なしとなります! Bブロック試合終了! 勝者はなし!』

 その宣言の直後……人々が感じた思いは、いったいどのようなものであっただろう。
 勝者の居ない試合……それを、認めないとする者はいるのか。
 それとも……


 パチパチ……


 まばらなそれは、すぐに増え……観戦席から、惜しみない拍手が送られる。
 会場を包み込む拍手は、絶賛の嵐だ。不服を訴える者など、誰もいない。

 運ばれる選手を見守りながら、ノマはつぶやいた。

「素晴らしい試合でしたわ。みんな、死力を尽くしてよくぞ戦い抜きましたわ―」

「死力は言いすぎだと思うけど……でも、そうだね」

 Aブロックとはまた違った、白熱した試合だった。
 ほとんどの人がゴルドーラに目をつけていた中、彼と互角に渡り合った黒髪黒目の少年、ヨル。その戦いは、皆の胸を熱くさせた。

「まあでも、ヨルは他の人の魔力を吸い取って自分の魔力を上げてたわけだし。本当の一対一なら、ゴルさんに軍配が上がったと思うけどね私は」

「手厳しいですわねぇ」

 エラン的には、まだヨルを認める気にはなれない。あの力はすごいが、もしも決闘のような一対一なら、ゴルドーラが勝っていたはずだ。
 まあ、あの力がすごいことは……認めざるを得ないが。

 もしエランなら、あの力にどう対応したか。
 やはりゴルドーラのように、力押し、だっただろうか。

「やー、でもまさか、ゴルさんが分身魔法使って魔術を二発放つとは」

「フィールドさんのアレを参考になさったんでしょうか」

 ゴルドーラは、エランとの決闘で、彼女が最後に使った方法を、確かに参考にした。
 普通、魔術を放つのは一人一発……技量によってはそれ以上放てるが、それでも多少の時間は置かなければならない。

 そのため、分身魔法で自らを増やした上で、それぞれが魔術を使うなど、普通ならば考えられないことだし、できないことだ。
 それを、ゴルドーラはやってのけた。

「練習とかしてたのかな。私はぶっつけ本番でやったし、ゴルさんならそれでもできるかも」

「……ぶっつけ本番? アレを?」

「え、うん。思いついたのだって、決闘の最中だったしね」

 分身魔法&魔術の重ね技……それを、試したのはおろか思いついたのすらその場だとエランは言う。
 その発言に、ノマはしばし言葉を失った。

 やはりこの人は、規格外だなぁと……そう、思っていた。

「あ、そろそろCブロックの試合、始まりそうだよ」

「あ、そ、そうですわね」

「ほらほら、愛しのコーロランが出るんだから、しっかり応援しないと」

「い、愛しのって……おっほん。フィールドさん、フィールドさんはDブロック、この試合の次なのですから、準備しておかなくてはなりせんわ」

「はーい」

 二人で話しているうちに、次の試合、Cブロックの準備ができたようだ。
 この試合にはコーロラン・ラニ・ベルザも出場する。Aブロック、Bブロック、Cブロック……それぞれに、王族の出場しているこの大会。

 コロニアもゴルドーラも、惜しくも敗退してしまったが……今度こそ、王族で勝ち残る者が出てくるだろうか。
 それとも、それを阻む者がまた、現れるのだろうか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

恋より友情!〜婚約者に話しかけるなと言われました〜

k
恋愛
「学園内では、俺に話しかけないで欲しい」 そう婚約者のグレイに言われたエミリア。 はじめは怒り悲しむが、だんだんどうでもよくなってしまったエミリア。 「恋より友情よね!」 そうエミリアが前を向き歩き出した頃、グレイは………。 本編完結です!その後のふたりの話を番外編として書き直してますのでしばらくお待ちください。

大きくなったら結婚しようと誓った幼馴染が幸せな家庭を築いていた

黒うさぎ
恋愛
「おおきくなったら、ぼくとけっこんしよう!」 幼い頃にした彼との約束。私は彼に相応しい強く、優しい女性になるために己を鍛え磨きぬいた。そして十六年たったある日。私は約束を果たそうと彼の家を訪れた。だが家の中から姿を現したのは、幼女とその母親らしき女性、そして優しく微笑む彼だった。 小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しています。

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

そんなに幼馴染の事が好きなら、婚約者なんていなくてもいいのですね?

新野乃花(大舟)
恋愛
レベック第一王子と婚約関係にあった、貴族令嬢シノン。その関係を手配したのはレベックの父であるユーゲント国王であり、二人の関係を心から嬉しく思っていた。しかしある日、レベックは幼馴染であるユミリアに浮気をし、シノンの事を婚約破棄の上で追放してしまう。事後報告する形であれば国王も怒りはしないだろうと甘く考えていたレベックであったものの、婚約破棄の事を知った国王は激しく憤りを見せ始め…。

処理中です...