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第四章 魔動乱編

261話 やるべきことはたくさんある

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 生徒会副顧問になっていた、ウーラスト・ジル・フィールド先生。教室に入ったらいきなり居たもんだから、驚いたよ。
 ただ、もう決まっていることなら私からは文句はない。ゴルさんたちも、受け入れているみたいだし。

「それにしても、驚いたよなー。あのグレイシア・フィールドの弟子が、生徒会に二人もいるなんてさ」

 私とウーラスト先生とを交互に見て、タメリア先輩が笑っている。なんか教室でも似たようなこと言われた気がするな。
 やっぱり、珍しいことなんだろうな。

 というか、ウーラスト先生優雅に紅茶を飲んでいる。馴染みすぎではないかな?

「んー、おいしい。それに、いい香りだね」

「恐縮です」

 紅茶を淹れたのは、リリアーナ先輩か。先輩の淹れた紅茶はおいしいからなー、ああいう穏やかな表情になるのも、無理はない。
 先輩たちも、ウーラスト先生にはある程度馴染んでいるみたいだ。なんというか、さすが三年生。順応が早い。

 その中で、ウーラスト先生を観察するように見ているのが……

「……」

 シルフィドーラ・ドラミアス……シルフィ先輩だ。この生徒会で唯一の二年生。
 私のことを気に入らないのは、知っている。ゴルさんをめちゃくちゃ尊敬している彼は、身の程知らずにもゴルさんに決闘を挑んだ私が嫌い、なのだとか。

 だから、そういった意味で私だけ気に入らないのかと思ってたけど……そうでもないみたいだ。
 おおかた、エルフの教師に警戒しているってところか。

「さて、エランも来たことだし、連絡事項をまとめようか」

「へーい」

 生徒会メンバーが集まり、会長であるゴルさんの言葉により場の空気が変わる。……変わったような気がする。
 手元の資料に目を落としたゴルさんは、一瞬間を置いてから……

「学園内で起こった二件の"魔死事件"……うち一人は亡くなり、うち一人は一命を取り留めた。
 その犯人が捕まったため、学園を再開するに至った。これは周知のことだと思う」

「ま、校長先生から直々に話があったわけだしのぉ」

 ゴルさんの説明に、メメメリ先輩が相づちを打つ。
 ゴルさんが話したのは、ここにいるみんなが周知していることだ。午前、校長先生から説明があった。

 あんな物騒な事件があったから、学園が休校になるのは当然。そして、安全が確保されたから、学園は再開した。
 それを、今一度確認する。

「学園が休みだった間も、やるべきことは溜まっていた。むしろ、休みだったからこそやるべきことも増えたと言える。特に……」

「生徒のケア、ですか」

「あぁ」

 学園が休みになったことで、増えた仕事……それが、生徒へのケア。
 いくら安全になったとはいえ、学園内で死者が一人、重傷者が一人出たのだ。みんな表面上は平気に見えても、実際はわからない。

 それに、死んでしまった子の近しい子は、心配だ。
 ……恋人だったっていう女の子。果たして、大丈夫だろうか。

「今後は、積極的に生徒の様子を見ていってほしい」

「生徒同士でしか解決できないこともあるからね。教師ももちろん力を尽くすけど、キミたちにも頑張って欲しい」

 それはまあ、そうかもしれない。同じ立場である生徒同士の方が、話しやすいこともあるってもんだ。
 デリケートな問題だもんな、これは……

 私も、まだ入学してそれほど経っていないとはいえ、不安そうな人を見かけたら積極的に関わっていこう。

「次に、これはエラン、お前に直接関係することだ」

「私に?」

 ゴルさんはふと、私を見て言った。
 はて、私に関係することとはなんだろうか? なにか、この場で言わなければいけない、重要ななにか……

 もしかして、私がダークエルフのルランと関係があることが、バレてたりとか……

「お前の、元々の部屋のことだ」

 ……違ったみたいだ。

「お前と同室のノマ・エーテン。彼女が被害に遭ったのが、お前たちの部屋だ。つまり、事件現場だな。
 憲兵が事件の調査のため、部屋を調査していたが……それも時期に終わるそうだ」

「そ、そうなんだ……」

 事件は解決したし、なにより現場に残っているものは検証し終えた。だから、封鎖されていた部屋が使えるようになるってことだ。
 ……ん? それってもしかして……

「お前たちが望むなら、元通りあの部屋を使うということも……」

「いやだよ!? それはさすがに無理だよ!」

 私たちの部屋が事件現場で調査対象になっていたから、私は一時ルリーちゃんたちの部屋にお世話になっていた。
 私たちの部屋が解放されれば、もうルリーちゃんたちに迷惑をかけることはなく、部屋に戻れるのだけど……

 さすがに、あんな凄惨な事件が起きた部屋に、戻ろうとは……ちょっと、思えないよなぁ。
 ノマちゃんだって、自分が血まみれになった部屋に戻りたいとは思わないだろうし。

「部屋のことなら心配するな。大量の血も、魔法できれいに消せる。そこであった痕跡など、なにもなかったように消えてなくな……」

「そういう問題じゃないから! キレイ汚いの問題じゃないから!」

 部屋が綺麗になっても、あそこであったことがなくなるわけじゃないからね!?

「冗談だ」

 けれど、ゴルさんは……先ほどと同じ表情のまま、言った。冗談だ、と。
 私は、一気に力が抜けるのを感じた。

「じょう……」

「あぁ。本気で、またあそこに住めと言うわけないだろう。
 安心しろ、新しい部屋はすでに手配している。だからお前たちはそこに……」

「わっかりにくいよぉ!」

 ゴルさん、冗談とか言うキャラなの!? わかんないよ! しかもあんな真顔で言われたらさ!
 新しい部屋を用意してくれているという話はありがたいけど……ああいう冗談は、やめてもらいたい!
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