266 / 781
第四章 魔動乱編
261話 やるべきことはたくさんある
しおりを挟む生徒会副顧問になっていた、ウーラスト・ジル・フィールド先生。教室に入ったらいきなり居たもんだから、驚いたよ。
ただ、もう決まっていることなら私からは文句はない。ゴルさんたちも、受け入れているみたいだし。
「それにしても、驚いたよなー。あのグレイシア・フィールドの弟子が、生徒会に二人もいるなんてさ」
私とウーラスト先生とを交互に見て、タメリア先輩が笑っている。なんか教室でも似たようなこと言われた気がするな。
やっぱり、珍しいことなんだろうな。
というか、ウーラスト先生優雅に紅茶を飲んでいる。馴染みすぎではないかな?
「んー、おいしい。それに、いい香りだね」
「恐縮です」
紅茶を淹れたのは、リリアーナ先輩か。先輩の淹れた紅茶はおいしいからなー、ああいう穏やかな表情になるのも、無理はない。
先輩たちも、ウーラスト先生にはある程度馴染んでいるみたいだ。なんというか、さすが三年生。順応が早い。
その中で、ウーラスト先生を観察するように見ているのが……
「……」
シルフィドーラ・ドラミアス……シルフィ先輩だ。この生徒会で唯一の二年生。
私のことを気に入らないのは、知っている。ゴルさんをめちゃくちゃ尊敬している彼は、身の程知らずにもゴルさんに決闘を挑んだ私が嫌い、なのだとか。
だから、そういった意味で私だけ気に入らないのかと思ってたけど……そうでもないみたいだ。
おおかた、エルフの教師に警戒しているってところか。
「さて、エランも来たことだし、連絡事項をまとめようか」
「へーい」
生徒会メンバーが集まり、会長であるゴルさんの言葉により場の空気が変わる。……変わったような気がする。
手元の資料に目を落としたゴルさんは、一瞬間を置いてから……
「学園内で起こった二件の"魔死事件"……うち一人は亡くなり、うち一人は一命を取り留めた。
その犯人が捕まったため、学園を再開するに至った。これは周知のことだと思う」
「ま、校長先生から直々に話があったわけだしのぉ」
ゴルさんの説明に、メメメリ先輩が相づちを打つ。
ゴルさんが話したのは、ここにいるみんなが周知していることだ。午前、校長先生から説明があった。
あんな物騒な事件があったから、学園が休校になるのは当然。そして、安全が確保されたから、学園は再開した。
それを、今一度確認する。
「学園が休みだった間も、やるべきことは溜まっていた。むしろ、休みだったからこそやるべきことも増えたと言える。特に……」
「生徒のケア、ですか」
「あぁ」
学園が休みになったことで、増えた仕事……それが、生徒へのケア。
いくら安全になったとはいえ、学園内で死者が一人、重傷者が一人出たのだ。みんな表面上は平気に見えても、実際はわからない。
それに、死んでしまった子の近しい子は、心配だ。
……恋人だったっていう女の子。果たして、大丈夫だろうか。
「今後は、積極的に生徒の様子を見ていってほしい」
「生徒同士でしか解決できないこともあるからね。教師ももちろん力を尽くすけど、キミたちにも頑張って欲しい」
それはまあ、そうかもしれない。同じ立場である生徒同士の方が、話しやすいこともあるってもんだ。
デリケートな問題だもんな、これは……
私も、まだ入学してそれほど経っていないとはいえ、不安そうな人を見かけたら積極的に関わっていこう。
「次に、これはエラン、お前に直接関係することだ」
「私に?」
ゴルさんはふと、私を見て言った。
はて、私に関係することとはなんだろうか? なにか、この場で言わなければいけない、重要ななにか……
もしかして、私がダークエルフのルランと関係があることが、バレてたりとか……
「お前の、元々の部屋のことだ」
……違ったみたいだ。
「お前と同室のノマ・エーテン。彼女が被害に遭ったのが、お前たちの部屋だ。つまり、事件現場だな。
憲兵が事件の調査のため、部屋を調査していたが……それも時期に終わるそうだ」
「そ、そうなんだ……」
事件は解決したし、なにより現場に残っているものは検証し終えた。だから、封鎖されていた部屋が使えるようになるってことだ。
……ん? それってもしかして……
「お前たちが望むなら、元通りあの部屋を使うということも……」
「いやだよ!? それはさすがに無理だよ!」
私たちの部屋が事件現場で調査対象になっていたから、私は一時ルリーちゃんたちの部屋にお世話になっていた。
私たちの部屋が解放されれば、もうルリーちゃんたちに迷惑をかけることはなく、部屋に戻れるのだけど……
さすがに、あんな凄惨な事件が起きた部屋に、戻ろうとは……ちょっと、思えないよなぁ。
ノマちゃんだって、自分が血まみれになった部屋に戻りたいとは思わないだろうし。
「部屋のことなら心配するな。大量の血も、魔法できれいに消せる。そこであった痕跡など、なにもなかったように消えてなくな……」
「そういう問題じゃないから! キレイ汚いの問題じゃないから!」
部屋が綺麗になっても、あそこであったことがなくなるわけじゃないからね!?
「冗談だ」
けれど、ゴルさんは……先ほどと同じ表情のまま、言った。冗談だ、と。
私は、一気に力が抜けるのを感じた。
「じょう……」
「あぁ。本気で、またあそこに住めと言うわけないだろう。
安心しろ、新しい部屋はすでに手配している。だからお前たちはそこに……」
「わっかりにくいよぉ!」
ゴルさん、冗談とか言うキャラなの!? わかんないよ! しかもあんな真顔で言われたらさ!
新しい部屋を用意してくれているという話はありがたいけど……ああいう冗談は、やめてもらいたい!
10
お気に入りに追加
169
あなたにおすすめの小説
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~
サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
公爵令嬢はアホ係から卒業する
依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」
婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。
そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。
いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?
何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。
エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。
彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。
*『小説家になろう』でも公開しています。
またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。
朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。
婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。
だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。
リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。
「なろう」「カクヨム」に投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる