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第四章 魔動乱編

259話 先生と先生の関係

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「すごいことですわよね、グレイシア・フィールド様の弟子が二人も、同じ教室にいるなんて!」

「エラン様もものすごいですが、ウーラスト先生はそれ以上に……」

「これからの授業がますます楽しみですわ」

「……」

 お昼休みの時間が終わり、私たちは教室に戻った……そこで目にしたのは。というか聞こえたのは、私とウーラスト先生に関するものだった。
 それはまあ、わかる。今朝あんなことがあったんだ、話題はもちきりだろう。

 問題は、ウーラスト先生のほうが私よりもすごい、という話がちらほら聞こえること。
 いやまあ、それは間違いではないんだけど……事実ではあるんだけど、さぁ。

「わ、エランちゃんどうしたのその顔。すごくぶさいくよ」

「しんらつぅ」

 教室に戻って来た私たちに気付いたのか、こそこそと話していたみんなはチラチラとこっちを見ている。
 なんだろう……これまでに感じたことのない視線だ。まあ、バカにされているわけでもなさそうだけど。

 師匠の唯一の弟子、という私のアイデンティティが一つ減ったことで、私の価値が下がっていないか、心配になってしまうよ。

「ほら、席につけ」

「あ、もう授業か」

 そんなこんなの間に、次の授業が始まる。午前中は、ほとんどウーラスト先生への質問だらけだったから、午後からは実践的なことをしたいな。
 はじめこそ敵視していたけど、考えてみればエルフの先生から学べるものは多い。

 そりゃ私は師匠と十年も一緒にいたから今更かもしれないけど、みんなはそうではない。学べるものは山ほどある。
 そして、みんなが学んで強くなれば、私としても嬉しい。互いに競い合い、もっと高みを目指すことができる。

「先生、エランちゃんとの勝負で使っていた、言霊っていうのは私たちも使えるんですか?」

 はい、と手を上げて、クレアちゃんが質問する。彼女は結構積極的だ。
 みんなが気になっていたであろうことを、率先して聞いてくれる。

 それを聞いたウーラスト先生は、うーんと唸り顎に手を当てて……

「無理ではないけど、難しいかなぁ。
 言霊ってのはさっきも言ったように、言葉に魔力を宿したもの。ただ、それは言葉で言うほど簡単なものじゃあない。魔力について深く知らないといけない」

「深く、ですか」

「そそ。現に、キミたちはオレオレが言霊を使うまで、言葉に魔力が宿るって概念も知らなかったわけだし」

 学園に入学して、月日が流れた分だけ学んだことも多い。
 だけど、まだまだ知らないことが……知らないことのほうが多い。それだけ、魔力や魔導は、奥が深い。

 それは、私も実感していることだ。

「ま、正直私よりもこいつのほうが詳しい部分もある。というか、こいつのほうがいろいろと詳しいところは多いかもな」

「やだなー、ヒルヤセンセったら褒めすぎですよー」

 サテラン先生は、ポン、とウーラスト先生の肩に手を置き、顎で指す。自分よりも知識が深いと、自ら言うなんて。
 そりゃ、長寿のエルフのほうが詳しいことは多いだろう。いくら学園の先生でも、経験値が違うもんな。

 ただ、そのやり取りを見て……ううん、ウーラスト先生を紹介したときから、二人のやり取りはなんか気安さを感じるものだ。

「サテラン先生は、ウーラスト先生とどんな関係なんですか?」

「ん? 私とウーラストの関係?」

 一人の生徒が手を上げる。どうやら、二人の関係について気になっていたのは、私だけじゃないみたいだ。
 他にも、みんなは興味深そうに、コクコクとうなずいている。

 みんなからの視線を受けて、先生は軽くため息を吐いた。

「そんなに気になるか? たいした話でもないぞ」

「ぜひ聞きたいです!」

「……ま、別に隠すようなことでもないが。
 私のじいさんのところに、こいつが世話になってた時期があってな。その関係で、子供の頃から私もこいつと関わる機会が増えた……それだけだ」

 たいした過去ではない、というように、先生は話した。少しだけ、懐かしむように天井を見つめて。
 なるほど、二人の間にはそんな過去があったのか。それから、今に至るまでその関係は続いている。

 なんか、ほっこりする話だな。

「うんうん。本当に、ジルやヒルヤセンセにはお世話になりっぱなしだよ」

「だからそのセンセってやめろ」

 ウーラスト先生も、気さくにサテラン先生に話しかけている。仲の良さが、わかるというものだ。
 ただ……今、ちょっと引っかかる言葉があった。ジルやヒルヤセンセ……まるで、二人一緒にお世話になっていたみたいな。

 ジルとは、ウーラスト先生が師匠とは別に尊敬している人間の名前だ。で、今の話の流れをまとめると……じいさんって、もしかしてジル?
 え、じゃあ、ジルさんってサテラン先生のおじいちゃん? でもジルって人、平民だって言ってたような……?

 ……あ、そうか。平民から貴族になる方法だってあるもんね。例えば、貴族の相手と結婚する。貴族に嫁入り、あるいは婿入りすれば、その時点で貴族になれる。
 てことは、サテラン先生は元々平民で、サテランって貴族の人と結婚したから、貴族になって……ってことなんだろうけど。

「……先生、結婚してたの?」

 気づいてしまった、新事実。先生が、結婚しているかもしれないというもの。
 いや、そりゃ先生だって女の人だし、男勝りとはいえ……うん、結婚していてもおかしくはない。 

 でも……失礼だけど、サテラン先生はなんか、独身のイメージがあったんだよなぁ。
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