264 / 727
第四章 魔動乱編
259話 先生と先生の関係
しおりを挟む「すごいことですわよね、グレイシア・フィールド様の弟子が二人も、同じ教室にいるなんて!」
「エラン様もものすごいですが、ウーラスト先生はそれ以上に……」
「これからの授業がますます楽しみですわ」
「……」
お昼休みの時間が終わり、私たちは教室に戻った……そこで目にしたのは。というか聞こえたのは、私とウーラスト先生に関するものだった。
それはまあ、わかる。今朝あんなことがあったんだ、話題はもちきりだろう。
問題は、ウーラスト先生のほうが私よりもすごい、という話がちらほら聞こえること。
いやまあ、それは間違いではないんだけど……事実ではあるんだけど、さぁ。
「わ、エランちゃんどうしたのその顔。すごくぶさいくよ」
「しんらつぅ」
教室に戻って来た私たちに気付いたのか、こそこそと話していたみんなはチラチラとこっちを見ている。
なんだろう……これまでに感じたことのない視線だ。まあ、バカにされているわけでもなさそうだけど。
師匠の唯一の弟子、という私のアイデンティティが一つ減ったことで、私の価値が下がっていないか、心配になってしまうよ。
「ほら、席につけ」
「あ、もう授業か」
そんなこんなの間に、次の授業が始まる。午前中は、ほとんどウーラスト先生への質問だらけだったから、午後からは実践的なことをしたいな。
はじめこそ敵視していたけど、考えてみればエルフの先生から学べるものは多い。
そりゃ私は師匠と十年も一緒にいたから今更かもしれないけど、みんなはそうではない。学べるものは山ほどある。
そして、みんなが学んで強くなれば、私としても嬉しい。互いに競い合い、もっと高みを目指すことができる。
「先生、エランちゃんとの勝負で使っていた、言霊っていうのは私たちも使えるんですか?」
はい、と手を上げて、クレアちゃんが質問する。彼女は結構積極的だ。
みんなが気になっていたであろうことを、率先して聞いてくれる。
それを聞いたウーラスト先生は、うーんと唸り顎に手を当てて……
「無理ではないけど、難しいかなぁ。
言霊ってのはさっきも言ったように、言葉に魔力を宿したもの。ただ、それは言葉で言うほど簡単なものじゃあない。魔力について深く知らないといけない」
「深く、ですか」
「そそ。現に、キミたちはオレオレが言霊を使うまで、言葉に魔力が宿るって概念も知らなかったわけだし」
学園に入学して、月日が流れた分だけ学んだことも多い。
だけど、まだまだ知らないことが……知らないことのほうが多い。それだけ、魔力や魔導は、奥が深い。
それは、私も実感していることだ。
「ま、正直私よりもこいつのほうが詳しい部分もある。というか、こいつのほうがいろいろと詳しいところは多いかもな」
「やだなー、ヒルヤセンセったら褒めすぎですよー」
サテラン先生は、ポン、とウーラスト先生の肩に手を置き、顎で指す。自分よりも知識が深いと、自ら言うなんて。
そりゃ、長寿のエルフのほうが詳しいことは多いだろう。いくら学園の先生でも、経験値が違うもんな。
ただ、そのやり取りを見て……ううん、ウーラスト先生を紹介したときから、二人のやり取りはなんか気安さを感じるものだ。
「サテラン先生は、ウーラスト先生とどんな関係なんですか?」
「ん? 私とウーラストの関係?」
一人の生徒が手を上げる。どうやら、二人の関係について気になっていたのは、私だけじゃないみたいだ。
他にも、みんなは興味深そうに、コクコクとうなずいている。
みんなからの視線を受けて、先生は軽くため息を吐いた。
「そんなに気になるか? たいした話でもないぞ」
「ぜひ聞きたいです!」
「……ま、別に隠すようなことでもないが。
私のじいさんのところに、こいつが世話になってた時期があってな。その関係で、子供の頃から私もこいつと関わる機会が増えた……それだけだ」
たいした過去ではない、というように、先生は話した。少しだけ、懐かしむように天井を見つめて。
なるほど、二人の間にはそんな過去があったのか。それから、今に至るまでその関係は続いている。
なんか、ほっこりする話だな。
「うんうん。本当に、ジルやヒルヤセンセにはお世話になりっぱなしだよ」
「だからそのセンセってやめろ」
ウーラスト先生も、気さくにサテラン先生に話しかけている。仲の良さが、わかるというものだ。
ただ……今、ちょっと引っかかる言葉があった。ジルやヒルヤセンセ……まるで、二人一緒にお世話になっていたみたいな。
ジルとは、ウーラスト先生が師匠とは別に尊敬している人間の名前だ。で、今の話の流れをまとめると……じいさんって、もしかしてジル?
え、じゃあ、ジルさんってサテラン先生のおじいちゃん? でもジルって人、平民だって言ってたような……?
……あ、そうか。平民から貴族になる方法だってあるもんね。例えば、貴族の相手と結婚する。貴族に嫁入り、あるいは婿入りすれば、その時点で貴族になれる。
てことは、サテラン先生は元々平民で、サテランって貴族の人と結婚したから、貴族になって……ってことなんだろうけど。
「……先生、結婚してたの?」
気づいてしまった、新事実。先生が、結婚しているかもしれないというもの。
いや、そりゃ先生だって女の人だし、男勝りとはいえ……うん、結婚していてもおかしくはない。
でも……失礼だけど、サテラン先生はなんか、独身のイメージがあったんだよなぁ。
10
お気に入りに追加
163
あなたにおすすめの小説
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
魔眼の守護者 ~用なし令嬢は踊らない~
灯乃
ファンタジー
幼い頃から、スウィングラー辺境伯家の後継者として厳しい教育を受けてきたアレクシア。だがある日、両親の離縁と再婚により、後継者の地位を腹違いの兄に奪われる。彼女は、たったひとりの従者とともに、追い出されるように家を出た。
「……っ、自由だーーーーーーっっ!!」
「そうですね、アレクシアさま。とりあえずあなたは、世間の一般常識を身につけるところからはじめましょうか」
最高の淑女教育と最強の兵士教育を施されたアレクシアと、そんな彼女の従者兼護衛として育てられたウィルフレッド。ふたりにとって、『学校』というのは思いもよらない刺激に満ちた場所のようで……?
大きくなったら結婚しようと誓った幼馴染が幸せな家庭を築いていた
黒うさぎ
恋愛
「おおきくなったら、ぼくとけっこんしよう!」
幼い頃にした彼との約束。私は彼に相応しい強く、優しい女性になるために己を鍛え磨きぬいた。そして十六年たったある日。私は約束を果たそうと彼の家を訪れた。だが家の中から姿を現したのは、幼女とその母親らしき女性、そして優しく微笑む彼だった。
小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しています。
1人生活なので自由な生き方を謳歌する
さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。
出来損ないと家族から追い出された。
唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。
これからはひとりで生きていかなくては。
そんな少女も実は、、、
1人の方が気楽に出来るしラッキー
これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。
恋より友情!〜婚約者に話しかけるなと言われました〜
k
恋愛
「学園内では、俺に話しかけないで欲しい」
そう婚約者のグレイに言われたエミリア。
はじめは怒り悲しむが、だんだんどうでもよくなってしまったエミリア。
「恋より友情よね!」
そうエミリアが前を向き歩き出した頃、グレイは………。
本編完結です!その後のふたりの話を番外編として書き直してますのでしばらくお待ちください。
えっと、先日まで留学していたのに、どうやってその方を虐めるんですか?
水垣するめ
恋愛
公爵令嬢のローズ・ブライトはレイ・ブラウン王子と婚約していた。
婚約していた当初は仲が良かった。
しかし年月を重ねるに連れ、会う時間が少なくなり、パーティー会場でしか顔を合わさないようになった。
そして学園に上がると、レイはとある男爵令嬢に恋心を抱くようになった。
これまでレイのために厳しい王妃教育に耐えていたのに裏切られたローズはレイへの恋心も冷めた。
そして留学を決意する。
しかし帰ってきた瞬間、レイはローズに婚約破棄を叩きつけた。
「ローズ・ブライト! ナタリーを虐めた罪でお前との婚約を破棄する!」
えっと、先日まで留学していたのに、どうやってその方を虐めるんですか?
またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。
朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。
婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。
だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。
リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。
「なろう」「カクヨム」に投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる