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第四章 魔動乱編

226話 とりあえず捕まえよう

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「よし、とりあえずランノーンを捕まえるか」

 ルリーちゃん……いやダークエルフのこと。それに黒髪黒目のこと。聞きたいことは、たくさんある。黒髪黒目については、まあランノーンが知ってるって確証はないけど。
 あと、ランノーンを捕まえれば、ランノーンが操っている魔獣は機能停止するかもしれない。

 ルランは……余裕があったら捕まえて、その後来るであろうリーサに引き渡してしまえばいいかな。
 リーサはルランを追っていて、追及が強くなっているからか最近ルランは"魔死事件"を起こしてないわけだし。

 時間が経てば、リーサも来る可能性が高い……そのせい、だろうか。ルランの戦い方が激しく見えるのは。
 人間相手への恨みはもちろんあるだろうけど……この場に来てしまうであろうリーサのことを考えて、戦いを早く終わらせようとしているのだとしたら……

「ま、聞けばわかるかっ」

 とりあえず、このまま傍観しておく選択肢だけはないことは確かだ。
 私は足を魔力強化して、その場から飛ぶ。何度か屋上を経由して、ルランとランノーンの戦いの場へ。

「よっと」

「! なにしに来た!」

 着地し、二人を見る。私に気づいたルランは、チラリと私を見てから、吐き捨てるように言った。なんて冷たい言葉だろう。
 私に構っている暇はないと言うように、それからすぐに視線を外し、ランノーンへと斬りかかる。

 対してランノーンは、私の姿を見ても、薄く笑うのみで他の反応を見せない。

「なにって、一応あんたの手助けだけど」

「いらん! 魔獣でも相手にしていろ!」

「魔獣は、この国の兵士さんが対処してるし……」

 それに……
 私があっちに加勢して、魔獣を倒したら。余裕ができた兵士さんたちが、この二人に気づくかもしれない。

 そうなれば、二人を捕まえるために兵士さんたちも加わるだろうし……ランノーンはともかく、ルランが捕まって王様に引き渡される、なんてことになったらあんまりよろしくない。
 そりゃあ、"魔死事件"の犯人は然るべき裁きを受けさせるべきだとも思うけど……

 それ以前に、ダークエルフは問答無用で処刑だと言っていた。そんな人たちに、ルリーちゃんのお兄ちゃんをむざむざ渡せない。
 せめて、ルリーちゃんと……二人で、話をさせてあげたい。

「そういうわけで、私はあんたの手助けをするけど、あんたも捕まえるつもりだから」

「なにがどういうわけだ! 意味のわからないことを!」

 私の考えていることをわざわざ伝えるつもりはないけど、まあルランからしたらわけわかんないだろう。手助けに来といて、捕まえるって言ってんだから。
 ま、ルランがなんて言っても勝手にやるけどね。

 私も参戦する、それも敵として……それを聞いたランノーンは……

「っひひ、おもしろいね」

 不気味に、笑っていた。

「貴様の相手は、俺だ!」

 そんなランノーンに、ルランは苛立ちを募らせていく。不気味に光る刀身は、まるで闇そのものだ。
 普通の剣ではない。ちょっと鳥肌が立つくらいに、不気味……でも、ランノーンは涼しい顔で対峙している。

 あんなに二人が接近していたら、私が手出しできない……もう、ルランもろともランノーンを攻撃してしまおうか?

「はぁあ!」

「さっきから剣を振り回してばかり……筋はいいけど、そんなんじゃ当たらないよ。舐めてる?」

「どっちが!」

 こうして見ていると、ルランの剣技は相当なものだ。魔導剣士として、小さい頃から剣を習っていたというダルマスと同じ……いや、それ以上かも。
 その剣技を楽々かわすあたり、ランノーンの動体視力もすさまじい。

 このままじゃジリ貧だ。どちらの体力が尽きるのが先か、そうなってから割って入ってもいいんだろうけど……

「そこまでは、さすがに待てないよね……っと!」

 私も参戦すべく、杖を魔力強化して強度を上げ、二人のところへと突っ込む。ランノーンの死角となる位置を狙い突っ込んだので、ルランからは丸見えだ。
 一瞬、驚いた表情を浮かべたルランだけど、私に文句を言うことなく行動も止めない。

 前はルラン、後ろは私が取り、このまま挟み撃ちの形で……!

「っとと、わぁ!?」

「!?」

 だけど、杖を振るった直後、ランノーンの姿が消える。
 杖は振るった後なので動きを止めることもできず、ランノーンを狙うつもりで振るったのでバランスを崩してしまう。そしてそれは、ルランも同じ。

 結果的に、私の杖とルランの剣とがぶつかり合うことになった。
 ……その、瞬間。

「……!?」

 ゾワッ……と嫌な感じがして、私はすぐに後退。距離を取る。
 なんだろう、今の違和感……ルランの剣に触れた瞬間、なんだか私の魔力が……

「あぁー、やっぱりその剣、触れた相手の魔力を吸い取るんだ」

「!」

 後ろから、明るい声。振り向くとそこには、消えたはずのランノーンがいた。
 警戒しつつ振り向くと、ニタニタと笑みを浮かべていた。とっさに構えるけど、攻撃してくるつもりはない……?

「どういうつもり……?」

「別に、アンタとやりあうつもりはないんだよね~」

 ケラケラと、笑いながら私と戦うつもりはない、なんて言い出した。さっき、私のお腹に蹴りを入れておいてよく言う……!
 まあ、仕掛けたのは私からなんだけど……

 ていうか、やりあうつもりがないなんて、信じられるかっての……!

「ちっ、ちょこまかと!」

「おーこわ」

 ……ルランの剣は、触れた者の魔力を吸い取る。ランノーンはそう言った。だからか、あの違和感は。
 魔力を吸い取る……ピア先輩の作った魔導具に似てるな。ただ、やっぱり魔道具とはちょっと違う気もする。

 私の知らない、ダークエルフの……剣……!
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