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第四章 魔動乱編

217話 謎のダークエルフ

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 普段冷静なゴルさんと先生……二人は、ダークエルフを前にした途端、態度が豹変した。私でも感じる……敵意。
 ただ目の前に現れただけのダークエルフに、この二人はとんでもない警戒心を抱いている。相手は、負傷しているのにだ。

 ダークエルフに対する、人々の認識……それを私は、まだ甘く見ていたのかもしれない。

「ね、ねえ二人とも、この人は別に私たちと敵対したいわけじゃないみたいだし……そんなに、ピリピリしなくても……」

「なにを言っている、フィールド。ダークエルフ相手に、そんな甘いことを言うとは」

 ……ダメだ、先生は聞く耳を持たない。ゴルさんも、おそらくはおんなじだ。
 いつも冷静で、物事をちゃんと判断する人たちなのに。

 ここで、私がこれ以上ダークエルフを庇うようなことを言えば、さっきみたいに今度はこの二人に疑われてしまうだろう。
 それどころか、どうしてダークエルフを庇うのか……それを探られて、最悪ルリーちゃんの存在がバレちゃうってことも……

「……ったく、聞く耳がないってやつかい。仕方ない……」

 自分に向けられる敵意、それを受けてダークエルフは、スッと目を細める。その瞬間、言いようのない寒気がした。
 これまで、ダークエルフと敵対することはなかった……ルリーちゃんやリーサはもちろん、ルランとだって対峙はしたけど、敵対したかと聞かれると微妙だ。

 だけど、このダークエルフは……めんどくさそうな顔をしながらも、その目はしっかりと私たちを見定めている。

「っても、こっちは足が充分に動かない。それに、人間と殺し合う気もない、今のところは……」

「おい、なにを言って……」

「だから、そっちの二人は……おやすみ」

「……!?」

 なにが面白いのか、くすくすと笑っているダークエルフ……次の瞬間、私たちに異変が訪れる。
 いや、正確には私以外の二人に、だ。

 突然、その場に膝を付き……なにかに抗うように、ダークエルフに手を伸ばす。
 けれど、すぐにその手は落ち……地面に、体ごと倒れていく。

「ご、ゴルさん!? 先生!
 ……っ、なにしたの!」

 なんだ、今なにが起きた? 二人は攻撃されたのか?
 いや、そんな素振りはなかった。攻撃されたどころか、ダークエルフは不審な動きすらしていなかったはず……なのに、なんで!?

「ちょー、落ち着いて落ち着いて。
 そこの二人には、眠ってもらっただけだから」

「……眠って?」

 手を振り、私に落ち着けと促してくるダークエルフは……二人を、指差す。そして、眠ってもらったと言った。
 釣られて私は二人を見て、その様子を確認する。

 ……二人とも、ちゃんと息をしてる。寝息を吐いている。大丈夫、生きてる。
 どうやら、寝ているっていうのは本当らしい。

 問題は、なんで二人を眠らせたのか……それにどうやって眠らせたのかだけど。

「そーんな目ぇしないでよ。危害を加えるつもりなら、あなただけを残したりはしないって」

「……」

 確かに、私たちになにかをするなら、私だけ残すんじゃなく全員眠らせた方がいい。
 私だけを残した……つまり、私に用があるってことだ。

「あなたは、ダークエルフに対して嫌悪感がない……むしろ友好的ですらある。だから、ちょっとお話したいなーって思ってね。
 そっちの二人は、話もできなさそうだったし」

「……ちゃんと、起きるんだよね」

「もち」

 さっきダークエルフから感じた、寒気……あれは、敵意とはまた違うものだった。
 少なくとも、このダークエルフには、私と話そうっていう気持ちが見て取れる。

 寝ちゃった二人は心配だ。特にゴルさんなんか顔面から地面に激突してたし。

「まあそんな心配そうな顔しなさんな。それほど長い話はしないから。
 今は周りの人間たちも逃げたけど、じきにアタシを捕まえようと兵士とかがやってくるだろうしね」

 のんびり話すつもりはない、と言いつつ、ダークエルフは近くのベンチに座る。しかもその隣を、ポンポンと叩く。
 私に、隣に座れということだろうか。

 軽くため息を漏らして、私はダークエルフの隣に、座った。

「人払いの結界は張った、これで心置きなく話せるな」

「……足、治ってる?」

「あぁ。邪精霊の力でチョチョイとな」

 なんだろう、このデジャヴュ感……ダークエルフと二人でベンチに腰掛けて、人払いの結界を張って、話をする。すごいデジャヴュ感だ。
 そんな私の気持ちには気づいていないダークエルフは、私の顔をじっと見つめた。

 なにを聞かれるかは、予想はついている。

「単刀直入に聞くが……アンタの近くに、ダークエルフがいるな?」

「……」

 私から、ダークエルフ……つまり、同族のにおいがすると言っていた。それに、さっき探し人がいるとも言っていた。
 探し人がダークエルフなら、私からしたという同族がイコール探し人ではないかと、考えても不思議じゃない。

 ただ、正直に答えていいものか……いくら同じダークエルフでも、初めて会った相手にルリーちゃんの話をするのはどうなんだろう。

「頼む、教えてくれ。アンタがダークエルフの情報をどこまで知っているかは知らないが、アタシらの故郷はもうない。同族も、みんな死んだと、思ってた。
 生きてるやつがいるなら、会いたいんだ!」

 ……切実に、彼女は私に頼んでいる。その目に、偽りはないように思えた。
 そうだよね、故郷がなくなって……仲間とも、離れ離れになって。つらいよね。

 あんな怪我までして、みんなに怖がられて追いかけられて……それでも、この人はここまで、来た。
 探し人ってのは、きっと特定の個人じゃなく、ダークエルフの仲間のことだ。

「……うん、友達がいるんだ。ダークエルフの……ルリーちゃん。知ってるかな。とっても、いい子なんだ」

「ルリー……」

 知りたいのなら、隠す必要はない。この人も、かなり苦労してきたんだから。仲間が生きているんだと、安心させてあげないと。
 私の言った名前を、彼女は何度か口の中で繰り返して……

「るりー、ルリー……そっか、ルリーか。
 ありがとうね、エラン」

 にっこりと笑って、私にお礼を言った。
 私はなんにもしていない、ただ友達のダークエルフがいると言っただけだ。でも、彼女は嬉しそうに笑ってくれている。良かっ…………あれ……?

 私……この人に、私の名前、教えたっけ?
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