上 下
210 / 781
第四章 魔動乱編

206話 王の間の再会

しおりを挟む


「ノマちゃん!」

 部屋に入ってきた人物を見て、私はここがどこかも忘れて立ち上がった。そして、こちらへ駆け寄ってくる彼女に、こちらからも駆け寄っていく。
 部屋は広いとはいっても、二人でお互いに距離を近づければ、接近するまでものの数秒もかからない。

 そのまま、私たちはどちらともなく、抱き合った。

「ノマちゃん、ノマちゃん……よかった、無事だ……!」

 あのとき私が見たノマちゃんの姿は、身体中が血に濡れ、あらゆる箇所から血が流れている無惨な姿だった。その後、私が気を失っている間にノマちゃんには異常がないことが分かった。
 目の前にいるノマちゃんは、血一つないきれいな姿だ。

 抱きしめているこのぬくもりが、これは現実なのだと教えてくれる。

「ちょ、ちょっとフィールドさん……少し、力を緩め……あ、ちょっとこれいた、いたたたた……!」

「あ、ごめん」

 なんかミシミシ、という音が聞こえたので、力を弱める。自分でも気づかないうちに、力いっぱいで抱きしめていたみたいだ。
 ノマちゃんは少し咳き込みながら、苦笑いを浮かべる。

 いや、でも、すごい嬉しいよ。あれからまだ二日も経ってないのに、ずいぶん久しぶりに感じる。ノマちゃんとは部屋が一緒だし、たまにお互いに他の子の部屋にお泊りすることはあっても、ノマちゃんとは毎日顔を合わせていたから。

「お、おいエーテン! お前なんでここに……」

「あら、サテラン先生。先生もいらしてたんですのね。おはようございます」

「あぁ、おはよう……って、そうではなくてな」

「あー……そろそろ良いかな?」

 感動の再会、ではあるけど、困惑したような声を聞いてようやく我に返る。そういやここ王の間じゃん! 王様の前じゃん!
 振り返ると、王様は困ったように笑っていた。な、なんて顔をさせてるんだ私は!?

 すぐにでも膝をつくべきなんだろうけど、ノマちゃんを離したくもない。どうすべきか悩んでいると……

「も、申し訳ありません。国王陛下がいらっしゃるというのに……」

「構わん。友なのであろう」

「えぇ! ……って、ここ、ここここ国王陛下あ!?」

 友、という言葉に、えっへんと胸を張るノマちゃんだけど、ふと視線の先にいるのが王様だと気づき、とんでもない声を上げながら私から離れる。
 耳元で叫ばれたんで耳が痛い。

 それから、ノマちゃんはきれいな動きで、その場に膝をついた。というか床に膝を付き、体ごと地面に倒れた。座ったままお辞儀しているみたいな。
 ていうか、今王様がいることに気づいたのか……

「ノマちゃん、ここ王の間だよ?」

「うぅ、まさかそんなぁ……フィールドさんが来ていると聞いて、早く会いたくて、なにも考えずに入ってきてしまいましたわ」

「キュン!」

 まさかここが王様の部屋だということを知らずに入ってきたノマちゃんだけど、その理由を聞いて私はキュンとしてしまう。
 私がいると聞いて、私に会いたくて、なんて……照れちゃうじゃないか。

「エラン・フィールドくん。キミを呼んだもう一つの理由は、早く彼女と会いたいと思ってな。というのも、彼女が寝ている間もフィールドさんフィールドさんとうわ言のように言っていると報告を受けて……」

「ちょわー! なにを言ってますの!? わたくしがそれ言いましたの!?」

 ノマちゃんと早く会わせるためにこの場に呼んでくれるなんて、王様も粋な計らいをするじゃないか。
 顔を赤くしているノマちゃんは、見れば見るほどかわいい。もっと抱きしめてやりたいくらいだ。

 ……っと、感動の再会もほどほどにして……

「ノマちゃんがここにいるってことは、憲兵さんのところで検査は終わったの?」

「はい。それで、その……」

「……その結果をこの場で伝える。それも、キミをここに呼んだ理由だ」

 ここにいるノマちゃんは元気そのもの。検査は終わったのだ……その結果を、伝えてくれると言う。
 だけど、ノマちゃんはどこか複雑そうな表情を浮かべている。

「……?」

「キミと、キミを呼ぶよう要請したことで同行してくるであろう教員にな」

 私と、それから先生に? 伝えたいこと? なんだろう。
 ノマちゃんの検査の結果……それを伝えるために、王様がわざわざ呼んだ。理由はたくさんあるうちの一つだろうけど、それでも意味は変わらない。

 わざわざ、この場に呼ばれた意味ってなんだろう?

「私から説明させていただきます」

 と、そこに別の声がした。それは、部屋の入口から……そちらを見ると、まだ開いたままの扉から誰かが部屋の中に入ってきていた。
 そこにいたのは、白衣を着た女の人だ。それだけで、彼女がなにかを研究している人っぽいことはわかった。

 ただ……なんでか、白衣のサイズと本人のサイズが合っていない。白衣がぶかぶかなのだ。
 多分、サイズが合う白衣がないのだろうとは思ったけど……そう思う理由は、彼女の姿にある。

 ……どう見ても、子供なのだ。

「えっと……?」

 その女の子は、自信満々、というような表情を浮かべている。ふんすっ、と鼻息荒く目の前までやって来た。
 私と同じくらい……ですらないな。私より小さい。肩くらいじゃないか?ちっさ。

 白衣を着た女の子は、ブカブカの白衣を引きずり、私たちの前で仁王立ちしている。

「紹介しよう。研究員の、マーチヌルサー・リベリアンだ」

「よろしくぅ」

「名前ながっ!」

 王様は普通に紹介した……研究員って、言った。
 やっぱりこの子、研究員なんだ……王宮に迷い込んだ、迷子とかじゃないんだ……?
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

公爵令嬢はアホ係から卒業する

依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」  婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。  そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。   いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?  何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。  エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。  彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。    *『小説家になろう』でも公開しています。

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

愛人がいらっしゃるようですし、私は故郷へ帰ります。

hana
恋愛
結婚三年目。 庭の木の下では、旦那と愛人が逢瀬を繰り広げていた。 私は二階の窓からそれを眺め、愛が冷めていくのを感じていた……

処理中です...