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第四章 魔動乱編

182話 それはまさかの恋愛相談?

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 キリアちゃんから、相談事があると言われた私は、彼女を連れて屋上へと向かった。
 そこで、受けた告白……それは、気になる人がいるというもの。要は、あれだ、恋愛相談ってやつだろう。

 その相手は、てっきり私……だと、思っていたのだが……

「……ダル、マス?」

「は、はい」

 私が聞き返すと、キリアちゃんはぷしゅぷしゅっと頭から湯気を出している。面白い。
 顔も真っ赤だし、恥ずかしそうにうつむいている。恋する女の子は、見ているだけでご飯が進みますなぁ。

 私は、購買で買ったおにぎりにかぶりつく。あぁ、パンじゃなくてご飯系にしておいてよかった。
 お茶ももちろん装備している。

「あむっ……ごくっ。
 ねぇキリアちゃん、一つ聞きたいんだけどさ」

「な、なんでしょう」

「んくっ……ぷはっ。
 これって、恋愛相談てことで、いいんだよね?」

「れ、れれれ、恋愛!? いえそんな、恐れ多いです!」

 一応、キリアちゃんの話の内容を改めて確認する。すると……キリアちゃんは、目に見えて慌てだした。
 手を振り、首も振り、今にももげてしまうんじゃないかと思ってしまうほどの勢いで。

 そんなに否定するなら、違うんだろうか。でも……

「気になる人が、いるんだよね」

「は、はい」

「それが、ダルマスなんだよね」

「……はい」

「ならそれが、恋愛というやつなのでは?」

 私は、恋愛ってやつがどんなものかは、よくわからない。だって自分で体験したことがないんだもん。
 でも、知識としては知っている。

 私の知る、知識によると……

「その人のことを考えると、胸が苦しくなる」

「……はい」

「その人と、もっと話をしたいと思う」

「……はいぃ」

 いかん、キリアちゃんの頭から出ている湯気が尋常じゃなく増えている。
 このままじゃ、キリアちゃんが蒸発してしまいそうだ。一旦言葉責めはやめるとしよう。

 ……それにしても……

「ですが、恋、なんて……私、そんなの、じゃ……」

 両手で顔を覆っているキリアちゃんを見て、私はピンときた。
 ははーん……これはあれだ。自分が平民で、相手が貴族だから自分はふさわしくない、とか考えちゃってるやつだ。

 それとも、本当に恋愛の自覚がないのか?
 ……どちらにしても、キリアちゃんはダルマスを、あくまで気になる人、と認識している。なら、今はそのまま話を進めよう。

「まあ、恋愛云々は置いておいて。
 キリアちゃんは、ダルマスが気になるってことだけど……私に、なにを相談したいの?」

「恋愛は、エランさんから持ち出したんですよ……
 ……なに、と改めて聞かれると考えてしまいますが……その……ダルマス様と、仲を深めるには、どうしたらいいか、な、と……」

 やだぁ、なにこの子超かわいい。今にも抱きしめちゃいたいんですけど。
 ただ、なんで私に、ダルマスと仲を深める方法を聞くんだろう。

 私とダルマスは別に、特別仲良くしているわけでもないし……いや、まさか。放課後の、稽古の件がバレているとか?
 いやでも、稽古は始めたばかりだし……バレるはず、ない……はずだ。

「えっと……どうして、私に?」

「それは……ダルマス様と、仲良さそうに、見えたので。あの、魔石採集の授業のときとか」

 キリアちゃんの口から出てきたのは、魔石採集の授業……私とキリアちゃんとダルマスと、あとついでに筋肉男が一緒のチームになったとき。
 あのときの、やり取りを見てそう思ったのだという。

 特別仲良くしていたって記憶はないんだけど……まあ、キリアちゃんの目にはそう映ったのかもしれない。
 考えてみれば、ダルマスは教室でも女子とあまり話をしない。だから、私と普通に話しているのが、仲良く見えたのかもしれないな。

 要は、それがダルマスと一番仲のいい女子、みたいに印象づいてしまったというわけだ。

「うーん、私は別に、仲良くなろうとか……思ってないわけじゃないけど、特に意識しているわけじゃないからなぁ」

 初めて会った、ルリーちゃんをいじめてた印象のままなら、仲良くなろうとさえ思わなかったけど。その後、クラスメイトとして接してきて、今では二人で訓練するほどだ。
 ただ、いつかダルマスにはルリーちゃんに謝ってほしいとは思う。その場合、ルリーちゃんがあのときのダークエルフだと明かすことになるから、非常に難しいんだけど。

 そんなわけで、私に相談してくれたのはありがたいんだけど、これといった意見を出せそうもない。

「ごめんね、力になれなくて」

「と、とんでもないです!」

「……ちなみに、いつからダルマスのことす……気になってたの?」

 あ、危ない……今、好きになったの、って聞こうとしてた。キリアちゃんはあくまで、気になってるだけなんだから。
 でも、今の言葉繋げて読むと「好きになってたの」って聞こえなくもない。

 ただ、キリアちゃんはそれに気づいていないのか、私の質問に答えてくれた。

「えっと……魔石採集の、授業のときに……」

 もじもじしながら答えるキリアちゃん、かわいい。
 それにしても、あの授業のときか……まあ、私が知る限り、キリアちゃんとダルマスが絡んだのは、あのときが最初で最後のはずだ。

 けど、あのときは……ダルマスと筋肉男が言い争っていて……というよりダルマスが一方的に噛み付いていて……それをキリアちゃんが止めるくらいしかしてなかったと思うけど。

「私、あのとき体調を崩して、倒れそうになって……でも、ダルマス様が支えてくれたんです。
 その後も、平民の私に、よくしてくださって……」

「ほほぅ」

 確かにあのときは、キリアちゃんの魔力の流れを感じ取る体質が、突如現れた魔獣が原因で悪化してしまい、気分を崩していた。
 それをダルマスが気にかけ……私は、キリアちゃんを任せて魔獣のところへ行ったんだ。

 てことは、だ。キリアちゃんがダルマスを意識したのは、私がその場を離れたあと、ということになる。
 くそ、おいしいところ見逃したな私!

「私、男の人に……それも、貴族の方に良くしてもらったのは、初めてで。
 わかってるんです、あんなのはただ、私がどうとかじゃなく、ただ同じチームのメンバーの体調を気遣ってくれただけだと。そんなこと、なんです。
 ですけど……」

 自分でも、言いたいことがまとまっていないのか、テンパっているみたいだ。でも、言いたいことはわかる。
 他の人から見たらそんなこと、だとしても。キリアちゃん本人からしてみれば、それはとんでもないことだったんだろう。

 嬉しくて、嬉しくて、どうにかなっちゃいそうで。だから、気持ちがどんどん大きくなっていくのだと、思う。
 これってやっぱり……恋、ってやつなんじゃ、ないのかな。
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