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第四章 魔動乱編

152話 むぷくーっ

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「エランさん、お、お話がありますっ」

「お、おう」

 翌日……というか二度寝したあとに起きてから。
 私はノマちゃんと共に、朝ごはんを食べるために食堂へと向かった。ここでは、残念ながらルリーちゃんを見つけられなかった。

 そのあと、教室に行ってホームルームが始まるまでの間に準備……していたところに、私を呼ぶ声があった。
 それが、私のクラスを訪ねてきたルリーちゃん。そして、私を見ながらこう言ったのだ。

 ……そのタイミングのよさに、私は若干驚いていた。

「エランさん?」

「あ、なんでもないよ。
 ただ、私も話があったから、先にルリーちゃんから言われて驚いちゃって」

 私は、ルリーちゃんにルリーちゃん自身のことを聞くために、話しかけるつもりだった。
 でも、まさか先にルリーちゃんから話しかけてくるなんて。それも、あの人見知りのルリーちゃんが他のクラスを訪ねてまで。

 よほど、話したいこと……いや、話さなくてはならないことなのだろうか。

「それで、ですね……
 明日は、お休みじゃないですか。だから、エランさんさえよければ、お泊まりなんかどうかなって……ナタリアさんが」

「え、お泊まり!?」

「はい。三人で、どうかなと」

 私が聞きたい話は、多分すぐに終わるものではない。そこに、ルリーちゃんからも話があるというのだ。長丁場になるとは思っていたが……
 ルリーちゃんから、まさかのお泊まりのお誘いとは。しかも、ナタリアちゃんからそう言ってくれたらしい。

 ……ルリーちゃんからの話。ナタリアちゃんも含まれている。
 ってことは……もしかしてルリーちゃんの話も、エルフに関することだったりして? 私とナタリアちゃんだけだもの、ルリーちゃんの正体を知ってるのは。

 もちろん、まったく関係ない話の可能性もあるけど……でも、呼ぶのは私だけ、なんだよな。

「うん、二人がいいならぜひ!」

「ホントですか!」

 私の答えに、ルリーちゃんは目を輝かせながら喜んでいる。
 おぉ、なんて眩しい笑顔なんだ。フードで顔全体が見えないのが惜しい。

 さて、お泊まりとなると、ルームメイトのノマちゃんに話を通しておかないと。ノマちゃんの場合、わたくしも行きたいですわ、と駄々をこねる可能性もあるけど……

「私だけ、のほうがいいんだよね」

「……はい。すみません」

「ううん、謝ることないよ」

 部屋に呼ぶのは私だけ、か。やっぱり、エルフ関係のことかな。仕方ない、ノマちゃんはなんとかなだめることにしよう。
 今度美味しいものでもごちそうするって言って、ご機嫌でも取るか。ごめんよノマちゃん。

 ま、私の話はルリーちゃんの過去つまりエルフに関することだから、どのみち他の人は呼べないんだけどね!
 もしかしたら夜ふかしするくらい、長くなるかもしれない。授業中にこっそり寝てしまおうか。

 さて、そんなわけでノマちゃんに、今日ルリーちゃんの部屋にお泊まりする旨を伝えに行った……

「わたくしも行く、わたくしも行きますわ!」

 ……案の定、駄々をこねられた。

「ご、ごめんノマちゃん。その、ノマちゃんを仲間外れにするわけじゃないんだ。
 けど、ほら……今回のお泊まり会、三人用だから」

「聞いたことありませんわよそんな人数制のお泊まり会!」

 うぬぬ……やっぱり無理があったか。
 そりゃそうだよなぁ。私が逆の立場でも、なんでって駄々をこねるだろう。いやこねるに違いない。こねこねするともさ。

 とはいえ、事情を知らないノマちゃんを呼ぶわけにはいかない。この機会にルリーちゃんの正体を話す……という方法もあるにはあるけど……


『ノマちゃんには、ルリーちゃんのことは秘密にしといたほうがいい?』

『……はい、できれば……』


 つらそうな表情を浮かべていたルリーちゃんの気持ちは、無視できない。
 ここは、強引にでもノマちゃんに納得してもらわないと。

「お願いノマちゃん、今度なんか埋め合わせするから!」

「むぷくーっですわ」

「むぅ」

 まるで風船のように、ほっぺたを膨らませるノマちゃん。つんつんしたい。
 いやいや、こんな邪なこと考えちゃあだめだよ。

 現在ノマちゃん所属の「デーモ」クラスにいるわけだけど、周りからの目が突き刺さる。ノマちゃんは机に上半身を乗せて、私を見上げている。
 いちいち仕草がかわいいなぁもう。

 そんなノマちゃんの背後から、近づく影。まあ私からは丸見えなんだけど……その女子が、ノマちゃんの背後から抱きついた。

「わひゃ!?」

「んははー、おもしれぇ声~」

 小柄なその人物は、ケラケラとおかしそうに笑っている。
 女の子……か。むくれているノマちゃんに背後からいきなり抱きつくあたり、その行為は日常茶飯事なのだろう。

 視線だけ動かしてその子を見るノマちゃん。不服な様子で見つめられているその子は、しかし笑みを浮かべたままだ。

「んなはは、そんなにヤキモチ焼くなってのノママーン。エララン困ってんだろー?」

「や、ヤキモチなんて焼いてませんわ!」

「ノママンってばわかりやしーんだから」

 !? ノママン!? エララン!?

 いきなり現れた人物は、まるでからかうようにノマちゃんのほっぺたをつんつんしている。いいな、私もやりたかった。

「えっと……」

「んなはっ。あー、あーしはロバン・コバン。
 よろしくーん、エララン」

「よろし……エラランって、もしかして私?」

「そ」

「あの、私エランだけど……」

「知ってる。だからエラランー、んなはは」

 ……なんだこの子。いろいろ言いたいことはあるけど、なんか濃い!
 眠たそうに見える垂れた目、おかっぱ頭が印象的な女の子、ロバン・コバンちゃん……名前もすごいな。

 彼女はノマちゃんのほっぺたを、両方押さえるように指先で押さえ込んでいる。それからむにむにしている。
 いいなー。

「話は聞かせてもらったぜ。
 そういうことなら、ノママン今夜あーしの部屋に泊まりなよ」

「え……いいの?」

「もちのろんろんろろーん」

 ロバンちゃんの申し出は、とてもありがたい。変な子だけど、根はいい子なようだ。変な子だけど。
 私だけ泊まりに言って、ノマちゃんだけ一人にするのも忍びなかったし。

 なんだか二人は仲が良さそうだし、それならば安心だ。

「ちょっと、わたくしはまだ行くとは……」

「来ないのー?」

「……行きますけども」

 なんとなく、この短時間で二人の関係性がわかった気がする。
 ノマちゃんはいい子だけど、我が強いから周りと馴染めているか、心配なところはあったんだよ。

 そっかそっか、ノマちゃんにもいいお友達がいたんだね。

「ええい、離れなさい。
 フィールドさん、今日のところは引きますが、ちゃんと埋め合わせをしていただかないと……なんで目元押さえてますの?」

「いや……ノマちゃんがクラスに馴染めてるの、安心しちゃって……」

「親目線!?」

 なにはともあれ、これでノマちゃんの対応は大丈夫だ。
 あとは……お泊まりセット、準備しておかないとな。
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