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第四章 魔動乱編

129話 不気味な光景

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 ダンジョン内で発見した死体……それも、"魔死まし者"。人の死体を見るのは初めてだ。ショックでないはずがない。
 だけど、この場で一番ショックを受けているルリーちゃんを見ていると、私までショックを受けている場合ではないと思った。

 それに……それだけじゃない。ここにいるのは……

「モンスター……?」

 獣の唸り声……直後姿を現したのは、モンスターだ。四足歩行の獣は、いったいどこから現れたのだろう。
 キョロキョロと、周囲を見渡している。私たちは、自然と声を抑え、岩陰に身を潜めた。

「なんでここに、モンスターが?」

「言い忘れてたが、ダンジョンってのは、モンスターを生み出すことがあるらしい」

「……最初に言ってほしかったな」

 なんでダンジョン内にモンスターがいるのか、それは思わぬ形で答えられる。
 モンスターを生み出す、ね。生み出すって点は魔石と同じだけど、やっぱり原理は分からないのか。

 それはそうと、ちゃんとそういう情報も教えてほしかったな。私はともかく、ルリーちゃんやキリアちゃんもいるんだから。

「悪いな。だが、ダンジョンの一階層にモンスターが出てきたって話は、聞いたことがねえんだ」

 ガルデさんは、情報の共有を忘れていたことを謝罪する。だけど、それも仕方ないところではあるようだ。
 ダンジョンの一階層には、モンスターは出てこないというのだから。

「? でも、他の階層から移動してきたりとか、あるんじゃないですか?」

「理由はわからないが、モンスターは階層を移動することはない。
 二階層なら二階層、三階層なら三階層と、モンスターは自分が生まれた階層に留まるんだ」

 モンスターは一階層では生まれないし、また階層を移動してくることもない。
 ……だけど、今現実として、モンスターは一階層ここにいる。

 その理由は気になるところだけど……ともあれ、ここから脱出することに、変わりは……

「……え?」

 気にはなるけど、モンスターを放置して移動しようとしたとき……思いがけない光景を見てしまい、脚が止まる。
 モンスターは、キョロキョロとまるでなにかを探しているようだったが……ある一点へ視線を向けると、そこへ歩き出したのだ。

 その先にいるのは……物言わぬ死体となった、"魔死者"。ダンジョンを出た後、ギルドなり憲兵なりに連絡しようとしていた……
 それを……


 ガブッ……


「!?」

 思わず出そうになる声を、とっさに口を押さえることで抑える。ルリーちゃんとキリアちゃんは、それぞれ、ケルさんとヒーダさんが目と耳を押さえている。
 それだけに、衝撃的な光景……モンスターは、確かに肉食のものもいるのだ。でも、人間の死体を食べるなんて……!?
 獰猛なモンスターが人間を襲うって話は聞いたことがあっても、死体にまで手を付けるなんて……

 私が知らないだけかと思ったけど……みんなの表情を見るに、少なくとも私の知らない常識、というわけではなさそうだ。
 人間を襲い、食らう……そんなの、魔物や魔獣でしか聞いたことのない話だ。

「あ、あの、なにが……それに、さっきから体が、ざわざわして」

「二人は見ちゃだめ」

 ルリーちゃんとキリアちゃんは、引き続き目を押さえられている。"魔眼"を持つルリーちゃんに、あんなもの……いや、"魔眼"とか関係なしに、ああいうのは見るべきじゃない。
 モンスターが、人を……食べているなんて。

 ただ、見ていなくてもなにかが起きていることは、キリアちゃんはわかるらしい。
 魔力の流れを感じ取れる体質……その影響だろうか。さっきから自分の体を抱きしめ、しきりに腕を擦っている。

 私としても、ずっと見ていたい光景じゃない。一刻も早くここを離れたいのに……

「お、おい」

「ありゃあ……?」

 困惑の声に、私も目を見開いた。モンスターが人を食べているだけでも驚きなのに、さらなる驚愕がそこには広がっていた。
 人を食べているモンスターの姿が、変化していくのだ。体は一回り大きくなり、体毛の量も増える。額からは鋭い角が生え、爪や牙の鋭さが増していく。

 ……あれ、は……

「魔物……!?」

 なんで、どうして。そんな疑問が浮かぶのは、当然だと思う。そりゃあ、モンスターが魔物になるっていうのは、私だって知っている。
 だけどそれは、モンスターが魔石を食べたときに起こる現象だ。モンスターは、魔石を食べることで魔物になる……さらに魔物がより多くの魔石を食べれば、魔獣になる。

 そのはずだ。実際、以前師匠と、モンスターが魔物になる瞬間を見たことがある。魔石を食べた、モンスターが。
 だというのに……あのモンスターは、なんで人を食べて、その上で魔物になっているっていうんだ?

「くっそ、わけわかんねえことだらけだ」

「あぁ。とっととこんなとこ出よう」

 ケルさんたちの意見に、賛成だ。こんな不気味なところ、早く出よう。
 出現したばかりのダンジョン、なぜか私たちより先に入り死んでいた謎の……身なりから冒険者かな……人物、ここでも起こった"魔死事件"、一階層にいるはずのないモンスター、人を食べて魔物になるモンスター……

 この短時間で、訳のわからないことが起こりすぎた。さっさとこんなところ出て、ルリーちゃんとキリアちゃんを安全なところへ……

「グルルル……!?」

「ぇ」

 ここから離れよう……抜き足差し足忍び足で、移動していた。しかし、突然魔物がこちらを振り向き……目が、あった。
 その口元には、べったりと血がついている。あれは、今食べていた人のもので……うっ、気持ち悪い……!

 ま、まずいまずいまずい、気づかれた! じっとこっちを見ている! 完全に獲物を狙っている目だ!
 戦う? 倒す? 相手は魔物一体だ、難しい話じゃない。なのに……なんだ、この胸騒ぎは。

 ここは……

「走れ!」

「!」

 私がそれを言うより先に、ガルデさんが叫び……弾かれたように、みんな出口へ向かって走り出した。
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