111 / 781
第三章 王族決闘編
108話 徐々に追い込まれていく戦況下
しおりを挟む「おわわわわ!」
走り回る私に、迫る火の手。魔力強化で速度を上げているとはいえ、気を抜いたら追いつかれてしまいそうだ。
結界の中でも、あの炎に巻き込まれたら一発アウトだろう。
ゴーレムは始末できたけど、一番厄介なのは残ったままだ。サラマンドラの口から吐き出される炎は、直接触れなくても熱い。
どれくらい熱いかというと、炎が触れた後の地面が若干溶けているくらいの熱さだ。
しかも、それだけじゃなくて……
「どうした、ただ逃げ回るだけか?」
サラマンドラを援護するかのように、ゴルドーラが魔法を放ってくる。私が炎を避けた先を予測して、魔法を撃ってくるのだ。
やばいなぁ、このままじゃジリ貧だ。
もう一度分身魔法を使う手もあるけど、いくらこっちの数を増やしても、あの広範囲の炎で全員焼き尽くされて終わりだ。
むしろ、分身の数だけ力が減るから、攻撃を防ぐのも一苦労になってしまう。
かといって……
「えい!」
こちらから魔法で反撃してみても、サラマンドラの皮膚には傷一つつかない。
火も、氷も、風も……諸々のイメージを膨らませて攻撃を放つけど、どれも有効な手にはならない。
あの巨体と硬さ、それを崩すとなったら……
「やっぱり、魔術……」
魔獣や巨大ゴーレムにも通用したような魔獣なら、サラマンドラにも効くかもしれない。けど……
私が魔術の詠唱を放つ隙を、ゴルドーラが待ってくれるわけがない。今も、サラマンドラとゴルドーラの攻撃を避けるのに精一杯なのに。
魔獣相手の時は、ルリーちゃんと先生のフォローがあった。コーロランのゴーレム相手の時は、浮遊魔法で相手の虚を突けたからうまくいった。
でも、今回は一対一。あの試合はゴルドーラも見ていたんだし、当然浮遊魔法にも注意をしているだろう。
そんな相手に、同じ方法でうまくいくとは思えない。詠唱には少なからず集中力がいるのに、こんな状況じゃあ!
「ゴォオオオオ!」
「っ!」
このサラマンドラ、巨体だからリーチが長いし、巨体なのに速い。それでいて炎まで吐いてくるんだから、たまったもんじゃない。
攻撃が通らない。サラマンドラの隙をついてゴルドーラを狙っても、当然本人に弾き返されるわけで。ほんっと、せめてあの硬い皮膚さえどうにかなれば、サラマンドラに狙いを絞って……
……皮膚が、硬い?
「試してみよっ、と!」
「ん? なぜドラに」
私は逃げるのをやめて、反転。サラマンドラと向き合う形になり……そのまま、ダッシュ。サラマンドラへと、立ち向かっていく。
それに唖然とするのは、ゴルドーラと……サラマンドラ自身。だけどすぐに、獲物が自ら飛び込んできた幸運に震える。
私目掛けて、炎を放つ……私はそれを、体の周りに魔力壁を張ることで直撃を避ける。
さっきよりも、強固な壁……とはいえ、やっぱり熱は防ぎきれない。でも、この方法しかない……サラマンドラの、開いた口を真正面から捉えるには!
眼前まで接近し、私は突風で炎を弾き飛ばす。
一時的でもいい……サラマンドラの大口の、炎を吐いてないこの瞬間を狙って!
「いけぇ!」
私は、水をイメージ……大気中の水蒸気をたっぷりと含んだそれを具現化させ、巨大な水の玉をサラマンドラの口の中へと撃ち込む。
何発も、だ。
皮膚は硬くても、口の中はそうではないはず。おまけに、水ならば火を消す力を持っている……サラマンドラにも、有効なはず!
これで……
「やはり、狙うとしたらそこだろうな」
「ぶ!」
しかし……私の目論見は、ことごとく妨害される。
サラマンドラの口の中へと向けて放った水の玉……それは、口の中へと到達する前に、パンッと弾き割れる。
おかげで、大量の水が私に降り掛かってきた。
それを、やってのけたのは……
「……防いだってことは、やっぱり口の中は弱点なんだ?」
「どうだかな。だが、思いついたこと全てを好き勝手やらせるほど俺は寛容ではない」
ゴルドーラ……! 私が炎の中に突っ込んだのは、ゴルドーラからは炎に包まれた私が見えなくなるから妨害は入らない、とも考えてのことだったのに。
なんで、あんな完璧なタイミングで、私の攻撃を防げたのか。
「……そういえば」
ふと、思い出すことがある。使い魔と召喚者とは、切っても切れない固い絆で結ばれている。師匠が言っていたことだ。
召喚者は使い魔を使役するが……両者の間にあるのは、ただ主従という関係性だけではない。
『召喚者は、使い魔の視界を通じて、使い魔が見ているものも見ることができる。
この子、私の使い魔なんかは鳥で飛べるから、遠くの景色も視界を共有できるってことなんだ』
……視界を、共有する。使い魔が見ている景色を、召喚者も見ることができる、だったか。
なるほど、それで……私の姿を見失わずに、タイミングよく攻撃を防げた、と。
視界が共有されているとなると、厄介に厄介が重なって厄介厄介だ!
「とはいえ……このままでは埒が明かんな」
「それは、こっちのセリフだっての!」
放たれるゴルドーラの魔法、サラマンドラの炎。それらを避けながら、隙を伺わないといけない。
……サラマンドラの炎って、『魔力剣』で吸収できるんだろうか? ふとそんなことが頭に浮かんだが、それを試すにはちょっと危うい。もし吸収できなかったら、丸焦げになっちゃうよ。
……とはいえ、それくらいのリスクを追わないと、状況は膠着して……
「ぅえ!?」
なにか動きを見せないと、と考えていたところで、先に動いたのはまさかのゴルドーラ。サラマンドラを背後にじっとしているのかと思っていたら……
私に向かって、突進してきた!?
魔力強化を足に使っているのか、速い。私は迎撃の魔法を放つけど、それは小さな動きでかわされる。
私との距離が縮まる……その最中、彼の持つ杖の先端が、光っているのが見えた。
あれは……魔力を先端に集中している。赤く白く、光って……まさか、いわゆる爆弾か!
「それを、ぶつけようっての!?」
間近から、高エネルギーを収束させた魔法で一気に叩く……そう考えているのだろう。けど、こんな近くでそんなもの放ったら、自分にもダメージがいくと思うけど。
私は、魔力を全身に纏わせる。全身強化……全身を見えない鎧で包み込む感じだ。
これで、大抵の攻撃ならば防ぐことができる……
「そう来ると、思った」
「!」
小さく呟いた声は、不思議と私の耳に届いた。なんだ、なにが目的だ……?
……まあ、なんだっていい。全身を守ったからって、すんなりと攻撃を受けてやるわけにもいかない。
私は氷の槍を生成し……それを五発、撃ち込む。
それをゴルドーラは、魔法で弾く……こともなく、さらに私との距離を詰めてくる。その中でも槍をかわすけど、かわしきれないものが体をかすめていく。
「なっ……!?」
いくら結界内でダメージは抑えられてるとはいえ、自ら身を削って……!? じゃあやっぱ、自滅覚悟で爆弾を撃つつもりか!
驚愕に、口を開いた私……そこに……
「プレゼントだ」
その言葉に、不敵なものを感じたが……もう、遅かった。
ゴルドーラは、杖を振るい先端に光らせていた、小さな玉を放った。
……私の、口の中へ!?
「っ!?」
「外側は魔力防御で固めていても、内側はどうかな?」
若干熱いそれは、私の口の中から喉を通り、そして胸、お腹へと移動していくのを感じて……
これは、まずい。そう思ったのもつかの間……
体内で、爆弾が爆発した。
10
お気に入りに追加
169
あなたにおすすめの小説
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。
七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」
リーリエは喜んだ。
「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」
もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。
妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~
サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
公爵令嬢はアホ係から卒業する
依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」
婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。
そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。
いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?
何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。
エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。
彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。
*『小説家になろう』でも公開しています。
またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。
朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。
婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。
だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。
リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。
「なろう」「カクヨム」に投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる