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第二章 青春謳歌編
81話 プラン
しおりを挟む『考えたんだけどさ。試合が始まったらまず私が突っ込んで、相手クラスの人数をいっぱい減らして、残ったのをみんなで囲んでボコる、とかどうかな』
『どうかな、じゃねぇ。いいわけないだろ』
『悪魔みたいなこと言うな』
『あははー、やっぱだめかー』
『おっそろしいこと言い出すわね』
『ま、冗談は置いておいて』
『冗談と思えないのがこえぇよ』
『せっかくのクラス対抗だし、クラス一丸となって頑張ろうよ!』
……試合会場に来る前のやり取りを思い出しつつ、クラスのみんなは指定の位置につく。
試合のルールは、事前に説明された。
クラス対抗であるため、最後の一人まで立っていた方のクラスの勝利。
戦闘不能状態と判断されたら失格。
魔法、魔術どちらの使用も可。
武器の使用も可。
また、どれだけ暴れても会場には結界が張ってあるので、外に影響は出ないとのこと。
ちなみに戦闘不能の判断は結界による判定で、その時点で結界の外に弾き出されるとのこと。
あと、決闘と試合との違いだけど……試合は競技的な意味に対して、決闘は互いになにかを賭けるものらしい。そういう意味では、私とノマちゃんは負けた方が勝った方の言うことを聞く、と賭けているから、決闘との言えるのかも。
ダルマ男と決闘はしたけど、あれは授業の一環だからノーカンだ。
「いよいよね……」
「だね。最初王子様に試合申し込まれたときはどうなることかと思ったけど、こうしてお互いのクラスでやりあって、お互いに高め合う!
これぞ青春ってやつだよね!」
「うるさいぞバカ」
怒られてしまった。
みんな緊張しているみたいだから、場を和ませようと思ったのに!
まあ、緊張するのも無理ないか……魔導に関する知識はあっても、実技を繰り返しても。実戦となると初めての子が多いだろうし。
私なんかは、師匠と実戦形式で何度もやりあったり、魔物と戦ったこともあるからいいけど。
貴族の子って、こういうのに弱いイメージがある。なんとなく。
「ではこれより、「ドラゴ」クラス、「デーモ」クラスによる試合を行う!」
そこへ、高らかに先生の声が響く。
魔法を使っているのか、それとも素の声量なのか……会場全体に、響いている。
それにより、会場の空気が変わる。今まで騒がしかった観客席も、静まり返った。
なんか成り行きからこうなっちゃった感はあるけど、ここまで来たら楽しまないとね!
「それぞれ、力を尽くして戦うように!
では試合、開始!」
ついに、試合開始の合図が、切って落とされた。
さぁて、まずは誰から……
「ちょっ、エランちゃん!」
「ん?
……なぬぅ!?」
ふと、クレアちゃんの焦った声が聞こえる。
そちらに顔を向けて、そのクレアちゃんが上空を指しているので、顔を向けると……
……雨が、降り注いでくる。
しかも、ただの雨じゃない。これは……
「火か!」
火だ。それが、雨のように降り注いでくるのだ。当たれば熱い、なんてもんじゃないだろう。
結界内では一定以上のダメージは無効化されるけど、言ってみれば一定以下のダメージはそのまま痛みとして受けてしまうんだ。
現に、私に殴られたダルマ男は気絶したし……あれ、一定以上なんだろうか以下なんだろうか。
それに、痛みではなく熱などはそのまま受けてしまう。
「って、考えてる場合じゃない!」
クラスメイトは、開始の時点では密集している。
このままここにいては、みんないっぺんに火の雨……いやシャワーの表現が想像しやすいかな。を浴びてしまうことになる。
「散れ!」
誰ともなく叫び、クラスメイトは四方に散る。
降り注ぐ火の雨は、方向を変えて曲がる……なんてこともなく、地面へとぶつかる。
早速バラバラになっちゃったな……いや、バラバラにさせられたと言うべきかな。
だって、あんな密集しているど真ん中に撃ち込んでくるなんて、その先に取る行動は限定される。
「みんな、プラン通りに!」
と、王子様が叫ぶ。
それを皮切りに、向こうのクラスも動き出す。だいたい、四、五人ひとかたまりになって。
なるほど、私たちをバラバラにしてから、そこをひとまとめにして叩こうってことか。
って、観察してる側から……
「せやぁあああ!」
「おっ……!」
きらやかに輝くブロンドヘアが、視界に映る。それは、今朝も見たばかりの髪……
振り下ろされる杖は魔力で強化されていて、それは言わば剣だ。
私はそれを、同じく杖を魔力強化することで、受け止める。
「ノマちゃん……!」
「さっきぶり、ですわね!」
ノマちゃんとは食堂で一緒に食事をしてから別れたから、確かにさっきぶりだ。
それにしても、ノマちゃんが私のところに突っ込んでくるなんて……さっきの、プランってやつか?
「そんなに、私に会いたかったんだ」
「間違いではないですけど!
あの方の言っていた通り、バラバラに別れたあなた方を、一気に叩かせてもらいますわ!」
やっぱり、バラバラになった私たちを一気に、叩くのが目的か。正面にはノマちゃん、それに……
私の周囲を囲むように、生徒たちが迫っている。
ノマちゃんの言う、あの方ってのは……王子様だろう。てぇことは、あの火の雨を降らせて私たちを分断させ、そこを叩こうって作戦を立てたのは王子様か。
なるほど……面白い!
「けど、そううまくはいかないよ!」
「!?
皆さん、下がって!」
いち早く異変に気づいたノマちゃんが、叫ぶ。
けれど、遅い!
私は、杖への魔力強化とは別に足先に、魔力を込める。部分的な身体強化だ。脚を強化ではなく、足なのがミソだ。
そして、その足を上げて……思い切り、地面へと振り落とす。
その影響で地響きが鳴り……割れた地面の欠片は浮き上がる。それらを、魔導で操って……私を囲んでいた生徒へと、ぶつけていく。
「うっ!」
「ぐっ!」
「べへ!」
別に見えてはいなかったが、人の気配と魔力の方向へと地面の欠片をぶつけた。結果、ちゃんと当たってくれたらしい。
声からして、男子か……男の子三人に囲まれるなんて、モテモテだなぁ私も。
……っと、ノマちゃんも私から距離を取ったか。
「ちょ、ちょっと……なにかするとは、思いましたが……
地面を蹴り割るとか、めちゃくちゃじゃありませんの」
「そっかなー」
「そうですわよ!」
地面を割ることで、周囲のバランスを崩す。
割った地面を有効活用して、相手にぶつける……合理的な方法だと思うけどな。
「ですが……あのくらいじゃ、彼らは戦闘不能ではないですわよ?」
「みたいだねー。……みんな見事に分断されちゃって。
けどさ、さっきの、みんなバラバラに避けなかったらどうしたの? 魔力壁で防いだりとか」
「それならそれで、それ用のプランがあっただけですわ」
「そっか……」
それ用のプラン……ね。
じゃあ、あの王子様は、それぞれ私たちがどう動くか、パターンを予測して、数あるプランを立てていたってことだ。
戦略家ってやつかな……面白い!
「けど、思い通りにはいかないよ」
私も、クラスメイトたちも、思惑通りに動いてなんてあげないんだから!
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