上 下
80 / 781
第二章 青春謳歌編

78話 楽しい楽しいお買い物の時間

しおりを挟む


「楽しみですわ、クラス同士での試合なんて!」

「そうだねぇ」

 クラスのみんなに、「デーモ」クラスとの試合を発表してからさらに翌日。
 私は、ノマちゃんたちとお外にお出掛けに出ていた。以前話していた、お買い物というやつだ。

 学園の外に出るには許可が必要だけで少し面倒だけど、それさえ済ませてしまえばこうして、楽しい時間が広がっている。

「楽しみだねー」

「ねー、ですわ」

「……当事者の二人がそれでいいなら別にいいんだけど、なんでそんなに軽いんだ?」

 仲良く隣り合って笑い合う私たちに、苦笑い気味に言葉を漏らすのは、ナタリアちゃんだ。
 他に、ここにはクレアちゃんとルリーちゃんの姿もある。

 ノマちゃんとお買い物の約束をしてから。私は、仲のいい子に声をかけた。
 結果、三人も同行することになったわけだ。

「軽いー?」

「いや、だってとんでもないことじゃない……私も、聞いたときはなんの冗談だって思ったわよ」

 呆れたようにため息を漏らすのは、クレアちゃん。
 まあ……いきなり、クラス同士で試合します、って宣言されたら、驚きもするだろうか。

 クラスのみんなからも、どうしてそんなことにと質問攻めされたっけなぁ……
 とはいえ、私は試合を申し込まれたほうだから、なんとも言えなかったけど。

「それにしてもノマちゃん、知ってたなら、その日に言ってくれればよかったのに」

「だって、コーロラン様がまだ言ってないのに、わたくしから言うわけにはいかないじゃないですか」

 王子様に試合を申し込まれ……王子様は、事前にクラスのみんなには試合の許可をとっていた、と言っていた。
 ということは、王子様と同じクラスのノマちゃんも、試合のことは知っていたってことだ。

 思い返せば、試合を言い出される前の日あたりに、ノマちゃんはソワソワしていたような気もする。
 きっと、試合のことは知っていて、話しちゃいけないとわかっていたけど話したくなってしまいそうに……って気持ちだったのだろう。

 逆の立場なら……うん、私も話したくても話せないかな。

「けど、ちょっとワクワク、してません?」

「あ、わかるぅ?」

 なんだかんだ言って、ワクワクしている自分がいる。
 決闘とはまた違う。試合だ。それも、多人数での。

 これまで一人で魔導を学んできた私が、誰かと協力して、試合をするのかぁ……

「今から燃えちゃってるよ!」

「わたくしもですわ!
 ですが、今日はせっかくのお買い物。こちらも楽しまないと」

「もっちろん!」

 私にとって、こんなにも多くの友達とのお買い物は初めてだ。
 この国に来てから初めて、クレアちゃんとお買い物に出掛けた。それも楽しかったけど、こうやって大勢で、というのも別の楽しみがある。

 ……うーん。

「私、師匠だけじゃなくクレアちゃんが選んでくれた服も持ってるんだけど……」

 ノマちゃんに詰め寄られたときは、思わずなにも言えなかったけど……私は、師匠が買ってくれたものだけでなく、初めてのお買い物でクレアちゃんが選んでくれた服も持っている。
 白いワンピースとかだ。かわいい。
 なので、私のものを買う、なんてそこまで困っているわけでもない。

 ……まあ、いっか。
 なんにせよ、みんなとの買い物であることには変わりないんだし。

「そういえば、それ私が選んだ服よね」

「ふふん、そうだよー。
 似合う?」

「とっても素敵です!」

 今日私は、クレアちゃんが選んでくれた服を着ている。さっき思い浮かべた白ワンピとはまた別の、女の子らしい服だ。
 クレアちゃんも、ルリーちゃんも、ノマちゃんも、女の子らしい素敵な服装だ。

 みんなスカート……だけど、一人違う子がいる。

「カルメンタールさんは、パンツスタイルなんですのね?」

「あぁ、うん。変かな?」

「そんなことはありませんわ。とてもお似合いです」

 そう、ナタリアちゃんは長いズボンを履いている。
 スラッとした足が、強調されてよく似合っているんだけど……

「スカートはちょっと、恥ずかしくて……」

 と、いうことらしい。

「でも、学園じゃスカートじゃない」

「それは、制服だし……
 私服で、スカートは持ってないんだよ」

「それはもったいないですわ!
 カルメンタールさん、おきれいなんですからおみ足を見せたほうがいいですわよ」

 どうにも、衣類のことになるとノマちゃんは妙なスイッチが入るな。
 ズボンはズボンでいいと思うんだけど……かっこいいし。

 まあ、スカート姿を見ているしもったいないという気持ちも、わからなくはない。

「これは、カルメンタールさんの服も選ばなければ……」

「いや、ボクは……」

「まー、ああなったら止められないよ」

 もはや、ノマちゃんを止めるのは諦めたほうがいいだろう。
 どのみち、服は見て回ることになるのだから。

 ただ、その前に……

「お腹空いた……」

「そうねー、昼食にしない?」

 集合したのがお昼前。今はお昼時で、ちょうどお腹が空いてきた頃合いだ。
 みんなも、異存はないようで、どこか手頃なお店を探す。

「あ、だったらさ……」

 どこかいいところは……と考えていたところで、頭の中にふといいアイデアが浮かぶ。
 美味しいご飯を出してくれる、お安いお店があるじゃないか!

 その店の名前を出すと、クレアちゃんは渋った顔をしていたけど、ルリーちゃんはこくこくこくと激しくうなずき、ナタリアちゃんとノマちゃんも賛成したのでそこに向かうことに。

「いらっしゃい。
 ……あら、エランちゃん!」

「タリアさん、久しぶり!」

 着いた先は、『ペチュニア』という名前の宿屋。
 私が魔導学園に通うまでお世話になっていたところで、なにを隠そうクレアちゃんの実家だ。

 宿屋ではあるけど、普通にご飯も食べられる。
 それに、久しぶりにタリアさんに会いたかったのもあるしね。

「まー、数日のうちにずいぶん立派になったじゃないか」

「そ、そうかなー?」

「ルリーちゃんも久しぶりねぇ」

「はい」

 私と同じく、ルリーちゃんもお世話になっている。

「そちらは、お友達?」

「うん。みんなと、美味しいもの食べたいなって思って」

「まあ、嬉しいことを言ってくれるじゃないか。
 シャレた店じゃないけど、うんと美味しいもの食べさせてあげるからね」

 王都ならば、確かに小洒落た店もあるのだけど……
 私は、ここでみんなと、ご飯を食べたい。

 それに、クレアちゃんだって久しぶりの実家で嬉しいはず……

「……なんでクレアちゃんは店に入ってこないの?」

「だ、だって……わざわざ、こんな……」

 なんでか、もじもじしているクレアちゃん。
 このままだと埒が明かなさそうなので、渋るクレアちゃんを無理やり、店内へと引きずり込んだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

公爵令嬢はアホ係から卒業する

依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」  婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。  そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。   いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?  何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。  エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。  彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。    *『小説家になろう』でも公開しています。

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

愛人がいらっしゃるようですし、私は故郷へ帰ります。

hana
恋愛
結婚三年目。 庭の木の下では、旦那と愛人が逢瀬を繰り広げていた。 私は二階の窓からそれを眺め、愛が冷めていくのを感じていた……

処理中です...