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第二章 青春謳歌編

51話 魔導士の階級

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 いったい、私はいつから精霊と仲良しだったんだろう。
 うーん……思い出せないや。
 師匠と出会う前だったとしたら……それ以前の記憶は、ないわけだし。

「まあ、みなまだ魔術は使えないみたいだが、これからだ」

「あれ?」

 うーむ、と自分のことについて考え込んでいた間に、話は進んでいたらしい。
 どうやら、魔術を使える者はこの中にいるか……といった質問。
 それに、誰も手を上げなかった。

 精霊と対話できるか、魔術を使えるか……
 このクラスには、それに至っている人は、まだいないらしい。

 あちゃあ、まずったなぁ。私は魔術使えるのに、話を聞きそびれたせいで手を上げそこねてしまった。
 ……まあ、いっか。

「さて。魔法魔術を極めることで、一流の魔導士となることができるが。
 魔導士にも、階級というものがある。
 魔導を扱える者を幅広く魔導士とは言うが、キミらは今のところは魔導士見習いだ。少なくともこの学園ではな。
 魔導学園を卒業することで、一般の魔導士と呼ばれる。もちろん例外もあるがな」

 魔法だけでなく魔術も極めてこそ、一流の魔導士になれる。うん、その通りだね。
 というか、私たちまだ見習いだったのか。

 まあ、一般の人から見れば、魔導士も見習いもたいした違いはないんだろうけど。

「魔導士見習いを卒業し、魔導士へ。
 魔導士の階級はそれぞれ、上級魔導士、中級魔導士、下級魔導士の三段階に分かれる」

 指を三本立てて、先生は説明する。
 上級、中級、下級か……貴族の区分とおんなじ感じか。

「どれも魔導士であることに変わりはないが、階級によりその待遇も大きく異なる。
 例えば王国に仕える魔導騎士になった場合、上級と下級とでは給料や配属される役職に差がある。上級であれば騎士団の団長、下級であれば一騎士……というようにな」

 ふむふむ、なるほど。
 階級がどうとか小難しいことを言ってるけど、要は階級が高ければお給料がガッポガッポだということだ。

 だったら、そういう意味でも上を目指さないとだよね。

「階級を上げるには主に、功績を立てることに加え、人柄も影響する。
 いくら確かな腕を持っていても、人柄が悪ければ階級は上がらないからな」

 と言って、先生はちらほらと目を向けている。
 心当たりのある生徒がいるってことだよな……私もいる。

「そして、上級魔導士の中で選りすぐりの七名が"七帝しちてい魔導士"。
 さらにそれよりも上の階級が、この世に四名しかたあない"四柱しちゅう魔導士"」

 七に、四……か。七はともかく、やっぱり四って数字に縁があるんだな。
 多分、この世界に君臨していた始まりの四種族ってやつを、なぞっているのだろう。

「最後に、全ての魔導士の頂点に立つただ一人の存在……それが"魔導賢者"。
 みなもよく知っている、エルフ族のグレイシア・フィールド。彼こそ、史上最強の魔導士、魔導賢者だ」

「!」

 知っている……どころではない、名前。
 それが口にされた瞬間、私の意識は先生へと向く。

 すごい魔導士だってのは、クレアちゃんから聞いていたけど……
 まさか、魔導士の頂点に立つ存在だったとは。
 最強、じゃん。

 師匠すげー、と胸の中が熱くなっていくのを感じていると……他にも、感じるものがあった。
 なんか、クラスメイトからの視線を、たくさん感じるんだけど。

 それをわかってか、先生はくくく、と喉を鳴らして笑った。

「史上最強の魔導士……グレイシア・フィールド。
 その弟子ってのは、プレッシャーもすごいだろう。エラン・フィールド?」

 ……そうか、みんな、私が師匠の弟子だからこうして見てくるわけだ。
 元々、【成績上位者】や魔導具破壊、そしてダルマ男との決闘勝利と、注目を集める要素はあったけど。

 それが、グレイシア・フィールドの弟子ってことで、『無名の謎の貴族』から『説得力のある魔導美少女』という認識になったわけだ。

「あはは、なんか照れますねぇ」

「……褒めてない……わけでもないが、意味わかって言ってるのか?」

 まあ、これで私としても、もう引けないよね。
 師匠の弟子として、師匠の名に恥じない行動を心がけないと!

 ……それにしても、師匠はエルフ族だってのはやっぱり周知なんだ。
 こんなにもみんなに尊敬されている。
 だというのに、エルフ族自体はむしろ嫌悪されている。

 どうしてだろう?

「魔導を扱える者としては、魔導賢者はすべての者の憧れと言ってもいい。
 だからといって、フィールドに過剰にすり寄らないように」

 私を焚き付けたかと思ったら、今度は私をフォローするような言葉をくれる。
 師匠の弟子だって大っぴらにしたままだと、またさっきみたいなことになりかねないし……

 先生グッジョブ!

 しっかし、私は魔導を極めるためにここに来た。そして、いずれは師匠も超えるつもりではいた。
 けれど、超える壁と思っていた師匠は、全世界の魔導士が憧れる存在……
 史上最強の魔導士、だった。

 この事実に……普通なら、震え上がるのかも、しれないけど……
 私の胸の内は、かつてないほどのワクワク感に、満たされていた。

「精霊と魔導士については、まずはこれだけ覚えておけばいい。
 グレイシア・フィールドの弟子であるエラン・フィールドでも、魔術は使えないんだ。それだけ、精霊との対話は難しい。
 が、諦めなければ必ず、精霊と心を通わせることができる」

 先生がいいことを言っている中、私の胸は今度は罪悪感でいっぱいだった。

 その点については本当にごめんなさい。
 違うんです、ただ話聞いてなくて、手を上げるの忘れてただけなんです。
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