上 下
46 / 781
第一章 魔導学園入学編

46話 決闘の決着

しおりを挟む


 迫りくる炎の波……これはもう、斬撃というレベルじゃあないな。
 それに、これじゃあ弾くこともできない。

 身体強化で、全身を鎧で包んでいる以上、結界は関係なしにあれに呑み込まれても一定以上のダメージは受けないけど……
 炎のダメージは受けなくても、熱は防ぐことはできない。

 さっき火の斬撃を避けてて気づいたけど、どうやら熱さでのダメージは防げても、熱までは防げないらしい。
 結界内では、ある程度以上のダメージは無効化される……けど、疲労は別だ。
 疲労が溜まれば動けなくなり、動けなくなれば負け認定される。

 火の場合は、熱さイコールダメージ、熱イコール疲労、ということだ。
 ややこしいけど、まあ……
 要は、あれに呑み込まれたら熱でやられて、ダウンしちゃう可能性が高いってこと。

 外からの衝撃には強くても、熱とか例えば毒とか、空気感染的なものには弱いみたいだな、身体強化。

「だったら……」

 波を避けるのも、やはり難しい。
 ならば取る手は、一つだ。

 私は、魔導の杖を構える。
 向ける先は、もちろん炎の波。

 魔力を、杖の先端に集中。
 あの炎の波を、止めるために、イメージするのは……

「……凍れ」

 私の言葉を合図に、杖の先端が光り……
 そこから、炎の波へ向けて、淡い光が放たれる。
 その光が、炎の波に触れた瞬間……


 パキィイイイン……


 耳に届く、瞬間的に激しい音……そして、周囲に漂う冷気。
 それもそのはず。

 激しい熱気を発していた炎の波は、その全てが、見事に凍っていたのだから。

「……な……」

 それを見たダルマ男は、驚愕に声を漏らした。
 自分の攻撃が凍らされた、あの激しい炎が見事に凍った、それほどの魔力の差……様々な、感情が渦巻いていることだろう。

 氷に包まれた、炎だった波……
 それは、まるで芸術品のよう。

 だけど、それに見惚れている暇などあるはずもなく。

「隙あり、だよ!」

「ぁ……!」

 私は、足への強化魔力をして、波を越えてダルマ男の眼前へ接近する。
 確かに、あの炎を止められたことに驚いてるんだろうけど……戦いの最中、隙を見せちゃいけない。
 加えて、凍った波が壁になって、私の動きを隠してくれていた。

 けれど、それじゃあまだ決闘の決着はついていない。
 勝敗をつけるには、相手に敗けを認めさせるか、戦闘不能にするか。

 ダルマ男の性格なら、降参するのは期待できない。
 なら、ちょっと気絶でもしてもらおう。
 大丈夫、結界内なら、たいしたダメージにはならないし。

 私は、全身に回していた魔力を、右拳へと一点集中させる。
 さすがに防御体勢を取ろうとするダルマ男だが、気づいた時点で遅い。

「たぁあああ!」

「そこまで!」

 振りかぶった右拳が、ダルマ男への顔面へと繰り出される……その瞬間、場内に響き渡る声。
 決闘の勝敗結果となるもう一つ、それは先生が止めた場合だ。

 つまり、この時点で決着がついた……と判断されたってことだ。
 ちょっと不服だけど、仕方ない。
 あとは、攻撃の手を止めるだけ。

 先生の合図により、私の右拳はダルマ男の眼前で、ピタッと止まる……
 ……なんて、都合のいい止め方ができるはずもなく。

「ぁ」

「ぶふぉおおおおお!!」

 止めようとした。止めようと努力をした私の右拳は、しかし止まることなく、そのまま振り抜いてしまう。
 結果として、決闘の勝敗がついたにも関わらず、ダルマ男の顔をぶっ飛ばしてしまうことになった。

 まるでボロクズのように、ダルマ男は吹っ飛んでいく。
 ビターンバチーンドゴーン……床に壁に、衝突する。
 すんごい音したなぁ。

 うわ。痛そう。

「あー……ごめんね」

「な、なにしとるんじゃー!」

 さすがに悪いと思った私は、謝る。けど、多分届いてないだろう。
 その場に、先生の怒号が響いた。

 結局、決闘の勝敗は私にはなったけど、先生から注意を受けた。

「私の合図があったのに、なぜダルマスを殴った?」

「いやぁ、あんなぎりぎりで言われても、反応出来ないって言うか……」

「だとしても、あんな全力で殴ることはないだろう」

「ダルマス様ー!」

 完全に伸びているダルマ男は、取り巻きたちに介抱されている。
 すごいや、あんな殴ったのに、ほとんど顔の形は変形していない。

 もしも、結界の効果が反映されてなかったと思うと、ゾッとするけど。

「まったく……
 この後教室に戻るつもりだったが、とりあえず誰かダルマスを保健室に連れて行ってやれ」

「あ、それなら私が……」

 さすがに、私に責任がないとも言えないので、そっと手を上げる。

「任せられるか! どうせ見てないところでまたぶん殴るつもりだろ!」

「もうしないよ!」

「……ダメージこそ抑えられているが、結界内で気絶するまで持っていくとは。
 それも、強化していたとはいえ素手で」

 私だって、節度はわきまえている。
 ダルマ男は気に入らないやつだけど、さすがに気絶している相手を、どうこうしようとは思わない。
 原因は、まあ私にもあるわけだし。

「なら、フィールド、責任もって運んでやれ」

「でも先生、エランちゃんは女の子……」

「たった今、その女の子が同い年の男を気絶するまでぶっ飛ばしたんだ。
 運ぶくらいたいしたことじゃないだろう」

 ……なんだろう、クラスメイトだけじゃなく、先生からも怪力女扱いされている気がする。
 いや、仕方ない部分はあるんだけどさ。

 ま、喧嘩両成敗ってわけじゃないけど……気絶させちゃった責任は、取らないとな。

「よっと。
 じゃ、いってきまーす」

「……あぁ」

 私は、ダルマ男を持ち上げ、肩に担ぐ形で歩き出す。
 はぁ、ちょっとした決闘が、なんでこんなことに。

 なんだか背中に、みんなの視線を感じる。
 そりゃ、あんなぶっ飛ばしちゃったからなぁ。

「男の子一人、軽々持ち上げてる……」

「あれ、身体強化使ってるのか?」

「いや、多分素だ」

 クラスメートたちの声が聞こえなくなるくらいまで離れた所で……私は気づいた。
 保健室って、どこだろう。

 その後、目的の保健室に行こうと、あっちこっち行っている間に、ダルマ男は目を覚ました。

「! てめ、なにして……離せ!」

「あ、ちょ、そんな暴れたら……」

「いてぇ!」

 私の上で暴れるダルマ男は、案の定落ちて地面に激突した。頭から。
 痛そう。

 保健室に行こうと勧めるも、本人は断固拒否し、教室へと戻っていく。
 仕方ないので、私も戻ることにした。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

公爵令嬢はアホ係から卒業する

依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」  婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。  そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。   いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?  何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。  エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。  彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。    *『小説家になろう』でも公開しています。

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

愛人がいらっしゃるようですし、私は故郷へ帰ります。

hana
恋愛
結婚三年目。 庭の木の下では、旦那と愛人が逢瀬を繰り広げていた。 私は二階の窓からそれを眺め、愛が冷めていくのを感じていた……

処理中です...