15 / 781
第一章 魔導学園入学編
15話 泣いている女の子
しおりを挟む座り込んでいる子……エルフと呼ばれた、女の子。
長い銀髪は地面に散らばり、褐色の肌は日焼けとはまた違った印象を受ける。
私の知っているエルフとは違う。
それとも、私が知らないだけで、エルフってああいう姿もいるの?
まあ……人間だって、同じ種族なのにこの数日でいろんな種類がいたしなぁ。
エルフもそういうものなのかも。
「お、お願いです!
私、この学園に入学したくて……」
「はっ、エルフにはその資格すらないって言ってんだよ」
あっ、のんびりと観察している場合じゃなかった。
あの男の子、やな感じだな……エルフ、エルフ、って。
誰か、人を……
いやいや、人を呼んでくるもなにも、今私絶賛迷い中だよ。
っていうか、これって"アレ"だよね……
「なあもう行こうぜ、こんなのに構ってたら俺たちまで遅れちまう」
「あー、そうだな。
おいエルフ、てめえはさっさと森にでも帰るんだな」
あ、行っちゃうんだ。
ちょっとむかついてたけど、あの子はやり返さないし……関係ない私が乱入してもなぁって思ってたから。
『いい?
入学試験日にいきなり騒ぎなんて、起こさないでよね』
『嫌だなぁ、クレアちゃん、私をなんだと思ってるのさあはははー』
『そうね……
家でお酒を飲んでたお客さんに絡まれたとき、好物のチーズを取られたからって相手を半殺しにした危ない奴、だと思ってるわ』
『そ、それは……
あのおじさんが、私のチーズ取るから……』
騒ぎを起こさないと、クレアちゃんとも約束したし。
もう終わってくれるなら、これ以上あの子がひどいことされることはないよね。
それにしても、初めて見ちゃったよ。
"アレ"が、話に聞いたことのある……
「っ……ひっく……」
「!」
その時……届くはずのない距離で、届くはずのない声が……すすり泣くような声が、聞こえた。
それは、あのエルフと呼ばれた子のもので……頬を、なにかきらりと光るものが、伝っていた。
「……ちょっと待てぇ!」
「あぁ?」
気づけば私は、その場から飛び出していた。
あー、なにやってるかな私。このまま嵐が過ぎ去るのを待てばいいものを。
……でも……
「その子、泣いてるじゃない!
それに、女の子を男三人がかりでなんて、恥ずかしくないの!?」
「……なんだお前は」
その女の子は……
彼女は、きょとんとした様子で、私を見上げていた。
……その目に、大量の涙を溜めて。
『エラン、人を悲しませるようなことをしてはいけないよ。相手の幸せを考えて、行動するんだ』
『えー。でも、誰かの幸せの裏には誰かの不幸がある、って本に書いてあったよ。
私が行動しても、誰かが不幸になるかもよ』
『……また変な知識を。
まあ、じゃあ、あれだ……目の前で悲しんでる子がいたら、手を貸してあげなさい』
ふと、師匠の言葉が、よみがえる。
悲しんでいる子……それが、きっとこの子。
「誰だ、知っているか?」
「いや、知らねえな」
「俺もだ」
「私は、エラン!
エラン・フィールドだ!」
「……誰だよ。てかなんだその髪の色」
初対面だというのに、いきなり険悪な雰囲気になってしまった。
まあ、起きてしまったことは仕方がない。
多分リーダーみたいな男の子は、私のことをじろじろ見てくる。
なにさ、目付き悪いしつんつんした髪型しちゃってさ。
あと太いまゆげして!
「私のことはいいの!
あなたたち、"アレ"でしょ……"いじめ"、ってやつでしょ!」
「あぁ?」
そう、これは話に聞いたことがある。
複数人で一人を囲って、暴言を投げつける……間違いない。
私は、びしっ、と、指をさす。
「なにが楽しくてこんなことしてるの!」
「楽しい……?」
「そう! だって楽しいからこんなことしてるんでしょ!」
私には理解できないけれど、楽しいからいじめってやつをやっているに、違いない。
その理由を、彼らに問う。
「……別にこれはいじめじゃねぇよ」
「え、そうなの?」
だけど、返ってきたのは予想外のものだった。
「これは、そうだな……教育的、指導ってやつだ」
「きょうい……んん?」
「よく見ろよそいつを、エルフだ。それも、ただのエルフじゃねぇ……ダークエルフだ。
汚らわしい……だから、教えてやったのさ。
この神聖なる学び舎に、お前のような奴はふさわしくないとな」
彼女は、エルフ……ダークエルフという、種族らしい。
ダーク、なるほど……だから褐色、というわけなのか?
思えば、金髪と銀髪、白い肌と褐色の肌。
私の知っているエルフと、対称的な見た目だ。
私も、一見エルフだとわからないかもしれない。
それでも、きれいな緑色に輝く瞳と、尖った耳が彼女をエルフだと教えてくれる。
それを、汚らわしいって……
こんなに綺麗な、銀髪なのに。
どうやら、エルフだからって理由でいじめられていたらしい。
だから、この子はフードを被っていたっぽいのか。被って耳を隠せるために。
それも脱げているけど。
「この子が、学園にふさわしくない?」
「そうさ。だから身の程をわきまえて……」
「ふさわしくないのは、三人で女の子をいじめる、あなたたちのことじゃない?」
「……なんだと?」
さっきまで余裕そうに喋っていた、つんつん赤髪男が表情を硬くする。
あれは……多分、怒ってるな。
私、なにか間違ったことを言っただろうか?
「お前、俺を知らないのか?
ダルマス家長男の、イザリ・ダルマスだぞ!」
「知らん。
なんだそのダルマの家ってのは」
自分のことを指さして、自信満々に叫ぶダルマ男だが……
残念ながら、私はそんな名前、聞いたこともない。
そんな私の返答が意外だったのか、ダルマ男や後ろの二人、さらにはダークエルフの少女まで驚いた様子で……
「なっ……は、はは。あはははは!
ダルマス家のことも知らない、ダークエルフのことも知らない。とんだ田舎者だな!」
「なにおぅ」
そりゃ、師匠の家があった場所は、辺境もいいところだし……
田舎と言われても、仕方ないかも、しれないけど。
「イザリ、放っておこうぜあんなの」
「あはは、あぁそうだな。
ダークエルフに田舎者、実にお似合いだ。
ここにいるってことは、お前も試験を受けるんだろうが……ま、せいぜいいい思い出になるよう、頑張れや」
「あ、おいこのやろ!」
男たちは、ケラケラと笑いながら去っていく。
くそぅ、謝らせるどころかなんか私までバカにされた!
あんなの、入学試験落ちてしまえばいいんだ!
「……えっと……」
騒がしい連中が去り、残されたのは私と……ダークエルフという種族らしい、女の子だけだ。
とりあえず、彼女を起こそうと、手を差し伸べる私であった。
20
お気に入りに追加
169
あなたにおすすめの小説
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~
サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――
またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。
朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。
婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。
だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。
リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。
「なろう」「カクヨム」に投稿しています。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる