1 / 676
第一章 魔導学園入学編
1話 師匠と弟子
しおりを挟む「おはようございます! 師匠!」
「……相変わらず朝から元気だな」
窓の外から、ちゅんちゅんと小鳥のさえずる声が聞こえる。
気持ちのいい朝だ。
カーテンの隙間から差し込む朝日に目を覚ました私は、軽く顔を洗って、その足で広間に。
椅子に座っている、男の人の背中……その背中に向かって、私は元気よく声をかけたのだ。
「エラン、いつも言っているだろう。
私は朝が弱いから、声は抑えてくれと」
「はい、すみません!」
「……」
男の人……私が師匠と呼ぶその人は、私の返事を受けてかなぜだかがっくりと肩を落とした。
私、なにかやっちゃっただろうか?
さて、起きた私がやることは、たくさんある。
まずは朝ご飯の準備、それに洗濯、お掃除。
てきぱきと、動かないと!
「エラン、家のことをやってくれるのはありがたいのだが……そう、張り切らないでもいいのだぞ?」
「いえ、師匠は私の恩人ですから!
返せることなら私、なんでもします!」
「いや、しかしだな……」
「それに師匠、放っておいたらすぐにお部屋汚しちゃいますから!」
「……」
あれ、また師匠が表情を暗くしている。
いやだなぁ、朝からそんな暗くっちゃ。
「ふんふんふふーん♪」
ここは、師匠……グレイシア・フィールドの家だ。
私はここに、居候をさせてもらっている身。
彼は私の師匠であると同時に、私の恩人でもある。
私の『エラン』という名前は、師匠が付けてくれたものだ。
というのも、私には記憶がない。自分の名前も、家族も、なにもわからないのだ。
師匠の話では、ある雨の日、道端に倒れていた私を保護してくれたのだという。
目覚めた私は、しかしそれ以前の記憶を失っていた。
当時、師匠はあらゆる手段を使って、私の家族を捜そうとしてくれたみたいだけど……手掛かりは、なし。
一時的な保護は、いつの間にかどんどん一時的ではなくなっていった。
私が拾われたのは、もう、十年も前の話だ。
「はい、できましたよ師匠!」
「ありがとうエラン。
…………これは?」
「昨日採れた、モンスターのお肉です!
ステーキ風にしてみました!」
「……朝から?」
「元気が出るでしょう!?」
ふんす、と私は、あまり大きくない胸を張る。
うぅ、これからだもんね……
私、料理には自信がある。
というか、師匠の家でお手伝いしているうちに、家事全般が得意になった。
逆に師匠は、家事は壊滅的だ。
なので、私がお世話しないといけないのだ。
「……エラン、作ってもらっておいてこう言うのは気が引けるのだが、朝からこれは重くないだろうか」
「大丈夫、私も同じ品ですから!」
「……なにが大丈夫なのかまったくわからない」
頭を抱える師匠、その正面に座る。
こうして向かい合って食事するのも、すっかり日常だ。
手を合わせ、食事を始める。うん、美味しい。
ふと、正面の師匠の顔が目に入る。
綺麗な顔してるよね……肌は白いし、サラサラの金髪。目は輝く緑色。師匠以外のエルフ族に会ったことはないけど、みんな耳尖ってるのかな。
「……どうした」
「いやぁ、師匠の髪綺麗な金髪だなーって」
「それを言うなら、エランの黒髪こそ珍しい」
「そうなんですか」
と、師匠が指摘した私の髪の色は、黒だ。
最近伸ばし始めたそれは、肩くらいの長さ。
曰く、エルフ族として長く生きてはいるが、私のような髪の色をした人間は見たことがないらしい。
師匠が私を拾ってくれたのも、もしかしたらそういった物珍しさがあったのかも……
「さて。
食事が済んだら、腹ごなしも兼ねて魔導の訓練といこう」
「ホントですか!? やったー!」
食事の準備の最中に、軽く洗濯や掃除はやっちゃったし。
魔導の訓練ともなれば、急がないわけにはいかない!
「はむっ!」
「おいおい、そんなに急いだら喉に……」
「んぐ! んっ……」
「……言わんこっちゃない」
食べ物を喉に詰まらせ私は胸を叩く。
や、やってしまった……!
ほら、と手渡された水を受け取り、それを勢いよく飲み干していく。
「んぐ、んぐ……ぷはぁ!
あ、ありがとうございます」
「別に訓練は逃げない。
落ち着いて食べなさい」
「う、はい」
師匠に、恥ずかしいところを見せてしまった。不覚だよ……
その後、言われた通りに落ち着いて、食事を再開する。
自分で作っておいてなんだけど、かなりの出来だと思う。
食事の間の会話は、だいたい私から話しかけ、師匠がそれに答えるというもの。
師匠は基本無口……というわけでもないのだけれど。
以前その件について聞いたら、私が騒がしいから自分から喋らなくて楽、とのことらしい。
「ふぅ、ごちそうさま!」
「ごちそうさま。美味しかったよ、エラン」
「えへへー」
無表情で黙々と食べていたが、見事に完食。わかりにくいその表情も、見慣れてしまえば逆に愛嬌があるというものだ。
自分でも美味しいが、やっぱり人に美味しいと言ってもらえると数段嬉しい。
もう、師匠の胃袋は掴んだも同然だね!
その後食器を片づけて……
いよいよ、魔導訓練へと移る。
「杖は持ったか、エラン」
「はい!」
外に出て、私は一見木の枝にしか見えないそれを見せつける。
しかし、木の枝とは似ても似つかないものだ。
これは魔導の杖……魔導を使うために、必要なものだ。
それを見て、師匠は満足げにうなずく。
私が、師匠を恩人ではなく師匠と呼ぶ理由……それは、私にとって魔導の師匠だからだ。
20
お気に入りに追加
157
あなたにおすすめの小説
【R18】らぶえっち短編集
おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
調べたら残り2作品ありました、本日投稿しますので、お待ちくださいませ(3/31)
R18執筆1年目の時に書いた短編完結作品23本のうち商業作品をのぞく約20作品を短編集としてまとめることにしました。
※R18に※
※毎日投稿21時~24時頃、1作品ずつ。
※R18短編3作品目「追放されし奴隷の聖女は、王位簒奪者に溺愛される」からの投稿になります。
※処女作「清廉なる巫女は、竜の欲望の贄となる」2作品目「堕ちていく竜の聖女は、年下皇太子に奪われる」は商業化したため、読みたい場合はムーンライトノベルズにどうぞよろしくお願いいたします。
※これまでに投稿してきた短編は非公開になりますので、どうぞご了承くださいませ。
秘密多め令嬢の自由でデンジャラスな生活〜魔力0、超虚弱体質、たまに白い獣で大冒険して、溺愛されてる話
嵐華子
ファンタジー
【旧題】秘密の多い魔力0令嬢の自由ライフ。
【あらすじ】
イケメン魔術師一家の超虚弱体質養女は史上3人目の魔力0人間。
しかし本人はもちろん、通称、魔王と悪魔兄弟(義理家族達)は気にしない。
ついでに魔王と悪魔兄弟は王子達への雷撃も、国王と宰相の頭を燃やしても、凍らせても気にしない。
そんな一家はむしろ互いに愛情過多。
あてられた周りだけ食傷気味。
「でも魔力0だから魔法が使えないって誰が決めたの?」
なんて養女は言う。
今の所、魔法を使った事ないんですけどね。
ただし時々白い獣になって何かしらやらかしている模様。
僕呼びも含めて養女には色々秘密があるけど、令嬢の成長と共に少しずつ明らかになっていく。
一家の望みは表舞台に出る事なく家族でスローライフ……無理じゃないだろうか。
生活にも困らず、むしろ養女はやりたい事をやりたいように、自由に生きているだけで懐が潤いまくり、慰謝料も魔王達がガッポリ回収しては手渡すからか、懐は潤っている。
でもスローなライフは無理っぽい。
__そんなお話。
※お気に入り登録、コメント、その他色々ありがとうございます。
※他サイトでも掲載中。
※1話1600〜2000文字くらいの、下スクロールでサクサク読めるように句読点改行しています。
※主人公は溺愛されまくりですが、一部を除いて恋愛要素は今のところ無い模様。
※サブも含めてタイトルのセンスは壊滅的にありません(自分的にしっくりくるまでちょくちょく変更すると思います)。
さようなら竜生、こんにちは人生
永島ひろあき
ファンタジー
最強最古の竜が、あまりにも長く生き過ぎた為に生きる事に飽き、自分を討伐しに来た勇者たちに討たれて死んだ。
竜はそのまま冥府で永劫の眠りにつくはずであったが、気づいた時、人間の赤子へと生まれ変わっていた。
竜から人間に生まれ変わり、生きる事への活力を取り戻した竜は、人間として生きてゆくことを選ぶ。
辺境の農民の子供として生を受けた竜は、魂の有する莫大な力を隠して生きてきたが、のちにラミアの少女、黒薔薇の妖精との出会いを経て魔法の力を見いだされて魔法学院へと入学する。
かつて竜であったその人間は、魔法学院で過ごす日々の中、美しく強い学友達やかつての友である大地母神や吸血鬼の女王、龍の女皇達との出会いを経て生きる事の喜びと幸福を知ってゆく。
※お陰様をもちまして2015年3月に書籍化いたしました。書籍化該当箇所はダイジェストと差し替えております。
このダイジェスト化は書籍の出版をしてくださっているアルファポリスさんとの契約に基づくものです。ご容赦のほど、よろしくお願い申し上げます。
※2016年9月より、ハーメルン様でも合わせて投稿させていただいております。
※2019年10月28日、完結いたしました。ありがとうございました!
茶番には付き合っていられません
わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。
婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。
これではまるで私の方が邪魔者だ。
苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。
どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。
彼が何をしたいのかさっぱり分からない。
もうこんな茶番に付き合っていられない。
そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。
前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています
矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜
――『偽聖女を処刑しろっ!』
民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。
何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。
人々の歓声に包まれながら私は処刑された。
そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。
――持たなければ、失うこともない。
だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。
『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』
基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。
※この作品の設定は架空のものです。
※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。
※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)
今さら、私に構わないでください
ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。
彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。
愛し合う二人の前では私は悪役。
幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。
しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……?
タイトル変更しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる