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ヒジリとコロネ

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「流石は腕利きのレンジャーだ。まだ十代半ばなのに、この霧の立ち込める森の中から人の痕跡を見つけるとはな」

 モリ森に微かに残る人の足跡をしゃがんで見つけては少しずつ先へ進むコロネをヒジリは称賛した。

「だって9歳の頃からドォスンと冒険してたしな。覚えてる?私がドォスンとドラゴンの洞窟に行ってトロールの指輪をはめたら呪いの効果でトロールになって帰ってきた時の事」

「ああ、あれかね・・・(私の世界では起きていない出来事だな。取りあえず話を合わせておこう)」

「ドラゴンの毒で瀕死になったドォスンをトロールになった私が担いで帰ってきたらさ、ゴデの街の皆はトロールが来たって大騒ぎしてたろ。で、私はスカーにボコボコにされるんだけど、トロールだからすぐに傷が回復しちゃうんだ。言葉も通じないし困ってたらヒジリがすぐに私だと見抜いてくれて助かった」

「あ、ああ。そうだったな」

 成長したコロネはサヴェリフェ姉妹の中でもフランに似ている。フランの妖艶さを無くしたらコロネになる。小さかった彼女は今やフラン並みに背が高い。百六十センチはあるだろうか。地走り族の中ではかなりの長身である。

 しゃがんで影人の痕跡を探す彼女の昔話を聞きながら、ヒジリはついついコロネの平坦な胸に目がいってしまう。

 スカウト系職業がよく着ているレザースーツの胸元が大きく開いているからだ。

「私、あの時ほんとヒジリがいてくれて良かったって思ったんだ。ヒジリが私に触れただけで呪いが解けた時はもう嬉しくてさー・・・・。ってさっきからどこ見てるんだ?いやらしいな・・・」

 コロネは胸元を押さえてイグナのようなジト目でこちらをみる。

「服の胸を開きすぎじゃないかね・・・。しゃがむたびに胸元が見える」

「誰が貧乳だ!」

「いや、そんな事は言っていないが」

「どうせさ、巨乳姉妹の中で何でコロネだけが貧乳なんだ?って考えているんだろ!」

「思ってはいないと言えば嘘になる。君も気にしているのなら胸のボタンを留めればいいだろう」

「いやだね。レザースーツの僅かな弛みで少しでも胸を大きく見せたいんだよ!」

「なんとも涙ぐましい努力だな」

 ヒジリは何かを思いだしたのか、亜空間ポケットから小さなスライムのようなものを出す。

「なんだそれ」

「胸パッドだ。つけると自動的に胸の色や質感を再現してくれる」

「何でそんなもん持ってんだ?」

「私は色んな物を収集する癖があってね。コロネと同じくガラクタ収集者なのだ。さぁ付けてみたまえ」

 コロネは向こうを向いて胸をはだけるとプルプルとする胸パッドを付けた。

「わぁ!凄い!胸にピッタリとフィットして落ちないぞ!しかも本物みたいだ!」

「ちょっとやそっとでは取れないが、あまり激しく動くと取れるから気を付けたまえよ」

「うん、ありがとうヒジリ!」

 コロネは自慢げに胸元を開いて嬉しそうに飛び跳ねる。そのたびに胸がプルンプルンとするのが嬉しいようだ。

 気が済むとコロネはまた足跡をたどり始めた。

「この茂みの先に足跡は消えてる」

「ほう、では行ってみよう」

 ヒジリは茂みを掻き分けて道を作り先を歩く。

 茂みが無くなると霧はより一層深くなり、その先に目指す村の影がうっすらと見えてきた。

「あれか」

「でも影人に何の用があるんだ?イグナお姉ちゃんはナンベルのおっちゃんと影人の遺跡行った事があるみたいだけど、村があったなんて知らなかったなぁ」

「(ほう、この世界のイグナは影人と接触があるのか)総督府の特別資料室に、貴族から押収したマジックアイテムの所有者が解る魔法の本(違法品)があるのだが、その本に私の欲しい物が乗っていたのでね。それに一週間滞在しているだけで影人たちはレアアイテムをくれるらしい。マサヨシがそう言っていた」

「はぁ?マサヨシ?随分と懐かしい名前だな。ヒジリはマサヨシとは仲が悪いと思ってたけど」

「そうだったかな・・・。(そうなのか。ここでは私はマサヨシと仲が悪いのだな)」

 マサヨシとは仲がいいので、コロネの話に戸惑っていると村の入り口に影人が霧の中から現れた。

「ようこそ、旅人」



 マサヨシに聞いていた通り、影人はとても友好的だった。彼らが世界中から集めて守る宝物を盗もうと考えさえしなければ敵対する事はない。

 村のあちこちから集まってきては、どこから来たのかや種族は何だ等と話しかけてくる。彼らは外の世界の者との時間の共有を好む。それは彼らにとっては喜びでありご馳走であり快楽でもある。

 村長に案内されて客の為に常に綺麗にしてある館へと来た。大きな館は後ろからぞろぞろとついて来る影人達を全員入れても狭苦しくない。

 テーブルに着くと直ぐに紅茶が差し出された。

「何十年ぶりでしょうか、ここに旅人がやって来るのは。さぁミルクティーをどうぞ」

 ヒジリやコロネが紅茶を飲むと、影が立体的になったような影人達が感嘆の声を上げる。

「ああ、美味しい!久しぶりの紅茶の味!」

「甘くて円やかなミルクティー!」

 コロネは怪訝そうに影人達を見る。

「なんなんだ?」

 村長は恥ずかしそうに頭を掻き、多分笑った。顔が陰で見えないので多分なのだ。

「これはお恥ずかしい。我らは時間を共有した者の感覚も共有します。あなた方が紅茶を飲んだので私たちも美味しいと感じたのです」

「自分で紅茶を飲めばいいだろ」

「できたならそうします。我々は厳密にはこの世界の住人ではないのでこの世界の生き物のような体の構造をしておりません。本体は別世界にあります」

「よくわからないや。変なの。他に食べてほしい物とかあれば食べてやるぞ」

 ヒジリはフフッと笑う。

「君が食べたいだけだろう。すまないがコロネのお腹を満たすものを用意してやってくれないか?金なら払う」

「お金を貰うなんてとんでもない。寧ろ払いたいぐらいですよ。今すぐ食事の用意をします」

 影人達はザワザワとして喜んでいるように見える。

「食べ物を味わえるなんて!」

「鬼イノシシの焼き肉がいい!」

「私はクリームシチューがいいな」

 影人達は自分の食べたいものを料理係らしき影人に注文しだした。

「これ!お前たち!はしたない!まずはお客様の食べたい物を聞いてからだ!」



 コロネがゲフーとゲップすると影人達もお腹を摩って満足そうにしている。

 小食のヒジリはシチューを少しと丸パンを食べただけだが、コロネは出てくる料理を次々と平らげてしまった。

「よく味覚が無いのに料理が作れるな」

 コロネは最後に水を飲んでコップを置いた。

 影人の村長はハハと笑ってそれに答える。

「レシピ通り作れば誰でも美味しいものが作れますので」

「私なんてレシピ通り作っても不味くなるけど」

「それはコロネがレシピ通りに作ってないからだろう。絶対に余計な物を足しているはずだ」

 ヒジリの指摘が図星だったコロネはウッと言葉に詰まる。

 確かにレシピをパッと見て最終的に感覚で料理してしまうからだ。で、あれこれ足している内に不味くなる。

「素晴らしい歓迎で目的を忘れていたが、この村に来たわけを話していいかね?]

 ヒジリは区切りの良いところで話を切り出した。

「勿論ですとも。マジックアイテムですかな?おおよその旅人はそれが目的ですから」

「話が早い。忘却のかんざしが欲しいのだ。装備した者が一番忘れたい出来事を忘れる事が出来るというマジックアイテム」

「ほう?そんなものでいいのですか?我らが所有するマジックアイテムの中では一番ランクの低いアイテムですよ?」

「ああ、それでいい。その分、コロネに何か良い物をやってくれ。コロネは何が欲しい?」

「ん~、そうだな~。私はたまに宝箱の罠の解除をミスってお宝を台無しにしちゃうんだけどさ、あの悔しさを無くすアイテムがあれば欲しい」

「ん~、悔しい感覚を無くすアイテムはありませんが・・・。持ち主が何か失敗した場合その代償として金の卵を生み出すアヒルの置物ならあります。失敗が大きければ大きいほど、生み出される卵の数が増えます。ちょっとした失敗なら砂金程度ですが」

「あ、それ欲しい!金が出るなら悔しさも薄れるかもな」

「これもランクの低いアイテムなのですが良いのですか?一度村から出るともう二度とここへ戻ることはできませんよ?」

「いいよ、それで。ランクの高いアイテムって何?」

「時間に関するものが多いですかね。非常に強力な物なので使うと壊れてしまいますが」

「じゃあ要らないや。アヒルでいい」

「解りました。ではもうお疲れでしょうからお部屋に案内しましょう」

 ヒジリ達は二階の一室に案内された。部屋には天幕の付いた大きなベッドが一つあるだけだった。

「ではごゆっくり。明日は村の中を散歩してみてはどうでしょうか?年中花の咲き乱れる美しい丘や綺麗な湧き水の出る池などがあります」

 ヒジリは何で相部屋なのか気になったが、きっとまともな部屋がここしかないのだろうと勝手に納得した。

 普段は洞察力の鋭いコロネもどうでもいい事は気にしない性格なので部屋に入るなり、ドラゴンの角のようにそびえ立つ三つ編みを解いて髪を降ろすと用意されていたローブに着替えて備え付けの風呂に入ってしまった。

 ヒジリはプシューと音をさせてパワードスーツの背中を開く。

 蝉の抜け殻から出てくる蝉の成虫ようにパワードスーツから出るとローブに着替えてベッドに寝転び、ぼんやりとする。

 するとコロネのドラ声が聞こえてきた。

「このおっぱい最高だぞ、ヒジリ。お湯に濡れても取れない」

 コロネが頭をタオルで拭きながら風呂場からローブ姿で現れた。

「早いな。もう出たのかね。烏の行水だな」

「ちゃんと洗ってるからいいだろ」

「本当かね、匂ってみるぞ?」

 ヒジリはベッドから立ち上がるとのコロネに近づく。コロネはそれが冗談だと解っているが顔を赤らめる。

「やめろ、バカ。私も一応女なんだからな」

「私の中ではまだまだ鼻くそを穿ってた頃の君なのだがね」

「ガキンチョの頃の話だろ、それ」

 コロネがヒジリの尻を叩くとドアの外からヒソヒソ声が聞こえてきた。

 ヒジリもコロネも耳が良いのですぐにそれに気が付き、暫く耳を澄ませてドアの外の影人の会話を聞く事にした。

「まだかな・・・」

「そろそろじゃない?」

「あの二人は夫婦か恋人だよな?」

「そうだと思うわ。親しい感じだったし」

「百年前に来た夫婦みたいに激しいといいな」

「そうね。私あの感覚大好きよ。フワッとなって何も考えられなく感じ」

 何のことか解ったコロネは顔を真っ赤にした。

「もしかして私たちの事を恋人だと思ったのかな?だから一緒の部屋に案内したんだ!」

「どうやらそうみたいだな。外の影人達は私たちの生殖行為を期待している」

「ばばばばば、ばっかじゃなかろうか!」

「ハハハ、全くだ」

 ヒジリはドアを開くと影人達に言う。

「私たちはそういう関係ではない。期待するだけ無駄だぞ」

 影人達は蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。

「しかし、彼らが何の事を話していたのかよく解ったな、コロネ。もしかしてもう恋人がいてそういう事をしているのかね?」

「キャハハ!いないよ、そんな人!私ぐらいの年頃になれば誰でもそういう話は知ってるって」

「そうかね。そういえば君は妙にヤイバに優しいな。もしかして彼が熟すのを待っているのではないだろうね?」

 ヒジリは自分の世界でコロネがヤイバにメロメロだったのを知っている。自由騎士セイバーを名乗ってやって来た彼が桃色城にいる間はずっと一緒にいたように思う。

「はぁ?な、何の事?何言ってんの?死ねば?私疲れたし、もう寝るわ」

 図星だったのか、コロネは動揺するとベッドに寝転んで向こうを向いて寝てしまった。

(この世界でもコロネはヤイバが好き、と・・・)

 ヒジリは密かに心の中のコロネノートにそう書きこんで目を閉じた。
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