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オークション

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 神聖国モティの資本で成り立つ、傀儡の国ポルロンド。

 パトロンが収入源を失った事により、混乱しているかと思いきや、首都のポルロンド・ポルロンドは通常通りだった。

「以外じゃのう、ヒジリ」

「ポルロンドは既にモティに依存していなかったという事か。首相のガイメツは中々の商売人だな。流石は地走り族といったところか」

 シュラスはヒジリの肩の上で足をブラブラとさせている。

 女になったヒジリは肩幅が狭くなっているので、いつかシュラスが落ちるのではないかと気が気でない。

「あんまり足をブラブラさせると落ちるぞ、シュラス王よ」

「お前やウメボシが受け止めてくれるのじゃろ?心配はしてはおらん」

 シュラス王は久しぶりの自由に嬉しそうだ。傍から見ると樹族の少女が奴隷オーガの肩に乗っているようにしかみえない。

「さて、どこで性転換の実は売っているのかね?ベンキ」

 ヒジリはそっと自分の尻を触ろうとするスカーの手を叩いてベンキに尋ねた。

「偽物を掴まされたくないならオークションが一番だな。店売りのを買ってその場で確かめて効果がなかった場合、しらばっくれる奴等ばかりだからな。正直言ってゴブリンの商売人より性質が悪い」

「まるで前に来たことがあるような言い方だな」

「ああ、闘技場に特別ゲストとして砦の戦士が招かれた事がある。ここは光側の中でも闇側を許容する国だ。勿論公にそう言っているわけではない」

「ほう?初耳だ。知っていたかね?シュラス王」

「まぁな。ベンキが言う通りポルロンドは建前上は奴隷以外の闇側の入国を認めてはおらんが、街中を堂々とゴブリンの商人が歩いておっても誰も驚きはせんじゃろう。何か他国から言われたら奴隷がただ街を歩いているだけだと言い張るからな」

「道理で我々を見ても誰も驚かないわけだ」

 建物が永遠に続くのではないかと思える大都会ポルロンドでオーガを見て足を止める者はいない。たまにこちらを見るのは大抵スカーやベンキの筋肉やヒジリの美貌に見惚れる者ばかりであった。

「さて、では用事を済ませさっさと帰ろう」

「案外簡単に用事は済みそうじゃな。残念」

 シュラスはもっとハプニングを期待していたが、至って穏やかなこの旅に少ししょげて足をブラブラさせるのを止めた。



 オークションハウスの出し物を受付で確認すると比較的低額のオークションで売られている事が解った。

「高額ではあるがそこまで高くはないのだな」

「王様の感覚で言えばそうだろうな」

 砦の戦士も大金を稼いでいるがそれでも高く感じるのだ。ヒジリに関してはまだまだ金銭感覚があやふやなのである。

 一同はオークション会場に案内されて、滞りなく性転換の実を落札する。

「ライバルがいなくてラッキーだったな。ヒジリ、さっそく齧ってみろよ」

「それがいいです、マスター!直ぐに食べてください!」

 ウメボシが興奮したように言うのでヒジリは後先考えずに齧った。少しずつ体に負荷がかからない程度にゴワゴワと筋肉が膨れ上がり骨も太くなる。

「ふむ、気持ちの悪い変態の仕方だな。それに体力の消耗が激しい」

 ヒジリはロビーの椅子に座って休む。十分ほどすると元の男のヒジリに戻った。

「うわっ!変態オーガ!」

 ロビーにいた他の客が騒ぎ出す。それもそのはずで黒のワンピースを着た筋肉粒々のオーガがそこにいるからだ。

 誰もそれが現人神ヒジリだとは思わない。きっとそっくりな偽者だと思っている。

「むぅ!蒸着!」

 ヒジリは馬車の中に置いてきたパワードスーツをカプリコンに転送してもらいワンピースの上から装着した。恥ずかしかったのかヘルメットも付けている。

「シュラス王はこの実を今すぐ食べない方が良いな。ゆっくりと休める場所を確保してから食べた方が良い。体力の消耗が激しいのでね」

「そうか~。まぁこの体も気に入っておるし、帰ってからでもいいわい。それにしてもあっさりと目的達成できたのぅ・・・」

「時間もあるし、他のオークションも見てみるかね?」

「そうじゃな」

 ヒジリは残っているオーク初品のリストを見てある一行に目が留まった。

「元聖女だと?聖女を奴隷で売り出すのかね?」

「馬鹿な!騎士修道会が黙っておらんぞ!何でそんな事になった?」

 近くにいた関係者に聞くと、現人神ヒジリがモティの宗教に関するあらゆる権限を剥奪したため、元々神の聖なる奴隷であった聖女は本当の奴隷になってしまった、というのだ。

「しかし、聖女はモティの関係者ではないじゃろ。聖騎士任命の為に騎士修道会から派遣されているに過ぎん。つまりモティの件とは関係ないのだ。本来ならば樹族国に帰還させねばならんのに!おのれ・・・。宗教の権利を剥奪された腹いせにこんな嫌がらせをするとは許せんわい!」

 シュラスは小さな足で地面を蹴り、顔を真っ赤にして怒った。

「なぁ、ヒジリ。聖女さんを助けようぜ。褒美がたんまり出るかもしれねぇ」

「残念ながら騎士修道会に金はないぞ。彼らは金を持つと直ぐに貧しい物への施しに使うからな」

「なにぃ?馬鹿なんじゃねぇの?ドォスンみたいな奴だな!」

 お人好しのドォスンも金を持つと貧民に分け与えてしまう。コロネと冒険して得た魔法のアイテムをドォスンが金に換えているところを見たスカーが酒を奢ってもらおうと後を付けると、彼はゴデの街に夢見てやって来た貧しい移民に物資援助を個人的にしていたのだ。

「まぁでも助ければ、名声は上がるだろうし光側でも有名になるかもな。何よりも聖女のキスを貰えるかもしれんぞ」

「キスか・・・。へへへ、悪くねぇ。よし助けよう!」

 シュラスはスカーに教えようか迷ったが黙った。聖女はシワシワの老女なのだ。

「しかし何故誰も信者は暴動を起こさないのだ?聖女がオークションにだされているのだぞ?」

「そりゃさっきの関係者が言った通りだからじゃよ。一般人はモティの宗教関係者が神によって破門されたと認識しておる。で、聖女が騎士修道会所属か神聖国モティ所属かなんて知らないからの」

「仮面の姉妹達もこの事は知らんだろうな。知っていたらこの場に来て猛抗議しているはずだ」

「取りあえず、オークションまで待とう。会場に聖女が現れたら壇上に上がって確保だ」

「了解」
 


 薄暗い会場の中で光魔法によるスポットライトが聖女に当たった。両手両足を枷で拘束されて口には猿轡を噛まされている。

「なんたる屈辱じゃ・・・」

 膝の上のシュラスは今にも立ち上がって抗議しそうだったのでヒジリが制止する。

「待ちたまえ。どんな客が彼女を欲しがるのか見てからにしよう」

「見る必要もないわい。彼女は素質のある者の聖騎士の力を引き出す能力があるのじゃぞ!その能力は代々引き継がれる。そんな重要人物を欲しがらない国があるか。あちこちに見知った顔がおるわ」

 シュラスが薄暗い中でヒジリのカチューシャ型スコープを借りて見回している。会場の中には各国の宗教関係者や大臣などの顔があった。因みに会場の中で魔法を使うのはご法度だ。

「落札させてから、シュラス陛下がその国に返せと言ったらどうだ?」

 ベンキがシュラスに聞く。

「残念ながらオークションは盗品だろうがなんだろうが関係はないんじゃ。売買が成立したらならば、我が国は買った国と直接交渉しなければならない。まず聖女を手放そうとはしないじゃろうし、交渉に応じてくれても莫大な金を請求されるかもしれん」

「そんな事より、聖女って婆さんじゃね?ベールとかローブで顔や体が隠れてあんまり見えないけどよ」

 スカーが何度も首を伸ばして見るので、その度に後ろの地走り族が同じ様に首を伸ばして聖女を見る。結構な段差を設けて椅子を設置してあるが、それでもオーガは大きいので前が見づらいのだ。

「今はそんな事どうでもいいじゃろうが。そろそろ壇上へ行くべきじゃぞ、ヒジリ」

「了解した。ウメボシ、念のため皆にフォースシールドを頼む」

「はい」

 壇上の競り人が威勢よく声を挙げる。

「では金貨一千五百枚からスタートします!はい、一千六百枚!」

 次々と値が上がっていく中でヒジリはシュラスを抱えたまま跳躍するとくるりと一回転して壇上に着地した。すぐにスカーとベンキが制止しようとする関係者を跳ね飛ばして壇上に駆けあがって来る。

「やぁ諸君。私はヒジランドの王ヒジリだ」

 会場がザワザワする。ヘルメットを被ったオーガの素顔は見えない。

「おっと、顔を見せるのを忘れていた」

 ヒジリの顔からヘルメットが消えると、そこには誰もが魔法水晶で見た現人神の顔があった。

「本物か?」

「偽物だろう、警備の者はどうした?」

 ヒジリは手をあげて黙って聞けと合図を出した。

「私はモティの宗教権限を撤廃させたが、騎士修道会所属の聖女の宗教的立場や権限を無くしたつもりはない。昨日の今日の話なので国が混乱している間に彼女を拘束して売りにだそうとモティはしたのだろうが、それを許容する事は出来ないな。悪いがこの競りは無かった事にしてもらう。いいな?」

「ほっほっほ、貴方が本物であるという証拠は?」

 壇上の袖幕から白いローブを着た老人が付き添いの者に支えられながら現れた。

 シュラスが身を見開いて驚いた。

「法王・・・・いや、元法皇フローレス!」
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