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腐肉の宴3

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「なんじゃと?!」

 応接間にヴャーンズ皇帝の驚いた声が響く。

「ヒジランドを徘徊するアンデッドごと蘇生するだと?」

「ああ、選別するのは面倒なのでね」

 ヴャーンズが驚いているのは、国民と絶望平野のアンデッドを区別せずに蘇らせるという話だけではなかった。

「いや、驚いているのはそこではない。これはある意味、神聖国モティに喧嘩を売っているようなもんじゃ」

「なぜ主権国家である我が国に他国が口出しをするのかね?」

「ヒジリ王は宗教に疎いようだな。神聖国モティは世界の宗教利権を握っている。闇側には専門的なヒーラーがいないのであまり関わる事が無いが、光側の僧侶などが回復した時に発生するギャラは最終的にモティに流れ着く」

「何故そんな独占的な国に誰も怒らないのかね?」

「法王がおるからじゃ。ワシらは認めてはおらんが、法王はあらゆる神の僕であり宗教家たちを導く指導者だと自称しておる。で、それを信じてしまう間抜けが世界には多いという事じゃ」

「つまり神聖国モティは私が勝手に蘇生やら回復をする事が気に入らない、金を払えと?」

「そういう事じゃな。ヒジリ王は度々暗殺者に狙われているそうじゃないか。樹族国の商人ギルドの価格操作を邪魔ばかりしているから狙われているとか」

「ああ。帝国の情報収集力も中々だな。それが?」

「果たしてそれが商人ギルド単独の行動かどうかは怪しいものだよ。お主が星のオーガだと気づいた者は早い段階でいただろう。光側に悪と見なされている神の存在がはっきりと確認された今、樹族の神を一番に信仰している者にとってオーガの神とその信仰は邪魔でしかない」

 ヴャーンズは冷めて丁度良い温度になった紅茶を一気に飲んでからまた話し始めた。

「サカモト神の復活と神の国への帰還の話は光側でも急速に広まっている。悪の神なのに復活して世界征服に乗り出さなかった事に疑問に思う者も多い。自分たちの教えられた歴史は間違っていたのではないかと疑う光側の者も出始めた。しかも光側でもサカモト神を崇める者が増えているそうじゃ」

「私の狙ったとおりになった」

「しかしその代償はヒジリ王、お主の命じゃろうて。モティは本気でお主を潰しにかかるだろうな。サカモト神と同じ種族のお主は次期オーガの神候補じゃ。現人神が存在などすれば、あらゆる神の僕と謳っている法王は悪の神に頭を下げて従わなければならなくなるからな」

「なに、向かってくるのならば全力で叩き潰すだけだ」

「フハハ!エクセレント!ヒジリ王ならそう言うと思った。パブリーよ、お主はモティに対してどういう立場をとる?スイーツは一応光側であろう」

「我が国はあらゆる種族がいますし、基本的に鎖国していましたのでモティとは縁がありません。静観させていただきます」

「まぁそうじゃろうな」

 話の最中、ヒジリの目にソワソワするリツやヘカティニスが映る。彼女たちの焦りを見てヒジリはのんびりと話をしている場合ではなかった事に気づかされる。

「そうだ!急がねば!これより広範囲の蘇生を行う!そこで女王にお願いがあるのだが。蘇生から漏れた者の居場所を水晶で教えてもらえると助かる。可能ですかな?」

「ええ、勿論」

「よし!フランとマサヨシは蘇生から漏れたゾンビを倒してただの死体にしてくれ」

 マサヨシがフヒヒと笑いながらヒジリに近づいてきた。

「報酬は出るのでつか?」

 手を揉みながら笑うマサヨシにヴャーンズは自分の横に浮く魔法の杖で軽く小突いた。

「馬鹿もん、ヒジリ王に協力しろ。これも給料の内だ」

「ちぇー!」

 ヒジリは二人のやり取りにフフフと笑って立ち上がった。

「死体にしたら、なるべく国境近くから引き離し国の内側まで運んでくる事。ドォスンとヘカティニスとリツはフランと。マサヨシはイグナと主殿とダンティラスと組んでくれ。私が合図をしたら、パブリー女王は残ったゾンビの居場所を調べ、ヴャーンズ皇帝は転移の魔法で皆を転送してくれたまえ」

 全員が頷くのを確認して、ヒジリは玄関から出るとヘルメスブーツで空中に浮いた。



 ゾンビが蠢くゴデの街の十メートルほど上でヒジリ王が浮いているのを、避難している人々は目にする。

 高い建物は街はずれにあるマンションと元貴族街の屋敷だけなので空中に浮くヒジリは目立つ。

 両手を広げて浮く彼に灰色の雲の隙間から光が差していた。

「王が何かをするみたいだぞ!」

 桃色城の裏庭で炊き出しの雑炊を食べていたオーガが空を指さすと、巡礼に来ていた樹族や地走り族がそれを見る。

 ヒジリが両手を広げてから数秒後、街のあちこちで無数の光の柱が立った。

「うわぁ!こ、これは!なんという神々しさか!祈りの奇跡か?外はどうなってる?」

「自分で見ど」

 オーガは地走り族の僧侶を肩車して塀の外を覗かせた。

「や、やったぞ!ゾンビが死んでいる!ゾンビが死んでいるってのもおかしな言い方だが・・・。奇跡だ!ヒジリ王が大規模な奇跡を行った!」

「うちの王はすごいだど?」

 オーガは自分の事のように自慢げに言って鼻の下を擦った。

 樹族の巡礼者たちは睨み付けてくるゴブリンの避難民達を警戒しつつも、今の出来事について語り始めた。

「もしかしたらヒジリ王は神を助けた時に神から力を授かったのではないか?」

「あり得る」

「いや、元々あった力ではないか?噂では彼も星のオーガだと聞く。そう考えれば、エルダーリッチを追い返したり、人類には討伐不可能な悪魔達を倒した事に説明が付く」

「よ、よーし!私は明日から星のオーガを信仰するぞ!」

 それを聞いていたオーガがガハハと笑って樹族の背中を叩いた。

「それは賢い選択だ。ようこそ兄弟!」

「ゲホヒッ!ハハッ!ありがとう兄弟」




 手を広げてカプリコンがゾンビを一掃していく様を見てヒジリは呟く。

「ふむ、希薄なサカモト粒子の混じった光だけでゾンビが死体に戻っていく。マナ粒子と中和しているのだな」

 同じく宙に浮くウメボシはヒジリに囁いた。

「マスター、もっと背筋を伸ばして!顔もアニメハンテル×ハンテルのOVAヨークスゥイン編のエンディングに出てくるキュラピカのような慈愛と悲しみに満ちた顔でお願いします」

「難しい注文だな。果たして私に出来るかな?」

 ヒジリは眉を八の字にして、顔全体が蕩け落ちそうな表情を作る。

「違います!そうじゃありません!それじゃ!ウホッ!いい男とか言われちゃいますよ!」

「うるさいな!大体、街から十メートル上に浮いている私の表情を誰が見るというのかね!この演出は本当に必要か?」

「必要ですよ。見てください、あそこの家の屋根で避難している奇妙な仮面をつけた樹族の騎士三人を!」

 ウメボシはホログラムのカーソルを使ってこちらを見ている騎士を丸く囲んだ。

「魔法水晶をこちらに向けています。恐らく視察に来た宗教関係者でしょう。ここはマスターを神だと思わせた方が後々各国との交渉に役立つかもしれませんから、演出は大事なのです!」

「なるほど、モティ包囲網を作り易くなるというわけか」

「そうです」

「そういう事なら仕方がない。ではとくと見よ!至高なる神の顔芸を!」

 ヒジリは顔の前で腕をクロスさせ全身全霊を込めて、アニメの登場人物であるキュラピカの顔そっくりに表情を作った。

 顔前でクロスさせた腕を解き、気合を込めて作り上げたキュラピカの顔を披露したその時、偶然にも雲が晴れて太陽が街を照らす。太陽はヒジリの背中で光り、見上げる者により神々しい印象を与えた。

 仮面の騎士たちも雲を追い払い太陽を出したのはヒジリ王のしたことだと勘違いする。

「見たか、姉者」

 怒りの表情を半円形の穴だけで表現するシンプルな仮面を被る女騎士は姉に今起きた出来事を確認する。

「ええ、見ましたとも。あれらは神の御業に間違いありません」

 不気味な笑顔の仮面を被る女騎士は上品な言葉遣いでそれに答える。

「しかも最後に変な顔をしたら、アンデッドが嫌う陽光まで出てきたよ!」

 幼い口調の泣き顔の面を被る女騎士は、暖かい日の光に喜ぶ。

 騎士たちが星のオーガの力に畏怖して両手を合わせて拝んでいると、その神が叫んだ。

「よし!これより、残りのゾンビを一掃する。作戦を実行してくれ!」
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