上 下
49 / 373

ロケート団のクローネ

しおりを挟む
「待った!」

 ネコキャットは、クローネがいる部屋の手前で何かに気が付く。

「罠だ、動くな」

 ウメボシにデュプリケイトして出してもらったレイピアで床を突っつくと、何もなかった床にフラフープのような大きな輪っかが現れた。その輪の中を覗くと、真っ赤な溶岩が煮えたぎっている。

「いったいどうやって溶岩のある洞窟の天井に、この罠を仕掛けたんだよ。たくっ」

 そう言ってネコキャットは輪っかをレイピアで突き刺して壊すと、転移床は消えてしまった。

「流石はネコキャットねぇ。その程度の罠じゃ簡単だったかしら。それから、ようこそ自由騎士様。どうぞお入りなって下さいな」

 部屋の中から気怠い声が聞こえてくる。

 ヒジリが部屋に一歩踏み込むとネコキャットが大声をで喚いた。

「しまった! 部屋の中にも罠が!」

 しかし、ヒジリが転移罠自体を踏んでいたようで作動はしなかった。

「お! 流石は魔法無効化のオーガ様だな! でも罠の中に足を踏み入れてたら、きっとやばかったぞ」

 ネコキャットは額の汗を拭いて、ヒューと息を吐く。

「罠自体は魔法で隠されていないのか。床の微妙な凹凸でネコキャットは察知しているのだな? 次からはウメボシにも警戒させよう」
 
 ウメボシに目配せするヒジリの後頭部を、いきなりクローネのしなりの利いた蹴りが襲う。

 しかしフォースシールドで簡単に蹴りを弾いてしまう。

「チッ! 化物が!」

 悪態をついてクローネは部屋の真ん中まで飛び退った。

 ヒジリはちらりと猫人の女を見て、理解できないという顔をする。

「なんだ? 彼女はいきなり間合いを詰めてきたように見えたが」

 セイバーが大盾で床を擦りながら部屋へ勢い良く入ってきた。そうすることで罠の有無を確認しているのだ。

「クローネは恐らく時間操作系の能力持ちかと! これは厄介ですよ!」

 狭い部屋でセイバーは大盾に身を隠し、壁を背にして立つ。

「そう、このクローネ様を相手にしたの運の尽き。例え自由騎士様でも、私の攻撃を避けることは不可能!」

 いつの間にか脇に立つクローネが、ビームダガーでセイバーの腿当ての覆っていない部分を抉っていた。部屋中に肉の焼ける匂いが漂う。

「うぐっ! いつの間に!」

 大盾がクローネを薙ぎ払おうとしたが、既に彼女は部屋の真ん中に戻っていた。

「おや? ノームの強力な武器でも、自由騎士様の脚は斬れなかったねぇ。残念! でも怖いだろう? 防御が出来ないってのは!」

 ビームダガーは一度限りなのか、柄の部分だけになったのでクローネは投げ捨てた。

「まぁいい。お前らが泣きながら許しを請うまで痛めつけてやる。で、血塗れになったお前たちは、外の冒険者どもに言うのさ。ミャロス達を解放しろとな」

 エリムスに透明になる魔法をかけてもらっていたフランは、すぐにセイバーの近くまで走り寄り、回復の祈りで傷を癒そうとした。

 しかし、移動以外の行動を取ると【透明化】の魔法は解けてしまうのでフランの姿が顕になる。

「おや? 可愛いヒーラーさんだこと。ヒーラーを真っ先に叩くのは戦いの定石! 悪いが痛い目見てもらうよ? お嬢ちゃん!」

「えっ?」

 驚くフランの顔が固まった。時は緩やかに流れ、クローネ以外の動きが緩慢になる。

 自分の能力に絶対の自信を持つクローネは、鋭い爪でフランの腕を狙い、ニヤリと笑った。

 が、どこからか真面目そうな女性の声が聞こえてくる。

「ウメボシ☆ビーム!」

 皆の動きが止まる中、いつの間にか部屋の奥にいたウメボシだけは動いている。

 彼女の光る一つ目からバシュっと音がして、クローネの腕が弾け飛んだ。

「チィ!」

「マスターも皆と同じように時間が止まっているという事は、貴方の能力は魔法ではない何かなのでしょう。ですが、どうやら一つだけ弱点があるようですね。貴方の能力は効果範囲が狭い。精々二メートル以内といったところです」

 クローネはだからどうしたという顔をして今度はウメボシを襲った。鋭いネコ科の爪がイービルアイの一番の弱点である目を狙う。

「ヒジリ☆サンダー!」

「ギャッ!」

 バリバリと音を立てて電撃がクローネの背中を襲った。

 動体視力と瞬間的な把握能力に長けるヒジリは、時が流れてすぐに現状を理解し、クローネの背中へと電撃を放ったのだ。

 グローブから放たれた雷流は、背中から腕に伝ってクローネの残っていた二の腕を小さく爆発させた。

「機械の腕・・・」

 ヒジリは彼女の肩から伸びるチューブを見てそう呟いた。

 胴体は生身なのか火傷を負って気を失い、うつ伏せで倒れるクローネをウメボシは静かに見つめる。

「便利な能力があるというのに、どうして最初から前線に出てきて戦わないのでしょう? 狭い部屋で待ち構えていた事を考えると、能力の範囲が限られているとウメボシは予想しました。更に長時間、時を緩やかにする事も出来ないのではと考えて、セイバー様には悪いのですが、攻撃を受けている間の緩やかな時間を録画再生して観察し、結論を出しました」

「流石はウメボシだな。緩やかな時間の中では、我々には何も見えていないのも同じ。しっかりと録画していたとは素晴らしい」

 主に褒められてウメボシは頬を赤くして目を伏せた。

「後でたっぷりとウメボシを撫でてくださいまし、マスター」

「うむ、いいとも。どうやら冒険者たちも勝ったようだ。外から勝利の雄叫びが聞こえてくる」

 セイバーも外から聞こえてくる冒険者たちの声を聞いて微笑んだ。それから大盾を壁に立てかけて、フランに脚を差し出した。

「フランさ・・・フランの最初の回復の祈りの相手が僕だなんて。光栄だな」

 フランは顔を赤くしてセイバーの裏腿に手をかざした。

「光栄だなんて・・・。痛くなぁい?」

「ああ、大丈夫だよ。(うう、十二歳のフランさんは可愛い過ぎる。未来のフランさんも綺麗だけど、オバサンだからな)」
 
「うう、十二歳のフランさんは可愛い過ぎる・・・」

 イグナがセイバーの心を読んだのか、彼の心の声を棒読みしだした。

「ちょっと!イグナさ・・・イグナ! 【読心】は止めてください!」

 セイバーはフルヘルムを被っている事を神に感謝した。そうでなければ耳まで真っ赤だった事が皆にバレただろう。

(息苦しいフルヘルムも時には役に立つ)

 セイバーが染み染みとそう思っていると、突然ウメボシがヒジリを下から光を照らした。

 すると、ヒジリの顔に迫力が増う。どこか脅しているような無表情がセイバーを睨む。

 それからヒジリはヘルメスブーツで五十センチだけ浮くと、セイバーの肩に手を置いた。メキョッと鎧が凹む。

「君は常識あるオーガだから間違いは無いとは思うが、フランはまだ十二歳であることを忘れないでもらおう」

(ヒ、ヒエッ! 僕の強化魔法金の鎧が・・・・)

「解っていますよ、とう・・・ヒジリさん。自分で言うのもなんですが、僕ほど自制心のあるオーガはそうそういません」

「ならいいのだ」

 品格と実力がなければなれない自由騎士がそういうのだからと安心し、ヒジリはスッと地面に立つ。

 フランは好意を寄せてくれるセイバーの腿に手をかざしてモジモジしながらも、回復効果が異常な事に気がついた。

「凄い! この回復力は、私の祈りの効果だけじゃないわぁ。セイバーさん自体の治癒能力が高いのね」

 普通であれば回復しても暫くは傷口は開きやすく、激しく動くとまた血が吹き出したりするが、セイバーの傷はもう完璧に治っていた。

「それでもフランのお陰ですよ。ありがとうフラン!」

 ヒジリと結婚すると宣言したフランだったが、ヒジリを上回る魅力を持つセイバーに心奪われそうになっていた。指先をちょんちょんと合わせて照れる。

「ど、どういたしましてぇ」

 イグナがジト目で姉を見ていた。わざとジーーーと声に出してフランを見つめている。

「お姉ちゃんは気が多い。ヒジリも好き、セイバーも好き」

「イグナ!」

 むくれるフランを見て皆が笑う中、エリムスはワンドをクローネに向けていた。
 
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【R18】異世界なら彼女の母親とラブラブでもいいよね!

SoftCareer
ファンタジー
幼なじみの彼女の母親と二人っきりで、期せずして異世界に飛ばされてしまった主人公が、 帰還の方法を模索しながら、その母親や異世界の人達との絆を深めていくというストーリーです。 性的描写のガイドラインに抵触してカクヨムから、R-18のミッドナイトノベルズに引っ越して、 お陰様で好評をいただきましたので、こちらにもお世話になれればとやって参りました。 (こちらとミッドナイトノベルズでの同時掲載です)

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

お持ち帰り召喚士磯貝〜なんでも持ち運び出来る【転移】スキルで異世界つまみ食い生活〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。 勇者としての役割、与えられた力。 クラスメイトに協力的なお姫様。 しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。 突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。 そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。 なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ! ──王城ごと。 王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された! そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。 何故元の世界に帰ってきてしまったのか? そして何故か使えない魔法。 どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。 それを他所に内心あわてている生徒が一人。 それこそが磯貝章だった。 「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」 目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。 幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。 もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。 そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。 当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。 日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。 「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」 ──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。 序章まで一挙公開。 翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。 序章 異世界転移【9/2〜】 一章 異世界クラセリア【9/3〜】 二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】 三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】 四章 新生活は異世界で【9/10〜】 五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】 六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】 七章 探索! 並行世界【9/19〜】 95部で第一部完とさせて貰ってます。 ※9/24日まで毎日投稿されます。 ※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。 おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。 勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。 ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。

処理中です...