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人修羅の三杯酢
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結局、俺達はナンベル孤児院までルビちゃんを連れて戻ってきた。
ナンベルさんは、ルビちゃんが怯えているのを見て事態を察し、応接間で迎え入れてくれて、紅茶を出してくれた。
事の経緯をビャクヤから聞いたホクベルさんは、妊娠中の奥さんを気にして、慌てて孤児院を飛び出していった。
「消えてしまった竜騎士の二人には、なんと言って良いのやら・・・。申し訳ないという気持ちでいっぱいです」
いつも戯けているナンベルさんだったが、ルビを守って犠牲となったマター夫婦を思って悔しそうにしていた。
「あまりッ! 気にしないで下さいッ! お祖父・・・。ナンベル殿ッ! マギンが消えてッ! 母上・・・。ゲフンッ! ルビちゃんがッ! 狙われる事はもうないでしょうッ!」
まぁ確かに狙われることはなくなったな。でも、お前らは世界を破壊しかけていたんだぞ、と心の中で付け加えておく。
「しかしだネ、ビャクヤ殿。小生が不甲斐ないばかりに、君にもオビオ君にも迷惑をかけてしまった。何かお返しをさせて下さい・・・」
ナンベルさんの申し出に、ビャクヤは仮面の顎の部分を、指先で軽く叩いて何かを考えている。
「ではッ! 運命に縛られてもおらずッ! 強大過ぎる力で世界に影響を与えることもないッ! 可能性の塊であるオビオ君にッ! 何かマジックアイテムをプレゼントしてあげて下さいッ!」
なんで? なんで俺?
「彼はこれより、試練に立ち向かいますッ! その助けとなるマジックアイテムを頂けると、吾輩はッ! とても喜びまんもすッ!」
そうだった。マナの大穴に行かないとな。今は陰の中に潜んでいるキリマルの、突き刺すような視線をひしひしと感じる。きっと早く行けと思っているのだろう。
「でしたら、これをあげましょう」
ナンベルさんは、うぐいす色の全身タイツのあちこちをゴソゴソと探り、股間から指輪を取り出した。
なんて所から出してんだよ!
「はいコレ。これね、奥さん。なんと付魔師の指輪!」
誰が奥さんだ。奥さんになるのはサーカだよ! おっと、惚気けてしまったかな? ウフフ。
「でも、俺はサポジョブが付魔師ですよ?」
しかも、付魔師の実力値は22もある。只でさえ、料理に能力向上や回復効果があるのに、再生まで付くんだぞ? うちのパーティが強い理由がこれなんだわ。(イキリ顔)
「でもオビオ君、貴方は本職ではないでしょう? だから効果にバラツキがあるはずです。これはそれを均してくれる指輪なんですヨ」
まじで? それはありがたい。
「いいんですか?」
そう言いつつも、俺は貰う気満々で、手を出し指輪を受け取った。上位鑑定の指輪の効果で情報が流れ込んでくる。付魔した料理やアイテムの効果の最低値をプラス2!
付魔をして力の上がり方が最低1だった物が3になるって事だ。この恩恵は大きい! これでトウスさんは、パワータイプの人外に力負けしなくなる。
「ありがとうございます!」
俺は嬉しくなって、ナンベルさんにお辞儀した。そして顔を上げると、ナンベルさんは困惑顔だった。
「道化師の前で、首を差し出してお辞儀するのは自殺行為ですヨ・・・」
あ、そうだった。ナンベルさんは上位暗殺者だったんだ。道化師の性なのか、ナンベルさんはダガーを無意識に抜いて、振り下ろそうとしていたのをなんとか抑えていた。
あぶねぇ・・・。本来なら殺されていても文句を言えないな。
「で、オビオ君ッ! 目的は解っていますねッ?」
ビャクヤがシルクハットを頭の上で回転させてから、俺を指差した。
「しおりを取りに行くんだろ?」
ビャクヤの意図を汲めない鈍い俺の脇を、サーカが肘で突っついた。
「しおりを取りに行くのは当然だ。我々の目的は、しおりに竜騎士二人分の名前を書き込めるかも見極める事。天才魔法使い殿と例の悪魔殿は、子孫の行く末を殊更気にしているようだからな。もし書き込む余裕がない場合は、ウィングかメリィの姉、或いはその両方を諦めなければならない」
そうか・・・。そうしないと世界は破壊される。俺たちの肩には世界の行く末がかかっている。そして、しおりを手に入れても残酷な選択肢を迫られる。いや、選択肢などない。それでも・・・。
「俺は信じるぞ。皆が蘇るってな!」
ニカっとサーカに笑って見せる。勿論、カラ元気だ。
「とはいえ、まだ先は長ぇぞ、オビオ。上手くしおりを手に入れても、今度は魔筆に会いに行き、あのクソ女を説得しなけりゃならねぇ」
ビャクヤの陰から、キリマルの声が聞こえてきた。
「え? キリマルが説得してくれるんじゃないのか?」
「馬鹿野郎。前にも言っただろ。魔筆は二十一世紀の地球にいる。俺様は地球にいると狂ってしまうんよ。あそこはマナが少なすぎるんだわ。長く滞在すれば、俺様の存在自体、そのうち消える。だからお前らに任せているんだ。わかったか? 可能性の塊」
貶しているのか褒めているのか、どっちよ? てか、魔筆が二十一世紀にいるって話なんかしたっけ?
「わ、わかってるよ」
それにしても、おっかねぇな。キリマルの声を聞いただけでも鳥肌が立つわ。さっきまで、この理不尽なまでに強い悪魔と戦っていたんだよな・・・。
「じゃあ、俺とサーカはメンバー集めて、マナの大穴に向かうから」
俺はビャクヤに手を振って、背中を向けると、その背中に悪魔の急かす声が聞こえてくる。
「ああ、行け。すぐ行け。やれ行け。走って行け」
くそ、いつか強くなって、人修羅の三杯酢漬け作ってやるからな。
ナンベルさんは、ルビちゃんが怯えているのを見て事態を察し、応接間で迎え入れてくれて、紅茶を出してくれた。
事の経緯をビャクヤから聞いたホクベルさんは、妊娠中の奥さんを気にして、慌てて孤児院を飛び出していった。
「消えてしまった竜騎士の二人には、なんと言って良いのやら・・・。申し訳ないという気持ちでいっぱいです」
いつも戯けているナンベルさんだったが、ルビを守って犠牲となったマター夫婦を思って悔しそうにしていた。
「あまりッ! 気にしないで下さいッ! お祖父・・・。ナンベル殿ッ! マギンが消えてッ! 母上・・・。ゲフンッ! ルビちゃんがッ! 狙われる事はもうないでしょうッ!」
まぁ確かに狙われることはなくなったな。でも、お前らは世界を破壊しかけていたんだぞ、と心の中で付け加えておく。
「しかしだネ、ビャクヤ殿。小生が不甲斐ないばかりに、君にもオビオ君にも迷惑をかけてしまった。何かお返しをさせて下さい・・・」
ナンベルさんの申し出に、ビャクヤは仮面の顎の部分を、指先で軽く叩いて何かを考えている。
「ではッ! 運命に縛られてもおらずッ! 強大過ぎる力で世界に影響を与えることもないッ! 可能性の塊であるオビオ君にッ! 何かマジックアイテムをプレゼントしてあげて下さいッ!」
なんで? なんで俺?
「彼はこれより、試練に立ち向かいますッ! その助けとなるマジックアイテムを頂けると、吾輩はッ! とても喜びまんもすッ!」
そうだった。マナの大穴に行かないとな。今は陰の中に潜んでいるキリマルの、突き刺すような視線をひしひしと感じる。きっと早く行けと思っているのだろう。
「でしたら、これをあげましょう」
ナンベルさんは、うぐいす色の全身タイツのあちこちをゴソゴソと探り、股間から指輪を取り出した。
なんて所から出してんだよ!
「はいコレ。これね、奥さん。なんと付魔師の指輪!」
誰が奥さんだ。奥さんになるのはサーカだよ! おっと、惚気けてしまったかな? ウフフ。
「でも、俺はサポジョブが付魔師ですよ?」
しかも、付魔師の実力値は22もある。只でさえ、料理に能力向上や回復効果があるのに、再生まで付くんだぞ? うちのパーティが強い理由がこれなんだわ。(イキリ顔)
「でもオビオ君、貴方は本職ではないでしょう? だから効果にバラツキがあるはずです。これはそれを均してくれる指輪なんですヨ」
まじで? それはありがたい。
「いいんですか?」
そう言いつつも、俺は貰う気満々で、手を出し指輪を受け取った。上位鑑定の指輪の効果で情報が流れ込んでくる。付魔した料理やアイテムの効果の最低値をプラス2!
付魔をして力の上がり方が最低1だった物が3になるって事だ。この恩恵は大きい! これでトウスさんは、パワータイプの人外に力負けしなくなる。
「ありがとうございます!」
俺は嬉しくなって、ナンベルさんにお辞儀した。そして顔を上げると、ナンベルさんは困惑顔だった。
「道化師の前で、首を差し出してお辞儀するのは自殺行為ですヨ・・・」
あ、そうだった。ナンベルさんは上位暗殺者だったんだ。道化師の性なのか、ナンベルさんはダガーを無意識に抜いて、振り下ろそうとしていたのをなんとか抑えていた。
あぶねぇ・・・。本来なら殺されていても文句を言えないな。
「で、オビオ君ッ! 目的は解っていますねッ?」
ビャクヤがシルクハットを頭の上で回転させてから、俺を指差した。
「しおりを取りに行くんだろ?」
ビャクヤの意図を汲めない鈍い俺の脇を、サーカが肘で突っついた。
「しおりを取りに行くのは当然だ。我々の目的は、しおりに竜騎士二人分の名前を書き込めるかも見極める事。天才魔法使い殿と例の悪魔殿は、子孫の行く末を殊更気にしているようだからな。もし書き込む余裕がない場合は、ウィングかメリィの姉、或いはその両方を諦めなければならない」
そうか・・・。そうしないと世界は破壊される。俺たちの肩には世界の行く末がかかっている。そして、しおりを手に入れても残酷な選択肢を迫られる。いや、選択肢などない。それでも・・・。
「俺は信じるぞ。皆が蘇るってな!」
ニカっとサーカに笑って見せる。勿論、カラ元気だ。
「とはいえ、まだ先は長ぇぞ、オビオ。上手くしおりを手に入れても、今度は魔筆に会いに行き、あのクソ女を説得しなけりゃならねぇ」
ビャクヤの陰から、キリマルの声が聞こえてきた。
「え? キリマルが説得してくれるんじゃないのか?」
「馬鹿野郎。前にも言っただろ。魔筆は二十一世紀の地球にいる。俺様は地球にいると狂ってしまうんよ。あそこはマナが少なすぎるんだわ。長く滞在すれば、俺様の存在自体、そのうち消える。だからお前らに任せているんだ。わかったか? 可能性の塊」
貶しているのか褒めているのか、どっちよ? てか、魔筆が二十一世紀にいるって話なんかしたっけ?
「わ、わかってるよ」
それにしても、おっかねぇな。キリマルの声を聞いただけでも鳥肌が立つわ。さっきまで、この理不尽なまでに強い悪魔と戦っていたんだよな・・・。
「じゃあ、俺とサーカはメンバー集めて、マナの大穴に向かうから」
俺はビャクヤに手を振って、背中を向けると、その背中に悪魔の急かす声が聞こえてくる。
「ああ、行け。すぐ行け。やれ行け。走って行け」
くそ、いつか強くなって、人修羅の三杯酢漬け作ってやるからな。
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