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ケジメをつけに
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部屋に入ると、キリマルが不機嫌そうにして、魔刀を鞘から出したりしまったりを繰り返していた。
「チッ! ようやっと来たか。おせぇぞ!」
名無し村で戦った時の姿をするキリマルは、トラウマを呼び起こして鳥肌を立てさせたが、人修羅最終形態の時よりは全然マシだった。
「まぁ、そう怒るなよ」
俺は亜空間ポケットから、どら焼きと緑茶の茶葉を出していそいそと、三時のおやつの準備をした。
「おほ! どら焼き!」
コロッと機嫌の直った悪魔が、どら焼きに手を出そうとしたが、その手をすぐに引っ込めた。
「あぶねぇあぶねぇ。どら焼きは緑茶があってこそ、至高の味になるんだ。お茶はまだか?」
ドロンと音がして、アマリが現れる。
「どうして?」
そう問われてキリマルは「ククク」と笑って腕を組む。
「まず喉を湿らす為に、緑茶を飲むだろ? そうしたらどんな味がする? アマリ」
「ちょっと苦味があるけど、心が落ち着く味がする」
「そう。まだ苦味が口の中に残っている時に、甘いどら焼きを食べるとどうだ?」
「甘みが引き立って美味しい」
「正解。だから俺はオビオのお茶を待ってんだ」
「キリマル、賢い」
なんだ、そのバガー兄弟みたいな会話は。賢くもクソもねぇだろ。そういえば、あのオークの暗殺者兄弟は、今も自由騎士を探しているのだろうか?
「はい、緑茶。どら焼きは沢山作ったから、たらふく食べてもいいぞ」
部屋の中央にある小さなテーブルに、緑茶を二つ置くと、俺は椅子に座って天井をぼんやりと見た。ちょっと特訓で疲れたわ。二人はモシャモシャとどら焼きを食べて、お茶を啜るのに忙しそうだ。
あれ? そういやビャクヤがいないな。
「ビャクヤは?」
「もごもごも」
なるほどね。ってわかるか! ドクター・キリコみたいな悪人顔で、ほっぺたをいっぱいにしても可愛くねぇよ!
「ナンベル・ウィンに会いに行った」
流石はキリマルのパートナーであるアマリちゃん。翻訳ありがたい。
「ああ、そうか。ビャクヤはナンベルさんの親戚かなんかだったんだっけ?」
同じウィン家だもんな。
「そうだけど、違う。ビャクヤはナンベルの孫」
「は? じゃあ、ビャクヤは未来人じゃん。過去から来たとかいう話はなんだったの?」
「話すとややこしいから気にするな。俺様も色んな世界や時代に飛ばされた身だからな。この間、自伝でも書こうと思ったら、飛ばされた先の地名や時代がわからなくて、諦めた程だ」
ギョクリとどら焼きを飲み込んでから、キリマルはそう言ってお茶をガブガブ飲んだ。
珍妙な人生を歩んできたんだなぁ。何をどうしたら時間や世界を飛び越えられるんだろうか?
いや、やろうと思ったら四十一世紀の地球人でもやれるだろうが、膨大なエネルギーを集めるのに、BPが大量に必要だし、体調管理もインフラに頼りっぱなしの地球人が、異世界や過去に飛んだりしたら、すぐに死ぬだろうな。
俺はナチュラル寄りだし、ナノマシンやサブAIが補正してくれるから平気だけど、そうじゃないタイプの人は長くは生きられない。最近は全てをインフラに頼るタイプの地球人が、主流になってきているから尚更。
「じゃあ、お祖父ちゃんに会いに行ったわけか。でもナンベルさんは、まだ生まれてもいないビャクヤの事を、孫だとは思わないだろ?」
「それは、まぁそうだろうな。どら焼きのお礼に、ちょっとぐらいは教えてやるか。ヒジリが世界をゴチャ混ぜにする前、ビャクヤはツィガル帝国の皇帝の孫だったんだ」
「え? つまりナンベルさんが皇帝だったって事?」
「そうだ。そういう世界線だったんだわ。で、ナンベルはビャクヤのチート級の才能を見抜いていて、とても期待していた。自分の跡継ぎは、ビャクヤしかいないとな。ビャクヤもお祖父ちゃん子で、歩けなくなったナンベルの車椅子を押して、よく散歩に出掛けていたんだ」
確か、ツィガル帝国って世襲制じゃないよな。皇帝とタイマンして勝った者が、次の皇帝になるシステムだったはず。足腰が弱ってても、皇帝であり続けたナンベルさんって強過ぎじゃね?
「だが、その散歩の途中でナンベルは静かに逝ってしまった。ビャクヤはああ見えて、甘ったれのお坊ちゃまだからよぉ、妻が支えていないと心が脆くてな。悲しみのあまり混乱して、走り回って、誰かが開いた召喚ゲートに、現実逃避して逃げ込んでしまった。その召喚者が後に妻になるリンネだったってわけだ。ニムゲイン王国に住む、人間の魔法使いの。今はアーマーメイジだけどもよ」
「えぇ? ビャクヤは飄々としてて、いつもお道化てるのに、以外な過去の持ち主なんだなぁ」
それに比べたら、俺は・・・。何も背負ってねぇわ。暗い過去とかないな・・・。道理でキリマルにモブと言われちゃうわけだ。
「でも、いきなり会いに行ったら不審がられるだろうなぁ。下手したら殺されるんじゃないの? ナンベルさんって、敵対者には容赦なさそうだし、対人戦闘じゃ無敵でしょ?」
地下墓地でナンベルさんに出会った時は良い人だったけど、旅するうちに彼の噂は耳に届くようになった。
戦士と面と向かって戦える暗殺者。砦の戦士達もナンベルさんとの戦いは避ける。樹族との戦争でも、計略で侯爵らの騎士団に壊滅的なダメージを与えて、休戦状態にまでもっていった軍師という側面も持つ。
「殺されるかもな」
「じゃあ、なんでキリマルは、一緒についていってやらなかったんだ?」
「ビャクヤが決着をつけるべき、ケジメだからだ。寿命で死んだナンベルを置き去りにした事に対するケジメをな」
「ケジメって・・・。主が死ぬかもしれねぇんだろ? なんでそんなに落ち着いていられるんだ? 俺、ちょっと心配だからビャクヤんとこ行ってくる!」
「まぁ行くのは構わんが、あいつの邪魔だけはしてくれるなよ。ナンベル孤児院は、ヒジリが立てたマンションの横の丘の上にある。それから明日は大穴に行けよ。疲れて行く気力がありませんとか抜かしやがったら、爪で殺すからな」
爪で殺すって、復活させないって事だよな? くそ、ちょっと強いからってイキリやがって。イキリ丸め。
「チッ! ようやっと来たか。おせぇぞ!」
名無し村で戦った時の姿をするキリマルは、トラウマを呼び起こして鳥肌を立てさせたが、人修羅最終形態の時よりは全然マシだった。
「まぁ、そう怒るなよ」
俺は亜空間ポケットから、どら焼きと緑茶の茶葉を出していそいそと、三時のおやつの準備をした。
「おほ! どら焼き!」
コロッと機嫌の直った悪魔が、どら焼きに手を出そうとしたが、その手をすぐに引っ込めた。
「あぶねぇあぶねぇ。どら焼きは緑茶があってこそ、至高の味になるんだ。お茶はまだか?」
ドロンと音がして、アマリが現れる。
「どうして?」
そう問われてキリマルは「ククク」と笑って腕を組む。
「まず喉を湿らす為に、緑茶を飲むだろ? そうしたらどんな味がする? アマリ」
「ちょっと苦味があるけど、心が落ち着く味がする」
「そう。まだ苦味が口の中に残っている時に、甘いどら焼きを食べるとどうだ?」
「甘みが引き立って美味しい」
「正解。だから俺はオビオのお茶を待ってんだ」
「キリマル、賢い」
なんだ、そのバガー兄弟みたいな会話は。賢くもクソもねぇだろ。そういえば、あのオークの暗殺者兄弟は、今も自由騎士を探しているのだろうか?
「はい、緑茶。どら焼きは沢山作ったから、たらふく食べてもいいぞ」
部屋の中央にある小さなテーブルに、緑茶を二つ置くと、俺は椅子に座って天井をぼんやりと見た。ちょっと特訓で疲れたわ。二人はモシャモシャとどら焼きを食べて、お茶を啜るのに忙しそうだ。
あれ? そういやビャクヤがいないな。
「ビャクヤは?」
「もごもごも」
なるほどね。ってわかるか! ドクター・キリコみたいな悪人顔で、ほっぺたをいっぱいにしても可愛くねぇよ!
「ナンベル・ウィンに会いに行った」
流石はキリマルのパートナーであるアマリちゃん。翻訳ありがたい。
「ああ、そうか。ビャクヤはナンベルさんの親戚かなんかだったんだっけ?」
同じウィン家だもんな。
「そうだけど、違う。ビャクヤはナンベルの孫」
「は? じゃあ、ビャクヤは未来人じゃん。過去から来たとかいう話はなんだったの?」
「話すとややこしいから気にするな。俺様も色んな世界や時代に飛ばされた身だからな。この間、自伝でも書こうと思ったら、飛ばされた先の地名や時代がわからなくて、諦めた程だ」
ギョクリとどら焼きを飲み込んでから、キリマルはそう言ってお茶をガブガブ飲んだ。
珍妙な人生を歩んできたんだなぁ。何をどうしたら時間や世界を飛び越えられるんだろうか?
いや、やろうと思ったら四十一世紀の地球人でもやれるだろうが、膨大なエネルギーを集めるのに、BPが大量に必要だし、体調管理もインフラに頼りっぱなしの地球人が、異世界や過去に飛んだりしたら、すぐに死ぬだろうな。
俺はナチュラル寄りだし、ナノマシンやサブAIが補正してくれるから平気だけど、そうじゃないタイプの人は長くは生きられない。最近は全てをインフラに頼るタイプの地球人が、主流になってきているから尚更。
「じゃあ、お祖父ちゃんに会いに行ったわけか。でもナンベルさんは、まだ生まれてもいないビャクヤの事を、孫だとは思わないだろ?」
「それは、まぁそうだろうな。どら焼きのお礼に、ちょっとぐらいは教えてやるか。ヒジリが世界をゴチャ混ぜにする前、ビャクヤはツィガル帝国の皇帝の孫だったんだ」
「え? つまりナンベルさんが皇帝だったって事?」
「そうだ。そういう世界線だったんだわ。で、ナンベルはビャクヤのチート級の才能を見抜いていて、とても期待していた。自分の跡継ぎは、ビャクヤしかいないとな。ビャクヤもお祖父ちゃん子で、歩けなくなったナンベルの車椅子を押して、よく散歩に出掛けていたんだ」
確か、ツィガル帝国って世襲制じゃないよな。皇帝とタイマンして勝った者が、次の皇帝になるシステムだったはず。足腰が弱ってても、皇帝であり続けたナンベルさんって強過ぎじゃね?
「だが、その散歩の途中でナンベルは静かに逝ってしまった。ビャクヤはああ見えて、甘ったれのお坊ちゃまだからよぉ、妻が支えていないと心が脆くてな。悲しみのあまり混乱して、走り回って、誰かが開いた召喚ゲートに、現実逃避して逃げ込んでしまった。その召喚者が後に妻になるリンネだったってわけだ。ニムゲイン王国に住む、人間の魔法使いの。今はアーマーメイジだけどもよ」
「えぇ? ビャクヤは飄々としてて、いつもお道化てるのに、以外な過去の持ち主なんだなぁ」
それに比べたら、俺は・・・。何も背負ってねぇわ。暗い過去とかないな・・・。道理でキリマルにモブと言われちゃうわけだ。
「でも、いきなり会いに行ったら不審がられるだろうなぁ。下手したら殺されるんじゃないの? ナンベルさんって、敵対者には容赦なさそうだし、対人戦闘じゃ無敵でしょ?」
地下墓地でナンベルさんに出会った時は良い人だったけど、旅するうちに彼の噂は耳に届くようになった。
戦士と面と向かって戦える暗殺者。砦の戦士達もナンベルさんとの戦いは避ける。樹族との戦争でも、計略で侯爵らの騎士団に壊滅的なダメージを与えて、休戦状態にまでもっていった軍師という側面も持つ。
「殺されるかもな」
「じゃあ、なんでキリマルは、一緒についていってやらなかったんだ?」
「ビャクヤが決着をつけるべき、ケジメだからだ。寿命で死んだナンベルを置き去りにした事に対するケジメをな」
「ケジメって・・・。主が死ぬかもしれねぇんだろ? なんでそんなに落ち着いていられるんだ? 俺、ちょっと心配だからビャクヤんとこ行ってくる!」
「まぁ行くのは構わんが、あいつの邪魔だけはしてくれるなよ。ナンベル孤児院は、ヒジリが立てたマンションの横の丘の上にある。それから明日は大穴に行けよ。疲れて行く気力がありませんとか抜かしやがったら、爪で殺すからな」
爪で殺すって、復活させないって事だよな? くそ、ちょっと強いからってイキリやがって。イキリ丸め。
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