上 下
200 / 277

ケジメをつけに

しおりを挟む
 部屋に入ると、キリマルが不機嫌そうにして、魔刀を鞘から出したりしまったりを繰り返していた。

「チッ! ようやっと来たか。おせぇぞ!」

 名無し村で戦った時の姿をするキリマルは、トラウマを呼び起こして鳥肌を立てさせたが、人修羅最終形態の時よりは全然マシだった。

「まぁ、そう怒るなよ」

 俺は亜空間ポケットから、どら焼きと緑茶の茶葉を出していそいそと、三時のおやつの準備をした。

「おほ! どら焼き!」

 コロッと機嫌の直った悪魔が、どら焼きに手を出そうとしたが、その手をすぐに引っ込めた。

「あぶねぇあぶねぇ。どら焼きは緑茶があってこそ、至高の味になるんだ。お茶はまだか?」

 ドロンと音がして、アマリが現れる。

「どうして?」

 そう問われてキリマルは「ククク」と笑って腕を組む。

「まず喉を湿らす為に、緑茶を飲むだろ? そうしたらどんな味がする? アマリ」

「ちょっと苦味があるけど、心が落ち着く味がする」

「そう。まだ苦味が口の中に残っている時に、甘いどら焼きを食べるとどうだ?」

「甘みが引き立って美味しい」

「正解。だから俺はオビオのお茶を待ってんだ」

「キリマル、賢い」

 なんだ、そのバガー兄弟みたいな会話は。賢くもクソもねぇだろ。そういえば、あのオークの暗殺者兄弟は、今も自由騎士を探しているのだろうか?

「はい、緑茶。どら焼きは沢山作ったから、たらふく食べてもいいぞ」

 部屋の中央にある小さなテーブルに、緑茶を二つ置くと、俺は椅子に座って天井をぼんやりと見た。ちょっと特訓で疲れたわ。二人はモシャモシャとどら焼きを食べて、お茶を啜るのに忙しそうだ。

 あれ? そういやビャクヤがいないな。

「ビャクヤは?」

「もごもごも」

 なるほどね。ってわかるか! ドクター・キリコみたいな悪人顔で、ほっぺたをいっぱいにしても可愛くねぇよ!

「ナンベル・ウィンに会いに行った」

 流石はキリマルのパートナーであるアマリちゃん。翻訳ありがたい。

「ああ、そうか。ビャクヤはナンベルさんの親戚かなんかだったんだっけ?」

 同じウィン家だもんな。

「そうだけど、違う。ビャクヤはナンベルの孫」

「は? じゃあ、ビャクヤは未来人じゃん。過去から来たとかいう話はなんだったの?」

「話すとややこしいから気にするな。俺様も色んな世界や時代に飛ばされた身だからな。この間、自伝でも書こうと思ったら、飛ばされた先の地名や時代がわからなくて、諦めた程だ」

 ギョクリとどら焼きを飲み込んでから、キリマルはそう言ってお茶をガブガブ飲んだ。

 珍妙な人生を歩んできたんだなぁ。何をどうしたら時間や世界を飛び越えられるんだろうか?

 いや、やろうと思ったら四十一世紀の地球人でもやれるだろうが、膨大なエネルギーを集めるのに、BPが大量に必要だし、体調管理もインフラに頼りっぱなしの地球人が、異世界や過去に飛んだりしたら、すぐに死ぬだろうな。

 俺はナチュラル寄りだし、ナノマシンやサブAIが補正してくれるから平気だけど、そうじゃないタイプの人は長くは生きられない。最近は全てをインフラに頼るタイプの地球人が、主流になってきているから尚更。

「じゃあ、お祖父ちゃんに会いに行ったわけか。でもナンベルさんは、まだ生まれてもいないビャクヤの事を、孫だとは思わないだろ?」

「それは、まぁそうだろうな。どら焼きのお礼に、ちょっとぐらいは教えてやるか。ヒジリが世界をゴチャ混ぜにする前、ビャクヤはツィガル帝国の皇帝の孫だったんだ」

「え? つまりナンベルさんが皇帝だったって事?」

「そうだ。そういう世界線だったんだわ。で、ナンベルはビャクヤのチート級の才能を見抜いていて、とても期待していた。自分の跡継ぎは、ビャクヤしかいないとな。ビャクヤもお祖父ちゃん子で、歩けなくなったナンベルの車椅子を押して、よく散歩に出掛けていたんだ」

 確か、ツィガル帝国って世襲制じゃないよな。皇帝とタイマンして勝った者が、次の皇帝になるシステムだったはず。足腰が弱ってても、皇帝であり続けたナンベルさんって強過ぎじゃね?

「だが、その散歩の途中でナンベルは静かに逝ってしまった。ビャクヤはああ見えて、甘ったれのお坊ちゃまだからよぉ、妻が支えていないと心が脆くてな。悲しみのあまり混乱して、走り回って、誰かが開いた召喚ゲートに、現実逃避して逃げ込んでしまった。その召喚者が後に妻になるリンネだったってわけだ。ニムゲイン王国に住む、人間の魔法使いの。今はアーマーメイジだけどもよ」

「えぇ? ビャクヤは飄々としてて、いつもお道化てるのに、以外な過去の持ち主なんだなぁ」

 それに比べたら、俺は・・・。何も背負ってねぇわ。暗い過去とかないな・・・。道理でキリマルにモブと言われちゃうわけだ。

「でも、いきなり会いに行ったら不審がられるだろうなぁ。下手したら殺されるんじゃないの? ナンベルさんって、敵対者には容赦なさそうだし、対人戦闘じゃ無敵でしょ?」

 地下墓地でナンベルさんに出会った時は良い人だったけど、旅するうちに彼の噂は耳に届くようになった。

 戦士と面と向かって戦える暗殺者。砦の戦士達もナンベルさんとの戦いは避ける。樹族との戦争でも、計略で侯爵らの騎士団に壊滅的なダメージを与えて、休戦状態にまでもっていった軍師という側面も持つ。

「殺されるかもな」

「じゃあ、なんでキリマルは、一緒についていってやらなかったんだ?」

「ビャクヤが決着をつけるべき、ケジメだからだ。寿命で死んだナンベルを置き去りにした事に対するケジメをな」

「ケジメって・・・。主が死ぬかもしれねぇんだろ? なんでそんなに落ち着いていられるんだ? 俺、ちょっと心配だからビャクヤんとこ行ってくる!」

「まぁ行くのは構わんが、あいつの邪魔だけはしてくれるなよ。ナンベル孤児院は、ヒジリが立てたマンションの横の丘の上にある。それから明日は大穴に行けよ。疲れて行く気力がありませんとか抜かしやがったら、爪で殺すからな」

 爪で殺すって、復活させないって事だよな? くそ、ちょっと強いからってイキリやがって。イキリ丸め。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】お嫁さんスライム娘が、ショタお婿さんといちゃらぶ子作りする話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 前話 【R18】通りかかったショタ冒険者に襲い掛かったスライム娘が、敗北して繁殖させられる話 https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/384412801 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

【R18】ショタが無表情オートマタに結婚強要逆レイプされてお婿さんになっちゃう話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

噂好きのローレッタ

水谷繭
恋愛
公爵令嬢リディアの婚約者は、レフィオル王国の第一王子アデルバート殿下だ。しかし、彼はリディアに冷たく、最近は小動物のように愛らしい男爵令嬢フィオナのほうばかり気にかけている。 ついには殿下とフィオナがつき合っているのではないかという噂まで耳にしたリディアは、婚約解消を申し出ることに。しかし、アデルバートは全く納得していないようで……。 ※二部以降雰囲気が変わるので、ご注意ください。少し後味悪いかもしれません(主人公はハピエンです) ※小説家になろうにも掲載しています ◆表紙画像はGirly Dropさんからお借りしました (旧題:婚約者は愛らしい男爵令嬢さんのほうがお好きなようなので、婚約解消を申し出てみました)

異世界召喚 巻き込まれてチート生活 (仮)

あめ
ファンタジー
現世(地球)でのとある事故から異世界(フェイソル王国)に召喚された4名。 地球とフェイソルを繋ぐ神からそれぞれスキルを与えられるなか、佐藤 〇〇(佐藤 〇〇)は神から魔物や人からスキルを奪えるスキル【強奪】と多数のスキルを貰いフェイソルへと転生して愉快な仲間と共に異世界で第二の人生を送る物語です。 *この作品は偏差値50程度の一般高校に通っているラノベ好きの男子高校生が書いております。初めての作品の上に、小説の書き方も甘いと思われます。なのでご指導お願いします! 更新は、不確定です。 主人公の苗字は佐藤ですが名前を決めきれません! 名前募集します!! (2019年8月3日)

壁の花令嬢の最高の結婚

晴 菜葉
恋愛
 壁の花とは、舞踏会で誰にも声を掛けてもらえず壁に立っている適齢期の女性を示す。  社交デビューして五年、一向に声を掛けられないヴィンセント伯爵の実妹であるアメリアは、兄ハリー・レノワーズの悪友であるブランシェット子爵エデュアルト・パウエルの心ない言葉に傷ついていた。  ある日、アメリアに縁談話がくる。相手は三十歳上の財産家で、妻に暴力を働いてこれまでに三回離縁を繰り返していると噂の男だった。  アメリアは自棄になって家出を決行する。  行く当てもなく彷徨いていると、たまたま賭博場に行く途中のエデュアルトに出会した。  そんなとき、彼が暴漢に襲われてしまう。  助けたアメリアは、背中に消えない傷を負ってしまった。  乙女に一生の傷を背負わせてしまったエデュアルトは、心底反省しているようだ。 「俺が出来ることなら何だってする」  そこでアメリアは考える。  暴力を振るう亭主より、女にだらしない放蕩者の方がずっとマシ。 「では、私と契約結婚してください」 R18には※をしています。    

【R18】らぶえっち短編集

おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
調べたら残り2作品ありました、本日投稿しますので、お待ちくださいませ(3/31)  R18執筆1年目の時に書いた短編完結作品23本のうち商業作品をのぞく約20作品を短編集としてまとめることにしました。 ※R18に※ ※毎日投稿21時~24時頃、1作品ずつ。 ※R18短編3作品目「追放されし奴隷の聖女は、王位簒奪者に溺愛される」からの投稿になります。 ※処女作「清廉なる巫女は、竜の欲望の贄となる」2作品目「堕ちていく竜の聖女は、年下皇太子に奪われる」は商業化したため、読みたい場合はムーンライトノベルズにどうぞよろしくお願いいたします。 ※これまでに投稿してきた短編は非公開になりますので、どうぞご了承くださいませ。

転生皇太子は、虐待され生命力を奪われた聖女を救い溺愛する。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

処理中です...