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ブライトリーフ卿
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ヒジリが王として務める小さな城、通称桃色城はアルケディア城の十分の一以下ぐらいしかない。
イグナちゃんがデザインしたこの城は、ぱっと見、昭和のラブホテルのようだ。
大して高くない城を囲む城壁に表門と裏門・・・というか、裏口が一つづつ。
城の大扉をくぐると、そこそこ大きなホールがあり、簡単な謁見はそこでする。基本的にヒジリはワンマン社長のように動いて、樹族国や小国連合の商人や重要人物と商談や公文書のやり取りをしている。
そこに俺がコーヒーや紅茶、お茶請けなどを持っていくと皆驚いて話しかけてくる。
「バトルコック団の・・・!」
樹族国の貴族は俺を見た後に、ヒジリを見つめる。大体何を考えているかは解るぜ。
どうせ、グランデモニウム王国改め、神国ヒジランドが俺を取り込んで国力を強化しようとしていると邪推してんだろ。生憎、ウォール家の関係者扱いなので、ヒジリもそう簡単に手出しはできないけどな。
勝手にヒジリを警戒し、喉を鳴らした貴族は慌ててコーヒーを口に含んだ。
「うまいっ! 香りが全然違う! なんてフルーティな香りとコク!」
そうだろう。なんせ、惑星ヒジリにおいて、コーヒーの原産国だからな。ブルームがモリモリと膨らむ程の新鮮なコーヒーが飲める。
「気にってもらえたなら私も嬉しい。オビオがいてくれて助かっている。お茶請けもどうぞ、ブライトリーフ卿」
なに?! この人、グリーンブライトリーフなのか? そういやもカクイ司祭の裁判の時にいたっけ?
ともすると地走り族に見えなくもない低い背、ブロッコリーのようなモジャモジャの緑髪。
「それで、卿の領地で取れる砂糖の価格なのだが、もう少し安くならないだろうか?」
本当なら、砂糖程度は複製機でいくらでも作れるが、ヒジリは経済が円滑に回ることを考えて、機械に頼らない。なので当然、ヒジランドで不足気味な砂糖は、ブライトリーフから買う事になる。
なんせ、卿の息子は砂糖生産に関わる重要人物だからな。邪魔者扱いされていた甘茶蔓に似た植物から、砂糖が生産できる事を教えたのは俺だし。砂糖村懐かしいな。
「閣下。メイズ殿はご息災ですかな?」
俺がちょっと気取ってそう言うと、チョコがたっぷりと入っているブラウニーをフォークで食べようとしたブライトリーフの手が止まる。
「まさか、息子に砂糖の原料を教えたオーガって・・・」
「俺ですよ、グリーン閣下」
「ほう?」
ヒジリがニヤニヤしながら、ブライトリーフとの会話に入ってきた。
「もう噂で広まっていると思うが、オビオとは同郷でね。同じ日本地区で、私は埼玉、彼は大阪と、少し離れた場所の出身だが同郷は同郷。つまり彼も星のオーガだ。その彼が伝授した砂糖は相当ブランド力がありそうだな? ブライトリーフ卿」
そこでブライトリーフの顔がハッとなり、口角が大きく上がった。
「た、確かに! これはいける!」
ガタッと席を立ち、商談の途中でどこかに行こうとする彼を、ヒジリが呼び止める。
「まだ、砂糖の話が終わっていないが? ブライトリーフ卿」
「そうでした、失礼しました。猊下」
「ブランド料のマージンを差っ引いて、1トン辺り、これくらいで頼む」
ヒジリは書類に値段とサインを書いて、卿に差し出した。書いて出すということは、有無は言わせないぞという意味だ。
おい、こら。ヒジリ。俺は既にブライトリーフの息子のメイズと契約してんだがな? マージン差っ引いたら二重取りになるだろ。それにお前、なんも関わってねぇじゃねぇか。同郷ってだけで。
「ええ、よろしいですとも。来月からその値段で。では契約書にサインをば」
ブライトリーフもサインをして一礼をすると、急いでホールから出ていこうとしたが、俺は呼び止める。
「閣下。魔法使いの塔のレッサー・オーガ達には、手を出さないでくださいね。あいつらは俺の友達なんで」
「魔法使いの塔?」
おしっこでも我慢しているのかと思うほど、ソワソワしているブライトリーフは、小刻みに顎をとんとんと叩いて、魔法使いの塔を思い出そうとしていた。
「ああ、あそこか! あそこの魔法使いは死んだと聞いていたから、放置していた。オビオ殿の友人が住んでいるのかね? 道理で、あの辺一体の魔犬がやたらと減ったと思ったのだ。その件については構わんよ。・・・ん? そうだ! 魔法の塔に住む彼らを借りても良いかね? 砂糖製造で力を借りたい。勿論厚遇する。あの太い蔓を絞るのは中々の重労働でね。それにオビオ殿の友人が、砂糖を作っていると噂になれば・・・。ウフヒヒ!」
金儲けに目ざとい人物だというのは本当だったんだな。
「まぁそこら辺は本人らと契約して決めて頂けるのがよいかと。仲間とメイズ殿に、よろしく伝えておいて下さい」
「ああ、わかった。では」
利益が絡むと、樹族至上主義もどこ吹く風だな。
俺はブライトリーフの背中を見送って、肩をすくめ、ヒジリと目を合わせる。
「あの人、ガチガチの樹族至上主義者じゃなかったんですか?」
「時代の流れには逆らえないという事だ。それより、ここはもういい。君は客人を待たせているのだろう? 確かキリマル殿・・・。彼はモヤモヤしてて見にくかったから悪魔だな? それに魔人族のビャクヤ殿。二階の奥南側の客室にいる。行ってきたまえ」
「あ、はい」
キリマルやビャクヤの話だと、以前の世界では接点があったヒジリだが、この世界では初対面なんだな。
俺はエプロンをしたまま、階段を上っていった。
イグナちゃんがデザインしたこの城は、ぱっと見、昭和のラブホテルのようだ。
大して高くない城を囲む城壁に表門と裏門・・・というか、裏口が一つづつ。
城の大扉をくぐると、そこそこ大きなホールがあり、簡単な謁見はそこでする。基本的にヒジリはワンマン社長のように動いて、樹族国や小国連合の商人や重要人物と商談や公文書のやり取りをしている。
そこに俺がコーヒーや紅茶、お茶請けなどを持っていくと皆驚いて話しかけてくる。
「バトルコック団の・・・!」
樹族国の貴族は俺を見た後に、ヒジリを見つめる。大体何を考えているかは解るぜ。
どうせ、グランデモニウム王国改め、神国ヒジランドが俺を取り込んで国力を強化しようとしていると邪推してんだろ。生憎、ウォール家の関係者扱いなので、ヒジリもそう簡単に手出しはできないけどな。
勝手にヒジリを警戒し、喉を鳴らした貴族は慌ててコーヒーを口に含んだ。
「うまいっ! 香りが全然違う! なんてフルーティな香りとコク!」
そうだろう。なんせ、惑星ヒジリにおいて、コーヒーの原産国だからな。ブルームがモリモリと膨らむ程の新鮮なコーヒーが飲める。
「気にってもらえたなら私も嬉しい。オビオがいてくれて助かっている。お茶請けもどうぞ、ブライトリーフ卿」
なに?! この人、グリーンブライトリーフなのか? そういやもカクイ司祭の裁判の時にいたっけ?
ともすると地走り族に見えなくもない低い背、ブロッコリーのようなモジャモジャの緑髪。
「それで、卿の領地で取れる砂糖の価格なのだが、もう少し安くならないだろうか?」
本当なら、砂糖程度は複製機でいくらでも作れるが、ヒジリは経済が円滑に回ることを考えて、機械に頼らない。なので当然、ヒジランドで不足気味な砂糖は、ブライトリーフから買う事になる。
なんせ、卿の息子は砂糖生産に関わる重要人物だからな。邪魔者扱いされていた甘茶蔓に似た植物から、砂糖が生産できる事を教えたのは俺だし。砂糖村懐かしいな。
「閣下。メイズ殿はご息災ですかな?」
俺がちょっと気取ってそう言うと、チョコがたっぷりと入っているブラウニーをフォークで食べようとしたブライトリーフの手が止まる。
「まさか、息子に砂糖の原料を教えたオーガって・・・」
「俺ですよ、グリーン閣下」
「ほう?」
ヒジリがニヤニヤしながら、ブライトリーフとの会話に入ってきた。
「もう噂で広まっていると思うが、オビオとは同郷でね。同じ日本地区で、私は埼玉、彼は大阪と、少し離れた場所の出身だが同郷は同郷。つまり彼も星のオーガだ。その彼が伝授した砂糖は相当ブランド力がありそうだな? ブライトリーフ卿」
そこでブライトリーフの顔がハッとなり、口角が大きく上がった。
「た、確かに! これはいける!」
ガタッと席を立ち、商談の途中でどこかに行こうとする彼を、ヒジリが呼び止める。
「まだ、砂糖の話が終わっていないが? ブライトリーフ卿」
「そうでした、失礼しました。猊下」
「ブランド料のマージンを差っ引いて、1トン辺り、これくらいで頼む」
ヒジリは書類に値段とサインを書いて、卿に差し出した。書いて出すということは、有無は言わせないぞという意味だ。
おい、こら。ヒジリ。俺は既にブライトリーフの息子のメイズと契約してんだがな? マージン差っ引いたら二重取りになるだろ。それにお前、なんも関わってねぇじゃねぇか。同郷ってだけで。
「ええ、よろしいですとも。来月からその値段で。では契約書にサインをば」
ブライトリーフもサインをして一礼をすると、急いでホールから出ていこうとしたが、俺は呼び止める。
「閣下。魔法使いの塔のレッサー・オーガ達には、手を出さないでくださいね。あいつらは俺の友達なんで」
「魔法使いの塔?」
おしっこでも我慢しているのかと思うほど、ソワソワしているブライトリーフは、小刻みに顎をとんとんと叩いて、魔法使いの塔を思い出そうとしていた。
「ああ、あそこか! あそこの魔法使いは死んだと聞いていたから、放置していた。オビオ殿の友人が住んでいるのかね? 道理で、あの辺一体の魔犬がやたらと減ったと思ったのだ。その件については構わんよ。・・・ん? そうだ! 魔法の塔に住む彼らを借りても良いかね? 砂糖製造で力を借りたい。勿論厚遇する。あの太い蔓を絞るのは中々の重労働でね。それにオビオ殿の友人が、砂糖を作っていると噂になれば・・・。ウフヒヒ!」
金儲けに目ざとい人物だというのは本当だったんだな。
「まぁそこら辺は本人らと契約して決めて頂けるのがよいかと。仲間とメイズ殿に、よろしく伝えておいて下さい」
「ああ、わかった。では」
利益が絡むと、樹族至上主義もどこ吹く風だな。
俺はブライトリーフの背中を見送って、肩をすくめ、ヒジリと目を合わせる。
「あの人、ガチガチの樹族至上主義者じゃなかったんですか?」
「時代の流れには逆らえないという事だ。それより、ここはもういい。君は客人を待たせているのだろう? 確かキリマル殿・・・。彼はモヤモヤしてて見にくかったから悪魔だな? それに魔人族のビャクヤ殿。二階の奥南側の客室にいる。行ってきたまえ」
「あ、はい」
キリマルやビャクヤの話だと、以前の世界では接点があったヒジリだが、この世界では初対面なんだな。
俺はエプロンをしたまま、階段を上っていった。
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