上 下
199 / 279

ブライトリーフ卿

しおりを挟む
 ヒジリが王として務める小さな城、通称桃色城はアルケディア城の十分の一以下ぐらいしかない。

 イグナちゃんがデザインしたこの城は、ぱっと見、昭和のラブホテルのようだ。

 大して高くない城を囲む城壁に表門と裏門・・・というか、裏口が一つづつ。

 城の大扉をくぐると、そこそこ大きなホールがあり、簡単な謁見はそこでする。基本的にヒジリはワンマン社長のように動いて、樹族国や小国連合の商人や重要人物と商談や公文書のやり取りをしている。

 そこに俺がコーヒーや紅茶、お茶請けなどを持っていくと皆驚いて話しかけてくる。

「バトルコック団の・・・!」

 樹族国の貴族は俺を見た後に、ヒジリを見つめる。大体何を考えているかは解るぜ。

 どうせ、グランデモニウム王国改め、神国ヒジランドが俺を取り込んで国力を強化しようとしていると邪推してんだろ。生憎、ウォール家の関係者扱いなので、ヒジリもそう簡単に手出しはできないけどな。

 勝手にヒジリを警戒し、喉を鳴らした貴族は慌ててコーヒーを口に含んだ。

「うまいっ! 香りが全然違う! なんてフルーティな香りとコク!」

 そうだろう。なんせ、惑星ヒジリにおいて、コーヒーの原産国だからな。ブルームがモリモリと膨らむ程の新鮮なコーヒーが飲める。

「気にってもらえたなら私も嬉しい。オビオがいてくれて助かっている。お茶請けもどうぞ、ブライトリーフ卿」

 なに?! この人、グリーンブライトリーフなのか? そういやもカクイ司祭の裁判の時にいたっけ?

 ともすると地走り族に見えなくもない低い背、ブロッコリーのようなモジャモジャの緑髪。

「それで、卿の領地で取れる砂糖の価格なのだが、もう少し安くならないだろうか?」

 本当なら、砂糖程度は複製機でいくらでも作れるが、ヒジリは経済が円滑に回ることを考えて、機械に頼らない。なので当然、ヒジランドで不足気味な砂糖は、ブライトリーフから買う事になる。

 なんせ、卿の息子は砂糖生産に関わる重要人物だからな。邪魔者扱いされていた甘茶蔓に似た植物から、砂糖が生産できる事を教えたのは俺だし。砂糖村懐かしいな。

「閣下。メイズ殿はご息災ですかな?」

 俺がちょっと気取ってそう言うと、チョコがたっぷりと入っているブラウニーをフォークで食べようとしたブライトリーフの手が止まる。

「まさか、息子に砂糖の原料を教えたオーガって・・・」

「俺ですよ、グリーン閣下」

「ほう?」

 ヒジリがニヤニヤしながら、ブライトリーフとの会話に入ってきた。

「もう噂で広まっていると思うが、オビオとは同郷でね。同じ日本地区で、私は埼玉、彼は大阪と、少し離れた場所の出身だが同郷は同郷。つまり彼も星のオーガだ。その彼が伝授した砂糖は相当ブランド力がありそうだな? ブライトリーフ卿」

 そこでブライトリーフの顔がハッとなり、口角が大きく上がった。

「た、確かに! これはいける!」

 ガタッと席を立ち、商談の途中でどこかに行こうとする彼を、ヒジリが呼び止める。

「まだ、砂糖の話が終わっていないが? ブライトリーフ卿」

「そうでした、失礼しました。猊下」

「ブランド料のマージンを差っ引いて、1トン辺り、これくらいで頼む」

 ヒジリは書類に値段とサインを書いて、卿に差し出した。書いて出すということは、有無は言わせないぞという意味だ。

 おい、こら。ヒジリ。俺は既にブライトリーフの息子のメイズと契約してんだがな? マージン差っ引いたら二重取りになるだろ。それにお前、なんも関わってねぇじゃねぇか。同郷ってだけで。

「ええ、よろしいですとも。来月からその値段で。では契約書にサインをば」

 ブライトリーフもサインをして一礼をすると、急いでホールから出ていこうとしたが、俺は呼び止める。

「閣下。魔法使いの塔のレッサー・オーガ達には、手を出さないでくださいね。あいつらは俺の友達なんで」

「魔法使いの塔?」

 おしっこでも我慢しているのかと思うほど、ソワソワしているブライトリーフは、小刻みに顎をとんとんと叩いて、魔法使いの塔を思い出そうとしていた。

「ああ、あそこか! あそこの魔法使いは死んだと聞いていたから、放置していた。オビオ殿の友人が住んでいるのかね? 道理で、あの辺一体の魔犬がやたらと減ったと思ったのだ。その件については構わんよ。・・・ん? そうだ! 魔法の塔に住む彼らを借りても良いかね? 砂糖製造で力を借りたい。勿論厚遇する。あの太い蔓を絞るのは中々の重労働でね。それにオビオ殿の友人が、砂糖を作っていると噂になれば・・・。ウフヒヒ!」

 金儲けに目ざとい人物だというのは本当だったんだな。

「まぁそこら辺は本人らと契約して決めて頂けるのがよいかと。仲間とメイズ殿に、よろしく伝えておいて下さい」

「ああ、わかった。では」

 利益が絡むと、樹族至上主義もどこ吹く風だな。

 俺はブライトリーフの背中を見送って、肩をすくめ、ヒジリと目を合わせる。

「あの人、ガチガチの樹族至上主義者じゃなかったんですか?」

「時代の流れには逆らえないという事だ。それより、ここはもういい。君は客人を待たせているのだろう? 確かキリマル殿・・・。彼はモヤモヤしてて見にくかったから悪魔だな? それに魔人族のビャクヤ殿。二階の奥南側の客室にいる。行ってきたまえ」

「あ、はい」

 キリマルやビャクヤの話だと、以前の世界では接点があったヒジリだが、この世界では初対面なんだな。

 俺はエプロンをしたまま、階段を上っていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

お爺様の贈り物

豆狸
ファンタジー
お爺様、素晴らしい贈り物を本当にありがとうございました。

【完結】婚約破棄されて修道院へ送られたので、今後は自分のために頑張ります!

猫石
ファンタジー
「ミズリーシャ・ザナスリー。 公爵の家門を盾に他者を蹂躙し、悪逆非道を尽くしたお前の所業! 決して許してはおけない! よって我がの名の元にお前にはここで婚約破棄を言い渡す! 今後は修道女としてその身を神を捧げ、生涯後悔しながら生きていくがいい!」 無実の罪を着せられた私は、その瞬間に前世の記憶を取り戻した。 色々と足りない王太子殿下と婚約破棄でき、その後の自由も確約されると踏んだ私は、意気揚々と王都のはずれにある小さな修道院へ向かったのだった。 注意⚠️このお話には、妊娠出産、新生児育児のお話がバリバリ出てきます。(訳ありもあります)お嫌いな方は自衛をお願いします! 2023/10/12 作者の気持ち的に、断罪部分を最後の番外にしました。 2023/10/31第16回ファンタジー小説大賞奨励賞頂きました。応援・投票ありがとうございました! ☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。 ☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!) ☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。 ★小説家になろう様でも公開しています。

混沌王創世記・双龍 穴から這い出て来た男

Ann Noraaile
ファンタジー
 異世界から、敵対する二人の王子が、神震ゴッド・クウェイクに弾き飛ばされ、地球の荒廃した未来にやって来た。  王子のうち一人は、記憶を失なったまま、巨大防護シェルター外の過去の遺産を浚うサルベージマン見習いのアレンに助けられる。  もう一人の王子はこのシェルターの地下世界・ゲヘナに連行され、生き延びるのだが、、。  やがて二人の王子は、思わぬ形で再会する事になる。  これより新世紀の創世に向けてひた走る二人の道は、覇道と王道に別れ時には交差していく、、長く激しい戦いの歴史の始まりだった。

わがまま姉のせいで8歳で大聖女になってしまいました

ぺきぺき
ファンタジー
ルロワ公爵家の三女として生まれたクリスローズは聖女の素質を持ち、6歳で教会で聖女の修行を始めた。幼いながらも修行に励み、周りに応援されながら頑張っていたある日突然、大聖女をしていた10歳上の姉が『妊娠したから大聖女をやめて結婚するわ』と宣言した。 大聖女資格があったのは、その時まだ8歳だったクリスローズだけで…。 ー--- 全5章、最終話まで執筆済み。 第1章 6歳の聖女 第2章 8歳の大聖女 第3章 12歳の公爵令嬢 第4章 15歳の辺境聖女 第5章 17歳の愛し子 権力のあるわがまま女に振り回されながらも健気にがんばる女の子の話を書いた…はず。 おまけの後日談投稿します(6/26)。 番外編投稿します(12/30-1/1)。 作者の別作品『人たらしヒロインは無自覚で魔法学園を改革しています』の隣の国の昔のお話です。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

死霊王は異世界を蹂躙する~転移したあと処刑された俺、アンデッドとなり全てに復讐する~

未来人A
ファンタジー
主人公、田宮シンジは妹のアカネ、弟のアオバと共に異世界に転移した。 待っていたのは皇帝の命令で即刻処刑されるという、理不尽な仕打ち。 シンジはアンデッドを自分の配下にし、従わせることの出来る『死霊王』というスキルを死後開花させる。 アンデッドとなったシンジは自分とアカネ、アオバを殺した帝国へ復讐を誓う。 死霊王のスキルを駆使して徐々に配下を増やし、アンデッドの軍団を作り上げていく。

処理中です...