185 / 280
やりきれない気持ち
しおりを挟む
階段を下りて目にした光景。
それは輝きの小剣を片手に背を向けるメリィだった。彼女の周りでは裏側が四人倒れている。
「メリィ・・・。まさかお前・・・」
疑いたくはない。彼女がカクイを殺しに来たなんて。まさか暗黒に堕ちたのだろうか?
そして牢屋の奥でカクイ司祭が、縮こまるようにして震えている。
「ほう。貴様、樹族国を敵に回すのか?」
頭に鉢金を巻く覆面の忍びが、いつの間にか背後にいた。
俺を押しのけるようにして、背後から裏側の長ジュウゾが前に出る。
「・・・」
メリィは何も答えない。その彼女にジュウゾはノーモーションで苦無を投げた。
――――仲間を信じろ。
以前、キリマルに言われた言葉が突然頭を巡る。咄嗟に俺の体は動いていた。
加速を発動させて、メリィ目掛けて飛ぶ苦無に追いついて、叩き落とす。
「メリィ共々何を企む? バトルコック団のリーダー」
「何も企んじゃいねぇよ! ただ俺は、メリィがこれをやったとは思えないだけだ」
暗殺者特有の冷えた視線を俺に向けるジュウゾは、問答無用で逆手で持った短刀で攻撃を仕掛けてきた。
その短刀が背中に刺さる。いてぇ・・・。戦士の指輪を付けてなかったら、この痛みに耐えるのは無理だったろうな。
「心臓を貫くには、刃が短すぎたか。流石は巨体のオーガ。むっ?」
ジュウゾは何かに気がついたのか、部下に近づき覆面を剥がす。
「・・・。何者だ、此奴は」
四人の内、一人は見知らぬ顔だったのだろうか? ジュウゾは謎の樹族を見て、短刀を鞘にしまった。そして、一人納得する。
「なるほど・・・。我らは神聖国を少し甘く見ていたのかもしれん」
「どういう事です?」
ブジュブジュと音を立てて再生する俺の背中の傷を見て、怪訝な顔をするジュウゾは「フン」と鼻を鳴らした。
「貴様などに国家機密を漏らすと思うか? 馬鹿が。とはいえ、この状況では口を噤んでも仕方があるまい。いくら貴様が愚鈍なオーガだとしても、いずれ気づくだろうからな。失敗に次ぐ失敗。これで裏側の名声も地に落ちた。裏側に神聖国の者が紛れ込んでいた事に気づかなかったのだ、この私が」
ジュウゾは更に、スパイ以外の部下の傷口を見る。三人が同時にそれぞれの頸動脈を切り裂いている。
緑色の血が石畳の隙間に吸われて消えていくのを見て、ジュウゾは歯ぎしりをした。
「これは・・・。同士討ちか」
「となるとカクイの能力で・・・」
「そういう事だな。しかし我が部下は、鼻が効く。同士討ちはあり得ないのだが・・・」
裏側の長の視線は、牢屋の奥角で震えるカクイに向く。
「何があった?」
「・・・」
カクイは膝を抱えて親指を噛んだ。
「神聖国からの暗殺者が私を殺しに来ました」
「なぜ、自分を殺しに来たとわかった?」
「誰かの使い魔のネズミが、囁いたのです。すぐに来る。大人しく死を受け入れろと」
ネズミなら、地下牢にいても怪しまれない。壁に小さな穴もある。カクイは嘘を言ってはいないだろう。
「続けろ」
「恐怖に震えた瞬間、能力が発動して・・・。そうしたら、裏側の内の三人が同士討ちをして死んでしまいました。恐らく能力が進化したのだと思います。全てが完璧の幻へと・・・。私はその時、モティの横にある谷底の暗殺ギルドを想像していましたから、裏側の皆さんには互いに、モティの暗殺者が見えていたのだと思います」
「それで、同士討ちした部下は死に、モティの暗殺者だけが残ったと?」
「ええ。そして、彼は私を殺そうとしましたが、結界が邪魔をして上手くいきませんでした。そうこうしている内に階上から、修道騎士がやってきたのです」
「ほう? それで修道騎士がモティの暗殺者を倒したと?」
「はい。彼女にも能力が有効だったはずなのですが・・・。牢屋中の者が全て同一の顔をしていた事に激昂して・・・。襲いかかってきた暗殺者を一撃で切り倒しました」
俺は一点を見つめるメリィの肩を揺すった。
「カクイの話は本当か? メリィ」
「え?」
立ったまま気絶でもしていたかのような彼女だったが、意識が戻ってきて目に光が灯った。と同時に指輪から情報が頭に流れてくる。
まさか闇堕ちしてないだろうな?
大丈夫だ。まだ修道騎士のままだ。ん? 実力値30である彼女の情報に、新たな項目がある!
――――能力消し! 任意で能力者の力を消滅させる能力。
神の恩恵だ! バトルコック団で二人目の能力者が誕生した! とてつもない能力だな・・・。
「彼女は・・・。神の恩恵を授かりました!」
俺がそう言うと、ジュウゾの目が見開く。
「何の能力だ?」
「能力者の能力を消滅させる力です!」
メリィは神を運命の神から星のオーガに変えたからか? なんか能力がヒジリっぽいぞ。でもヒジリは能力まで無効化はできない。
「檻の前まで来い、カクイ。奴の能力を確かめろ、オビオ」
偉そうに命令するなよな。俺はあんたの部下じゃないんだぞ。と思いつつも、それが一番の確認方法だと理解し、檻の手前まで来たカクイの白ローブの肩を掴んだ。
無い! 能力が消えている!
「消えてます!」
そう伝えると、忍者は僅かに身震いした。
「なんという恐ろしい能力だ。いや、我が国にとって有利な能力と言うべきか。ところで修道騎士と貴様は何しに地下牢に来た?」
「俺はカクイにパンを食べさせにきました」
そう言って、俺は亜空間ポケットから、ドライフルーツが入ったパンを取り出してジュウゾに見せた。
「毒入りか?」
「まさか! 料理人の名誉にかけて、そんな事はしませんよ。皆、腹が減っているだろうと思って」
俺は犯罪者に与えられる料理を見て、ここに来たのだ。あんなお湯のようなスープだけじゃ可哀想だ。
「ハッ! 料理人の名誉か。まぁいいだろう。で・・・。修道騎士は?」
メリィはまた怒りの精霊に取り憑かれそうな程、顔を真赤にして喚いた。
「カクイを! 殺しに来た!!」
その途端、また苦無がメリィに飛んで来たので、彼女を抱きしめて庇うと、背中に激痛が走る。
「それは最早、修道騎士の持つ権限の外。できるのは、疑わしき聖職者に神の裁きを下すのみ。そしてその役目を貴様は果たしたのだ。カクイは今や重要な外交カード。殺させはせんぞ。剣を納めろ。そうすれば今の言葉は、聞かなかった事にしてやる」
背中に刺さった苦無が床に落ちる音がした。傷が癒えて、戻った肉が苦無を押し出したのだ。
「化け物め・・・。猛毒をものともしないとはな」
毒が塗ってあったのかよ! 苦無を受けたのが俺で良かった・・・。
「メリィ。ジュウゾさんの言う通りだ。俺たちに出来るのはここまでなんだよ。いくらS級の冒険者だろうが、国の方針には逆らえない。剣を仕舞えって! 後は仮面の修道騎士か、聖騎士に任せときゃいいんだ」
それでもメリィは剣を鞘に収めようとせず、柄をきつく握りしめてカクイを睨んでいる。
正直、メリィがここまで変わるとは思わなかった。できれば、今のところ順調に作動している感情制御チップを彼女に移植してやりたいぐらいだ。
俺はメリィがカクイに近づかないように、押さえながらドライフルーツパンを司祭の手に渡した。
「あんな薄いスープだけじゃ、腹が減るだろ? 食べなよ。いつかウィングから読み取った記憶を頼りにして、あんたが作ったパンに似せて作ったんだけど」
俺の言葉に暫く手の中のパンを見つめていたカクイは、やはりお腹が減っていたのか、凄い勢いでパンを食べ始めた。
「味はどうだい? 焼け具合とか」
「・・・」
しかし、司祭は無心になってパンに齧りついている。そして、ピタリと食べるのを止めた。
「私が焼いたパンよりも美味しいです。敢えて文句を付けさせてもらうとすれば、少ししょっぱいですね」
そうだろうな。あんた泣いているから、涙の塩味がするんだよ。
「私は・・・。私は・・・。あぁ、ウィング・・・」
まるで天にいるウィングに捧げるようにパンを掲げて蹲るカクイは、嗚咽を漏らしながら泣いている。言葉にならない後悔。例えそれが、内包する双子の弟がやった事とはいえ、自分の手で弟子を消したのは紛れもない事実。
「ウィングは絶対に俺が復活させる。だからあんたは自分の犯した罪を償ってくれ」
「は、はい。はひいぃ・・・」
感情が落ち着かないのか、そう返事するのがやっとな司祭を見て、メリィは俺に冷たく言う。
「ビャクヤの情報が確かな証拠なんてない。例え、話が本当だったとしても、しおりは他の冒険者が持ち去った後かもしれない。ウィングやお姉ちゃんの存在を取り戻す確証なんてどこにもないんだ!」
怒りと不安が綯い交ぜになった顔で、メリィはこちらを見ている。
そんな顔で俺を見るな。俺だってビャクヤやキリマルを信じる以外、何の手立てもないんだ。
「それでも! それでも、俺は行くぞ。可能性があるならどこにだって行く。諦めたりはしない! それに・・・」
「それに?」
「メリィには星のオーガがついてるんだろ? 裁判の時に、星のオーガはちゃんと奇跡を見せてくれたじゃないか。きっと神様が助けてくれるさ。現人神様を信じようぜ!」
――――カチン!
メリィが輝きの小剣を鞘にしまった。そして、踵を返すとジュウゾを押しのけて階段を上がっていった。
「きっと上手くいくさ。きっと・・・」
メリィを見送りながら、俺は根拠も何もないままに、そう言うしかなかった。そう言わないと物事が失敗するような気がしたからだ。
囚人全員に、パンを配り終えると、現場検証を続けているジュウゾの横を通り過ぎて、階段に向かった。するとバリトンボイスが背後から聞こえてきた。
「星のオーガの御加護を」
ん? 誰が言った? ジュウゾか? 彼も星のオーガの信者なのだろうか?
それは輝きの小剣を片手に背を向けるメリィだった。彼女の周りでは裏側が四人倒れている。
「メリィ・・・。まさかお前・・・」
疑いたくはない。彼女がカクイを殺しに来たなんて。まさか暗黒に堕ちたのだろうか?
そして牢屋の奥でカクイ司祭が、縮こまるようにして震えている。
「ほう。貴様、樹族国を敵に回すのか?」
頭に鉢金を巻く覆面の忍びが、いつの間にか背後にいた。
俺を押しのけるようにして、背後から裏側の長ジュウゾが前に出る。
「・・・」
メリィは何も答えない。その彼女にジュウゾはノーモーションで苦無を投げた。
――――仲間を信じろ。
以前、キリマルに言われた言葉が突然頭を巡る。咄嗟に俺の体は動いていた。
加速を発動させて、メリィ目掛けて飛ぶ苦無に追いついて、叩き落とす。
「メリィ共々何を企む? バトルコック団のリーダー」
「何も企んじゃいねぇよ! ただ俺は、メリィがこれをやったとは思えないだけだ」
暗殺者特有の冷えた視線を俺に向けるジュウゾは、問答無用で逆手で持った短刀で攻撃を仕掛けてきた。
その短刀が背中に刺さる。いてぇ・・・。戦士の指輪を付けてなかったら、この痛みに耐えるのは無理だったろうな。
「心臓を貫くには、刃が短すぎたか。流石は巨体のオーガ。むっ?」
ジュウゾは何かに気がついたのか、部下に近づき覆面を剥がす。
「・・・。何者だ、此奴は」
四人の内、一人は見知らぬ顔だったのだろうか? ジュウゾは謎の樹族を見て、短刀を鞘にしまった。そして、一人納得する。
「なるほど・・・。我らは神聖国を少し甘く見ていたのかもしれん」
「どういう事です?」
ブジュブジュと音を立てて再生する俺の背中の傷を見て、怪訝な顔をするジュウゾは「フン」と鼻を鳴らした。
「貴様などに国家機密を漏らすと思うか? 馬鹿が。とはいえ、この状況では口を噤んでも仕方があるまい。いくら貴様が愚鈍なオーガだとしても、いずれ気づくだろうからな。失敗に次ぐ失敗。これで裏側の名声も地に落ちた。裏側に神聖国の者が紛れ込んでいた事に気づかなかったのだ、この私が」
ジュウゾは更に、スパイ以外の部下の傷口を見る。三人が同時にそれぞれの頸動脈を切り裂いている。
緑色の血が石畳の隙間に吸われて消えていくのを見て、ジュウゾは歯ぎしりをした。
「これは・・・。同士討ちか」
「となるとカクイの能力で・・・」
「そういう事だな。しかし我が部下は、鼻が効く。同士討ちはあり得ないのだが・・・」
裏側の長の視線は、牢屋の奥角で震えるカクイに向く。
「何があった?」
「・・・」
カクイは膝を抱えて親指を噛んだ。
「神聖国からの暗殺者が私を殺しに来ました」
「なぜ、自分を殺しに来たとわかった?」
「誰かの使い魔のネズミが、囁いたのです。すぐに来る。大人しく死を受け入れろと」
ネズミなら、地下牢にいても怪しまれない。壁に小さな穴もある。カクイは嘘を言ってはいないだろう。
「続けろ」
「恐怖に震えた瞬間、能力が発動して・・・。そうしたら、裏側の内の三人が同士討ちをして死んでしまいました。恐らく能力が進化したのだと思います。全てが完璧の幻へと・・・。私はその時、モティの横にある谷底の暗殺ギルドを想像していましたから、裏側の皆さんには互いに、モティの暗殺者が見えていたのだと思います」
「それで、同士討ちした部下は死に、モティの暗殺者だけが残ったと?」
「ええ。そして、彼は私を殺そうとしましたが、結界が邪魔をして上手くいきませんでした。そうこうしている内に階上から、修道騎士がやってきたのです」
「ほう? それで修道騎士がモティの暗殺者を倒したと?」
「はい。彼女にも能力が有効だったはずなのですが・・・。牢屋中の者が全て同一の顔をしていた事に激昂して・・・。襲いかかってきた暗殺者を一撃で切り倒しました」
俺は一点を見つめるメリィの肩を揺すった。
「カクイの話は本当か? メリィ」
「え?」
立ったまま気絶でもしていたかのような彼女だったが、意識が戻ってきて目に光が灯った。と同時に指輪から情報が頭に流れてくる。
まさか闇堕ちしてないだろうな?
大丈夫だ。まだ修道騎士のままだ。ん? 実力値30である彼女の情報に、新たな項目がある!
――――能力消し! 任意で能力者の力を消滅させる能力。
神の恩恵だ! バトルコック団で二人目の能力者が誕生した! とてつもない能力だな・・・。
「彼女は・・・。神の恩恵を授かりました!」
俺がそう言うと、ジュウゾの目が見開く。
「何の能力だ?」
「能力者の能力を消滅させる力です!」
メリィは神を運命の神から星のオーガに変えたからか? なんか能力がヒジリっぽいぞ。でもヒジリは能力まで無効化はできない。
「檻の前まで来い、カクイ。奴の能力を確かめろ、オビオ」
偉そうに命令するなよな。俺はあんたの部下じゃないんだぞ。と思いつつも、それが一番の確認方法だと理解し、檻の手前まで来たカクイの白ローブの肩を掴んだ。
無い! 能力が消えている!
「消えてます!」
そう伝えると、忍者は僅かに身震いした。
「なんという恐ろしい能力だ。いや、我が国にとって有利な能力と言うべきか。ところで修道騎士と貴様は何しに地下牢に来た?」
「俺はカクイにパンを食べさせにきました」
そう言って、俺は亜空間ポケットから、ドライフルーツが入ったパンを取り出してジュウゾに見せた。
「毒入りか?」
「まさか! 料理人の名誉にかけて、そんな事はしませんよ。皆、腹が減っているだろうと思って」
俺は犯罪者に与えられる料理を見て、ここに来たのだ。あんなお湯のようなスープだけじゃ可哀想だ。
「ハッ! 料理人の名誉か。まぁいいだろう。で・・・。修道騎士は?」
メリィはまた怒りの精霊に取り憑かれそうな程、顔を真赤にして喚いた。
「カクイを! 殺しに来た!!」
その途端、また苦無がメリィに飛んで来たので、彼女を抱きしめて庇うと、背中に激痛が走る。
「それは最早、修道騎士の持つ権限の外。できるのは、疑わしき聖職者に神の裁きを下すのみ。そしてその役目を貴様は果たしたのだ。カクイは今や重要な外交カード。殺させはせんぞ。剣を納めろ。そうすれば今の言葉は、聞かなかった事にしてやる」
背中に刺さった苦無が床に落ちる音がした。傷が癒えて、戻った肉が苦無を押し出したのだ。
「化け物め・・・。猛毒をものともしないとはな」
毒が塗ってあったのかよ! 苦無を受けたのが俺で良かった・・・。
「メリィ。ジュウゾさんの言う通りだ。俺たちに出来るのはここまでなんだよ。いくらS級の冒険者だろうが、国の方針には逆らえない。剣を仕舞えって! 後は仮面の修道騎士か、聖騎士に任せときゃいいんだ」
それでもメリィは剣を鞘に収めようとせず、柄をきつく握りしめてカクイを睨んでいる。
正直、メリィがここまで変わるとは思わなかった。できれば、今のところ順調に作動している感情制御チップを彼女に移植してやりたいぐらいだ。
俺はメリィがカクイに近づかないように、押さえながらドライフルーツパンを司祭の手に渡した。
「あんな薄いスープだけじゃ、腹が減るだろ? 食べなよ。いつかウィングから読み取った記憶を頼りにして、あんたが作ったパンに似せて作ったんだけど」
俺の言葉に暫く手の中のパンを見つめていたカクイは、やはりお腹が減っていたのか、凄い勢いでパンを食べ始めた。
「味はどうだい? 焼け具合とか」
「・・・」
しかし、司祭は無心になってパンに齧りついている。そして、ピタリと食べるのを止めた。
「私が焼いたパンよりも美味しいです。敢えて文句を付けさせてもらうとすれば、少ししょっぱいですね」
そうだろうな。あんた泣いているから、涙の塩味がするんだよ。
「私は・・・。私は・・・。あぁ、ウィング・・・」
まるで天にいるウィングに捧げるようにパンを掲げて蹲るカクイは、嗚咽を漏らしながら泣いている。言葉にならない後悔。例えそれが、内包する双子の弟がやった事とはいえ、自分の手で弟子を消したのは紛れもない事実。
「ウィングは絶対に俺が復活させる。だからあんたは自分の犯した罪を償ってくれ」
「は、はい。はひいぃ・・・」
感情が落ち着かないのか、そう返事するのがやっとな司祭を見て、メリィは俺に冷たく言う。
「ビャクヤの情報が確かな証拠なんてない。例え、話が本当だったとしても、しおりは他の冒険者が持ち去った後かもしれない。ウィングやお姉ちゃんの存在を取り戻す確証なんてどこにもないんだ!」
怒りと不安が綯い交ぜになった顔で、メリィはこちらを見ている。
そんな顔で俺を見るな。俺だってビャクヤやキリマルを信じる以外、何の手立てもないんだ。
「それでも! それでも、俺は行くぞ。可能性があるならどこにだって行く。諦めたりはしない! それに・・・」
「それに?」
「メリィには星のオーガがついてるんだろ? 裁判の時に、星のオーガはちゃんと奇跡を見せてくれたじゃないか。きっと神様が助けてくれるさ。現人神様を信じようぜ!」
――――カチン!
メリィが輝きの小剣を鞘にしまった。そして、踵を返すとジュウゾを押しのけて階段を上がっていった。
「きっと上手くいくさ。きっと・・・」
メリィを見送りながら、俺は根拠も何もないままに、そう言うしかなかった。そう言わないと物事が失敗するような気がしたからだ。
囚人全員に、パンを配り終えると、現場検証を続けているジュウゾの横を通り過ぎて、階段に向かった。するとバリトンボイスが背後から聞こえてきた。
「星のオーガの御加護を」
ん? 誰が言った? ジュウゾか? 彼も星のオーガの信者なのだろうか?
0
お気に入りに追加
74
あなたにおすすめの小説
混沌王創世記・双龍 穴から這い出て来た男
Ann Noraaile
ファンタジー
異世界から、敵対する二人の王子が、神震ゴッド・クウェイクに弾き飛ばされ、地球の荒廃した未来にやって来た。
王子のうち一人は、記憶を失なったまま、巨大防護シェルター外の過去の遺産を浚うサルベージマン見習いのアレンに助けられる。
もう一人の王子はこのシェルターの地下世界・ゲヘナに連行され、生き延びるのだが、、。
やがて二人の王子は、思わぬ形で再会する事になる。
これより新世紀の創世に向けてひた走る二人の道は、覇道と王道に別れ時には交差していく、、長く激しい戦いの歴史の始まりだった。
未来人が未開惑星に行ったら無敵だった件
藤岡 フジオ
ファンタジー
四十一世紀の地球。殆どの地球人が遺伝子操作で超人的な能力を有する。
日本地区で科学者として生きるヒジリ(19)は転送装置の事故でアンドロイドのウメボシと共にとある未開惑星に飛ばされてしまった。
そこはファンタジー世界そのままの星で、魔法が存在していた。
魔法の存在を感知できず見ることも出来ないヒジリではあったが、パワードスーツやアンドロイドの力のお陰で圧倒的な力を惑星の住人に見せつける!
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
【完結】乙女ゲームに転生した転性者(♂→♀)は純潔を守るためバッドエンドを目指す
狸田 真 (たぬきだ まこと)
ファンタジー
男♂だったのに、転生したら転性して性別が女♀になってしまった! しかも、乙女ゲームのヒロインだと!? 男の記憶があるのに、男と恋愛なんて出来るか!! という事で、愛(夜の営み)のない仮面夫婦バッドエンドを目指します!
主人公じゃなくて、勘違いが成長する!? 新感覚勘違いコメディファンタジー!
※現在アルファポリス限定公開作品
※2020/9/15 完結
※シリーズ続編有り!
おっさん聖女!目指せ夢のスローライフ〜聖女召喚のミスで一緒に来たおっさんが更なるミスで本当の聖女になってしまった
ありあんと
ファンタジー
アラサー社会人、時田時夫は会社からアパートに帰る途中、女子高生が聖女として召喚されるのに巻き込まれて異世界に来てしまった。
そして、女神の更なるミスで、聖女の力は時夫の方に付与された。
そんな事とは知らずに時夫を不要なものと追い出す王室と神殿。
そんな時夫を匿ってくれたのは女神の依代となる美人女神官ルミィであった。
帰りたいと願う時夫に女神がチート能力を授けてくれるというので、色々有耶無耶になりつつ時夫は異世界に残留することに。
活躍したいけど、目立ち過ぎるのは危険だし、でもカリスマとして持て囃されたいし、のんびりと過ごしたいけど、ゆくゆくは日本に帰らないといけない。でも、この世界の人たちと別れたく無い。そんな時夫の冒険譚。
ハッピーエンドの予定。
なろう、カクヨムでも掲載
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな
カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界
魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた
「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね?
それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」
小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く
塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう
一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが……
◇◇◇
親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります
(『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です)
◇◇◇
ようやく一区切りへの目処がついてきました
拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる