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俺が厨房に入ると、そこに立っていたのはカクイ司祭だった。
一人でせっせと下準備をしている。そして、俺の気配に気づいたのか、にこやかに振り返った。
「これは、オビオ様。貴方ならここに来るのでは、と思っていましたよ」
――――瞬間、俺は意識を周囲に向ける。
他に気配はない。カクイ司祭一人だけだ。
「あぁ、俺は料理人だからな。宿屋とかにいくと厨房が気になってしかたがねぇ」
やはりピーターについてきてもらえば良かった、等と後悔しつつも、俺は四角い顔を見つめる。
「存じております。貴方が料理人ではないと言う者を見つける方が大変ですよ。それぐらい有名なのです。おっと、そういえば、オビオ様の話し方が変わりましたね? やはり愚かなオーガを演じるのは、疲れますよね?」
厭味ったらしい声じゃあない。何か会話の取っ掛かりが欲しいと言った感じだ。
「有名って言われてもなぁ。戦いじゃあ、白獅子の方が名高いだろ?」
こいつはどこまで俺たちの情報を知ってんだろうか?
「獣人国の首長トウバの子、トウス様の事ですか? それはもう有名ですよ。勇猛果敢な戦士として。同じ武器さえ持てば、グランデモニウム王国のヘカティニスと、対等に渡り合えるんじゃないかと言われております。とはいえ彼も大変な人生をお送りのようで。首長国であるレオンは、今や猿人たちの支配下にありますからね。猿人の監視の中から子供を連れて、逃げ出すだけでも凄い事ですよ」
やべぇ! この鯰髭野郎、滅茶苦茶詳しいじゃんか!
「ふ、ふーん。結構知ってるな」
「まぁ私達樹族は、他の種族よりも情報を重要視しますので。このくらいの事は・・・。でも、いいんですか? 彼は貴方を利用しているだけかもしれませんよ?」
お? なんだ? 離間工作か?
「どうして、そう思うんだ?」
「だってそうでしょう。彼はなぜ、樹族国に逃げてきたのです? 他の小国に逃げれば、飢えるほどの差別は受けなかったはずですよ? 獣人を下僕のように思っている樹族国に行くなんて、最初から選択しないはずです」
そう言われれば・・・。
「じゃあ、なんだってーの?」
「彼が敢えて樹族国を選んだのは、樹族国が獣人国レオンと仲が悪いからです。猿人を追い出す為の味方の貴族が、欲しかったのでしょう。丁度そんな時に、シルビィ様と関わりがある貴方が現れた」
「つまり、俺を取っ掛かりにして、樹族国で力をつけようとしていると?」
「そういう事です」
このオッサン、変にイキらない分、言葉に重みがあるなぁ。
「でも、それでいいだろ。俺がトウスさんの役に立つなら何も問題ねぇ」
俺がトウスさんに、何度助けられていると思ってんだ。
「それで貴方が殺されても?」
何言ってんだ、こいつ。俺を殺そうとしたのはお前だろうが。
「詳しく」
「私が送ったハンターの生き残りから、報告があったのです」
勿体ぶるなよ、早く言え。ああ、それから、肉を焦がし過ぎだ。苦味が出る!
俺は、カクイからフライパンを奪い、肉をヘラでひっくり返した。
「どんな報告?」
火が無駄に大きいんだよなぁ。フライパンで焼く場合、鬼イノシシの肉は、ゆっくりと時間をかけたほうが良いんだ。
火の弱い隣のかまどにフライパンを移して、俺は司祭に耳だけを向けた。
「暗殺者は南から来ていると」
は? 南ってことは獣人国からって事か?
「つまり、あんたが送ったハンターとは別に、獣人国の暗殺者がいたと? 俺が狙われていわけじゃなくて、トウスさんが狙われていたって事?」
「はい」
なんだぁ? こいつは。暗殺者を送った罪を、獣人国の猿人に擦り付けやがったぞ!
「でも、それはトウスさん自身が尻拭いをして・・・。なんだったら、俺の尻も拭ってくれているのだから、俺は彼を信じている」
平静を装って、肉をまたひっくり返したが、腹の中は隣のかまどの薪のように燃えている。
「おお、これは心がお広い! 我々樹族とは大違いです!」
トウスさんと死線をくぐり抜けて来たのは、一度や二度じゃねぇんだ。当たり前だろ。彼とは一ヶ月過ごすつもりが、もうすぐ一年経とうとしてんだぞ。
そういや、そろそろ一旦シスター・マンドルのいる孤児院に戻ったほうがいいな。トウスさんも、子供の顔を見たいだろうし。
「そっちの寸胴鍋には、何が入ってる?」
俺はグツグツと煮える鍋を見た。
「えぇっと、確か・・・。ヘコキスズメの骨で出汁を・・・」
「わぁぁ! ヘコキスズメの骨を、こんなに煮る奴があるか! あの鳥は、さっと出汁を取るだけで十分なんだよ! うぉっぷ! くせぇ!」
寸胴鍋の蓋を開けて中を確認すると、蒸気と一緒にヘコキスズメ特有の、屁のような匂いが目にツーンときた。
「すすす、すみません」
カクイ司祭はオタオタと慌てる。で、何を思ったのか、包丁で野菜を雑に切り始めた。
そんな切り方じゃ、野菜の細胞が潰れて、旨味が全部、流れ出てしまう!
「あんた、本当に俺らをもてなす気があるのか?」
「勿論ですよ! だから私自ら、心を込めて料理を作ろうとしていたのです! 何故なら! ここまでしないと私はワンドリッター卿に・・・。しまった!」
ん? ワンドリッターだと? へへへ。とうとう尻尾を出したな。
「あ~? ワンドリッター卿がなんだって?」
「慌ててしまってつい、関係のない人の名前が・・・」
「そんなわけねぇよなぁ? 話の流れ的には、あんたは俺を上手く丸め込まないと、ワンドリッターの手で消されるような感じだったもんなぁ?」
「そんな事は・・・」
「俺は上位鑑定の指輪を付けているんだぜ? あんたを触れば一発で全てがわかる。正直に話せば、大事にせず、穏便に済ましてもいいんだが?」
俺に威圧スキルはない。ピーターのような邪悪な顔もできないし、トウスさんのような唸り声も出せない。
しかし、明らかにカクイは俺に怯えている。取り敢えず、こいつの口から話を聞いてみようか。
一人でせっせと下準備をしている。そして、俺の気配に気づいたのか、にこやかに振り返った。
「これは、オビオ様。貴方ならここに来るのでは、と思っていましたよ」
――――瞬間、俺は意識を周囲に向ける。
他に気配はない。カクイ司祭一人だけだ。
「あぁ、俺は料理人だからな。宿屋とかにいくと厨房が気になってしかたがねぇ」
やはりピーターについてきてもらえば良かった、等と後悔しつつも、俺は四角い顔を見つめる。
「存じております。貴方が料理人ではないと言う者を見つける方が大変ですよ。それぐらい有名なのです。おっと、そういえば、オビオ様の話し方が変わりましたね? やはり愚かなオーガを演じるのは、疲れますよね?」
厭味ったらしい声じゃあない。何か会話の取っ掛かりが欲しいと言った感じだ。
「有名って言われてもなぁ。戦いじゃあ、白獅子の方が名高いだろ?」
こいつはどこまで俺たちの情報を知ってんだろうか?
「獣人国の首長トウバの子、トウス様の事ですか? それはもう有名ですよ。勇猛果敢な戦士として。同じ武器さえ持てば、グランデモニウム王国のヘカティニスと、対等に渡り合えるんじゃないかと言われております。とはいえ彼も大変な人生をお送りのようで。首長国であるレオンは、今や猿人たちの支配下にありますからね。猿人の監視の中から子供を連れて、逃げ出すだけでも凄い事ですよ」
やべぇ! この鯰髭野郎、滅茶苦茶詳しいじゃんか!
「ふ、ふーん。結構知ってるな」
「まぁ私達樹族は、他の種族よりも情報を重要視しますので。このくらいの事は・・・。でも、いいんですか? 彼は貴方を利用しているだけかもしれませんよ?」
お? なんだ? 離間工作か?
「どうして、そう思うんだ?」
「だってそうでしょう。彼はなぜ、樹族国に逃げてきたのです? 他の小国に逃げれば、飢えるほどの差別は受けなかったはずですよ? 獣人を下僕のように思っている樹族国に行くなんて、最初から選択しないはずです」
そう言われれば・・・。
「じゃあ、なんだってーの?」
「彼が敢えて樹族国を選んだのは、樹族国が獣人国レオンと仲が悪いからです。猿人を追い出す為の味方の貴族が、欲しかったのでしょう。丁度そんな時に、シルビィ様と関わりがある貴方が現れた」
「つまり、俺を取っ掛かりにして、樹族国で力をつけようとしていると?」
「そういう事です」
このオッサン、変にイキらない分、言葉に重みがあるなぁ。
「でも、それでいいだろ。俺がトウスさんの役に立つなら何も問題ねぇ」
俺がトウスさんに、何度助けられていると思ってんだ。
「それで貴方が殺されても?」
何言ってんだ、こいつ。俺を殺そうとしたのはお前だろうが。
「詳しく」
「私が送ったハンターの生き残りから、報告があったのです」
勿体ぶるなよ、早く言え。ああ、それから、肉を焦がし過ぎだ。苦味が出る!
俺は、カクイからフライパンを奪い、肉をヘラでひっくり返した。
「どんな報告?」
火が無駄に大きいんだよなぁ。フライパンで焼く場合、鬼イノシシの肉は、ゆっくりと時間をかけたほうが良いんだ。
火の弱い隣のかまどにフライパンを移して、俺は司祭に耳だけを向けた。
「暗殺者は南から来ていると」
は? 南ってことは獣人国からって事か?
「つまり、あんたが送ったハンターとは別に、獣人国の暗殺者がいたと? 俺が狙われていわけじゃなくて、トウスさんが狙われていたって事?」
「はい」
なんだぁ? こいつは。暗殺者を送った罪を、獣人国の猿人に擦り付けやがったぞ!
「でも、それはトウスさん自身が尻拭いをして・・・。なんだったら、俺の尻も拭ってくれているのだから、俺は彼を信じている」
平静を装って、肉をまたひっくり返したが、腹の中は隣のかまどの薪のように燃えている。
「おお、これは心がお広い! 我々樹族とは大違いです!」
トウスさんと死線をくぐり抜けて来たのは、一度や二度じゃねぇんだ。当たり前だろ。彼とは一ヶ月過ごすつもりが、もうすぐ一年経とうとしてんだぞ。
そういや、そろそろ一旦シスター・マンドルのいる孤児院に戻ったほうがいいな。トウスさんも、子供の顔を見たいだろうし。
「そっちの寸胴鍋には、何が入ってる?」
俺はグツグツと煮える鍋を見た。
「えぇっと、確か・・・。ヘコキスズメの骨で出汁を・・・」
「わぁぁ! ヘコキスズメの骨を、こんなに煮る奴があるか! あの鳥は、さっと出汁を取るだけで十分なんだよ! うぉっぷ! くせぇ!」
寸胴鍋の蓋を開けて中を確認すると、蒸気と一緒にヘコキスズメ特有の、屁のような匂いが目にツーンときた。
「すすす、すみません」
カクイ司祭はオタオタと慌てる。で、何を思ったのか、包丁で野菜を雑に切り始めた。
そんな切り方じゃ、野菜の細胞が潰れて、旨味が全部、流れ出てしまう!
「あんた、本当に俺らをもてなす気があるのか?」
「勿論ですよ! だから私自ら、心を込めて料理を作ろうとしていたのです! 何故なら! ここまでしないと私はワンドリッター卿に・・・。しまった!」
ん? ワンドリッターだと? へへへ。とうとう尻尾を出したな。
「あ~? ワンドリッター卿がなんだって?」
「慌ててしまってつい、関係のない人の名前が・・・」
「そんなわけねぇよなぁ? 話の流れ的には、あんたは俺を上手く丸め込まないと、ワンドリッターの手で消されるような感じだったもんなぁ?」
「そんな事は・・・」
「俺は上位鑑定の指輪を付けているんだぜ? あんたを触れば一発で全てがわかる。正直に話せば、大事にせず、穏便に済ましてもいいんだが?」
俺に威圧スキルはない。ピーターのような邪悪な顔もできないし、トウスさんのような唸り声も出せない。
しかし、明らかにカクイは俺に怯えている。取り敢えず、こいつの口から話を聞いてみようか。
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