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吸魔の魔法

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「今日は変な奴、出てこないだろうな?」

 俺が朝イチ目が覚めて、出した言葉がこれだった。ここ最近、有名な暗殺者兄弟や強力なメイジに出会ったせいで、冒険者としての自信がすっかりなくなっていたのだ。

「そういえば、昨日の仮面のメイジは、半分狂気に侵されていたように見える」

 目をぱっちりと開けて、空を見るサーカは俺の横でそう言った。

「いや、上位鑑定の指輪で見た限りそんなことはなかった。中二病だったけど」

「狂気もそうだが、思い込みも人を強くする要因だ。魔法を極めたウィザードがリッチになりたがるのは、なぜだと思う?」

「多分・・・。たがを外す為か?」

「そうだ。平凡な者でも時間さえあれば、魔法を極めようと思えばできる。だが、更にその向こう側に一歩踏み出そうと思うのであれば、常人のままではいられないのだ」

 そういえば・・・。この世界で強い奴って、狂気一歩手間みたいなのが多い。変人の科学者ヒジリ。殺人狂の悪魔キリマル。そして昨日出会った仮面のメイジ、ビャクヤ。

「サーカは、早覚えの能力者だけど、それで魔法を極めようとか思っているのか?」

「無理だな。私がメイジならそうしていたかもしれんが、樹族の騎士は文武両道。全ての魔法の練度を上げる余裕なんてない」

 どこか胸の奥でホッとする俺がいる。サーカが悪魔と契約して、人の身を捨てる姿なんて見たくないからな。

「ピーターやみたいにサポジョブを付けて、メイジの底上げとかできないのか?」

 リッチにはならないでほしいが、スペルキャスターとしての能力を上げることはできないか、俺はサーカに訊いてみた。

「無意味だ。メイジとスキルが被る事が多いからな。それにピーターは元々、サブがレンジャーだっただろう? なぜメイジにしたのだろうな?」

「そういえば、あいついつの間にか変えてたな」

「いつまで寝転がって、イチャついてんだよ!」

 ピーターがいきなりベッドの横に現れた。隠遁スキルのような現れ方ではない。透明化の魔法を解除した時の現れ方だ。

「今の話、聞いていたのか?」

「ああ。まぁ教えといてやるよ。お前らと出会う前、俺のサポジョブはメイジだったんだ。それをレンジャーに変えたんだけど、気に入らなかったから元に戻しただけのこと。それ以上の意味はないね。ところで、サーカは時々、寝ているオビオの脚に股間を擦りつけている時があるな。あれ、何やってんの?」

 お、お前。なんて恐ろしい挑発をしてんだ?! 電撃で灰塵と化すのは必至だぞ、ピーター!

「ぎょくり!」

 俺は唾を飲み込んで、恐る恐る、胸と脇の間に頭を置くサーカの顔色を見た。

「ししししし、してないもん! そんなこと!」

 あれ? 顔が真っ赤だぞ、サーカ。しかも幼児化してる。何でだ?

「ウソつけ! オビオが寝てるのを良いことに、してんだろ? を!」

 オ、オビニーだと? なんだ、そのパワーワード! そして隠語ならぬ淫語! いや、造語か。

「してないもん! ふにーん!」

 流石にサーカが可哀想になってきた。

「おい、止めろ。女子にそういう事言うなよ。ムクもいるんだし、変なこと覚えたらどうすんだよ! ・・・でもなんで、サーカはマナが無くなったんだ?」

 途端にピーターが邪悪な顔をした。

「クキキッ! それは! 俺様の仕業さ!」

 どういうことだ? 多分俺の勘だけど、こいつは自分を強化する機会があったから、こんなに強気なんだ。

「昨日、仮面のメイジと戦ったろ? 俺がただ無様に地面を舐めただけだと、お思いか?」

「いや、お前はただでは転ばない奴だ」

「よぉく理解してらっしゃるじゃないですか、オビオ君。褒めておきますよ。ホッーホッホ」

 お前はどこぞのフリーザ様か。

「で?」

「で、俺は麻痺の雲で倒れる前に、奴のマントの内側ポッケにあった魔法書を盗んだってわけさ」

「ほんと、お前は悪いやつだな~。なんの魔法書を盗んだ?」

「今、サーカに使ったのがそうさ。レア度S級の魔法。【吸魔】だぞ!」

 どーん! と背景に文字が出そうなほど、ピーターは威張っている。

 それってさ、大して魔法を覚えていない俺には、あまり効果がないよな。良かった。

「よく一晩で覚えたな。魔法ってさ、覚えてもイメトレに時間が掛かるんじゃなかったか?」

「そりゃもうね、サーカをギャフンと言わせたいが為に、一生懸命頑張ったのさ。お陰で寝不足だよ」

「でもサーカのマナを全部吸い取るなんて、凄いな。練度とか関係ないのか?」

 俺は胸に顔を埋めて動かないサーカの頭を撫でながら、自分で開発した魔法丸まほうがんという薬をサーカの口に入れた。珍しい野草を集めて、様子を見ながら微調整をして、煮詰めないといけないので、滅多に作れないが、マナが全回復する薬だ。

 しかし、ピーターはそんな効果がある薬だとは知らず、俺がサーカの口に鼻くそでも入れた程度にしか思っていなさそうだ。

「この魔法はね、練度はそこまで重要じゃないんだ。いや、重要なんだけどさ」

 どっちだよ! いつになく舌が滑らかだな、ピーター。

「この魔法は、相手のマナをランダムで吸い取る。魔法一回分から全部まで、吸い取る確率は同じなんだよ。練度は最低値を底上げするだけ」

「じゃあ、今回はたまたま全部吸えたってわけか。あんだけ強気だったって事は、相手がどれだけ吸魔されたか、魔法をかけた本人はわかるんだな?」

「ま、そういう事だね」

「ほう、それは日に何度唱えられる魔法なんだ?」

「日に一回だね。俺は本格的なメイジじゃないから」

 おいおい、ピーター。今、誰と喋ってるのをわかっているか?

 調子に乗って、気分良く喋ってるけどさ・・・。

「では、その魔法。今日はおしまいということだな? 貴様の命のように」

「えっ? サーカ?!」

 ピーターめ。やっと気がついたか。そんな怯えた子犬のような顔をしてももう遅いぞ。

「え? なんで? なんでサーカが復活してんだ? あぁ!? さては、オビオ! お前だな?」

 御名答。そうでぃす。俺でぃす。

「覚えとけよ!」

 いや、明日には忘れる。

 この後、ピーターはサーカに、めちゃクソボコボコにされた。
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