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嫌なものは嫌
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ポルロンドから北にある神聖国モティの国境で、俺達は冒険者ギルドから特別報酬を受け取っていた。
「バトルコック団は冒険者ギルドの依頼を請け負ってはいないぜ? なんで報酬が貰えるんだ?」
と言っても、使い走りのギルド員は「これが私の仕事ですから」と素っ気なく告げて去って行った。
ポルロンド政府は、余程平面アンコウに困っていたんだな。洞窟を強引に閉鎖するぐらいだから。いずれ新道にも、魔物が現れると懸念していたのだろうさ。
「あのアンコウとかいう魚、金貨千枚の賞金が掛かっていたなんてさ~」
ピーターは驚きつつも、軽量化の魔法を施した革袋の中身を気にしている。
「まぁ、俺がダンジョンを探索した限りだと、更に地下へと降りる階段があったから、アンコウは最深部から上がって来たのかもな。それから、報酬はそれぞれ百枚な。残りはパーティの金とする」
「異論はない」
サーカの即答後に、誰もが頷いたので、お金を分配した。
一人の報酬が、昔の地球の円でいうところの一千万円。
それだけ命を賭けたからな。あの魔物も結構な経験値を持っていて、俺の頭止まりだった限界レベルを突破させてくれた。
そこで不思議に思う事があったので、ウィングが入国手続をしてくれている間に、俺はサーカに訊いてみた。
「なぁ、なんで実力値の限界は、人によって違うんだ?」
俺の質問に「はぁ、ヤレヤレ」の仕草をしながら、サーカは答える。
「そんな事も知らないのか、オビオは。最近は本を読んで、知識を仕入れていたのだろう?」
「そうだけど、大体すぐに忘れる」
料理以外の事は殆どそうだ。やもすれば、人名や国名すら出てこない。
サーカは呆れてから、腕を組んだ。
「我らが阿呆なるオビオ様に教えてやろう。実のところ、限界は誰でも突破しようと思えばできる。我々のように困難に多々遭遇する者ほど、その限界突破が容易となるのだ」
「困難?」
「そうだ。私は死んでいて経験をしていないが、オビオ達は、最終形態の人修羅キリマルと戦っただろう? そういった経験こそが、己が殻を破るのだ。他には、人生を賭けた目標を達成するとかでもいい」
「なるほど。でも俺らのような経験をする冒険者って、そうそういないだろ? 突破しようと思えば出来るってレベルじゃねぇぞ」
「出来ないと言うわけではないからな。努力次第だ」
「じゃあサーカの実力値が25止まりなのも、何かが引っかかっているからか? 平面アンコウ戦もかなりの経験になったと思うけど」
「う、煩い! 実力値が31ってだけで調子にのるなよ、非戦闘員め!」
ピンクの騎士様は、すぐに物事を悪い方に捉える。
「別にサーカの事を馬鹿にしたわけじゃねぇけどさ・・・」
あんまり突っ込まないでおくか。サーカからの電撃ビリビリは回避したい。
多分だけど、彼女は自分の田舎の事が気になるんだろうな。母親の事とか。
それから実際にジブリット家に赴いて、自分の存在を認めさせたいと考えているのかも。
「そういやサーカの指揮ってあんま役に立ってなかったよな」
唐突に何を言うのかね、ピーター君。サーカにお仕置きされたいのか?
「結局さぁ、魔物を倒したのってオビオのお陰だし」
やめとけって、ピーター。何ニヤニヤしてんだ。
「あの状況で、お前なら上手くやれてたのか? ピーター」
最もな反論だ。
「勿論無理だよ。俺は盗賊兼メイジだし。それに副リーダーじゃないしな」
「では、黙ってろ」
「でもさぁ! あの時サーカが、もっと的確な指示を出してたらさぁ・・・」
「やめろってピーター。サーカが役立たずみたいに言うなよ。サーカとウィングの魔法連携の後に出来た煤が無かったら、俺だってアンコウを認知できなかったんだぞ。この世界で何かを認識や感知するってのは、かなり重要な事だぞ。な? サーカ」
「ほう、たまには良い事を言うではないか、オビオ。その通り。野うさぎだと思っていたら、ヴォーパルバニーだっったという事もあるからな。あのアンコウもオビオが魚だと認識したから、霊達も中に入り込んで、具現化できたのかもしれない。この世の全てにマナが関わる。魔法も、事象の具現化も全てマナの作用。アンコウ戦ではその方法が我らには解らなかっただけだ」
「触れやしないのに、爆発後の煤で体の形を残すなんて、間抜けな魚だな」
トウスさんがゴハハと笑っている。確かに。
「誰にも認識されないってのは、存在してないのと同じだよ。世界の法則では、自身の存在を証明できない者はいずれ消えるのさ。だから幽霊も平面アンコウも、何かしらのアピールをする」
そんな法則があるのか。それは司祭の間での法則なんじゃないの? 知らんけど。
「あのアンコウ、消える前に肝だけでもゲットしとけば良かったなぁ」
俺がそう呟くと、サーカがそれこそアンコウのようなへの字口をした。
「人の心を読んで、疑似餌を作り出すような化け物の肝など、絶対に食わんからな」
「んだよ。アンコウの肝は美味いんだぞ。醤油と混ぜてソースにしてもいいんだからな。濃厚で本当に美味しいんだ」
「嫌だ! 絶対に食わん!」
「でもこれなら、食えるだろ?」
俺は亜空間ポケットから、剥き身にしたそれを鷲掴みにして取り出した。丁寧に下処理して、ワタも抜いたし、きっとエビみたいな味がするはず。
しかし、サーカは俺の手を叩いて食材を遠ざけた。
「カマドウマはやめろ!」
「バトルコック団は冒険者ギルドの依頼を請け負ってはいないぜ? なんで報酬が貰えるんだ?」
と言っても、使い走りのギルド員は「これが私の仕事ですから」と素っ気なく告げて去って行った。
ポルロンド政府は、余程平面アンコウに困っていたんだな。洞窟を強引に閉鎖するぐらいだから。いずれ新道にも、魔物が現れると懸念していたのだろうさ。
「あのアンコウとかいう魚、金貨千枚の賞金が掛かっていたなんてさ~」
ピーターは驚きつつも、軽量化の魔法を施した革袋の中身を気にしている。
「まぁ、俺がダンジョンを探索した限りだと、更に地下へと降りる階段があったから、アンコウは最深部から上がって来たのかもな。それから、報酬はそれぞれ百枚な。残りはパーティの金とする」
「異論はない」
サーカの即答後に、誰もが頷いたので、お金を分配した。
一人の報酬が、昔の地球の円でいうところの一千万円。
それだけ命を賭けたからな。あの魔物も結構な経験値を持っていて、俺の頭止まりだった限界レベルを突破させてくれた。
そこで不思議に思う事があったので、ウィングが入国手続をしてくれている間に、俺はサーカに訊いてみた。
「なぁ、なんで実力値の限界は、人によって違うんだ?」
俺の質問に「はぁ、ヤレヤレ」の仕草をしながら、サーカは答える。
「そんな事も知らないのか、オビオは。最近は本を読んで、知識を仕入れていたのだろう?」
「そうだけど、大体すぐに忘れる」
料理以外の事は殆どそうだ。やもすれば、人名や国名すら出てこない。
サーカは呆れてから、腕を組んだ。
「我らが阿呆なるオビオ様に教えてやろう。実のところ、限界は誰でも突破しようと思えばできる。我々のように困難に多々遭遇する者ほど、その限界突破が容易となるのだ」
「困難?」
「そうだ。私は死んでいて経験をしていないが、オビオ達は、最終形態の人修羅キリマルと戦っただろう? そういった経験こそが、己が殻を破るのだ。他には、人生を賭けた目標を達成するとかでもいい」
「なるほど。でも俺らのような経験をする冒険者って、そうそういないだろ? 突破しようと思えば出来るってレベルじゃねぇぞ」
「出来ないと言うわけではないからな。努力次第だ」
「じゃあサーカの実力値が25止まりなのも、何かが引っかかっているからか? 平面アンコウ戦もかなりの経験になったと思うけど」
「う、煩い! 実力値が31ってだけで調子にのるなよ、非戦闘員め!」
ピンクの騎士様は、すぐに物事を悪い方に捉える。
「別にサーカの事を馬鹿にしたわけじゃねぇけどさ・・・」
あんまり突っ込まないでおくか。サーカからの電撃ビリビリは回避したい。
多分だけど、彼女は自分の田舎の事が気になるんだろうな。母親の事とか。
それから実際にジブリット家に赴いて、自分の存在を認めさせたいと考えているのかも。
「そういやサーカの指揮ってあんま役に立ってなかったよな」
唐突に何を言うのかね、ピーター君。サーカにお仕置きされたいのか?
「結局さぁ、魔物を倒したのってオビオのお陰だし」
やめとけって、ピーター。何ニヤニヤしてんだ。
「あの状況で、お前なら上手くやれてたのか? ピーター」
最もな反論だ。
「勿論無理だよ。俺は盗賊兼メイジだし。それに副リーダーじゃないしな」
「では、黙ってろ」
「でもさぁ! あの時サーカが、もっと的確な指示を出してたらさぁ・・・」
「やめろってピーター。サーカが役立たずみたいに言うなよ。サーカとウィングの魔法連携の後に出来た煤が無かったら、俺だってアンコウを認知できなかったんだぞ。この世界で何かを認識や感知するってのは、かなり重要な事だぞ。な? サーカ」
「ほう、たまには良い事を言うではないか、オビオ。その通り。野うさぎだと思っていたら、ヴォーパルバニーだっったという事もあるからな。あのアンコウもオビオが魚だと認識したから、霊達も中に入り込んで、具現化できたのかもしれない。この世の全てにマナが関わる。魔法も、事象の具現化も全てマナの作用。アンコウ戦ではその方法が我らには解らなかっただけだ」
「触れやしないのに、爆発後の煤で体の形を残すなんて、間抜けな魚だな」
トウスさんがゴハハと笑っている。確かに。
「誰にも認識されないってのは、存在してないのと同じだよ。世界の法則では、自身の存在を証明できない者はいずれ消えるのさ。だから幽霊も平面アンコウも、何かしらのアピールをする」
そんな法則があるのか。それは司祭の間での法則なんじゃないの? 知らんけど。
「あのアンコウ、消える前に肝だけでもゲットしとけば良かったなぁ」
俺がそう呟くと、サーカがそれこそアンコウのようなへの字口をした。
「人の心を読んで、疑似餌を作り出すような化け物の肝など、絶対に食わんからな」
「んだよ。アンコウの肝は美味いんだぞ。醤油と混ぜてソースにしてもいいんだからな。濃厚で本当に美味しいんだ」
「嫌だ! 絶対に食わん!」
「でもこれなら、食えるだろ?」
俺は亜空間ポケットから、剥き身にしたそれを鷲掴みにして取り出した。丁寧に下処理して、ワタも抜いたし、きっとエビみたいな味がするはず。
しかし、サーカは俺の手を叩いて食材を遠ざけた。
「カマドウマはやめろ!」
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