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魔物の正体

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 トウスさんから情報を得て、俺は注意深く敵の状態を探る。

 魔法で吹き飛んだ疑似餌は、今は小さな肉片のようになってはいるが、宙に浮いていた。

「ん?」

 床に目をやると、爆発でできた煤が、敵の形を浮かび上がらせている。

「あの形、見覚えがあるな」

「あれが何か知っているのか? オビオ」

 トウスさんは床の形を見ても尚、その正体がわからないようだった。

「うん。魚のように見える」

「魚だって?」

 ピーターが驚く。

「じゃあ俺たちは、魚に大苦戦してたってこと? ここは水の中でもないのに?」

「そうだな。姿の見えない、平たいアンコウと戦っていた事になる」

「アンコウってなんだい?」

 ん? 世界のあらゆる物が集まるポルロンドの隣国に住んでいながら、アンコウの事を知らないのか、ウィングは。内陸育ちの他のメンバーはともかく。もしかしたら、アンコウは食べられていないのかもな。

「疑似餌で魚をおびき寄せて、上向きの口で獲物を捕まえる魚さ」

「だからメリィちゃんが消えたんだ!」

「ん? なんでサーカは幼児化してんだ? 一晩寝てマナが回復したはずだろ?」

「昨夜は【知らせ犬】等の警戒魔法が使えなかったからね。魔物が少なそうな階とはいえ、交代で見張りをしていたしね。皆ろくすっぽ寝てない。だからマナがあまり回復していないのだよ」

 ウィングの説明を聞いて、俺は「なるほど」と頷く。

「そっか。やっぱりおいしい食事と、十分な睡眠時間がないと駄目なんだな。皆悪かったな、中々戻ってこれなくて」

「そんな事より! メリィちゃんを早く助けて!」

 サーカが地団駄を踏んで急かし始めた。太ももをポカポカ殴るんじゃない!

「わかった! わかったって! とにかく敵を触って情報を得ないと! ウィングは【吹雪】の魔法で、敵の動きを鈍らせてみてくれ。トウスさんの話を聞いた限りでは、魔法レジスト率が高そうな敵だけど、魔法の副次的な効果は通用するはずだろ?」

「そうだね。君が飲み込まれないよう、頑張るよ」

 そうしてくれ。是非。

「じゃあいくぞ! 加速!」

 体が光って熱を帯びる。

 意識が研ぎ澄まされて、視界が少し狭くなったような気がするのに、周囲への感覚は広い。

 俺がダッシュすると同時に、ウィングは【吹雪】の魔法をアンコウに向けて放った。

 床の煤がハラリと崩れる。

 アンコウが俺を狙って、体を回転させようとしているのだ。

 しかし、そのスピードを氷魔法が鈍らせる。

「タッチ!」

 難なく、アンコウに触れる事に成功した。

 ――――平面アンコウ。名前はそのまんまだな。実力値56!! が、能力値がどれも一桁代だ。自分の特殊能力に慢心して、研鑽してこなかった結果だな。

 なになに? 二次元の魔物? 物理的に触れられないだと?

「嘘だろ・・・。じゃあどう戦えと? 魔法も効きづらい(そもそも魔法が尽きた)、物理攻撃も駄目となると、手も足も出ねぇ!」

 なら、こいつが諦めて去るまで待つか?

 いや、それは無理だ。平面アンコウは、俺達の時間感覚では動かないし、しつこい性格をしているとも情報にある。となると、狩場で獲物を狩り尽くすまで居座る可能性もある。

「何よりも、赤ちゃんの母親の魂がアンコウの中にある以上、ここから逃げるわけにもいかねぇ!」

 考えろ、オビオ! 何かアンコウの弱点があるはずだ!

 俺は部屋の壁際まで来て、身じろぎしないアンコウをじっと観察した・・・。

「やっぱ駄目だ。何も思いつかねぇ! これじゃあ、メリィを取り返すどころか、幽霊たちとの約束も守れない!」

 早くしないとメリィが消化されるかも・・・。

 俺はアンコウの周囲を回っている。動いていないと、もっと焦りそうだからだ。

「いいいいん!」

 うん? 赤ちゃんの怒声のようなものが、どこからか聞こえてきた。ムクの近くに赤ちゃんの霊の姿は見えねぇ。

「――――!!」

 それもそのはず、赤ちゃんは這いずって、アンコウに突撃していた。

 俺の後ろに並んでいたであろう霊達も、具現化してアンコウに突撃している。

「皆?!」

 多くの霊が、姿の見えないアンコウに吸い込まれていく。

「やめろ! 皆の魂がアンコウに吸収されるだけじゃねぇか!」

 俺は必死になって叫んで、霊を止めようとしたが誰も聞きやしない。

 アンコウはどんどんと霊を吸収していき、ついに・・・。

 ――――?!

「なんだ? オビオ! 何をした?」

 トウスさんが、アンコウを挟んだ向かい側で驚いている。

「俺は何もしていないよ! 見えただろう? トウスさん! 幽霊たちがどんどんとアンコウに入っていったのを!」

 なんと、アンコウの姿が見える!

 そして相変わらず平たいが、僅かに厚みというか、立体感を感じる。これは、きっと霊達が俺に与えてくれたチャンスだ!

「こっちに来てくれ! トウスさん! 俺に考えがある!」

「よしきた!」

 トウスさんはアンコウの上を跳躍して、こちら側に来る。一瞬アンコウの口に、空中で捕らえられるのではないかと思ったが、自分の厚み以上に、口を出すことは出来ないようだ。

 この魔物に飲み込まれた人は、穴に落ちるような感覚を味わうはず。

「アンコウをひっくり返すよ! トウスさん!」

「わかった!」

 ひっくり返して腹を上にして、素早く捌く! そしてメリィを腹から取り出す!

「せーの!」

 車のフレームのような、アンコウの縁を掴んで、持ち上げた。皮膚はブヨブヨしていて柔らかい。

 ――――バリッ!

「は?!」×2

 俺とトウスさんは、同時に驚きの声を上げてしまった。

 なんとアンコウの体が、アタッシュケースのようにパカっと開いたのだ!

「うわぁ! 気持ち悪い!」

 少し離れた場所で、サーカがロリボイスで喚いている。

 そりゃそうだろうな。内臓が見えているからよ。アンコウは即死した。

 薄べったい体の中で、メリィによく似た臓物が見える。

「胃袋にメリィがいるぞ!」

 俺は素早く包丁を取り出して、慎重に胃袋を割いた。

「ぷはぁ~!」

 メリィはピンピンしていた! 流石は英雄レベルに達した修道騎士。胃袋の中で、輝きの小剣を縦にして、息ができる空間を作っていたんだな。

 でも・・・。うはぁっ! スカートが溶けてる。草摺の間からパンツが見えているぞ。しかも濡れてスケスケ。

「よく無事だったな」

 ピーターが心配をするフリをして近づいてくる。勿論、メリィの股間をガン見だ。

「ナメクジの粘液が、胃酸を中和していたみたい~」

「一晩、ヌメヌメに苛まれた報いがあったね。フフフ」

 ウィングがそう笑いながら、念の為にアンコウの脳みそ辺りを、エペで突き刺している。

「そうだねぇ~。ヌメヌメに感謝!」

 間の抜けた返事を聞いて、俺は床の上に寝転んで一息ついた。

 はぁ・・・。それにしても、皆無事で良かった・・・。
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