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久々の幼児化

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 辺境伯側の勢いは止まらない。

 それは凍らせたステンレスボウルに入れた材料が、一気にアイスクリームになる時に似ている。

 非戦闘員である俺はアイスクリームを作りながら、館の厨房から窓の外を見た。

「お! サーカが戦いに参加している」

 サーカが味方の攻撃に魔法を被せて、連携技に繋げているのだ。どこのパーティのものだろうが、連携技の出だしを見計らって、強引に魔法をねじ込み、横入りしている。

 お陰でブーイングの嵐だが、彼女が気にすることはない。そのうち二つ名が、厚顔のサーカになりそうだな。

 何故、彼女が戦いに自主的に参加しているのだろうかを考える。

 思い当たることは一つ。俺達と違って、サーカは死んでいた間、経験値を得ていない。なので俺たちとの間に、レベル差がある。

 プライドの高い彼女の事だ。置いていかれるのが気に食わないのだろう。なりふり構わず戦っている。

 幸い、彼女は樹族の騎士という単職。盗賊兼メイジのピーターや司祭兼戦士のウィングと違って、経験値が等倍で入ってくる。今回の戦いで追いつけなくても、そのうちすぐに追いつくだろうさ。

 俺も料理人兼付魔師だが、生産職の者が戦闘で経験値を得ると倍になるというルールがあるらしい。最近知った。これまでも、妙にレベルが上がるなぁとは感じていたけども。

 誰がそんなルールを決めたのかっていうと、やっぱり神様だろうな。

 なので英雄レベル近くまで一気に上がった。

 悪魔キリマルとの戦いで、半端ない経験値を得たのが原因だ。

 あの戦いでは皆一度死んだのだけど、何故か経験値が入った。

 コックとしてのスキルはメキメキと上がったが、戦士の指輪を付けても、戦士としての力はからっきしだ。ただレベルの高いだけの素の戦士。大して強くない。

 とはいえ。今、アイスクリームを、僅かなミスもなく作れているのは、料理人スキルのお陰。

「それ、なあに? お菓子の匂い!」

 ムクがボウルを覗き込んでいる。

 ムクとは俺が昨日出会った少女に付けた名だ。無垢。死ななければいけないと思い込んでいる事以外、何も知らない地走り族の少女。

「これはアイスクリームだよ」

 丁度出来上がったアイスクリームを、小さなスプーンに一掬いして、ムクの口に運んだ。

 ムクは恐る恐る口を開けて、アイスクリームを食べる。

「これは・・・。あが・・。甘いだね! 甘いけど、お口の中がひんやりする」

「そうだね。甘くてひんやり。美味しい?」

「美味しい!」

 俺はアイスクリームの入った大きなボウルを亜空間ポケットに入れて、目の見えないムクを抱っこし、奥のテーブルに移動した。窓際のこの場所は、やや危険だし、少々うるさい。

 奥に移動しただけでも、随分と外の剣戟の音が小さくなった。

 テーブルの椅子を引いて、ムクを座らせ、彼女の前にガラス皿に乗ったアイスクリームとスプーンを置いた。

 音を立てて物を置いてあげると、彼女は目が見えなくても、自分でやるべきことを理解する。

 既に一口食べていて、冷たさに再び驚いていた。

「ひんやり!」

 二口目からは、じっくりと楽しむようにバニラアイスクリームを食べている。なので、ガラスの皿が温かくなり、汗をかいている。

 俺はそっと、【氷の手】で、ムクの皿を触った。うむ、霜が皮膚に張り付かない程度に、上手くに冷却できた。

 ――――バリーン!!

 いきなり窓を突き破って、外からサーカが吹き飛んできた。お前は香港映画のスタントマンか。

 仰向けに寝転がるサーカと目が会う。

「ふえぇ~ん」

 鎧や魔法のお陰でガラスによる負傷は無い。が、彼女は幼児退行していた。ははぁん? 早々に魔法を使い切りやがったな?

 幼女サーカは起き上がると、目に涙を溜めて俺に抱きついてくる。

「くまちゃ~~ん!」

「はいはい、くまちゃんだよ~」

「皆がね~、いじめるの~」

「そうだね~。戦いだからね~。敵は当然、攻撃してくるよね~」

 俺はサーカの頭を撫でながら諭す。

 はぁ、ムクも可愛いが、サーカも可愛い。

 とはいえ、ずっとこのままというわけにもいかない。

 ご都合主義漫画のようでなんだが、今食べようとしていたアイスクリームは、魔法点を一点回復する。そこにミトンの力の効果で、十点回復するというわけだ。

 ランダムに回復するので、狙った魔法の位階を回復する事はできないが、少なくともサーカの幼児化は治る。

「皆で一緒にバニラアイスクリームを食べて、元気になろうね~」

 いつもは半円形の目だが、今はそれがまん丸になったサーカが、嬉しそうに頷いた。

「わぁ~、くまちゃんが作ってくれるアイスクリームなんて、久しびりだ~」

ね。さぁ、お食べなさい」

 窓が壊れて、外の喧騒は丸聞こえだが、それでもここには平和な時間が流れる。

 三人で優雅に楽しむ、午後のティータイム。まるで都会の中にある――――、木漏れ日指す緑地の中にいる気分だ。

 直ぐ外ではヒドラ星人や、その支配下にいる者たちによる脅威が待ち受けているが、俺たちには関係ない。知ったことか。今はおやつタイムなのであーる。

 正直、この時間を邪魔する奴は、俺が覚醒化してでも排除する所存だ。

 まぁ覚醒化とかいってるが、実質的には加速化と呼んだほうが近いが、それでも一人二人くらいなら、追い出すくらいはできるかもしれねぇ。

「アイス美味しいね~」

「ね~」

 ムクは口の周りに沢山のアイスクリームを付けているので、俺はハンカチで拭き取ってあげる。

「ありがとう、オビオのお兄ちゃん」

「いえいえ、どういたしまして」

 このやり取りを見ていたサーカが、ムクに対抗するかのように、わざとアイスクリームを口の周りに付けた。

 そして一生懸命口を突き出して、とんでもない事を言う。

「くまちゃん、舐めて取って~」

 えっ?! おいおい。 えっ?!

 ゴクリ! おっと、喉が鳴った。いやいやいや、子供の前だぞ?

「・・・」

 やるべきか止めるべきかを、二秒ほど熟考した。

 勿論、舐め取りま~す!

 ――――ハムハム

 やっぱり舐め取るのは恥ずかしいので、馬が草をはむような感じで、俺は唇でサーカの口周りを綺麗にしていく。

 ――――ドカッ!

「いでっ!」

 頬にサーカのパンチがクリーンヒットした。

「おい!」

 やっぱりね! サーカの幼児化が終了してた。予想はしていたけど・・・。アイスクリーム塗れの彼女には抗えなかったんだ・・・。

「この、変態が!」

 これでいい・・・。これでいいんだ・・・。

「聞いているのか、オビオ!」

 彼女は顔を真赤にして、鬼のようだ。

 俺は頬にパンチを食らって腫れ上がり、瘤取り爺さんのようだ。

 怒りが加速してきたのか、サーカの頭からプスプスと湯気が立つ。

「オビッ! オビッ! オビチ! オブツ! ビチクソのくせに! ぶぶぶ無礼者が!」

「お前がやれっつったんだろ!」

「言うものか! クソムシが! 死ね!」

 クソムシ呼ばわり、ひでぇ・・・。あ、もう一発殴られた。暴力ヒロインは嫌われるんだぞ~。い~けないんだ、いけないんだ。

「もうすぐ夕方だ。皆の食事の用意をしておけよ」

 そう言ってサーカは厨房の勝手口から、外に出ていった。

 いや、外に出た後、再びドアから顔を出してこちらを見ている。

 俺と目が合うと、彼女は頬を赤くして、消え入りそうな声で言う。

「馬鹿オビオ・・・」

 そしてまた戦場へ戻っていった。萌え。
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