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謎の復活

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 めくれたスカートから見える、白い三角形を押しのけて、蛇はメリィの陰部に頭を押し付けた。

「だめぇ! そこは大事なところだから、人に見せちゃ駄目だって、オビオが言ってたよぉ? そんな事したら駄目なんだよぉ?」

 常にのんびりした声はどこにいったのか、メリィは貞操の危機に怯える。
 
 そこに、芋虫のように動き近づくウィングが、白蛇の視界に入った。

「待ちたまえ、君ぃ。ここにも司祭(兼戦士)がいるのに、なぜ修道騎士を選んだ?」

「馬鹿! 今、張り合っている場合か! なんとか捕縛の魔法から逃れる術を考えろ、ウィング!」

 こんな時でもライバル意識を出しやがって、とトウスは吐き捨てて、体に力を入れてみたが魔法は解けない。

「あっ! 駄目だって! 入ってきちゃヤダ!」

 ウィングを無視して、蛇は今度こそメリィに卵を産み付けるべく、頭を割れ目に押し付ける。

「ひえっ!」

 この状況で悲鳴を上げるはずのメリィが声を上げず、リュウグが悲鳴を上げた。

 奇妙な間に違和感を感じた白蛇は、ピタリと動きを止める。

「この音はなんだ?」

 背後からシュウシュウ、ジュウジュウと音がする。お湯が沸いたような、或いは焼けた鉄板に水をかけたような。

 オビオがいた位置からの異音に、白蛇は振り向かずにはいられなかった。

「――――!?」

 


「いててて」

 なんだろう? すんげぇ体が痛い。筋肉が剥き身のようになった感覚の後、意識がしっかりとしてきた。

 目も見えるぞ。視力の戻った目で自分の手を見ると、ばっちり治っている。よし!

 体に痛みがどこにもないことを確認して、俺はストロベリーブロンドの女騎士に声をかけた。

「なにやってんだ! おい! エッチなことは、いけないことだと思います!」

 メリィの股間に顔を埋めていたサーカ――――。いや、喉が異様に膨らんだ白蛇は、サーカの口の中から頭を出し、俺を振り返って見ている。

「ばかな!」

「馬鹿なとはなんだよ。なんとか、耐え抜いてみせたぜ!」

 俺はニカッと笑ってみせたが、仲間はアワアワするだけだった。

「なんだ? どうしたんだ? 何で俺を見て怯えてるの? リュウグ」

「あんた、酷い姿で死んでたんやで? ほんでオビオが死んだって思って泣いてたら、すごい速さで復活したんや! 骨とか肉とか皮膚とかがグチャグチャーって纏まって!」

「馬鹿言えよ。いくら俺のナノマシンが、回復に長けてるといっても、そんな化け物じみた性能はないって」

「だが、どう見ても死んでいたようだが・・・」

「どうやって地獄から生還したんだ?」

 ウィングとトウスさんが同時に喋ったので、俺はトウスさんの質問を優先して答えた。

「ん? そういえば・・・。なんか思い出してきた。よくわからないんだけど、太陽の見える宇宙でヤンスさんと話をしていたんだ。そしたら、急に『クハハ!』笑い声が聞こえてきて、その笑い声の主に『運命に抗え』って言われた。そしたら、ここにいた」

「その笑い声の主は、天使かなにかか?」

「いや、ハンマーみたいな頭をした黒い化け物だったよ。声はどこかで聞いたような・・・」

「ん~。トンチンカンな話でよくわからんが、オビオがアンデッドじゃないのならなんでもいい」

 アンデッドか・・・。だとしたら、現状知性が残ったままだし、リッチになったってことになる。でもそんな感じはしないので、俺は俺のままだ。

「皆、心配させて悪かったな!」

 今一度、爽やかに見えるよう努めた笑顔を皆に向ける。俺はアンデッドじゃないからな。

「とはいえ、まだ自体が好転したとは言い難い」

 ウィングの言葉に、俺はニヤリとした。

「いや。耐え抜いた時点で、俺の勝ちだ」

「?」

「白蛇を見ろ」

「・・・」

 白蛇は、辺りを見渡した後に、卵を吐き出して地面に落ちた。

「キュイー」

 仲間を呼んでいるのか、寂しそうに鳴く白蛇の横で、ふわりと崩れ落ちるサーカの遺体を抱き、俺は南無と唱えた。

「外に出て、長く苦しむよりはいいだろう。ごめんな」

 俺は魔剣蛇殺しで、白蛇の頭を貫く。

「ギョイー!」

 ヒドラ星人は、光の粒となって消えていった。地球人が死んだ時と消え方と同じだ。

「え? どういうことや?」

「おいおい、サーカの特異体質を忘れたのか?」

「あっ! そうか! そうやった!」

「そう。魔法を使い切ると、ってやつな」

「どういうことかね?」

 ブラッド辺境伯が興味深そうに、寝転んだまま俺を見上げた。まだ魔法が効いているようだ。

「このシルビィ隊の仮隊員は、魔法を使い切ると幼児退行してしまうのです」

「ほう。その特性を、あの蛇が引き継いでしまった、ということか」

「ええ。本来あの蛇星人は、単体でいることが珍しく、常に仲間と意識を共有して過ごします。なので問題があれば仲間と相談し、行動に移す慎重な種なんです(今頃、ヒドラ星人の情報が流れてきやがった)」

「が、単体となってしまった」

「はい。更に言えば、グループ全体の趣味が、ゲームやギャンブルだった。そこが敗因だったのです」

「なるほど。ん? ではオビオ君の仕掛けた勝負、蛇人が勝とうが負けようが、君の勝ちではないか」

「はい。その通りです。テデーン!(実は意識してそうなったわけでなく、結果的にそうなった。偶然。ウヒヒ)」

「わぁ! オビオ賢い!」

 【捕縛】が解けたリュウグが手をパチパチと叩く。

「上位鑑定の指輪を持つオビオならではの賭けだな」

 トウスさんも魔法が解けたのか、立ち上がってニィと牙を見せて笑った。

「今度こそ、戦いは終わりでいいのかね?」

 女になったままのウィングは、立ち上がって尻の汚れを払う。

「あぁ。ヒドラ星人の種が、この地下牢で生きていない限り」

「大丈夫や。種があるような気配はないで」

 リュウグがゴーグルを装備して隅々まで見ている。それ体温感知でもできるのか?

「ふぅ~。あぶなかったぁ」

 メリィも立ち上がる。本当に危機一髪だったな。相手がなんであれ、操を失うと修道騎士ってのは、どうなってしまうのだろうか? 今度聞いてみるか。

「取り敢えず・・・」

 そう言って立ち上がった辺境伯だが、自分の膝から下がない事にショックを受けたのか、「フーッ」とため息を付いて心を落ち着かせた。
 
「上の階に向かおう。皆、疲れたんじゃないかな? 客までお茶と菓子でも出そう」
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