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疑惑を解くには
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「ノームに対する裁量権を持つ国は、ノーム国以外にない。なので私にも裁量権は当然ない。が・・・」
言い訳するつもりはないのか、ゴーグルを外してテーブルに置き、ブラッド辺境伯は部屋をぐるりと見渡した。
部屋の内と外に私兵を起き、ドアの前に立たせているのだから、軟禁しているも同然だ。
裁量権はないとは言いつつも、力を行使しているのは間違いない。辺境伯は、この不正を了承しろと言わんばかりの表情でリュウグを見つめている。
「驚きはせんよ。樹族は大体こういう事するもんや。オビオたちをどこにやったんよ!」
小さなノームの娘は、怖気づく事なく腰のラッパ銃に手を置いた。今の状況、ラッパ銃は何の役にも立たない。が、これはノームが本気の姿勢を示す行為でもある。
「それを教えることはできないな」
「なんでよ! オビオは私の恩人なんやで! さっさと返して! はよ!」
矢継ぎ早に文句を言うノームに、ブラッドは少々苛立った。
「こちらにもそれなりの情報があるのだよ」
「なんの? 誰から? ソースの根拠はあるん?」
「少しは黙れ」
ブラッドはリュウグに【沈黙】を唱えた。その効果は、一緒になって騒いでいたリュウグの両親にも及ぶ。
部屋は、私兵の鼻息が聞こえる程静かになった。
「お前たち、『戦うコック団』の噂はたまに聞く。人修羅との戦いは有名だが、そこからしてまず怪しい」
声が出ないので、リュウグは騒ぐのを止め、椅子に座って大人しくなった。
その彼女の頭から、ゴーグルを優しく奪い取り、自分のゴーグルと見比べながらブラッド辺境伯は続きを喋る。
「戦うコック団が、人修羅を倒せる確率はかなり低い。エリート種である我々も、稀に霧の向こうからやって来る人修羅と対峙することがあるのだ。あの圧倒的な機動力と手数の多さには辟易する。しかも一撃一撃が即死級。気の休まる時などない。フラックが可愛く思えるほどじゃ」
リュウグのゴーグルを見たブラッドは、様々な機能が詰め込まれていそうなそれを分解したくなったが、とどまる。「ふん、こんなも・・・」と悔しがってから、持ち主に返した。
「我々でも死者が出るような上位悪魔を、どうやって倒した?」
パチンと指を鳴らしてリュウグの魔法を解くと、ブラッドは腕を組んで彼女を見下ろす。
「オビオの話では、キリマルは、まともな人修羅やなかったみたいや。主の元に帰りたがってた」
「とはいえ、悪魔がそうすんなりと消えてくれるとは思わんが」
「知らんよ、そんな事。私はそこにおらんかったし。・・・ところで、なんでそんなに懐疑的なの?」
「なぁに。この疑い深さは、別に君等に限ったことでもないさ。怪しい外国人は片っ端から尋問する」
「樹族国って確か、最近になって拷問の類を禁止したよね?」
「もちろん、シュラス国王陛下のご意向に沿って、拷問などしない。尋問をすると言った。少々記憶を探らせてもらう程度なんじゃが、君らのパーティは全体的に能力値が高いせいか、読心の魔法を、いとも容易くレジストしてしまうのだ」
「主にオビオやろ? 結構な確率で魔法をかき消すし」
「そうじゃ。基本的に素の状態で魔法無効化能力を持つ者などいない。大概は、高価な魔法防具で身を固めた者だけが、その恩恵を受けられる。例外は現人神ヒジリ様のみ」
「魔法をかき消すからって、怪しい者とは限らんやろ。それにオビオはブラッドさんに、魔剣蛇殺しを返しに来ただけや!」
「ほう? 我がご先祖様の有名な魔剣を? 何度も【物探し】の魔法で調べたが、見つからんかったのにのう」
「地下墓地でピーターが偶然見つけたんや! オビオじゃなくて、ピーターを尋問したらええやんか!」
「残念ながら、かの小賢しい地走り族はさっさと逃げてしまった。逃げる理由があったのだろう」
「そんな事、知らんわ!」
「彼は神聖国モティと関わりがあるから、逃げたのではないかな?」
「――――!」
邪悪なる、という二つ名を持つ彼ならやりかねない。リュウグの顔から血の気が引く。
彼ならパーティメンバーの情報を金に変えていてもおかしくはないのだ。アライメントが、カオティック・イービルの彼なら!
混沌を好み、自分の利益を最優先する。オビオがなぜ彼を追い出さないのかリュウグにも分からない。
(オビオは、お人好し過ぎるんや)
オビオには欠点が多い。女に弱い事や優しすぎる性格。料理を褒められると途端に心を開く面など。
「神聖国の暗殺者に狙われているのは、なにもヒジリ様だけじゃあない。ワシも彼らにとっては、目の上のタンコブなんじゃよ。これまで何度、刺客に殺されそうになったか」
「だったら、尚更! オビオはブラッドさんと同じ立場なんやで! どこにおるんよ! 殺したりしてないやろな!」
「無論、殺したりはせん。ただ会っていきなり、武器を無限鞄から出そうとしたのが悪かった」
「何度も言うけど、オビオは剣を返そうとしただけや!」
「そうであればいいが。こちらも用心して生きなければならない身。たまの気晴らしに外に出てみれば、剣を返しに来たオーガと偶然出会った、などという話が信じられると思うか?」
「実際そうなんやからしょうがないやろ。あかん、堂々巡りや!」
リュウグは肩をすくめてから腕を組み、このわからず屋の頑固爺を説得する難しさを感じ始めていた。
言い訳するつもりはないのか、ゴーグルを外してテーブルに置き、ブラッド辺境伯は部屋をぐるりと見渡した。
部屋の内と外に私兵を起き、ドアの前に立たせているのだから、軟禁しているも同然だ。
裁量権はないとは言いつつも、力を行使しているのは間違いない。辺境伯は、この不正を了承しろと言わんばかりの表情でリュウグを見つめている。
「驚きはせんよ。樹族は大体こういう事するもんや。オビオたちをどこにやったんよ!」
小さなノームの娘は、怖気づく事なく腰のラッパ銃に手を置いた。今の状況、ラッパ銃は何の役にも立たない。が、これはノームが本気の姿勢を示す行為でもある。
「それを教えることはできないな」
「なんでよ! オビオは私の恩人なんやで! さっさと返して! はよ!」
矢継ぎ早に文句を言うノームに、ブラッドは少々苛立った。
「こちらにもそれなりの情報があるのだよ」
「なんの? 誰から? ソースの根拠はあるん?」
「少しは黙れ」
ブラッドはリュウグに【沈黙】を唱えた。その効果は、一緒になって騒いでいたリュウグの両親にも及ぶ。
部屋は、私兵の鼻息が聞こえる程静かになった。
「お前たち、『戦うコック団』の噂はたまに聞く。人修羅との戦いは有名だが、そこからしてまず怪しい」
声が出ないので、リュウグは騒ぐのを止め、椅子に座って大人しくなった。
その彼女の頭から、ゴーグルを優しく奪い取り、自分のゴーグルと見比べながらブラッド辺境伯は続きを喋る。
「戦うコック団が、人修羅を倒せる確率はかなり低い。エリート種である我々も、稀に霧の向こうからやって来る人修羅と対峙することがあるのだ。あの圧倒的な機動力と手数の多さには辟易する。しかも一撃一撃が即死級。気の休まる時などない。フラックが可愛く思えるほどじゃ」
リュウグのゴーグルを見たブラッドは、様々な機能が詰め込まれていそうなそれを分解したくなったが、とどまる。「ふん、こんなも・・・」と悔しがってから、持ち主に返した。
「我々でも死者が出るような上位悪魔を、どうやって倒した?」
パチンと指を鳴らしてリュウグの魔法を解くと、ブラッドは腕を組んで彼女を見下ろす。
「オビオの話では、キリマルは、まともな人修羅やなかったみたいや。主の元に帰りたがってた」
「とはいえ、悪魔がそうすんなりと消えてくれるとは思わんが」
「知らんよ、そんな事。私はそこにおらんかったし。・・・ところで、なんでそんなに懐疑的なの?」
「なぁに。この疑い深さは、別に君等に限ったことでもないさ。怪しい外国人は片っ端から尋問する」
「樹族国って確か、最近になって拷問の類を禁止したよね?」
「もちろん、シュラス国王陛下のご意向に沿って、拷問などしない。尋問をすると言った。少々記憶を探らせてもらう程度なんじゃが、君らのパーティは全体的に能力値が高いせいか、読心の魔法を、いとも容易くレジストしてしまうのだ」
「主にオビオやろ? 結構な確率で魔法をかき消すし」
「そうじゃ。基本的に素の状態で魔法無効化能力を持つ者などいない。大概は、高価な魔法防具で身を固めた者だけが、その恩恵を受けられる。例外は現人神ヒジリ様のみ」
「魔法をかき消すからって、怪しい者とは限らんやろ。それにオビオはブラッドさんに、魔剣蛇殺しを返しに来ただけや!」
「ほう? 我がご先祖様の有名な魔剣を? 何度も【物探し】の魔法で調べたが、見つからんかったのにのう」
「地下墓地でピーターが偶然見つけたんや! オビオじゃなくて、ピーターを尋問したらええやんか!」
「残念ながら、かの小賢しい地走り族はさっさと逃げてしまった。逃げる理由があったのだろう」
「そんな事、知らんわ!」
「彼は神聖国モティと関わりがあるから、逃げたのではないかな?」
「――――!」
邪悪なる、という二つ名を持つ彼ならやりかねない。リュウグの顔から血の気が引く。
彼ならパーティメンバーの情報を金に変えていてもおかしくはないのだ。アライメントが、カオティック・イービルの彼なら!
混沌を好み、自分の利益を最優先する。オビオがなぜ彼を追い出さないのかリュウグにも分からない。
(オビオは、お人好し過ぎるんや)
オビオには欠点が多い。女に弱い事や優しすぎる性格。料理を褒められると途端に心を開く面など。
「神聖国の暗殺者に狙われているのは、なにもヒジリ様だけじゃあない。ワシも彼らにとっては、目の上のタンコブなんじゃよ。これまで何度、刺客に殺されそうになったか」
「だったら、尚更! オビオはブラッドさんと同じ立場なんやで! どこにおるんよ! 殺したりしてないやろな!」
「無論、殺したりはせん。ただ会っていきなり、武器を無限鞄から出そうとしたのが悪かった」
「何度も言うけど、オビオは剣を返そうとしただけや!」
「そうであればいいが。こちらも用心して生きなければならない身。たまの気晴らしに外に出てみれば、剣を返しに来たオーガと偶然出会った、などという話が信じられると思うか?」
「実際そうなんやからしょうがないやろ。あかん、堂々巡りや!」
リュウグは肩をすくめてから腕を組み、このわからず屋の頑固爺を説得する難しさを感じ始めていた。
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