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怒れる料理人

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 サーカは片方の小鼻の横にほうれい線を作って冷めた目をし、言い放つ。

「よくもこんなまずい料理を出して料理人を名乗れるな?まずこの川魚のトマト煮込み。生臭くて食えたものじゃない。私はアルケディアの有名店を食べ歩いているのだ。この店の料理はこれまでの中で一番不味い料理だと言える」

 長髪オールバック樹族をそう挑発してサーカは横を向いて料理の乗った皿を脇に退けた。

「なにィ!」

 怒髪天を衝く勢いで怒る偽雄山を見てサーカの目が喜んでいる。

 こいつほんと人を煽るのが好きだよな・・・。

 偽雄山は突き出した顎を撫でながらサーカを見据えて言う。

「アルケディアで食べ歩いていると言ったな?私はアルケディアの有名料理店の主とは知り合いが多い。具体的にどの店で何を食べたか教えてもらえるかな?騎士殿?」

「うぐっ!」

 サーカは言葉に詰まる。

 こいつ嘘こきやがったな?俺と出会う前はそこまで金も持ってなかっただろうし、食べ歩きをする余裕なんてなかったはずだ。

 それにそもそも・・・味覚が鋭いとは言い難いサーカさんがグルメ家だとはこれっぽっちも思ってませんでしたとも。

「ふにーん」

 だから口を∞にして俺を困った顔で見るんじゃない。サーカは舌戦においての瞬発力は高いが継戦能力は低い。

 仕方ない。助けてやるか。

「まぁでもサーカの言う通りですよ?あなたの料理は食材の下処理をしてないから臭いんです。えーと・・・?ミスター?」

「ユーザイン・カイバーだ!有名な私の名も知らんとは流石に阿呆のオーガだけはるな!私は美食家でありレストラン経営を生業としている」

 名前もちょっと似てるやん。海原雄山に・・・。

「下処理というが、そんな事をすれば食材の風味を損なうだろう!」

 樹族に多い緑色の髪、そして如何にも美食家をしてますといった感じのオールバックのユーザインは腕を組んだ。

「まぁ確かに灰汁も風味の内と言う人もいますが、それにしてもこれは酷いですよ」

「貴様!動物並みの味覚であるオーガの癖に生意気だぞ!生肉を喜んで食うお前らに料理の何が解る!」

「いや、俺も料理人なんで解りますよ?」

「ハッ!貴様が料理人だと?いいだろう。では料理対決でどちらの味覚が優れているか決めようではないか!」

「そりゃ構いませんが、俺が勝てば何か良い事あるんですか?」

「まぁオーガ如きに負ける気はしないがな。・・・そうだな。勝てば私の店を貴様に譲ろう!」

「(要らねぇ)いいですよ!で、食材はなんにしましょうか?」

「鹿肉と野菜の料理だ。野菜は何でもいいだろう。厨房は貸してやる。一時間後にこの店で勝負をする。ジャッジメントをするのはその時の居合わせた客だ。勿論どちらがどちらの料理かは解らないようにして食べさせる」

「いいでしょう。では本当に美味しい料理というものを教えてあげますよ。一週間後にもう一度この店に来てください」

「一週間後?この店に来る?どういう意味だ?」

「おっと!一週間後ってのは関係ありません、忘れて下さい。では一時間後!」

 やべぇ。あまりにワクワクする展開に美味しん〇の山岡みたいなセリフを言ってしまった。

「じゃあ食材を買いに行くか」





 というわけで市場にやって来た。サーカ以外のメンバーは料理の事はこれっぽっちも解らないので宿屋で休んでいる。

「で、なんでお前がついてくるんだ?」

「ふん。別に」

「さてはユーザインを焚きつけた責任を感じているとか?」

「まさか!」

「じゃあなんでだよ」

「オビオと一緒にいたかったから!」

 ―――トゥクン―――

 俺の胸が高鳴る。

「えーーー!も、もう一回言いてくれ!(なんだ?!急にサーカがデレた!)」

「オビオと一緒にいたかったの!」

 俺の腕に抱き着いてきたサーカは目がうるうるしてて可愛かった。そのしっとりとした唇にチューをすべきだと俺のリビドーが叫ぶが、それをそっと心の奥底に押し込め一考する。

  待てよ?この胸キュンサーカは罠の可能性もある!こいつ、俺を弄んで弱みを握るつもりだ!

 と怪しんだが、漂ってくるワインの匂いで色んな考えが萎んで消えた。こいつ、舌戦で負けて恥をかいたからワインをがぶ飲みしたな?

「んだよ、酔ってんのかよ!いつの間に酔っぱらう程飲んだんだ!俺の”トゥクン“が無駄になったろうが!お前、短命種換算だと俺たちと同じ年齢なんだろ?酒なんか飲んでいいのか?」

「樹族は生まれて18年目にはお酒が飲めるのだッ!特別なのだぁ~!」

 なんだよ、バカボンのパパみたいな口調になりやがって。

 しかし厄介だぞ。時間が1時間しかないのに酔っぱらいを連れて歩く余裕なんてない!

「宿屋に帰れよ!」

「いーやーだー!オビオ、チューして!」

 くそがー!上目遣いで俺を見るんじゃねぇ!酔っぱらいが!でも・・・。

「チュ、チューしたら帰るか?」

「いーやーだー!かーえーらーなーい!オビオと一緒がいーい!」

「もうなんなんだよ!」

「はやくぅ!チューして!」

 通りを歩く人々がクスクスと笑いながら俺たちを見ている。バカップルだと思われてんだろうな。悪い気はしねぇが。

 口を3にして待つサーカを見ていると、心臓がドックンドックンと煩い。

 こんなチャンスねぇぞ。チューするか?やっちまえ、オビオ!今なら「嘘でしたー!残念でしたー!エロ馬鹿オビオ!死ねぃ!」と言われて脛を蹴られるような事はない!・・・っはず!何せサーカは酔っぱらっているのだからな!

 俺も口を3どころかヒョットコみたいにしたところで足元で声がした。

「天下の往来でなにしとんねん・・・」

 チィー!リュウグか!両親もいるじゃないか!

「いや、サーカが酔っ払っててよ・・・。絡まれて大変だったんだわ」

「へー、サーカちゃんが酔っぱらってることを良い事になんか変な事しようとしてたんやないかな~?オビオは~」

 黒目をジト目にして俺をリュウグは睨んでいる。

 俺は口をへの字にして斜め上を見て黙り誤魔化した。誤魔化しきれないだろうけども。
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