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異世界人の住む塔 2

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「ほう。それは知らなかったな。レッサーオーガの多くが異世界人だったのか。前に言っていたニンゲンというやつだな? 正直その話は気にも留めていなかったが・・・」

 俺は忙しく鉄板や網の上の肉や野菜を焼きながら、レッサーオーガが何者かなのかを、サーカに話した返事がこれだった。

「お前・・・。いつも俺の話を、話半分ぐらいで聞いてそうだもんな」

 用意したサラダを食べるサーカは、今の話ですらちゃんと聞いているか怪しい。俺は肩をすくめてから、時々手伝ってくれている異世界人たちの手元を見る。

 単純な調理器具なので誰でも問題なく操作できるが、料理をしたことがないのか焼き加減などが解らず焦がしてしまう子もいる。

 でも皆テンション高くて賑やかだ。焼肉パーティでこんなに喜んでくれるのは嬉しい。性欲に負けた、のぶすけ達も今は肉を焼く事を楽しんでいる。

 セイヤ、ひろゆき、のぶすけは焼き肉パーティ前に、リュウグ達に謝りにきた。しかし言葉が通じないので、俺が通訳してやったのだが、彼らの謝罪内容は要約するとこうだ。

 「若気の至りだった、ごめんなさい」

 詳しくは同じ異世界人の女子に手出しをしたら、後々気まずいので現地人を襲おうと思ったらしい。とても許せる話じゃないが、ある意味、襲った相手がうちのパーティで良かったかもしれない。一般的な冒険者が相手だった場合セイヤたちはレッサーオーガとして殺されていただろから、改心するチャンスはなかった。

 リュウグ達だって若気の至りなんて言葉だけじゃ許さないだろうと思い、「リュウグ達が魅力的過ぎたのが悪い」とおべんちゃらを勝手に追加すると、彼女らも悪い気はしないのか、自慢げな顔でのぶすけたちを許した。

 謝罪を受け入れる条件として、塔内のマジックアイテムをパーティメンバーが一人一つずつ選べることになっているので、それも許す材料になっているのだと思う。

 マジックアイテムはどれも滅茶苦茶高価だ。俺の戦士の指輪は言うまでもなく、メリィが持つ輝きの小剣も家が何件も建つほどではあるが、修道院が所有するものなので彼女自身はマジックアイテムを持っていない。

 なのでマジックアイテムが貰えると聞いてすごく喜んでいた。輝きの小剣を失くすと、一大事なのでいつも冷や冷やしながら使っていたらしい。代わりの魔剣か聖剣があるといいなぁ~、と都合のいいことを考えてホクホク顔だった。

 俺の横で皿を持って肉を待っているトウスさん、が異世界人たちの職業を訊いてきた。まだ17,8歳の学生だというと、男子が8人、女子が7人もいて、その中に狩人や戦士がいないことに驚いていた。

「これぐらいの年齢だったら、もう自分の進むべき道が決まっているはずだろうに、その訓練をしてこなかったのか・・・。参ったな・・・」

 俺がパーティメンバーを呼んだのは、ここで生き抜く術を異世界人に教えてほしかったからだ。トウスさんもそれを察していたのか、どう訓練すべきか悩んでいる。

「たった一日で、言葉の通じないニンゲンとやらに生きる術を教えるのか・・・。うーむ」

 なにせ皆、日本の都会に暮らししてたような連中だしな・・・。しかも厄介なことに、彼らは魔法の一切を自動的に拒絶する。魔法による恩恵がゼロなのだ。

 逆を言うと魔法による悪影響もないという事なのだが、なぜそうなのかは解らない。メリィ曰く、これは現人神の大神聖と同じ特性なのだそうだ。

 なので弓の作り方や罠の作り方を魔法水晶に録画して、それを見て学習してもらおうかと思ったが、俺はそもそも魔法水晶を発動できない。

(なんか代わりになりそうな物、ないかな?)

 皆に皿を配りながら、女子たちがスマートホンの電池残量を気にしている様子を何度か見た。

(スマートフォンか・・・。太古の通信機器。ん? そういや確か、撮影もできたよな?)

 俺は鉄板やバーベキューコンロから焼けた肉を奪い合う男子を後目に、女子のグループに話しかけた。

「なぁ、それってスマホってやつだろ? ちょっと見せてよ」

 黒髪ストレートの清楚系女子は、俺に怯えながらもスマホを渡してくれた。

「あの・・・。あまり電池残量がないから・・・。そこに家族の写真があって・・・。その・・・時々見たいから・・・」

 うっ! 俺の目頭が熱くなる。

 そっか・・・。家族と離れ離れになって、こんな死と隣り合わせの世界にやってきたんだもんな・・・。なんとか帰してやりたいけどさ・・・。よし、後でこの塔の主の書物を探ってみるか。異世界人召喚に関する研究内容があるかもしれない。

「大丈夫。俺、これを充電できるやつ持ってるから」

 珍しくナノマシンが仕事をしなかったのか、鼻から出てくる涙を啜って、俺は亜空間ポケットに手を突っ込んだ。

「地球破壊爆弾~! じゃなくて万能充電器ー!」

 シュポン! シパシパシパリン! と脳内で某猫型ロボットが道具を出した時の音がなる。水田わさ〇時代のドラ〇もんの効果音だ。

 こいつらは二十年後にドラえも〇の声優が水田わ〇びから、井澤詩〇に交代するとは夢にも思っていないだろうな。どうでもいいか。

 俺はマウスパッドのような充電器の上にスマホを乗せた。どんなバッテリーだろうが一瞬で充電してしまうアイテムだ。どういう仕組みかは知らないが、バッテリー自体の消耗も回復して新品同様にする。

「ほら、これさえあれば充電し放題だぞ」

「え! 嘘! すごい!」

 女子高生は喜んでスマホで家族の写真を見ている。よかった。

 この充電器は”昔を体験しよう!“ってプログラムで貰ったんだけど、よくよく考えたら、俺の時代ではろくに使う機会がなかった。

 だって俺の時代は、バッテリー自体がないのだからな。というか物理的な携帯デバイスを持つ必要がなかった。この星に来て使った翻訳機も、一種のジョークアイテムみたいなものだし。

 女子高生が嬉しそうにして、他の女子に充電できることを教えに行ったが、ギャル系の女子に冷めた目で見られていた。

「はぁ? 充電しても家族と連絡とれねぇし、インターネット検索もできないから意味ないじゃん。それどころか仲間同士でも連絡できないし」

 生意気な黒ギャルだな~。だったら・・・。

 俺はもう一度、亜空間ポケットをいじる。

「脳波通信機ー!」

 本来、遠く離れたペット同士でコミニュケーションが取れるように開発された通信チップなのだが、俺は黒ギャルと清楚系女子のスマホの裏に小さなチップを張り付けた。

「会話してみ」

「こんなので、会話できるわけないじゃん。あんたアホなの?」

「いいからしてみ」

 疑いの目を向ける絶滅系黒ギャルに、俺は自信満々の顔でそういった。

「バカバカしい・・・。もーしもーし! 聞こえてますか~?」

 彼女がだるそうにスマホに話しかけると、スマホから「はーい」と清楚系の女子の声が聞こえてきて驚く。チップは装着したものに合わせて最適化するので、スマホに付けた場合、脳波を変換して音声にする。

「え! うそ! どうなってんの? これ? マジ川マジの助? 超ウケるんですけど」

 お前の変な言葉の方が超ウケるんですけど? 誰だよマジ川マジの助って・・・。

「それは本来ペットの頭に付けるものなんだけど、付けたペット全員の意識が繋がっちゃうという不良品なんだわ。でもスマホに付けることで、スマホに耳を当てている者だけが会話をできるようになる。意識を繋げたい相手の顔を思い浮かべただけで、その人のスマホの着信音が鳴る。ただし、スマホに耳を付けている人全員に会話内容が漏れるので悪口は厳禁な。あと皆が一斉に喋ると、なにがなんだか分からなくなるから注意だぞ」

 俺は使い方を教えながら、人数分のチップの入ったビニールの小袋を黒ギャルに渡した。

「すげぇ助かる! ありがたみー! あんた何者だよ、マジウケる」

 別にウケるようなことはなんも言ってないんだけどな・・・。

 それにしても地球にいた時に、不良品回収のボランティアをやっててよかった。あの時、発明者に少しくれと言って貰っといたのも正解だったな。ここで役に立った。ほかにも小さなガラクタは結構入ってる。後々役に立つかもしれないな。俺、マジドラ〇もん。チョベリグ―(死語)。

「うめぇな! ほんとオビオと一緒だと、美味い食いもんに事欠かないぜ」

 俺がスマホを使えるようにしている間に、トウスさんは異世界人の真似をして、網から肉を取って食べていた。箸を使えないので、爪に肉を引っかけて口に運んでいる。

 美味いか? 軽く塩しか振ってないんだが・・・。

「トウスさん、そこのタレを付けてみ。もっと美味しくなるから」

 ニンニクや生姜、醤油、すり下ろしたリンゴなどで作ったタレに、肉を付けて大きな口へ放り込むと、トウスさんは目を見開いた。

「おほ! これはいい! 最初薄っぺらい肉でチマチマしてんなって思ってたんだけどよ、この薄さだと焼けるのが早いし、何よりタレによく絡む。このタレ、色んな薬味の味が、肉の脂っこさを抑えて旨味を引き立ててやがるんだわ! こんな美味い食べ方があったなんてよ! 手が止まらねぇ!」

 あぁ・・・。モリモリとお肉が減っていきます・・・。野菜も食べてよ、トウスさん・・・。

「白飯食いてぇ~!」

 遠くでセイヤが堪らずそう叫んでいる。周りの男子もウンウンと頷いていた。解る。白飯に焼肉を乗せて食うのは美味いもんな。

(日本のお米、あるんだけどな・・・。試練の塔で大盤振る舞いしたせいで残りが少ないんだ。こればっかりは分けてやれん。俺も時々無性に米が恋しくなるんだ。許せ)

 樹族国で売っている米は不味い。滅多に売ってない上に、あってもパサパサしてる。時々小石が入っていて、そうやって重さの嵩増しをしてる悪い商人がいるので、買う気にもならない。

 などと考えていると、ピーターが近くにいた女子高生の短いスカートに手を突っ込んでいた。

(あんのボケ! やっちまったなぁ!)

 これで、のぶすけ達の罪と相殺して、マジックアイテムが貰える件は無しになるかもしれない。はぁ・・・。

「なに? 僕。手が寒いの?」

 女子高生はしゃがむと、ピーターの手を取って握りにっこりと笑った。

(そっか! ピーターは地球人からすれば子供にしか見えない! しかも地走り族は皆、可愛らしい顔をしている!)

 が、これ以上放置するとあいつは絶対に調子に乗る。

「すいません、ピーターが変なところ触っちゃって。これ! ピーター! ダメでしょ! ちゃいよ! ちゃい!」

「あぶぶぶ」

 何が「あぶぶぶ」だ。お前はそこまで赤ちゃんっぽくはないだろ。この自称11歳が!

「めっ! めっ!」

 俺は指でバッテンを作ってピーターに注意した。奴の手は明らかにおっぱいを狙っていたので、ここで食い止められて幸いだ。

「いいんですよ! うふふ。可愛い子ですね」

 誤魔化せた・・・。お前なぁ、ひろゆき達の前じゃイキリまくってたんだから、赤ちゃんの真似なんかしてもすぐにばれるぞ!

 ピーターを抱えて、俺は皆から少し離れた木の下へと連れていき、腹に軽くグーパンを何度か食らわせる。

「いい加減にしてくれよ、痴漢のピーター君。次から次へと。まだ温泉の件でサーカ達を誤魔化せたかどうかも怪しいのに新たな火種を作るな!」

「うるせぇ! 俺は火種どころか、金玉で子種が作られまくりなんだよ! なんだよ、あいつら! 短いスカート穿きやがって!」

 はぁ、邪悪なるピーター君は、本当に欲望に忠実だな。

「ところで温泉の件、どうやったんだ?」

「知りたいのか?」

「ああ。なんか胸がもやもやするし」

「まずお父さんみたいなトウスさんを、マタタビで無力化するところから俺は始めたんだ。彼がいると、すぐに彼女たちが全裸だってことを本人たちに言ってしまうだろ?」

 そんなところから計画を練っていたのか、こいつは・・・。でもトウスさんのクネクネはなんか可愛かったな。ウフフ。

「で、俺は【幻】って魔法を使って、彼女たちに水着を着たつもりにさせた。この魔法は使いどころが難しくてさ。相手が今からする行動をやったと思い込ませる魔法だから、使うタイミングが重要なんだよ」

 本来なら戦場で逃走や、不意打ちに使う魔法なんだろうな・・・。

「よくレジストされなかったな・・・」

「まぁ女子たちは誰も気を張ってなかったからな」

「なるほどなぁ~。男子ってアホやな~」

 げぇー! 茂みの穴からリュウグの顔が! 気配を消そうとしたピーターの手を、俺はわっしと掴む。

「おい、逃げるなよ!」

 こいつは日に日に気配を消すのが上手くなってるな。そのうち陰に潜まずとも、目の前でスーッと消える事ができるようになるんじゃないか?

「黙っといてあげてもええで?」

「へ?」

 思わぬ提案に俺たちは驚いた。

「そやな~。ピーターは口止め料として、金貨一枚でええわ」

「わぁ! 高い!」

「サーカちゃんにボッコボコにされるよりはええやろ。メリィちゃんも普段はおっとりしてるけど、怒ったら嘘笑顔でニコニコしながらどついてくるで?」

 メリィはそんなことしない! それにしてももうサーカと名前で呼び合う仲になっていたのか、リュウグは。いつの間に・・・。

「くそ! わかったよ! じゃあ賠償金はオビオと折半だ! お前も共犯なんだからな!」

 ピーターが邪悪な顔を俺に向けてくる。巻き込む気満々じゃないか・・・。

「俺を脅して共犯にしたのは、お前だろ!」

 ピーターの目の前でデコピンをちらつかせると、ピーターはハフハフ言いながら目を瞬かせた。

「まぁ待ちなさいって。賠償金は主犯のピーターだけや。オビオは他の事をしてもらうで」

 ひゃっはー! 邪悪なるピーター君、ざまぁ! 俺の懐は痛みませーんだ!

「料理か? 俺に出来る事はそれぐらいだぞ。美味しいデザートを作ればいいか?」

 俺は腋をワキワキしながらリュウグに顔を近づけると、彼女は美味しいスイーツを想像したのか、涎を手の甲で拭いた。

「うっ! それも魅力的やな・・・。でも私にとって魅力的な事はそれやない。まぁ時が来たら言うわ」

 んだよ・・・。なんか怖いな・・・。

「ほな、食事に戻るわ」

 そういってスキップして去っていくリュウグの小さな背中が、不気味に笑っているように俺には見えた・・・。
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