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貧しい食材でも

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 食料の買い出しに寄った名もなき村につくと、オーガやノームが珍しいのか人だかりが周りにできた。

「わぁ!オーガだ!大きい!騎士様のオーガなの?」

 子供がサーカに尋ねると王国近衛兵騎士団独立部隊の仮隊員は躊躇なく頷いた。

「まぁそんなところだ」

 さくっと嘘をつくなよ。騎士の典範に嘘をつくべからず的な文言がありそうだが?

「ノームも初めて生で見た!魔法水晶で見たのと同じだ!」

 リュウグはベタベタ触ろうとする子供から身を守るために斥力フィールドを発生させている。地球のものと違って跳ね返す力が弱いので子供たちは余計に面白がって彼女に近寄ろうとしている。逆効果だな。

「あーもう!あっちいき!私、子供嫌いやねん!」

 まぁリュウグは自分と同じくらいの背丈の地走り族の子供や獣人の子供から逃げ回っている。

「あはは、鬼ごっこが始まったぁ。鬼ばかりの鬼ごっこぉ」

 メリィがリュウグを見て笑っている。うちのパーティの女子たちは昨日のベッドでの交流で仲良くなった。これまでのような他人行儀だった雰囲気がなくなっている。

「まぁ!修道騎士様!皆!病人と怪我人を呼んできて!修道騎士様だよ!」

 樹族のお婆さんが目ざとくメリィの鎧にある小さな星の光のような紋章を見つけた。これは修道騎士という証なのだ。

「お金払えるのかな?」

 僧侶や聖騎士に払うお金に比べたら随分と安いとはいえ、修道騎士への寄付金の相場は一回銀貨一枚だ。村人にとって決して安いものではない。

「知らねぇのか、オビオ。こういうドルイドも僧侶もいない村は旅の癒し手が来た時用にお金を積み立ててんだ。だから余裕で払えるんだぜ?しかも村単位で寄付金を貰うから病人や怪我人が多かろうが少なかろうが関係ないんだ」

「へぇそうなんだ?いくら癒しの祈りが無限に使えるとはいえ、あれって祈り過ぎると気力がなくなって何もできなくなるんだろ?」

 俺とトウスさんが話している間にもメリィの前に病人や怪我人が並び始めている。

「まぁメリィ程の信仰心があれば広範囲の治療や回復ができるし問題ないんじゃね?」

「何気に信仰心が18あるもんなぁ。というか、このパーティって皆優秀だよな。職業に合った能力をしているっていうか。トウスさんなんて怪力な上に素早くて潜めるアタッカーだし、ピーターだって罠外しと罠を見つけるのが上手いし。サーカは接近戦もできるメイジだし。ぱっとしないの俺とリュウグぐらいかなぁ?」

「リュウグはまだよく知らないから解らないけどよ、オビオは非戦闘職にしてはよくやってるぜ。耐える盾としては俺も当てにしてんだわ。それにここぞという時に妙に肝が据わってたり、やたらと素早くなったりするしな。今後も頼りにしてんぜ!」

 でへへと照れて俺はトウスさんに「任せてよ」とサムアップして買い出しに行く事にした。

 が、俺の後ろを子供たちがついて回る。

「なんかやってよ、オーガ」

 なんだよ、そのおおざっぱな振りは。お前らの求めてるものがなんだかわからねぇよ!

「おで、おまえらの言葉よぐわがらない」

 こういう時はウスノロのオーガを演じるに限る。

「おい!さっきまで獅子人と普通に喋ってただろ!嘘つくなよ!」

 子供はよく見ている。中々洞察力の鋭いガキもいるじゃありませんかと振り返って見渡すと、子供の中にピーターが紛れ込んでいた。今の声もこいつだ・・・。
 
「なにやってんだよ、ピーター。お前もやる事あるだろうが。弓矢を作ったり、ダガーを研いだりと」

「昨日の夜にやったよ。女子たちの楽しそうな声を聞きながらな。オビオはベッドの端っこで寂しそうに寝てたな。クキキッ!」

 腹立つわー。こいつほんと色々とよく観察してんな。

「ねぇ、おっちゃん!なんかしてよ!」

「おっちゃんじゃねぇ!お兄ちゃんだ!まだ17歳だぞ!」

「なんかしろー!アホオーガ!」

 くう~、この村の子供たちは可愛くねぇ。

「おい、皆諦めろって。こいつは何もできないオーガなんだよ、きっと。それよりも駄菓子屋行こうぜ!僕がお菓子を一個だけおごってやるよ!」

 ガキ大将みたいな貴族の坊ちゃまが地走り族や獣人の子供たちを引き連れて行った。

「ふー、行ったか。助かった。子供は好きだけど生意気なガキンチョは嫌いだ」

「同感だね」

 珍しくピーターと意見が合う。

「それにしても駄菓子屋なんてあるんだ?ちょっと見てみたいな」

「本当に駄な菓子だぞ。駄目の駄だ。料理人のオビオにはどれも不味いんじゃないかな」

「まぁ何事も経験だ。近くにあるみたいだし寄ってみよう」

「不味くて舌がおかしくなっても知らないからな」




「おげぇ!甘すぎる!」

 俺はよく解らない、梅のような実の砂糖漬けを食べて目を白黒させた。

「な?言っただろ。この国の住人は甘けりゃ甘いほどいいと思ってんだ。その駄菓子だって砂糖がふんだんに使われているから駄菓子にしては値段が高いんだ」

「一口目は実の酸っぱさが甘さを相殺して美味しいじゃんと思ったけど、だんだん甘みが勝って最後には砂糖の味しかしねぇ。しかも砂糖の精製も下手なのか、甘みの中に妙なえぐみがある。これで100銅貨一枚は高いな」

「ガキの頃はそれでも美味しいと思ってたんだわ。その砂糖漬けを食べるのが一か月に一回の楽しみだった。大きくなるにつれて体が受け付けなくなったけどさ」

「ってか孤児なのによく買えたな」

「生まれた時から孤児だったわけじゃねぇよ!俺が小さい頃は父ちゃんも母ちゃんも優しかったんだ・・・」

 おっとあまり深入りはしないでおこう。俺はサーカの過去を背負いこむだけで精いっぱいだし、自分の事でもいっぱいいっぱいだからな・・・。すまん、ピーター。

「他にどんなものを食べてたんだ?」

 俺が話題を変えるようにして訊いた。

「まぁ10銅貨の飴とか大豆の粉と甘い樹液を混ぜて固めたお菓子とか。買い食いができてただけマシだった」

 そう言ってピーターが見つめた先に、駄菓子屋で菓子を買う子供たちを見つめる獣人の子供がいた。

 大抵の獣人って社会の最下層なんだよな・・・。ラノベやアニメでもそうだったけど見た目が獣に近いからって不遇だよなぁ・・・。身体能力は高いのに。

 でも必ずしも最下層ってわけでもない。菓子を買っている獣人の子供もいるので獣人の中でも階層みたいなのがあるのだと思う。駄菓子を買った子供たちは貧乏な子供たちに見せびらかす様に菓子を食べていた。

「なぁ、あの子供たちは何を齧ってんだ?」

 俺は駄菓子を買えない子供たちが齧っている蔦のようなものを指さした。割と太い。バナナぐらいはあるかな。

「ああ、あれか。ありゃ多分甘茶蔓だな。普通よりも太いな」

「アマチャヅル?確か甘味料に使われるあれか。でも加工しないと甘くならないんじゃなかったかな・・・」

「オビオがアマチャヅルの話をしているのかは知らないが、あの子供たちが齧ってるやつはほんのりと甘い。甘味に飢えたら俺もよく齧ってた。まぁあんなに太くはなかったけど」

 やっぱ地球のとは違うんだな。

「その辺に生えてるのか?」

「ああ、原っぱにいけば一年中生えてるぜ」

 俺は急にこの星のアマチャヅルを味見したくなった。でも今から原っぱに探しに行くのは面倒だ・・・。

「なぁそこの僕たち。その蔓、少し分けてくれないか?お礼にこれやるよ」

 俺は亜空間ポケットから、ナッツとライスパフにチョコを絡めて作ったチョコバーをアマチャヅルを齧る子供たちに渡した。

「え!えええ!いいの?こんな高そうなチョコ!」

「ああ、だからその蔓くれ」

「いいよ!全部あげる!」

 噛みかけの部分を千切り捨てて、子供たちは俺に残りの部分を渡してチョコを手に取った。

「うわぁぁ!凄い!チョコなんて僕初めて食べるよ!」

 鼻水を垂らしている犬人の子が10センチほどのチョコバーを掲げている。

「え!いいな!ちょっと齧らせてよ!」

 駄菓子を買っていた子供たちがチョコバーを貰った子供たちに集まって来た。

「まずは僕に齧らせてよ!それからね!」

 くうう!この犬人の子は良い子だ。散々お菓子を見せびらかされていたのに分け与えようとしている。

 カリッと良い音をさせて犬人の子はチョコを齧った。

「すっごく美味しい!ナッツがたっぷり入っているし、パフがサクサクしてるし丁度良い甘さ!」

「なぁ、飴やるから一口だけ!いいだろ?」

 よしよし、ちゃんと代価を払うのならいいだろう。犬人の子や他の貧しい子達も優しすぎるんだよな。優し過ぎると他人に譲るばかりで常に貧乏くじを引く。

 でも今回は上手く取引が成立しているぜ!駄菓子を持っている子はそれを交換に美味しいチョコに少しありつける。チョコを持っていた子は代わりに駄菓子を貰える。いいぞ!

 俺はその様子を見て満足して歩き出した。

「なぁそんなもんどうするんだ?」

 ピーターが不思議そうに俺を見ている。まぁお前には珍しいものじゃなくてもな、俺にとっては珍しいし興味を引くものなんだ。

「どれどれ」

 俺は早速アマチャヅルを鑑定した。

「ふむふむ。あ、普通に糖分を含んでいるんだな。ステビアのようなものではなかった」

 亜空間ポケットから小さなミルクパンを出して、そこに沢山交換したアマチャヅルの搾り汁を入れて煮詰める事にした。

「結構汁気があるんだな。ミルクパンの半分くらいになった」

「そんな貧乏食材を加工しようとする奴、初めて見たわ」

「貧乏な食材なんてねぇよ。人がそう勝手に決めつけてるだけだって。見ろよ、この濁りのない透明な緑色の汁を。エメラルドみたいに綺麗じゃんか」

 煮詰まって粘りが出てきた汁を俺は早速舐めてみた。

「お!スッキリしてて癖もなく甘みも強い!」

「ほんとか?」

「ほんとほんと。舐めてみ」

 俺は指にすくってピーターの口の前に甘い粘り気のある汁を差し出した。するとピーターは顔を赤らめて髪を耳に引っかけて、俺の指をゆっくりとしゃぶる。

「潤んだ目でこっちを見るんじゃねぇよ!きめぇな」

「んだよ、メリィの真似しただけだろ」

「メリィはお前のように心が汚れてないんだよ、一緒にすんな」

「わぁ!なにこれ!上品な味!オビオのお菓子と同じ甘さだ!」

 そう、俺は干し柿の甘さよりも少し控え目になるよう菓子を作っている。和菓子は干し柿の甘さを目標にしているそうだが、俺はそれでも甘いと感じるからだ。干し柿って結構甘味が強い。このアマチャヅルは干し柿未満の丁度いい甘味が出るのだ。

「やべぇ。これいいもん見つけたわ」

「なんだ?どこに行くんだ?オビオ」

 俺は再び駄菓子屋の前に行って子供たちに声をかけた。

「なぁ僕たち、この蔓をもっと取って来てくれないか?そうだな・・・。両手いっぱいに持ってきてくれたら千銅貨一枚あげるよ」

「おいおい、子供相手に破格の雇い賃だな。何人参加するかは知らないけど、ここにいるだけで10人いるぞ。それだけで銀貨一枚の雇い賃になるけどいいのか?オビオ」

「それだけの価値があるからな」

 子供たちはキョトンとした後に目がキラキラしだした。特に貧乏な子供たちは。

「ええ?嘘じゃないだろうな!わかった!やるやる!早速行ってくる!」

 貧乏組じゃない地走り族の子供が真っ先に駆けて行った。すると駄菓子を奢っていた樹族のお坊ちゃん以外は皆我先にとついて行く。

「君はいいのか?」

 樹族に子供に訊いたが、彼は友達がこの場にいなくなって悔しがっているかといえば、そうでもなく不思議そうに俺を見ている。

「そんなものを集めてどうするつもりだ?オーガ」

「俺はオビオだ。君は?」

「いいだろう、聞いて驚け。私はブライトリーフ家の次男坊、メイズ・ブライトリーフだ!ひれ伏せ!」

 なんかどっかで聞いた名前だな。確かがめつい商人気質の貴族だっけか?そういえばアルケディアかどっかの魔法具店の店主が同氏だったのでサーカにいじられてたな・・・。

「そっか。でもなんでこんな田舎にいるんだ?有名な貴族はアルケディアに土地を借りてお屋敷に住んでいるはずだろ?」

「僕は・・・。要らない子だから・・・」

「は?なんで?」

 ピーターがやれやれという顔をした。次に出る言葉を知ってるぞ。オビオは物知らずだなぁ、だ。

「オビオは物知らずだなぁ。貴族の次男坊、三男坊なんていないも同然なんだぞ。嫡子が死んだ時の保険みたいなもんだろ」

「でもだからってこんな田舎の村に暮らさせる必要はねぇだろ。誰と住んでいるんだ?メイズ」

「メイズ様だ!オーガめ!僕は村の別荘で召使いと住んでいる・・・」

 しょんぼりする顔が可哀想だ。俺は他人の陰まで背負う余裕はないはずだろ。首を突っ込むな!

「パパやママに会いたいのか?」

 あ~、聞いちゃったよ。俺。

「うん・・・。会いたい」

 ぐぅ・・・。涙が滲む。なんかメイズはサーカに似ているな。こんな子供が親と一緒じゃないなんて寂しい話じゃないか・・・。

「まーた始まりそうだな。オビオのお節介が・・・。こんなんじゃいつまで経ってもブラッドに辿り着けないよ・・・」

 ピーターが溜息をついて目をぐるりと白々しく回した。うんざりしてますという表現だ。
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