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自由騎士

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 俺は鉄騎士の胸に光る紋章の意味が解らなかった。

 しかし俺以外のメンバーはそれを見て驚いている。

「うわ・・・! 自由騎士様だ!始めて見たぞ・・・」

 そう、いつも仏頂面のサーカですら驚いている。また物知らずと罵られるかもしれないが、自由騎士が何なのか訊いてみた。

「なんだよ、自由騎士って」

「ほんとオビオは何も知らないのだな。とにかく跪け。彼は私たちより、遥かに地位が上なのだから」

 癪に障るが俺はサーカに従って鉄騎士に跪いた。トウスさんやリュウグも跪いている。

「自由騎士ってのはな、世界規模で動く騎士で、国境なんか関係なしに移動できるんだ。俺も初めて見たんだけどよ。基本的に政治的介入等はしないが、自分の意思と権限であらゆる事に介入できる。強力な魔物討伐だったり、悪事を働く大規模な組織を成敗したりと」

 トウスさん解説ありがとう。となると・・・勇者みたいなもんか?

「どうか楽にして下さい、皆さん。お互い勘違いがあったようですし、僕も身分を隠したままだったのは軽率でした。謝罪します。すみませんでした」

「そんな! 奇襲攻撃を仕掛けたのは我々です! どうか謝らないでください・・・」

 おい! くそ! サーカ! なんでメスの顔になってんだよ! 確かにこの自由騎士はイケメンだけどさ! 聖に似てるのが腹立つんだよ! シーーーット!(嫉妬)

「ほら、オビオ!お茶の用意をしろ!」

 きぃぃ! 俺、脚がボロボロなんですがぁ?

「いえ、お構いなく・・・」

「おい! 自由騎士様に気を遣わせるな。早くしろ、ウスノロ!」

 こぉんのぉぉ! せめて仕返しにいっちばん良いお茶で驚かしてやんよ! 今まで飲んだ事ないような最高級茶葉だぞ!

 俺は不貞腐れつつも、亜空間ポケットから、一本足で立つ魔法のテーブルと茶器セットを取り出す。

(見てろよ~。美味い茶でギャフンと言わせてやるからな。このお茶はな、イギリスはインドのパリに渡米した時に買ったお茶でな・・・。きぃぃ! 悔しすぎて自分でも何言っているかわかんねぇ!)

 とにかく、俺は聖によく似たイケメン騎士に対し、頬を赤らめているサーカが気に食わなかった。しかし、ここで手元を狂わせて不味いお茶を出せば、料理人としての名折れ。慎重に有名店のロイヤルブレンド茶葉にお湯を注ぐ。

「うわぁ! いい香りだぁ」

 メリィがピーターをほっぽりだして近づいてきた。

 膝枕のなくなったピーターが、地面に頭をぶつけて意識を取り戻す。

「なんだ? あれ、戦いは? もしかして停戦協定結んだの? あ! ちょっと! 紅茶飲むなら声かけてよ!」

 命のやり取りをして、殺伐としていたさっきまでの空気は何処へやら・・・。

「ミルク、入れる人」

 皆手を上げた。

「砂糖、入れる人」

 またもや全員挙手。

「各自で好きなだけ入れろ、バカ」

 俺はミルク入れと角砂糖の乗った皿をテーブルの上に置いた。

「馬鹿とはなんだ! 馬鹿とは! 自由騎士様の前でその態度は良くないぞ! オビオ!」

 うるせぇ、バーカ、サーカ。

「ははは、さっきまでお互い殺す気でいたのだから、そう簡単に気持ちは切り替えられないですよね・・・」

 くっそ、良い子ちゃんな顔しやがって! お茶菓子にチョコでも喰らえ!

「ところで、なぜ戦士のオビオ君が、お茶の用意しているのですか?」

「彼の本業は料理人なんですよ、自由騎士様」

「え? でも立派に戦っていましたよね。ちょっと失礼」

 自由騎士は俺を【知識の欲】で視ようとしたので、俺もカウンターで彼の能力を見る。

 お互いがお互いの能力を見て、真っ先に出た言葉が「星っ・・・!」だった。

 うそだ! こいつが地球人なわけねぇ! なんだこの謎多き自由騎士様はよぉ! 星のオーガなのか? こいつも。

「ゲフンゲフン。適正職業にしっかりと戦士が出ていますよ? ああ、戦士の指輪のせいですか。稀なアイテムを持っていますね。本来は料理人と付魔師・・・。指輪を付けていたとはいえ、戦士としては並みの実力なのに、良くあそこまで戦えましたね・・・。その・・・、自慢ではないのですが、僕と対峙して十秒持ったら凄い方なんですよ」

 どえらい自信ですなぁ? 自由騎士様! まぁ確かに? 能力値滅茶苦茶ですけどね、あんた! オール21って神様レベルだろ! 知らんけど!

「で、自由騎士のヤイバ・フーリーさんが樹族国に何用で?」

 俺は下男みたいに卑屈になって、ヤイバに紅茶の入ったティーカップを両手で差し出す。

「いや、その・・・。用はがあったっわけじゃないのです・・・。転移魔法に失敗したというか。飛んだ先が盗賊団のど真ん中でして・・・」

「盗賊団は、こんなとこでなにしとったんやろ?」

 リュウグがピーターに視線をやる。

「わかったよ、懐探ってこいっていってんだろ? もぉ~、俺は大盾の攻撃で死にかけたのに・・・」

 ピーターは紅茶にありつく前に仕事をさせられるのだから不満顔だ。

「す、すみません・・・」

 ヤイバは頭を掻いて謝ってる。くっそー、良い奴なのが余計に腹が立つ。

「こらぁ! 自由騎士様に謝らせるな! さっさと盗賊から情報を持ってこい!」

「ひぃ!」

 ピーターも災難だな。サーカはラピュ〇に出てくるドーラみたいに、俺たちをこき使うじゃないか・・・。

 皆が紅茶を飲み終わる頃に、ピーターは帰って来た。可哀想なのでピーターに紅茶の入った魔法瓶とチョコ菓子を渡す。

「やった!」

「いいからさっさと報告をしろ!」

 そんな言い方せんでもええやねん、サーカ君。ちょっとは紅茶飲ませたりーな。

「ほら、これだよ(豚耳サーカめ)」

 ピーターは小さい声で「豚耳サーカ」と言って八つ当たり気味に指輪を投げつけたが、ヤイバが彼女の顔の前で指輪をキャッチした。

 サーカは自分を指輪から守ってくれた自由騎士を、白馬に乗った王子様のように見つめている。チィーー!

「これは神聖国モティの印台リング・・・。普通はこんな証拠が残るような物は持たせないのですがね」

 露骨なんですよ、モティの奴らは。わざと見せつけて誇示してはるの。

 メリィが印台リングの図柄を、メモ帳に書き写そうとしていたので、俺は印鑑の上に紙を乗せてペンで擦った。すると紙には印鑑の凹凸に応じて図柄浮き上がる。

 メリィがとってもいい笑顔で俺にお礼を言ったので胸がキュンとした。ほんと良い子だよぉ、メリィは。

「という事は、あの盗賊団は俺たちを狙っていたって事か!」

 トウスさんが悔しそうに拳を掌にぶつけた。

「どういう事です?」

「まぁ理由あって、俺たちはモティに狙われてんだよ。大神聖のとばっちりみたいなもんだけどな。モティが力を見せつける為の贄みたいなもんさ」

 俺は皮肉たっぷりにそう言った。するとヤイバの顔が曇っていく。

「そんな・・・。そうだ! 今はグランデモニウム王国統治・・・ゲホンゲホン。グランデモニウム王国と樹族はまだ戦争を始めてませんよね?」

「はい、もうすぐ始まるとは思いますが・・・」

 紅茶を飲んで不思議そうな顔をサーカは自由騎士に向けた。話が見えてこないからだ。

「また間違えたか・・・。まだ上手く制御できていないのかな・・・。もしかして君たちは『バトルコック団』なんじゃないですか?」

「つい最近ついた名前なのに、よく知ってますね」

 おい、サーカ。お前はその名前を気に入ってなかったろ・・・。

「ああ、その名は・・・。おっと! 僕はそろそろ帰らなくては。ドタバタしてすみません。それから間違って攻撃した事を許してください。お詫びにあの盗賊の手柄は全てバトルコック団に譲ります」

「そもそも、あれは我らを狙った盗賊団。倒してくれた事に感謝します。あの・・・、また会えますか?」

 なに恋する乙女みたいな顔してんだよ! キィィ!

「どうかな・・・。僕は結構忙しいので、同じ場所に現れる事はないかも。では急ぐので、ごめんなさい!」

 眼鏡をチャキっと上げて、ヤイバは転移石を掲げて消えた。

 残念そうな顔をしたサーカを俺は見逃さなかった。イケメンに意外と弱いんですねぇ、サーカさんはぁ! ええ?

「本当に忙しそうだったな・・・。結局ウォール家とどう関係あるのかもわからず仕舞いだった。謎の多い自由騎士様だぜ。さて・・・。この大量の怪我人はどうするかな。みーんな戦闘不能・・・」

 地面に倒れて気絶している盗賊達は、ギリギリ生かされているといった感じだ。達人クラスにならないとここまで手加減できないぞ・・・。でもこいつらほっとけば死ぬだろうな。

「しゃあない・・・。騎士団が来て盗賊をしょっぴいていくまで、生かさず殺さずの状態まで癒してやってくれ。出来るか? メリィ」

「はーい! やってみまーすぅ!」

 相変わらず緊張感がない。俺はあの自由騎士が聖に似ていたのが気になったが、それよりも神聖国モティの執拗な攻撃にそろそろ怒りが湧いてきた。
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