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アホズラサーカ

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「わあぁ! 凄い凄い! これ魔法の道具なの? オーガのお兄ちゃん!」

 獅子人の子供たちは火にかけなくてもお湯が煮える鍋を見て飛び跳ねて驚いている。

「まぁそんなところだよ」

 一瞬、試練の塔前の野営地の苦い経験を思い出す。騎士のいる天幕で、地球から持ってきた調理器具を、自慢げにマジックアイテムだと言ってしまった。

 その結果、危うく打ち首になるところだったんだから。あの時はほんとヒヤヒヤした。

 鍋に予め干しておいたタマゴタケを入れてダシを取り、途中で摘んだ山芋の種であるムカゴと、ネギによく似た野草(鑑定して可食と解ったが名前はない。どうもこの国では誰も食べない野草らしい)を投入。

 えぇい、サービスだ。こっそり鬼イノシシのバラ肉で作っておいた、とっておきのベーコンも入れてやるか。煮えたらカチカチパンの半分を一口大に千切って入れて、塩で味を調える。

「わぁ! お肉! 残りのパンはどうするの?」

 鍋にサイコロ状にして入れたベーコンを見た子供達が、一頻りはしゃいだ後に残りのパンの行方を心配する。

 大丈夫だ、横取りなんてしないって。

「まぁ見てなさい。誰でも簡単に、その辺の食材でできる美味しい調味料を、今から作ってみせるから」

 俺は亜空間ポケットからミキサーを取りだすと、パンを入れて粉々に砕いていく。

「粉々になったぁ!」

 ミキサーを見ただけで目を輝かす子供達が可愛い。というかこの星は可愛いで溢れている気がする。子供みたいな見た目の地走り族に、モフモフの獣人たち。きっと他にも可愛い種族がいるかもしれない。

「いいか、よく作り方を覚えておけよ。ニンニクの香りを移したオリーブオイルで、パン粉を香ばしくなるまで炒める。他にも乾燥させた人参の葉や胡椒を入れる」

 焚火の近くでお湯を啜っていたトウスさんが、何故かブッと吹き出す。それを見たサーカがびくりとした。ビビり過ぎだろ・・・。

「ちょい待ち! 胡椒だって?」

 トウスさんが顎を外しそうなぐらい口を開けて動揺していた。

「オビオ、胡椒は入手困難な香辛料だ! 胡椒はここ西の大陸じゃあ、どの国も政府が徹底して管理している貴重な輸出品なんだ。お前の出身国だってそうだろう? 東の大陸の貴族や司祭が高い金で買い取ってくれるからな。一般人、ましてや俺のような不法入国者が、口にできるような代物じゃあねぇんだよ」

「まじ?」

 俺は思わずサーカにそう訊ねると、サーカはビクッとした後に頷いた。

「ふえぇ。まじだよぉ、物知らずのオビオォ・・・」

 なんで口調まで変わるんだよ、サーカは・・・。口の悪さはそのまんまだけど、二重人格者か?

「まぁこの胡椒は俺の私物だし問題ないだろ。それに入れてしまったものは仕方がないさ。じゃあこれからは・・・。あ、これ貧乏人のチーズとかパルミジャーノって呼ばれてるものなんだが、真似して作る時は代わりに鷹の爪でも刻んで入れておいてくれ」

「ったく、どこが貧乏人のチーズだよ。胡椒が入っているのに」

「なはは。まぁでも(イタリアでは)そう呼ばれているんだ。これを、今茹でているジャガイモの上にかけて食べたり、魚料理の上にかけたりして食べると美味しいんだぞ。俺はパン粉を炒める時に塩を入れているけどな。そうすれば味付けをしていない食材でも、味がつくし直ぐに食べられる」

 横からグゥゥとお腹の鳴る音がする。子供が鳴らしているのかと思ったらサーカだった。

「ふぇ・・・。ふははっ」

 何ちゅう笑い方だ。弱気なのか照れてるのかどっちだ。眉毛もだらしなくハの字だし、ちょっと鼻水も垂らしてるし・・・。だめだ、弱気サーカ可愛い。

「相方もお腹を空かせてるみたいだし、すぐに用意するから待っててな」

 サーカではなく子供たちにそう言うと、俺は道中で拾った卵で作った目玉焼きを皿に乗せていく。

 サーカ曰くこの卵はバジリスクトカゲの卵らしい。バジリスクトカゲは視線を合わせた者を石化させる。が、お互いが両目でしっかりと見つめ合わないと石化する事はないそうだ。

 しかし、どこかの村で、物珍しさに野次馬に行った地走り族がバジリスクトカゲとうっかり目が合ってしまい、村人数人が石化してしまったという話を聞いてゾッとした。

「目玉焼き作っておいて、今更訊くのもなんだけど、バジリスクの卵って食べても平気だよな? 毒とかない?」

「んあ? ああ、問題ないぜ。食うと元気になる」

 元気になると言った後に、トウスさんがニヤリとしたような気がしたけど気のせいかな?

「あと、アレルギーとか、獣人ごとに食べたら死ぬ食材とかないか?」

「アレルギーってなんだ? 種族の違いで毒になる食材もあるが、軽微なものだ。一日くらいで治る」

(アレルギーなんてないのかもしれないな。俺達地球人と同じで)

「ならいいんだ」

 あまり細かい事を考えるのはよそう。とりあえず俺は、目玉焼きに続いて、茹でたジャガイモを皿に乗せて、どちらにも貧乏人のチーズをかける。

 亜空間ポケットに手を突っ込むと、試練の塔前の野営で、傭兵達にいくつか持ち去られて少なくなった食器の中から、お椀を取り出してムカゴと野草とパンのスープを入れる。

 大きな一枚岩の天然のテーブルに料理を人数分並べると、これから食事なんだという雰囲気が盛り上がってきた。焚火の炎に照らされる子供達の顔は、もう直ぐにでも食べたくて仕方がないといった感じだ。

「さぁ皆さん、召し上がれ」

 ガツガツガツガツ!

 凄まじい勢いで料理を平らげていく。・・・サーカが。トウスさんもその子供達も唖然としてその様子を見ている。

「おい! お前貴族だろ! 手掴みでジャガイモを食うなよ! もっと上品に食えって!」

「ふぇぇ。ごめんなさい。だってお腹がペコペコだもん」

 なんだこいつ。どうなってる? 魔法が尽きると弱気になるって性格なのは解っているけど、キャラ自体変わってる気がする。くっ! そんなサーカを可愛く思ってしまう自分が憎い。どうせ魔法が唱えられるようになったら傲慢キャラに戻るって解っているのに。くそ! 一体どっちが本当のサーカなんだよ!

「い、いいけどよ。ちゃんとフォークとスプーン用意してあるんだからさ、使ってくれよな」

「ふにー」

 なんだよ、ふにーって。どういう感情の返事だよ、それ。

「ごめんな、トウスさん。彼女は魔法依存症っていう変な癖だか病気だかでさ。魔法が尽きるとこうなるんだ。明日、マナが回復した頃にサーカに救済措置の話をさせるから今日は勘弁な・・・」

「あ、ああ。不法移民である俺がどうこう言える立場じゃないからな。それに移民を受け入れる救済措置ってのにはあんまり期待はしてねぇしよ」

 急変したサーカを見てトウスさんは怪訝そうな目をしている。そりゃそうか。出会った当初は、如何にも傲慢な樹族って感じだった騎士が今はこれだもんな・・・。

「さぁ冷めないうちに召し上がれ!」

「わーい!」

 うほ! 子供達が美味しそうに食べてくれている!

「ただのジャガイモなのに美味しい! かかってる粉がサクサクしてて香ばしい!」

 目をキラキラさせながら感想を言ってくれてありがとう、坊や。

「へぇ、これが胡椒の味かぁ・・・。なんかこう~、なんとも形容しがたい味だが、スパイシーで体が温まるなぁ。わりぃな、語彙が少なくてよ。どっかのグルメ貴族みたいに、詩でも歌うように感想を言いたかったんだがよ、ガハハ」

 トウスさんはスープを飲んで「ンハーッ」と息を吐いた後に舌鼓を打った。貴重な胡椒の味を十分に堪能しているようだ。堪能した後に目を細めて嬉しそうに子供達を見ている。
 
「久々に腹いっぱい飯を食べている子供達を見ると、嬉しくなるな・・・」

 夢中になって食べてくれる子供達を見ていると、俺も嬉しくなってくる。この料理はタンパク質が足りてないけど今は腹が膨れればいいだろう。

「オビオは食わねぇのか?」

「ああ、俺はアルケディアでちょくちょく買い食いしてたから腹いっぱいなんだ。色んな味を楽しめて料理の勉強になったよ」

「闇種族のオーガが光側の国で旅しながら料理か・・・。しかもウォール家の庇護を受けている。なんとも奇妙な話だなぁ。まぁこれもあの英雄オーガのお陰なんだろうけど。光側種族である俺達獣人はいつも社会の底辺で貧困に喘いでいるのに、オーガが英雄扱いか・・・。おっとすまねぇ。別にオビオの事を責めているわけじゃねぇぜ。世の中はなんとも理不尽だなって思ってな」

「大神聖はオーガ(本当は地球人だけど)の中でも尋常じゃないしな。魔法水晶で映像を見た限りだけど、吸魔鬼の高速でしなる触手を易々と避けたり、パンチの連打だけで巨体を押しやったりなんて、地球人・・・、いやオーガでも無理だよ」

「ヒジリ様は現人神って噂もあるしよ。大昔にもオーガの現人神がいたそうだし、オーガの神ってぇのは、現世に具現化してしまうほどの力があるのかもしれねぇな」

「獣人にも神様はいるのか?」

「いねぇ、に等しいな。胡散臭い獣人の神は沢山いるけど。俺たちの真の神は、腹立たしい事に樹族の神だ。聖書には樹族の神が奴隷として動物から獣人を作ったって話があるしよ。だから俺たちはいつも樹族に家畜のような扱いを受けている」

「だったら獣人国レオンだっけ? 祖国にいた方がましだったろ」

「あそこはもう終わりだ。サル人が支配するようになってからどんどんおかしくなってきている。樹族国に対し、戦争を仕掛ける準備もしているしな。独裁的なサル人共に俺も組織だった抵抗をしたんだが、あいつらは悪知恵が働くし暗殺者としても能力が高い。次々とレジスタンスの幹部が殺されしまった。俺も両親と妻が殺されて、子供を連れて逃げるのが精いっぱいだったんよ」

 ぐぅわ! 泣けてくる・・・。身近な人がいなくなるなんて。きっとそれは辛い事だ。俺の母ちゃんは如何にも大阪のおばちゃんみたいな見た目だけど、この世からいなくなったら悲しい。

「ぐすっ・・・。だったらさ、尚更サーカに救済措置を聞かないとな」

 俺は目頭を押さえてから、ご飯を食べ終えて呆けているサーカを見る。そして彼女のあまりのアホズラに涙が引いていった。

 腹一杯になって眠いのか?

 でもやっぱ・・・サーカはくそ可愛い。

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