殺人鬼転生

藤岡 フジオ

文字の大きさ
上 下
236 / 299

貞操の危機

しおりを挟む
 勝ち確定みたいな大会で、こんなクソ雑魚に腕を持っていかれるとはなぁ。

 油断と言うよりかは、知識不足。アマリの読んでいた本で知識を身に着けていたはずだった。

 まさかアライメントの違う武器を持つとこうなるとは。悪魔の目で悪殺しを見た時に、情報を隅々まで確認しておくべきだった。

「勝った!」

 歯抜け戦士は大口を開けてまたそう宣言する。お前は頭の中で、一体何回勝ってんだよ。

「だからさっきからよぉ、何に勝った勝った言ってんだ、おめぇは」

「勝負に」

「なに言ってんだ? 勝負ならほぼ、お前の負けだろうが。お前の仲間は全員闘技場の土を美味しそうに舐めているぞ」

 俺はビャクヤたちの前でうつ伏せで倒れるアドベンチャーズを親指で指す。勿論、歯抜けが全体全回復のポーションを投げたりしたら邪魔をする予定だ。

「よし! まいった! ・・・・降参する!」

 んだァ? こいつは! 勝ったと宣言したその口で降参だとぉ?

「はぁ?」

 俺はこいつの頭を捻り切りたくて手がワキワキする。

 当然、負けを認めた歯抜けと俺の間に、レフェリーがホイッスルを吹きながら割って入ってくる。

 魔剣によって腕を消された俺が怒り狂うのではないかとビビっているのか、レフェリーの笛の音が震えている。

「(フフフフィヒ・・・フィ~~~!)試合終了!」

 なんともモヤモヤする初戦だったな。このベテランをさっさと達磨切りにしておくべきだった。そうすれば気分が少しは良かったろうよ。

「で、お前さんは何に勝ったんだ?」

「己の賭けに」

 らしいこと言いやがって。

「どういう意味だ?」

「心の内に常に湧くキリマルへの恐怖に抗えるかどうか。そして強い悪魔を相手に爪痕を残す事ができるかという難しい課題。俺ァ自分に課した試練に打ち勝ったんだ! ヒャイヒャイ!」

 爪痕ねぇ・・・。あのカウントダウンは、剣が装備者の属性を確認するまでの時間だったってわけか。

 俺は失った右手の傷口から腕を生やす。悪魔の再生力を舐めるなよ。

「大した爪痕は残せなかったようだがァ?」

「それでもよぉ・・・。俺は勝った!」

 一々腹が立つオッサンだな。精神的勝利ってやつか?

「ってこたぁ、最初から試合に負けるとわかっていて、俺に抗う為に準備をしていたってわけか?」

「そうでぃす」

 俺に対して用意周到だったのはそういうわけか。こいつがQのババァかと思って警戒したのは間抜けだったぜ。

 それにしても狂人の御飯事に付き合わされた仲間には同情するぜ、全く。

 探求者ってのはどいつもこいつも身勝手だ。そのうち身勝手の極意でも身につけるんじゃねぇのか?

「勝者、永遠の白夜団! カッコ暗黒剛力団カッコとじる!」

 わぁぁと歓声が上がるが、客に応じて手を振り喜んでいるのはビャクヤとダークだけだ。

 リンネは疲れたのか、或いは考え事をしているのか、じっとして動かない。負け組は闘技場からさっさと退場していった。

 そして、ここでようやく、用心深い地走り族が現れる。

「試合が長いよ。さっさと相手パーティの脚でも斬っときゃ、すぐに終わった試合なのにさ!」

 邪悪なるピータ君は、さり気なくエグい事を言うねぇ。

 お? 随分と沢山のアニメキャラが描かれたティーカップを持ってるな。ジャンプ創刊二千周年って書かれているぞ。それ、オビオから盗んだんだろ、どうせ。

 ってか、本当にこいつは影空間の中で紅茶飲んでやがったのか。

「うるせぇな。すぐに倒しちまったら、発展途上中のお前らが、なにも学べなくなれるだろうが、カスリーダーさんよぉ」

「ハン! コーチ気取りかよ! 悪魔のくせに!」

「こう見えてもクソ雑魚を育てるのは得意なんだわ」

 俺はレッドたちの事を思い出す。彼奴等も俺様の厳しい指導のお陰で、初心者から順調にベテラン一歩手前ぐらいにまで成長した。

「はぁ? じゃあ俺を男に育てる手伝いもしてくれよ!」

 何か誤解を受けそうな事を言うピーターに、ビャクヤの耳が反応する。

「ホモホモしいッ! 今は観客の声に応える時間ですよッ!」

 ビャクヤが話に入ってきて余計にややこしくなる。

「そういう意味じゃないよ!」

「じゃあ、どういう意味?」

 まだ歓声が止まぬ中、ドスンドスンとリンネまで近づいてくる。

「いや、まぁその・・・」

 ピーターは急に恥ずかしくなったのか、どもった。

 要は邪悪なるピーター様の童貞が捨てられるような女を充てがえと言いたいのだろう? 女のリンネが来たから言いづらくなったのだろうがよ。

 俺は腹に力を入れ、声を上げてピーターを指差す。

「え~! 観客の皆様。今回の試合のMVPは俺やビャクヤなどではなく! ここにいる、我らが永遠の暗黒白夜剛力団のリーダーのお陰です! 彼は自分の本分を全うするために! ずっと隠れ続けていました!」

「チーム名、混ぜると意味不明ッ!」

 ビャクヤが仮面の額に手の甲を当てて、残念そうな顔をする。

「我らがリーダーは、こう見えても大人なのですが、まだ童貞なのです。誰か彼の初めてを貰ってくれませんか?」

 ニヤニヤしながらそう言い終わると、客席からドッと笑いが起こる。

「くそがぁぁぁ! 覚えてろよ! キリマルぅ! くそがぁぁぁ!」

 恥をかかされたピーターは、今にも伝説の超サイヤ人になりそうな程、気張って悔しがっている。

 そのピーターの前に、客席から大きく跳躍してきた者が二人。ドスン、ドスンと着地する。

「やだぁ! だったら私が貰っちゃおうかしらぁ!」

 こいつらは・・・。確かヤイバ戦の時にいたオカマのマスカラ・・・。もうひとりはネイルか。

「ずるぅ~い! お姉ったら! 独り占めはイ・ケ・ナ・イぞ!」

 スキンヘッドとモヒカンの筋肉マンに暑苦しい視線を向けられたピーターは、一瞬キョトンとしたが、いつもの邪顔(じゃがん※造語)を俺に向けながらスーッと空気と同化していく。

「覚えてろよ、キリマル(キリマルッキリマルッ)! この借りは必ず返させてもらう(もらうっもらうっらうっ」

 自前エコーやめろ。
 
「残念、私はサブがレンジャーなのよぉ! だ・か・ら! 隠遁術を使ってもムリムリ」

 Vサインを目の前で横に流すと、マスカラの目が光った。

 オカマのお姉は、影には潜らずに普通に隠遁術を使って、姿と気配を消していたピーターをすぐに見つけてしまったのだ。

 ほほ~。マスカラは結構な手練じゃねぇか。こいつらが試合に出ていたら、俺らは負けていたかもな。

「いっただきま~す!」

 地走り族の軽い体をマスカラはガッチリと抱きしめ、闘技場出入り口まで走る。その後をモヒカンのネイルが女走りで追いかけている。

「ちょっと~! お姉ェ~! 私も味見したぁ~い!」

「うわぁぁぁぁ! 助けて! 助けてよ! キリマルぅぅぅ!!! 何でもするから、おぷ!」

 叫ぶピーターの口をマスカラの分厚い唇が塞いだ。地走り族の必死な涙目がビャクヤやリンネを見るが、二人は敢えて無視をして、今回の試合の反省点を話し合っているように見える。

「次の試合まで時間あるし、楽しんでこいよぉ。ピーター君! クハハハハ!」

 俺は敬礼をして邪悪なるピーター君を見送った。まぁ奴の事だ。危なくなる前に上手に逃げるだろうよ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

鬼神の刃──かつて世を震撼させた殺人鬼は、スキルが全ての世界で『無能者』へと転生させられるが、前世の記憶を使ってスキル無しで無双する──

ノリオ
ファンタジー
かつて、刀技だけで世界を破滅寸前まで追い込んだ、史上最悪にして最強の殺人鬼がいた。 魔法も特異体質も数多く存在したその世界で、彼は刀1つで数多の強敵たちと渡り合い、何百何千…………何万何十万と屍の山を築いてきた。 その凶悪で残虐な所業は、正に『鬼』。 その超絶で無双の強さは、正に『神』。 だからこそ、後に人々は彼を『鬼神』と呼び、恐怖に支配されながら生きてきた。 しかし、 そんな彼でも、当時の英雄と呼ばれる人間たちに殺され、この世を去ることになる。 ………………コレは、そんな男が、前世の記憶を持ったまま、異世界へと転生した物語。 当初は『無能者』として不遇な毎日を送るも、死に間際に前世の記憶を思い出した男が、神と世界に向けて、革命と戦乱を巻き起こす復讐譚────。 いずれ男が『魔王』として魔物たちの王に君臨する────『人類殲滅記』である。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

お持ち帰り召喚士磯貝〜なんでも持ち運び出来る【転移】スキルで異世界つまみ食い生活〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。 勇者としての役割、与えられた力。 クラスメイトに協力的なお姫様。 しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。 突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。 そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。 なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ! ──王城ごと。 王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された! そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。 何故元の世界に帰ってきてしまったのか? そして何故か使えない魔法。 どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。 それを他所に内心あわてている生徒が一人。 それこそが磯貝章だった。 「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」 目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。 幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。 もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。 そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。 当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。 日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。 「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」 ──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。 序章まで一挙公開。 翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。 序章 異世界転移【9/2〜】 一章 異世界クラセリア【9/3〜】 二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】 三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】 四章 新生活は異世界で【9/10〜】 五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】 六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】 七章 探索! 並行世界【9/19〜】 95部で第一部完とさせて貰ってます。 ※9/24日まで毎日投稿されます。 ※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。 おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。 勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。 ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。

魔銃士(ガンナー)とフェンリル ~最強殺し屋が異世界転移して冒険者ライフを満喫します~

三田村優希(または南雲天音)
ファンタジー
依頼完遂率100%の牧野颯太は凄腕の暗殺者。世界を股にかけて依頼をこなしていたがある日、暗殺しようとした瞬間に落雷に見舞われた。意識を手放す颯太。しかし次に目覚めたとき、彼は異様な光景を目にする。 眼前には巨大な狼と蛇が戦っており、子狼が悲痛な遠吠えをあげている。 暗殺者だが犬好きな颯太は、コルト・ガバメントを引き抜き蛇の眉間に向けて撃つ。しかし蛇は弾丸などかすり傷にもならない。 吹き飛ばされた颯太が宝箱を目にし、武器はないかと開ける。そこには大ぶりな回転式拳銃(リボルバー)があるが弾がない。 「氷魔法を撃って! 水色に合わせて、早く!」 巨大な狼の思念が頭に流れ、颯太は色づけされたチャンバーを合わせ撃つ。蛇を一撃で倒したが巨大な狼はそのまま絶命し、子狼となりゆきで主従契約してしまった。 異世界転移した暗殺者は魔銃士(ガンナー)として冒険者ギルドに登録し、相棒の子フェンリルと共に様々なダンジョン踏破を目指す。 【他サイト掲載】カクヨム・エブリスタ

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

【R18】童貞のまま転生し悪魔になったけど、エロ女騎士を救ったら筆下ろしを手伝ってくれる契約をしてくれた。

飼猫タマ
ファンタジー
訳あって、冒険者をしている没落騎士の娘、アナ·アナシア。 ダンジョン探索中、フロアーボスの付き人悪魔Bに捕まり、恥辱を受けていた。 そんな折、そのダンジョンのフロアーボスである、残虐で鬼畜だと巷で噂の悪魔Aが復活してしまい、アナ·アナシアは死を覚悟する。 しかし、その悪魔は違う意味で悪魔らしくなかった。 自分の前世は人間だったと言い張り、自分は童貞で、SEXさせてくれたらアナ·アナシアを殺さないと言う。 アナ·アナシアは殺さない為に、童貞チェリーボーイの悪魔Aの筆下ろしをする契約をしたのだった!

処理中です...