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三人の騎士とキリマル
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俺は地下牢の片隅にある―――、看守用にしては豪勢に絨毯が敷き詰めてあり、椅子のクッションがフカフカな部屋で、テーブルを挟んで向かいにいる三人を見てため息をつきたくなった。
今回のように、秘密裏に任務の打ち合わせをする為にある薄暗い部屋の中で、役には立たなさそうな仏頂面のヒョロガリや、太っちょと顔を突き合わせているのだからため息も出る。赤髪の騎士は骨がありそうだが・・・。
「俺はキリマルだ。好きに呼べ」
俺は三人に向かって自己紹介し、テーブルに足を置く。
「変な名前だ。苗字はないのか? どの領地の平民だ?」
痩せた騎士が馬鹿にした声でそう言うが、俺は無視をして欠伸をした。
欠伸を終えて前を見ると、灯りに照らされた―――、魔法の灯りではなく蝋燭の灯りで浮き上がる三人の顔のうち、二人が敵意をむき出しにしたのを見て、俺は刀をチンと鳴らして威嚇した。
威嚇に止めたのには理由がある。
コズミックペンが何をしたいのかを見極める為にも、俺は我慢することを覚えなくちゃならねぇ。
なぜなら世界を飛ぶごとに、ビャクヤとの繋がりを近くに感じるからだ。しかも飛んだ先で何かを達成した時ほどその傾向が強くなる。つまりミッションをクリアするたびに、俺はビャクヤに近づいているのだ。
となると我慢強くミッションクリアをするしかねぇが、この法則は俺の勝手な憶測かもしれねぇ。何かのはずみでまたビャクヤから離れるかもしれねぇからな。
勝手な憶測を信じこむのもよくねぇな自戒してみる。コズミックペンの考えが理解できるのはコズミックノートだけだろうからよ。
シュラス王が信頼を置く騎士たちを見て、俺はもう一度溜息をついて目をぐるりとさせた。
三人のうち二人が戦い慣れしてなさそうな間抜け面だからだ。ミッションクリアを考えるとデブとガリが戦力にならないという負担は大きい。
俺は椅子に座ったまま、アマリの収まっている鞘を騎士たちの顔に向ける。
「右から失礼しま~す。坊ちゃん、坊ちゃん、あ、一つ飛ばしてまた坊ちゃん」
三人しかいないのに誰もいない四人目の空座を指して俺はなんだか恥ずかしくなったが、テーブルの向こう側に座る樹族の騎士たちをからかう事には成功した。
気の済んだ俺は坊ちゃんではない一人を見る。
赤い髪に赤い瞳。短命種の年齢に換算すると二十代前半くらいか? どことなくドン・レッドに似ているが、こいつは少年のような顔をしているが、女だ。
「お前は修羅場を潜り抜けた顔をしているな。実力値は?」
俺の姿はシュラス王がくれた魔法のペンダントの効果で、背の高い樹族に変わっているが、得体のしれない男に偉そうな口を利かれて怒りを募らせる騎士の中において、こいつだけは俺の無礼な態度を気にした様子がない。
「15だが、お前はどうだ? 10以上と見た」
赤い瞳が真っ直ぐとこちらを見つめる。
俺ぁボーイッシュなのがタイプだからよ、ちょっとチンコが反応してしまったぜ。
「クハハ! 正解。お前と同じだ」
「そうか。私はお前の事をよく知らないが、一目見た時から只者じゃないと感じた。そのうち手合わせを願いたい」
夜の手合わせなら喜んで付き合うが、アマリが激怒しそうなので、冗談を言うのは止めておくか。
「へぇ。言っとくが俺はお前らと違って魔法は使わねぇぞ。基本的に刀専門の前衛だ。手合わせしても参考にはならねぇぜ?」
デブが小さな声で忌み子めと呟いたが、俺には何のことかわからねぇので無視する。多分悪口か何かだろうよ。
「魔力のない忌み子なのか? 【知識の欲】で視させてほしいのだが?」
ヒョロガリが鑑定魔法を詠唱をしようとしたが、俺はそれを睨んで首を横に振って止めた。
当たり前だが、鑑定魔法で素性を知られれば悪魔だとバレる。まぁいざとなりゃあ、魔法をレジストするなり刀で斬るなりするけどよ。
「断る。これは俺の意思ではなく、王からの命令だ。俺を視るな。嘘だと思うなら直接シュラス王に尋ねてみろ」
「ふん、なら後で確かめてやるさ。嘘だったらすぐにお前の正体を調べてやるからな」
デブ騎士がテーブルの上の皿にある干しリンゴを手に取って、それを憎たらしく俺に向けてから食べた。
干しリンゴを俺に見立てて齧っているのだろうが、全く怖くねぇな。寧ろ美味そうに食っている。食レポでもしたらどうだ?
俺も口が寂しくなって干しリンゴを手に取って齧った。食べている間、シルビィの腰のメイスを何となく見る。
樹族の騎士は基本的に刃物を持たない。樹族のメイジ同様、魔法で戦う事が誉れとされており、刃物での戦闘は野蛮人の戦い方だと思っている。
こいつらは騎士とは名ばかりで、俺からしてみればメイジ寄りの戦士だ。だから考え方も樹族のメイジと同じなのである。
なにせレッド達と一緒にいた時に冒険者ギルドで一緒に飯を食った樹族から聞いた話だからよぉ。西の大陸出身の元貴族様にワインを一瓶奢ったら上機嫌で話してくれたんだわ。
騎士なのに武器を抜く事は殆どなく、ワンドから光の剣を出して攻撃する。マナが尽きて、やむなく接近戦をする頃になって、ようやく腰のメイスがお出ましになる。
俺が静かに干しリンゴを咀嚼していると、シルビィが話しかけてきた。
「キリマルは樹族なのに前衛専門とは珍しいな。盾役が不足しがちな我らの中において貴重な存在だ。ありがたい」
赤髪は樹族にしては視野が広い。相手を外見や身分で判断していねぇ。他の樹族みたいに差別する事を知らん。
干しリンゴの丁度良い甘みを、舌の上で堪能してから飲み込むと、俺はシルビィに言った。
「まさかどの騎士団も魔法がメインなのか? 魔法騎士団にも盾役ぐらいいるだろう? 寧ろタンクばかりの盾盾騎士団(相変わらずアホなネーミングセンスだ)とかあってもいいはずだ。で、お前はどこの団の所属なんだ?」
俺が女騎士に所属を尋ねると、他の騎士たちが一斉にニヤリとした。
周りの反応を気にしているのか、女騎士の声が少し小さくなる。
「王国近衛兵騎士団所属・・・だ。それから名前はシルビィ。シルビィ・ウォールだ。キリマル」
「ほ~。王直属の部下って事か。凄いじゃねぇか、シルビィ」
俺が感心していると、ヒョロガリの騎士がクスクスと笑いながら一言加える。
「近衛兵騎士団所属の独立部隊隊長だろう、シルビィ隊長どの?」
「小隊長って事か? で、お前はなんだ? ナナフシ騎士団の団長様か?」
俺がもやしっ子のような騎士を挑発すると、そのヒョロガリがテーブルを叩いて怒りを露わにした。
「なぜ王が! お前のような平民を! この隠密作戦のリーダーに選んだのかは知らんが! 口の利き方に気を付けろ! ここにいる者は光の七騎士の家名を持つ者ばかりなんだぞ! それにシルビィ以外は皆副団長補佐だ。更に! 聞け! 更に、だ! 私はワンドリッター家の者でもある! 敬意を示したらどうだ! 平民!」
知るか、アホが。「俺は横浜銀蠅連合の幹部なんだぞ!」的な、一昔前のヤンキー同士の舌戦みたいな圧力かけんなよ。笑わせる。
「副団長ってのは団長の補佐だよなぁ? その補佐の補佐ってどうなのよ? 実際役に立たねぇどうでもいい役職なんだろよ? それにヒョロガリ。家名を出して無駄に威張っているが、どうせお前はワンドリッター家の三男坊か四男坊なんだろよ。え? 違うか?」
ヒョロガリの他にデブも図星だったのか、二人は下唇を噛んだ。
有力貴族の子供でも長男以外はこんなもんよ。次男はまだ長男の予備として家に置かれるが、それ以降は下手すりゃ家督相続の邪魔者扱いをされて殺される。
(今回の作戦の性質上、お前らは捨て石みたいなもんだからよ。この世から消えてしまっても誰も気に留めねぇ。今回の任務でこいつらを蘇生するかどうか悩むな。生意気な貴族様達だ。まぁ、シルビィは何度でも生き返らせてやるけどな。クハハ!)
「さて、下らんお喋りはここまでにするか。あっと、それから自己紹介したいなら後で勝手にしろ。では作戦の説明に入る。作戦は単純明快。獣人国レオンにいるコノハ王子を殺すだけだ。グランデモニウム王国と樹族国が小競り合いをしている裏で、王子はレオンを味方に付けて謀反を起こそうとしているのだから、討伐は当然だわな」
正直、それが本当なのかどうかはどうでもいい。俺はこのミッションを成功させてビャクヤのもとへ帰れればいいんだからよ。もう色んな場所に放り出されるのには飽きた。
「なん・・・、だと?」
騎士の誰もが目を見開いて驚いている。
「馬鹿な! 王子暗殺だと? それは元老院の陰謀ではないのか? 本当に王がそう仰ったのか?」
シルビィが元老院という単語を出すと、デブが横目でナントカ・ワンドリッターを見ている。
その視線を受けてヒョロガリ・ワンドリッターはフンと鼻を鳴らした。
「言っておくが、私自身は元老院と繋がりはないぞ。父とも仲が悪い。だからこそ、王は私を任務に選んでくれたのだ」
「だといいがな。お前の父、ソラス卿はあちこちに小鳥を飛ばす事で有名だ。お前もその一羽なのだろう? ステコ。王がお前を指名した事を、ソラス卿はしめしめと手を擦り合わせて喜んでいるのではないか? どうだ? 図星ならチュピチュピと鳴け!」
なんだ、なんだ? あのちっこきシュラス王は、敵対勢力の息子を任務遂行のメンバーに選んだのか? ・・・まぁどうでもいいがよ。邪魔になれば殺して捨てていくからな。
「貴様ァ!」
おいおい、今にもステコ・ワンドリッターはデブチン・ナントカに飛び掛かりそうじゃねぇか。間にシルビィがいて助かる。
俺は二人の横顔を鞘で突いて喧嘩になる前に止める。
「そのエネルギーを任務遂行のためにとっとけや。次、喧嘩したらぶっ殺すからな。これは冗談じゃねえぞ? 俺の剣技は無詠唱の魔法よりも速い」
「・・・」
二人は頬を擦りながら椅子から浮かせていた腰を沈めた。
俺様の脅しが効いて、二人とも静かになった。まぁ王が俺をリーダーに選んだって事もあるし、そもそも俺は脅しが得意な悪魔でもあるからよ。
どのみち実際、俺の攻撃は、お前らの魔法よりも速いんだわ。
イキリマルしてて申し訳ないがよ。ダイヤモンドゴーレムと戦った事による、自分の成長具合がこえぇんだ、んん。
「シルビィは問題なさそうだが、デブとステコは早速明日訓練場で戦い方を学んでこいよ。三日で雑魚魔物を倒せる程度には仕上げてこい」
「たった三日で?! そ、それから! 私の名はデブではない! ガノダ・ムダンだ! 武勇で名を馳せたるムダン・ムダンの四男にして・・・」
「さてと簡単な説明も終わったし、お前らの評価と態度を王様に報告しに行くか」
「わぁぁぁ! 待ってくれ! キリマル殿!」
ヒョロガリのステコとデブのガノダが、素早く俺の脚に絡みついてきた。
「ガノダの事はともかく! お願いだから私の事は悪く言わないでくれたまえよ! 王へは良い報告だけを頼む!」
ステコ君ッ! 君のどこに良い評価ポイントがあるというのかねッ! と意味なくビャクヤの物真似を心の中でしてみる。
「詫びる! 君の無礼な態度は私たちを試す為だったのだろう? だったら私は未熟者だった。次からは改める! だから頼む!」
いや、俺の無礼な態度はいつもだぜ? ガノダ。
「ああ、うっとおしい! 離せ馬鹿どもが」
「頼むぅ!」
二人は更に強く俺の脚を掴んで涙目で懇願するのだから、実にうっとおしい。首を斬りてぇ。
「わかった、わかった。悪くは言わねぇから安心しろ」
「約束だぞ!」
ワンドリッター家の誇りとか・・・、そういうのはねぇのか? 鼻水を拭け、ステコ。
「嘘ついたら・・・。アレだからな! え~っと、アレだぞ!」
デブ坊ちゃんは脅しが下手だ。
俺は何も問題がないシルビィをちらりと見てから頷き、二人を蹴飛ばして部屋から出ていった。
今回のように、秘密裏に任務の打ち合わせをする為にある薄暗い部屋の中で、役には立たなさそうな仏頂面のヒョロガリや、太っちょと顔を突き合わせているのだからため息も出る。赤髪の騎士は骨がありそうだが・・・。
「俺はキリマルだ。好きに呼べ」
俺は三人に向かって自己紹介し、テーブルに足を置く。
「変な名前だ。苗字はないのか? どの領地の平民だ?」
痩せた騎士が馬鹿にした声でそう言うが、俺は無視をして欠伸をした。
欠伸を終えて前を見ると、灯りに照らされた―――、魔法の灯りではなく蝋燭の灯りで浮き上がる三人の顔のうち、二人が敵意をむき出しにしたのを見て、俺は刀をチンと鳴らして威嚇した。
威嚇に止めたのには理由がある。
コズミックペンが何をしたいのかを見極める為にも、俺は我慢することを覚えなくちゃならねぇ。
なぜなら世界を飛ぶごとに、ビャクヤとの繋がりを近くに感じるからだ。しかも飛んだ先で何かを達成した時ほどその傾向が強くなる。つまりミッションをクリアするたびに、俺はビャクヤに近づいているのだ。
となると我慢強くミッションクリアをするしかねぇが、この法則は俺の勝手な憶測かもしれねぇ。何かのはずみでまたビャクヤから離れるかもしれねぇからな。
勝手な憶測を信じこむのもよくねぇな自戒してみる。コズミックペンの考えが理解できるのはコズミックノートだけだろうからよ。
シュラス王が信頼を置く騎士たちを見て、俺はもう一度溜息をついて目をぐるりとさせた。
三人のうち二人が戦い慣れしてなさそうな間抜け面だからだ。ミッションクリアを考えるとデブとガリが戦力にならないという負担は大きい。
俺は椅子に座ったまま、アマリの収まっている鞘を騎士たちの顔に向ける。
「右から失礼しま~す。坊ちゃん、坊ちゃん、あ、一つ飛ばしてまた坊ちゃん」
三人しかいないのに誰もいない四人目の空座を指して俺はなんだか恥ずかしくなったが、テーブルの向こう側に座る樹族の騎士たちをからかう事には成功した。
気の済んだ俺は坊ちゃんではない一人を見る。
赤い髪に赤い瞳。短命種の年齢に換算すると二十代前半くらいか? どことなくドン・レッドに似ているが、こいつは少年のような顔をしているが、女だ。
「お前は修羅場を潜り抜けた顔をしているな。実力値は?」
俺の姿はシュラス王がくれた魔法のペンダントの効果で、背の高い樹族に変わっているが、得体のしれない男に偉そうな口を利かれて怒りを募らせる騎士の中において、こいつだけは俺の無礼な態度を気にした様子がない。
「15だが、お前はどうだ? 10以上と見た」
赤い瞳が真っ直ぐとこちらを見つめる。
俺ぁボーイッシュなのがタイプだからよ、ちょっとチンコが反応してしまったぜ。
「クハハ! 正解。お前と同じだ」
「そうか。私はお前の事をよく知らないが、一目見た時から只者じゃないと感じた。そのうち手合わせを願いたい」
夜の手合わせなら喜んで付き合うが、アマリが激怒しそうなので、冗談を言うのは止めておくか。
「へぇ。言っとくが俺はお前らと違って魔法は使わねぇぞ。基本的に刀専門の前衛だ。手合わせしても参考にはならねぇぜ?」
デブが小さな声で忌み子めと呟いたが、俺には何のことかわからねぇので無視する。多分悪口か何かだろうよ。
「魔力のない忌み子なのか? 【知識の欲】で視させてほしいのだが?」
ヒョロガリが鑑定魔法を詠唱をしようとしたが、俺はそれを睨んで首を横に振って止めた。
当たり前だが、鑑定魔法で素性を知られれば悪魔だとバレる。まぁいざとなりゃあ、魔法をレジストするなり刀で斬るなりするけどよ。
「断る。これは俺の意思ではなく、王からの命令だ。俺を視るな。嘘だと思うなら直接シュラス王に尋ねてみろ」
「ふん、なら後で確かめてやるさ。嘘だったらすぐにお前の正体を調べてやるからな」
デブ騎士がテーブルの上の皿にある干しリンゴを手に取って、それを憎たらしく俺に向けてから食べた。
干しリンゴを俺に見立てて齧っているのだろうが、全く怖くねぇな。寧ろ美味そうに食っている。食レポでもしたらどうだ?
俺も口が寂しくなって干しリンゴを手に取って齧った。食べている間、シルビィの腰のメイスを何となく見る。
樹族の騎士は基本的に刃物を持たない。樹族のメイジ同様、魔法で戦う事が誉れとされており、刃物での戦闘は野蛮人の戦い方だと思っている。
こいつらは騎士とは名ばかりで、俺からしてみればメイジ寄りの戦士だ。だから考え方も樹族のメイジと同じなのである。
なにせレッド達と一緒にいた時に冒険者ギルドで一緒に飯を食った樹族から聞いた話だからよぉ。西の大陸出身の元貴族様にワインを一瓶奢ったら上機嫌で話してくれたんだわ。
騎士なのに武器を抜く事は殆どなく、ワンドから光の剣を出して攻撃する。マナが尽きて、やむなく接近戦をする頃になって、ようやく腰のメイスがお出ましになる。
俺が静かに干しリンゴを咀嚼していると、シルビィが話しかけてきた。
「キリマルは樹族なのに前衛専門とは珍しいな。盾役が不足しがちな我らの中において貴重な存在だ。ありがたい」
赤髪は樹族にしては視野が広い。相手を外見や身分で判断していねぇ。他の樹族みたいに差別する事を知らん。
干しリンゴの丁度良い甘みを、舌の上で堪能してから飲み込むと、俺はシルビィに言った。
「まさかどの騎士団も魔法がメインなのか? 魔法騎士団にも盾役ぐらいいるだろう? 寧ろタンクばかりの盾盾騎士団(相変わらずアホなネーミングセンスだ)とかあってもいいはずだ。で、お前はどこの団の所属なんだ?」
俺が女騎士に所属を尋ねると、他の騎士たちが一斉にニヤリとした。
周りの反応を気にしているのか、女騎士の声が少し小さくなる。
「王国近衛兵騎士団所属・・・だ。それから名前はシルビィ。シルビィ・ウォールだ。キリマル」
「ほ~。王直属の部下って事か。凄いじゃねぇか、シルビィ」
俺が感心していると、ヒョロガリの騎士がクスクスと笑いながら一言加える。
「近衛兵騎士団所属の独立部隊隊長だろう、シルビィ隊長どの?」
「小隊長って事か? で、お前はなんだ? ナナフシ騎士団の団長様か?」
俺がもやしっ子のような騎士を挑発すると、そのヒョロガリがテーブルを叩いて怒りを露わにした。
「なぜ王が! お前のような平民を! この隠密作戦のリーダーに選んだのかは知らんが! 口の利き方に気を付けろ! ここにいる者は光の七騎士の家名を持つ者ばかりなんだぞ! それにシルビィ以外は皆副団長補佐だ。更に! 聞け! 更に、だ! 私はワンドリッター家の者でもある! 敬意を示したらどうだ! 平民!」
知るか、アホが。「俺は横浜銀蠅連合の幹部なんだぞ!」的な、一昔前のヤンキー同士の舌戦みたいな圧力かけんなよ。笑わせる。
「副団長ってのは団長の補佐だよなぁ? その補佐の補佐ってどうなのよ? 実際役に立たねぇどうでもいい役職なんだろよ? それにヒョロガリ。家名を出して無駄に威張っているが、どうせお前はワンドリッター家の三男坊か四男坊なんだろよ。え? 違うか?」
ヒョロガリの他にデブも図星だったのか、二人は下唇を噛んだ。
有力貴族の子供でも長男以外はこんなもんよ。次男はまだ長男の予備として家に置かれるが、それ以降は下手すりゃ家督相続の邪魔者扱いをされて殺される。
(今回の作戦の性質上、お前らは捨て石みたいなもんだからよ。この世から消えてしまっても誰も気に留めねぇ。今回の任務でこいつらを蘇生するかどうか悩むな。生意気な貴族様達だ。まぁ、シルビィは何度でも生き返らせてやるけどな。クハハ!)
「さて、下らんお喋りはここまでにするか。あっと、それから自己紹介したいなら後で勝手にしろ。では作戦の説明に入る。作戦は単純明快。獣人国レオンにいるコノハ王子を殺すだけだ。グランデモニウム王国と樹族国が小競り合いをしている裏で、王子はレオンを味方に付けて謀反を起こそうとしているのだから、討伐は当然だわな」
正直、それが本当なのかどうかはどうでもいい。俺はこのミッションを成功させてビャクヤのもとへ帰れればいいんだからよ。もう色んな場所に放り出されるのには飽きた。
「なん・・・、だと?」
騎士の誰もが目を見開いて驚いている。
「馬鹿な! 王子暗殺だと? それは元老院の陰謀ではないのか? 本当に王がそう仰ったのか?」
シルビィが元老院という単語を出すと、デブが横目でナントカ・ワンドリッターを見ている。
その視線を受けてヒョロガリ・ワンドリッターはフンと鼻を鳴らした。
「言っておくが、私自身は元老院と繋がりはないぞ。父とも仲が悪い。だからこそ、王は私を任務に選んでくれたのだ」
「だといいがな。お前の父、ソラス卿はあちこちに小鳥を飛ばす事で有名だ。お前もその一羽なのだろう? ステコ。王がお前を指名した事を、ソラス卿はしめしめと手を擦り合わせて喜んでいるのではないか? どうだ? 図星ならチュピチュピと鳴け!」
なんだ、なんだ? あのちっこきシュラス王は、敵対勢力の息子を任務遂行のメンバーに選んだのか? ・・・まぁどうでもいいがよ。邪魔になれば殺して捨てていくからな。
「貴様ァ!」
おいおい、今にもステコ・ワンドリッターはデブチン・ナントカに飛び掛かりそうじゃねぇか。間にシルビィがいて助かる。
俺は二人の横顔を鞘で突いて喧嘩になる前に止める。
「そのエネルギーを任務遂行のためにとっとけや。次、喧嘩したらぶっ殺すからな。これは冗談じゃねえぞ? 俺の剣技は無詠唱の魔法よりも速い」
「・・・」
二人は頬を擦りながら椅子から浮かせていた腰を沈めた。
俺様の脅しが効いて、二人とも静かになった。まぁ王が俺をリーダーに選んだって事もあるし、そもそも俺は脅しが得意な悪魔でもあるからよ。
どのみち実際、俺の攻撃は、お前らの魔法よりも速いんだわ。
イキリマルしてて申し訳ないがよ。ダイヤモンドゴーレムと戦った事による、自分の成長具合がこえぇんだ、んん。
「シルビィは問題なさそうだが、デブとステコは早速明日訓練場で戦い方を学んでこいよ。三日で雑魚魔物を倒せる程度には仕上げてこい」
「たった三日で?! そ、それから! 私の名はデブではない! ガノダ・ムダンだ! 武勇で名を馳せたるムダン・ムダンの四男にして・・・」
「さてと簡単な説明も終わったし、お前らの評価と態度を王様に報告しに行くか」
「わぁぁぁ! 待ってくれ! キリマル殿!」
ヒョロガリのステコとデブのガノダが、素早く俺の脚に絡みついてきた。
「ガノダの事はともかく! お願いだから私の事は悪く言わないでくれたまえよ! 王へは良い報告だけを頼む!」
ステコ君ッ! 君のどこに良い評価ポイントがあるというのかねッ! と意味なくビャクヤの物真似を心の中でしてみる。
「詫びる! 君の無礼な態度は私たちを試す為だったのだろう? だったら私は未熟者だった。次からは改める! だから頼む!」
いや、俺の無礼な態度はいつもだぜ? ガノダ。
「ああ、うっとおしい! 離せ馬鹿どもが」
「頼むぅ!」
二人は更に強く俺の脚を掴んで涙目で懇願するのだから、実にうっとおしい。首を斬りてぇ。
「わかった、わかった。悪くは言わねぇから安心しろ」
「約束だぞ!」
ワンドリッター家の誇りとか・・・、そういうのはねぇのか? 鼻水を拭け、ステコ。
「嘘ついたら・・・。アレだからな! え~っと、アレだぞ!」
デブ坊ちゃんは脅しが下手だ。
俺は何も問題がないシルビィをちらりと見てから頷き、二人を蹴飛ばして部屋から出ていった。
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