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霧の向こうの鉄傀儡
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ぬちっと音がして、エストの秘部がビャクヤの亀頭を飲み込んだ。
(あ、危ない! このままでは完全に合体してしまうッ! 駄目駄目駄目ぇッ! 相手は12歳なのだぞッ! ビャクヤッ! だがッ! カリ首を吸い上げるようなこの快感がッ! 思考を蕩けさせるッ!)
カリ首が千切れそうなほどの締め付けなのに、エストが十分に濡れているお陰で痛くはなかった。寧ろ具合が良く、集中的にカリ首を刺激するので今にも発射しそうだ。
「もうそろそろ変身を解いてもいいんじゃない? ビャクヤ。国境の騎士も建物に入っちゃったわよ?」
「あっあっあっ」
恰幅の良い樹族の腹からメスの切ない声が漏れる。
「え?」
リンネが片眉を上げて訝しんだ。
「あっあっ! アックション!」
ビャクヤは今聞こえた声は自分の声だという素振りでくしゃみをした。と同時にエストがエクスタシーに達したのがわかった。強くビャクヤにしがみ付いたまま体を震わせているからだ。
(た、助かった!)
緩んだエストの秘部から素早くイチモツを抜いて、ビャクヤは地面にビュッ!と精液を飛ばした。
(ふう。危なかった・・・。中出しをしていたら浮気になるところだったヨッ!)
リンネに通用するかどうかは置いておいて、ビャクヤルールの中では、恋人以外の女性の膣内に中出しをすると浮気になるという緩い基準がある。
「あれ? なんか零れたけど、なにかな?」
リンネが空を見ると鳩が飛んでいくのが見えた。
「鳩の糞かな?」
「・・・多分、そうでしょう」
「でも・・・」
リンネはじっと白い液体を見つめ、指先で弄ってから舐める。
「ペロリ! これは・・・! 鳩の糞じゃないわ。この味・・・。ビャクヤの精液!」
(ひぇぇ! なんというスペルマ☆テイスティング! リンネは精液を舐めただけで吾輩のものだとわかってしまった!)
ほぼ毎朝、ビャクヤが寝ている間に彼の朝立ちを口で慰めていたリンネにとって、舌の上で渋味を容赦なく発揮する白濁する粘液が恋人のものであると直ぐにわかった。
「びゃくやぁぁ!」
「ひえっ!」
過去にクライネの件もあり、嫉妬の炎がメラメラと燃え上がるが、リンネもそろそろ諦める事を覚えた。
震えるビャクヤをジトっと見つめた後、ため息をついて表情を緩める。
「どうせ抱き着くエストがなんかしたんでしょ。ビャクヤが自主的にやったんじゃないのなら許してあげる」
「おおっ! 心広きリンネッ! 愛してる!」
「そういえば、前にも似たようなことがあったわね。あの時は私とビャクヤだったけど」
「ええ、キリマルに見つかった保健室での一件ッ! 子供のくせに、みたいな感じで説教されましたなッ!」
「あの時、ビャクヤがキリマルの顔に・・・。プッ! ダメだ、この場にキリマルがいたら、その話はするなって怒りそう」
「くっせぇくっせぇ! と言いながらシャワー室まで走っていく彼を見た時は、心の底から申し訳なく思いましたがッ! 同時に笑ってしまいましたッ!」
「でも髪の毛に精液が付いたら中々取れないんだよ? 気をつけてね?」
ビャクヤはリンネの綺麗な金髪を見て、精液塗れの彼女を想像してしまう。
危うく性欲が回復しそうになったが、「こんな時は・・・」と呟いて自分の苦手な幽霊などのアンデッドの姿を思い出してそれを制した。
「ええ。さてと・・・。ここから首都アルケディアまでの路銀を稼がねばなりませんね。辺境の村というのは大概、魔物討伐系の依頼レベルが高いッ! 早速近くの村で依頼を受けましょう」
恰幅の良い樹族の変身を解くと、エストをお姫様抱っこするビャクヤが現れた。誰かが見ている可能性もあるので、すぐに平均的な樹族の男性に変身する。
「エストってイクと暫く何もできなくなるよね・・・」
「まぁそれだけ強烈な快楽が全身を駆け巡るのでしょうッ!」
リンネは苦戦しつつも、ビャクヤの腕の中で眠るエストに下着を穿かせてズボンも穿かせた。
「これでよしっと」
「ん・・・?」
ビャクヤは周囲の異変に気が付いた。朝靄や立ち込める時間はとっくに過ぎているのに、ミルクのように濃い霧が立ち込め始めたからだ。
こうなると迎える展開はほぼ一つしかない。強力な魔物との戦いだ。
「これはッ! 来るッ! リンネ、国境側に走って!」
ビャクヤはリンネが頷いて国境まで走るのを見てから、自分もエストを抱えて走る。
「霧の魔物なんてッ! 実に運が悪いッ!」
霧の中から鉄騎士によく似た影が現れる。それはほぼ鉄騎士と同じ大きさで同程度に厄介な存在だ。
「あれは・・・! 鉄傀儡だッ!」
「ひえぇぇ!」
戻って来たビャクヤたちの足音を聞いて、何事かと建物から出てきた国境の騎士は、三メートルはある鉄傀儡を見て腰を抜かす。
なにより鉄傀儡は樹族にとって厄介である。魔法が効きにくく、まるで樹族を殺す為に作られたような存在だからだ。
鉄傀儡の、どこにあるのかわからないスピーカーから若い男の声がする。言語はツィガル帝国の言葉なので、彼が何を言っているのかビャクヤには分かった。
「知らなかった! 僕は知らなかったんだ! ナンベルめぇ! くそおおおお!!」
コクピットを叩く音がして、咽び泣く声が聞こえてきた。
「あの鉄傀儡、ビャクヤのお爺ちゃんの名前を言ってたね」
リンネの翻訳のペンダントが胸元で光っている。
「ええ、確かに。あれはツィガル帝国の鉄傀儡ですねッ! コンタクトを取ってみます」
「気をつけてね? 中の人は錯乱してるみたいだし」
ビャクヤはエストを建物の陰に寝かせると、跳躍して鉄傀儡の前に出た。
「ハロー! 鉄傀儡さん! どうか中の人よッ! 落ち着ていッ!」
ツィガル語を喋る樹族に操縦者は怪しむ。
「”裏側“か? ナンベルの命を受けて僕を捕えに来たのか?」
「いいえ、貴方は霧の向こう側からやってきたのですよ。よって吾輩がッ! 貴方を捕える理由はありませんぬッ!」
鉄傀儡が周囲を見渡す。それから胸のハッチが開き、中からゴブリンが現れた。
「ゴブリンッ!」
国境の騎士がそう言ってワンドを構えたが、ビャクヤが手で攻撃するなと合図した。
「騎士様、ここはあの樹族に任せてみてください」
リンネがそう言って真剣な顔で頷くので、騎士はあの樹族に説得を任せてみる事にした。本当は内心では説得が成功してくれと思っている。失敗すれば自分があの鉄傀儡と戦わねばならないからだ。
「ところで君の主人はどうした? そこの地走り族の少女は誰だ?」
リンネはギクリとする。恰幅の良い樹族が消えて代わりに少女がいる。騎士が怪しんで当然だ。
「主様ははばかりに・・・。そこの少女はあの樹族の連れかなにかでは? 昼寝でもしているのでしょう」
「そうか・・・。そこの少女もこんな騒がしい中でよく寝ていられるものだな・・・」
騎士は樹族の領土にいる者に対してはあまり詮索をしないようだ。視線を樹族とゴブリンに向けていつでも詠唱できるようにした。
「僕は霧の魔物なんかじゃない! 見ての通り、機工士のゴブリンだ!」
「ええ、解っています。霧が運ぶのは魔物だけにあらずッ! その世界から逃れたいという強い願いを持った者の前にも現れますからッ! 一体何があったのかお話してくれますか?」
少しの間の後に、ゴブリンは頷いた。
「わかりました・・・」
ビャクヤは振り向いて騎士に声をかける。
「説得に成功しました! 彼の話を聞きたいのですが、お部屋を使わせてもらってよろしいでしょうかッ!」
「ああ。それは構わないが・・・。霧の向こう側からきたゴブリンか・・・。どうしたものか・・・。異世界者の扱いはマニュアルにないぞ・・・」
騎士はぶつくさ言いながら先に建物に入って本棚の緊急事態マニュアルの項目を調べ始めたが、自分の欲しい情報は一切なく、静かに本を本棚にしまってため息をついた。
「一応調書を取るので適当に座ってくれ」
まずゴブリンが開いた扉から入ってきた。それから先程の恰幅の良い樹族とその召使いが入ってきたので騎士は頭が混乱した。
「さっきのゴブリンを説得した男はどこにいった?」
「何か急用があるとかで、吾輩に色々託して去っていきました。まったくもって迷惑な話ですよッ!」
ビャクヤは髭を捩じり上げて嫌な樹族を演じる。
「そうでしたか。しかし困った。このゴブリンが共通語を喋ってくれるといいのだが」
「勿論、喋れますよ」
ゴブリンが流ちょうな共通語を喋ったので騎士は安心した。
「助かる。なにぶん、異世界のゴブリンに出会うのは初めてでな。お茶でも出そう」
普通ならば見下しているゴブリンに樹族がお茶を出すことなどない。しかし騎士は動揺しているのか、手早くお茶の準備をしてしまった。
「優しいのですね、ありがとうございます」
丁寧な喋り方のゴブリンも、樹族に優しくされたのが初めてなのか、驚きつつもお茶を一口飲んだ。
「うわぁ! 美味しい!」
ゴブリンは驚きつつも、喉が渇いていたのか熱い紅茶を一気に飲んでしまった。
「砂糖も入っていないのにほんのり甘くて、飲んだ後に鼻の中を茶葉の香りがスーッと抜けていく。流石は樹族国の紅茶だ。僕の世界では高くて手が出せないんだ」
騎士は樹族国の紅茶が世界一であるという自覚はあるが、それでも自分の淹れたお茶を褒められて顔をほころばせた。
「ほう、君の世界でも樹族国があるのかね?」
「ええ。というか、こっちの世界もかあまり僕の世界と違いがないような気がします」
「君の世界の樹族の王は誰だ?」
「樹族国は帝国の一領土になっていますので、皇帝はナンベル・ウィンですよ?・・・くそ! ナンベルめ!」
何か恨みがあるのか、ゴブリンはナンベルの名を口にした途端拳を握りしめた。
「ハッハ! やはり異世界だな。我が国の王はシュラス・アルケディアだ。帝国にも占領されてはおらん」
美味しい紅茶を堪能しながら話を聞いていたビャクヤは、今の話が必ずしも異世界の歴史とは限らないと考えていた。
(いずれ樹族国は帝国に敗れます。帝国に味方したヒジリ様とヤイバ様に敵うわけないのですからねッ! この機工士は間違いなく帝国鉄傀儡団所属ッ! 団長のムロ・ヴャーンズの配下だ。同じ時間軸である未来から、霧を通ってやって来た可能性も大いにあるッ! となると彼がお爺様を恨む理由とは・・・)
祖父は歴代皇帝の中でも、一番領土を広げた皇帝として名高いが、内政はお世辞にも上手とは言えなかった。内政長官が変わる度に国内が不安定になるのだ。
ビャクヤは祖父が直接何かをしたとは思ってはいない。
なぜなら歴史上、帝国国内の不安定な時期を狙って、国家転覆や内乱を誘発する輩が必ず現れたからだ。この機工士もその犠牲者なのだろうと思うと、不憫になり、途端に紅茶の味がしなくなった。
(あ、危ない! このままでは完全に合体してしまうッ! 駄目駄目駄目ぇッ! 相手は12歳なのだぞッ! ビャクヤッ! だがッ! カリ首を吸い上げるようなこの快感がッ! 思考を蕩けさせるッ!)
カリ首が千切れそうなほどの締め付けなのに、エストが十分に濡れているお陰で痛くはなかった。寧ろ具合が良く、集中的にカリ首を刺激するので今にも発射しそうだ。
「もうそろそろ変身を解いてもいいんじゃない? ビャクヤ。国境の騎士も建物に入っちゃったわよ?」
「あっあっあっ」
恰幅の良い樹族の腹からメスの切ない声が漏れる。
「え?」
リンネが片眉を上げて訝しんだ。
「あっあっ! アックション!」
ビャクヤは今聞こえた声は自分の声だという素振りでくしゃみをした。と同時にエストがエクスタシーに達したのがわかった。強くビャクヤにしがみ付いたまま体を震わせているからだ。
(た、助かった!)
緩んだエストの秘部から素早くイチモツを抜いて、ビャクヤは地面にビュッ!と精液を飛ばした。
(ふう。危なかった・・・。中出しをしていたら浮気になるところだったヨッ!)
リンネに通用するかどうかは置いておいて、ビャクヤルールの中では、恋人以外の女性の膣内に中出しをすると浮気になるという緩い基準がある。
「あれ? なんか零れたけど、なにかな?」
リンネが空を見ると鳩が飛んでいくのが見えた。
「鳩の糞かな?」
「・・・多分、そうでしょう」
「でも・・・」
リンネはじっと白い液体を見つめ、指先で弄ってから舐める。
「ペロリ! これは・・・! 鳩の糞じゃないわ。この味・・・。ビャクヤの精液!」
(ひぇぇ! なんというスペルマ☆テイスティング! リンネは精液を舐めただけで吾輩のものだとわかってしまった!)
ほぼ毎朝、ビャクヤが寝ている間に彼の朝立ちを口で慰めていたリンネにとって、舌の上で渋味を容赦なく発揮する白濁する粘液が恋人のものであると直ぐにわかった。
「びゃくやぁぁ!」
「ひえっ!」
過去にクライネの件もあり、嫉妬の炎がメラメラと燃え上がるが、リンネもそろそろ諦める事を覚えた。
震えるビャクヤをジトっと見つめた後、ため息をついて表情を緩める。
「どうせ抱き着くエストがなんかしたんでしょ。ビャクヤが自主的にやったんじゃないのなら許してあげる」
「おおっ! 心広きリンネッ! 愛してる!」
「そういえば、前にも似たようなことがあったわね。あの時は私とビャクヤだったけど」
「ええ、キリマルに見つかった保健室での一件ッ! 子供のくせに、みたいな感じで説教されましたなッ!」
「あの時、ビャクヤがキリマルの顔に・・・。プッ! ダメだ、この場にキリマルがいたら、その話はするなって怒りそう」
「くっせぇくっせぇ! と言いながらシャワー室まで走っていく彼を見た時は、心の底から申し訳なく思いましたがッ! 同時に笑ってしまいましたッ!」
「でも髪の毛に精液が付いたら中々取れないんだよ? 気をつけてね?」
ビャクヤはリンネの綺麗な金髪を見て、精液塗れの彼女を想像してしまう。
危うく性欲が回復しそうになったが、「こんな時は・・・」と呟いて自分の苦手な幽霊などのアンデッドの姿を思い出してそれを制した。
「ええ。さてと・・・。ここから首都アルケディアまでの路銀を稼がねばなりませんね。辺境の村というのは大概、魔物討伐系の依頼レベルが高いッ! 早速近くの村で依頼を受けましょう」
恰幅の良い樹族の変身を解くと、エストをお姫様抱っこするビャクヤが現れた。誰かが見ている可能性もあるので、すぐに平均的な樹族の男性に変身する。
「エストってイクと暫く何もできなくなるよね・・・」
「まぁそれだけ強烈な快楽が全身を駆け巡るのでしょうッ!」
リンネは苦戦しつつも、ビャクヤの腕の中で眠るエストに下着を穿かせてズボンも穿かせた。
「これでよしっと」
「ん・・・?」
ビャクヤは周囲の異変に気が付いた。朝靄や立ち込める時間はとっくに過ぎているのに、ミルクのように濃い霧が立ち込め始めたからだ。
こうなると迎える展開はほぼ一つしかない。強力な魔物との戦いだ。
「これはッ! 来るッ! リンネ、国境側に走って!」
ビャクヤはリンネが頷いて国境まで走るのを見てから、自分もエストを抱えて走る。
「霧の魔物なんてッ! 実に運が悪いッ!」
霧の中から鉄騎士によく似た影が現れる。それはほぼ鉄騎士と同じ大きさで同程度に厄介な存在だ。
「あれは・・・! 鉄傀儡だッ!」
「ひえぇぇ!」
戻って来たビャクヤたちの足音を聞いて、何事かと建物から出てきた国境の騎士は、三メートルはある鉄傀儡を見て腰を抜かす。
なにより鉄傀儡は樹族にとって厄介である。魔法が効きにくく、まるで樹族を殺す為に作られたような存在だからだ。
鉄傀儡の、どこにあるのかわからないスピーカーから若い男の声がする。言語はツィガル帝国の言葉なので、彼が何を言っているのかビャクヤには分かった。
「知らなかった! 僕は知らなかったんだ! ナンベルめぇ! くそおおおお!!」
コクピットを叩く音がして、咽び泣く声が聞こえてきた。
「あの鉄傀儡、ビャクヤのお爺ちゃんの名前を言ってたね」
リンネの翻訳のペンダントが胸元で光っている。
「ええ、確かに。あれはツィガル帝国の鉄傀儡ですねッ! コンタクトを取ってみます」
「気をつけてね? 中の人は錯乱してるみたいだし」
ビャクヤはエストを建物の陰に寝かせると、跳躍して鉄傀儡の前に出た。
「ハロー! 鉄傀儡さん! どうか中の人よッ! 落ち着ていッ!」
ツィガル語を喋る樹族に操縦者は怪しむ。
「”裏側“か? ナンベルの命を受けて僕を捕えに来たのか?」
「いいえ、貴方は霧の向こう側からやってきたのですよ。よって吾輩がッ! 貴方を捕える理由はありませんぬッ!」
鉄傀儡が周囲を見渡す。それから胸のハッチが開き、中からゴブリンが現れた。
「ゴブリンッ!」
国境の騎士がそう言ってワンドを構えたが、ビャクヤが手で攻撃するなと合図した。
「騎士様、ここはあの樹族に任せてみてください」
リンネがそう言って真剣な顔で頷くので、騎士はあの樹族に説得を任せてみる事にした。本当は内心では説得が成功してくれと思っている。失敗すれば自分があの鉄傀儡と戦わねばならないからだ。
「ところで君の主人はどうした? そこの地走り族の少女は誰だ?」
リンネはギクリとする。恰幅の良い樹族が消えて代わりに少女がいる。騎士が怪しんで当然だ。
「主様ははばかりに・・・。そこの少女はあの樹族の連れかなにかでは? 昼寝でもしているのでしょう」
「そうか・・・。そこの少女もこんな騒がしい中でよく寝ていられるものだな・・・」
騎士は樹族の領土にいる者に対してはあまり詮索をしないようだ。視線を樹族とゴブリンに向けていつでも詠唱できるようにした。
「僕は霧の魔物なんかじゃない! 見ての通り、機工士のゴブリンだ!」
「ええ、解っています。霧が運ぶのは魔物だけにあらずッ! その世界から逃れたいという強い願いを持った者の前にも現れますからッ! 一体何があったのかお話してくれますか?」
少しの間の後に、ゴブリンは頷いた。
「わかりました・・・」
ビャクヤは振り向いて騎士に声をかける。
「説得に成功しました! 彼の話を聞きたいのですが、お部屋を使わせてもらってよろしいでしょうかッ!」
「ああ。それは構わないが・・・。霧の向こう側からきたゴブリンか・・・。どうしたものか・・・。異世界者の扱いはマニュアルにないぞ・・・」
騎士はぶつくさ言いながら先に建物に入って本棚の緊急事態マニュアルの項目を調べ始めたが、自分の欲しい情報は一切なく、静かに本を本棚にしまってため息をついた。
「一応調書を取るので適当に座ってくれ」
まずゴブリンが開いた扉から入ってきた。それから先程の恰幅の良い樹族とその召使いが入ってきたので騎士は頭が混乱した。
「さっきのゴブリンを説得した男はどこにいった?」
「何か急用があるとかで、吾輩に色々託して去っていきました。まったくもって迷惑な話ですよッ!」
ビャクヤは髭を捩じり上げて嫌な樹族を演じる。
「そうでしたか。しかし困った。このゴブリンが共通語を喋ってくれるといいのだが」
「勿論、喋れますよ」
ゴブリンが流ちょうな共通語を喋ったので騎士は安心した。
「助かる。なにぶん、異世界のゴブリンに出会うのは初めてでな。お茶でも出そう」
普通ならば見下しているゴブリンに樹族がお茶を出すことなどない。しかし騎士は動揺しているのか、手早くお茶の準備をしてしまった。
「優しいのですね、ありがとうございます」
丁寧な喋り方のゴブリンも、樹族に優しくされたのが初めてなのか、驚きつつもお茶を一口飲んだ。
「うわぁ! 美味しい!」
ゴブリンは驚きつつも、喉が渇いていたのか熱い紅茶を一気に飲んでしまった。
「砂糖も入っていないのにほんのり甘くて、飲んだ後に鼻の中を茶葉の香りがスーッと抜けていく。流石は樹族国の紅茶だ。僕の世界では高くて手が出せないんだ」
騎士は樹族国の紅茶が世界一であるという自覚はあるが、それでも自分の淹れたお茶を褒められて顔をほころばせた。
「ほう、君の世界でも樹族国があるのかね?」
「ええ。というか、こっちの世界もかあまり僕の世界と違いがないような気がします」
「君の世界の樹族の王は誰だ?」
「樹族国は帝国の一領土になっていますので、皇帝はナンベル・ウィンですよ?・・・くそ! ナンベルめ!」
何か恨みがあるのか、ゴブリンはナンベルの名を口にした途端拳を握りしめた。
「ハッハ! やはり異世界だな。我が国の王はシュラス・アルケディアだ。帝国にも占領されてはおらん」
美味しい紅茶を堪能しながら話を聞いていたビャクヤは、今の話が必ずしも異世界の歴史とは限らないと考えていた。
(いずれ樹族国は帝国に敗れます。帝国に味方したヒジリ様とヤイバ様に敵うわけないのですからねッ! この機工士は間違いなく帝国鉄傀儡団所属ッ! 団長のムロ・ヴャーンズの配下だ。同じ時間軸である未来から、霧を通ってやって来た可能性も大いにあるッ! となると彼がお爺様を恨む理由とは・・・)
祖父は歴代皇帝の中でも、一番領土を広げた皇帝として名高いが、内政はお世辞にも上手とは言えなかった。内政長官が変わる度に国内が不安定になるのだ。
ビャクヤは祖父が直接何かをしたとは思ってはいない。
なぜなら歴史上、帝国国内の不安定な時期を狙って、国家転覆や内乱を誘発する輩が必ず現れたからだ。この機工士もその犠牲者なのだろうと思うと、不憫になり、途端に紅茶の味がしなくなった。
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