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敵前逃亡
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「捜査の基本は現場からッ!」
ビャクヤはリンネの父親が死んだ草原に来ると、なぜか薪を集め魔法で火を起こし、石でかまどを作ってミルクパンに水を入れてお湯を沸かし始めた。
「風景を見ながらお茶を楽しむ為に、来たわけじゃないんだけど? ビャクヤ」
「わかっております、我が主様」
ビャクヤは甲斐甲斐しく、座るのに手ごろな石を焚火の近くに持ってくると、ハンカチを置きリンネを座らせて淹れたてのミルクコーヒーを差し出した。
「風景を楽しむにはイマイチな場所だな」
俺は辺りを見渡す。少し先に森があって木々の中に廃城が見える。
その廃城は蔦に覆われており、いくら夏日の真っ青で爽やかな空を後ろに従えているとはいえ、見栄えが良いとは思えなかった。
「あそこが盗賊の拠点になっていたのか」
その不気味な城は、騎士たちが討伐するまで盗賊の住処になっていた。
「元々はネクロマンサーが城を買い取って住んでいたんだけど、盗賊に占拠されて牢屋に閉じ込められてたらしいよ。盗賊の討伐が済んだ今は、またネクロマンサーが住んでいるけどね」
「ほう。ネクロマンサーっていやぁ、リッチのルロロと同じか。死霊術士ってのはどんな事ができる職業なんだ?」
「死霊を操って戦うメイジだよッ! ゾンビやらスピリットやらワイトやらをね。熟練者になると異世界のヴァンパイアとかいうアンデッドも操れるようになるらしい」
「この世界に吸血鬼はいねぇのか?」
俺の質問には続けてビャクヤが答えるのかと思ったが、珈琲を飲んでいたリンネが答えた。
「私たちの先祖は元々異世界人だから、以前に住んでいた世界にはいたらしいよ。この世界にはいないけど。代わりに吸魔鬼っていうのがいて、人の中にあるマナや能力を吸い取ってしまうの。とても強くて恐ろしい魔物だけど見た事はないわ」
「お前ら異世界人の子孫なのかよ。じゃあビャクヤの方が、この世界の正当なる住人って事か?」
「魔人族は人間よりも古くからいるがッ! 正確には我らも正当なる住人とは言い難いッ! この星の正真正銘の住人は樹族ッ! と神様が言っていたッ!」
「ルロロの事をメイン種族と言っていたもんな。じゃあ新参者だったリンネの先祖も、この世界じゃ苦労しただろうな」
「うん。歴史の授業だと習った内容では、初期の人間はゴブリンよりも弱かったから。魔法も使えないし力も体力もない。知恵で対抗してたらしいけど、数の多いゴブリンやオークに襲われると簡単に村が壊滅する事も多かったそうよ」
「あぁ、それで数に対抗するには数って事で、お前らは増えていったんだな。道理で性に対して緩い奴が多いと思ったわ」
「そんなに開放的かなぁ? 私たち」
「あぁ、貞操観念緩くてやべぇな。割と昼間でも物陰でまぐわっているカップルを見るしよ」
「まぁ盛っちゃったものは仕方ないよね」
「ほら、それ。普通は自制してプライベートな時間まで待つんだろ。だがお前らは性欲には素直に従う」
「う~ん、言われてみれば・・・」
「という事でッ! 我らも今からまぐわいまSHOW!」
ビャクヤがリンネに飛びつこうとすると、マジックハンマーが迎え撃った。
「するかっ!」
「なんのッ! リフレクトんんんマントッ!」
ガキンと音がして二人は対峙する。・・・またこのパターンか。
「いいじゃねぇか。受け入れてやれよリンネ。ビャクヤは考えようによっちゃ便利な奴だぞ。種族差があり過ぎて子作りができないってのは、逆を言えばやり放題、出し放題だってことだろ。なのでビャクヤをセックスの練習台にするという手もある。床上手な女は男にとってもかなり魅力的だしな」
少し恥ずかしそうにしながらも、リンネはまんざらでもないという顔をしていた。それもありかもしれないと考えているのだろう。
そういうとこだぜ? この国の人間がエロいってのは。
「そこに愛はッ! あるんかえッ!?」
ビャクヤがマントをシュバッ! と広げてから頭を抱えて苦悩のポーズをとる。
「知らん。それはリンネ次第だろ」
「吾輩はッ! そんな目的で体を重ねるのは嫌だッ!」
あら、ビャクヤがへそ曲げた。こいつは意外とこういうところあるよなぁ。だけどよ、お前は騙されたとはいえ夢魔のババァと、嬉しそうにまぐわってたろ。クハハ!
「もういいでしょ、その話は。それよりビャクヤ。珈琲を飲んだって事は【再現】の魔法を唱えるんでしょ?」
「ご名答ッ!」
ビャクヤが仰々しく手を振り払うと、野原で戦う騎士と盗賊の幻が再現される。
騎士の中に一人だけ絶対に、無視することのできない者がいた。リンネの父親アトラスだ。
「なんかお前の父ちゃん、色々とすげぇな・・・」
筋肉ムキムキの裸の上半身にどうやって固定しているのか解らない肩当て。ゴツイ無骨な小手。脚の筋肉でパツンパツンになった革のズボンに脚絆。そしていつも頬肉を上に押し上げての、不自然な笑顔。
「かっこいいでしょ?」
いや、そういう意味で言ったわけじゃねぇんだがよ・・・。
リンネの父ちゃんは、正面から迫りくる盗賊の前で、一々マッスルポーズをとってから、小手でパワフルに殴りつけ、囲まれると丸太のような足で薙ぎ払う。
素早い盗賊の動きにも負けてはいない。寧ろ、一呼吸分ポーズをとってから動くので、盗賊よりも素早くないとできない芸当だ。
「とんでもねぇ筋肉馬鹿だな・・・。騎士というよりは格闘家じゃねぇか」
アトラスがいる事で騎士団の士気も上がっているように見える。
「戦いながらのあの笑顔・・・。吾輩は恐ろしく感じるッ!」
「味方には頼もしい顔でしょ。ビャクヤは敵目線で見たからそう思ったのよ! ってか、怖いってなによ!」
ほんと父ちゃん子だな、リンネは。それにしてもあんだけ活躍してんのに、下級騎士ってのもおかしいだろ。
その理由は直ぐに分かった。リンネの父ちゃんは敵の戦意を挫く程にボコボコに殴った後、とどめを刺さない。弱った盗賊を他の騎士が捕縛したり倒したりしている。
父の活躍を誇らしく見ていたリンネだが、空中に何かが現れたのを見逃さなかった。
「ねぇ! これってイービルアイじゃない?」
父親の上に現れた黒いイービルアイは、アトラスを見て直ぐに消えた。
「なんだったんだ?」
「野良のイービルアイが野次馬に来たって感じではないわね・・・」
イービルアイが消えた途端、アトラスの顔からも笑顔が消えた。そして・・・。
「あ! 急に逃げ出した! そんな!」
「あのイービルアイがッ! 魔法やスキルを発動させたようには見えないッ! きっとお父上はッ! 何かの伝言を聞いたのではないかなッ!?」
「イービルアイは、なにを伝えたのかな・・・」
「そこまではッ!」
逃げようとしたアトラスの背中を、隠遁スキルで隠れていた盗賊の刺突剣が心臓を貫く。
「お父さん・・・」
どう見ても即死だな。盗賊にとっては会心の一撃だったろうよ。その盗賊もアトラスを殺された事で激昂した他の騎士に倒された。
6人パーティで一隊の騎士二隊は、盗賊の残党を次々と殺していく。これまでに捕縛された盗賊は幸運だと思えるほど容赦なく。騎士たちはかなり怒り狂っており、それだけアトラスに人望があったという事だな。
突然、敵前逃亡をしたアトラスに困惑しながらも、騎士達が彼を囲んで泣き崩れる姿を見て、リンネもボロボロと涙を零して泣いていた。
ビャクヤはリンネの父親が死んだ草原に来ると、なぜか薪を集め魔法で火を起こし、石でかまどを作ってミルクパンに水を入れてお湯を沸かし始めた。
「風景を見ながらお茶を楽しむ為に、来たわけじゃないんだけど? ビャクヤ」
「わかっております、我が主様」
ビャクヤは甲斐甲斐しく、座るのに手ごろな石を焚火の近くに持ってくると、ハンカチを置きリンネを座らせて淹れたてのミルクコーヒーを差し出した。
「風景を楽しむにはイマイチな場所だな」
俺は辺りを見渡す。少し先に森があって木々の中に廃城が見える。
その廃城は蔦に覆われており、いくら夏日の真っ青で爽やかな空を後ろに従えているとはいえ、見栄えが良いとは思えなかった。
「あそこが盗賊の拠点になっていたのか」
その不気味な城は、騎士たちが討伐するまで盗賊の住処になっていた。
「元々はネクロマンサーが城を買い取って住んでいたんだけど、盗賊に占拠されて牢屋に閉じ込められてたらしいよ。盗賊の討伐が済んだ今は、またネクロマンサーが住んでいるけどね」
「ほう。ネクロマンサーっていやぁ、リッチのルロロと同じか。死霊術士ってのはどんな事ができる職業なんだ?」
「死霊を操って戦うメイジだよッ! ゾンビやらスピリットやらワイトやらをね。熟練者になると異世界のヴァンパイアとかいうアンデッドも操れるようになるらしい」
「この世界に吸血鬼はいねぇのか?」
俺の質問には続けてビャクヤが答えるのかと思ったが、珈琲を飲んでいたリンネが答えた。
「私たちの先祖は元々異世界人だから、以前に住んでいた世界にはいたらしいよ。この世界にはいないけど。代わりに吸魔鬼っていうのがいて、人の中にあるマナや能力を吸い取ってしまうの。とても強くて恐ろしい魔物だけど見た事はないわ」
「お前ら異世界人の子孫なのかよ。じゃあビャクヤの方が、この世界の正当なる住人って事か?」
「魔人族は人間よりも古くからいるがッ! 正確には我らも正当なる住人とは言い難いッ! この星の正真正銘の住人は樹族ッ! と神様が言っていたッ!」
「ルロロの事をメイン種族と言っていたもんな。じゃあ新参者だったリンネの先祖も、この世界じゃ苦労しただろうな」
「うん。歴史の授業だと習った内容では、初期の人間はゴブリンよりも弱かったから。魔法も使えないし力も体力もない。知恵で対抗してたらしいけど、数の多いゴブリンやオークに襲われると簡単に村が壊滅する事も多かったそうよ」
「あぁ、それで数に対抗するには数って事で、お前らは増えていったんだな。道理で性に対して緩い奴が多いと思ったわ」
「そんなに開放的かなぁ? 私たち」
「あぁ、貞操観念緩くてやべぇな。割と昼間でも物陰でまぐわっているカップルを見るしよ」
「まぁ盛っちゃったものは仕方ないよね」
「ほら、それ。普通は自制してプライベートな時間まで待つんだろ。だがお前らは性欲には素直に従う」
「う~ん、言われてみれば・・・」
「という事でッ! 我らも今からまぐわいまSHOW!」
ビャクヤがリンネに飛びつこうとすると、マジックハンマーが迎え撃った。
「するかっ!」
「なんのッ! リフレクトんんんマントッ!」
ガキンと音がして二人は対峙する。・・・またこのパターンか。
「いいじゃねぇか。受け入れてやれよリンネ。ビャクヤは考えようによっちゃ便利な奴だぞ。種族差があり過ぎて子作りができないってのは、逆を言えばやり放題、出し放題だってことだろ。なのでビャクヤをセックスの練習台にするという手もある。床上手な女は男にとってもかなり魅力的だしな」
少し恥ずかしそうにしながらも、リンネはまんざらでもないという顔をしていた。それもありかもしれないと考えているのだろう。
そういうとこだぜ? この国の人間がエロいってのは。
「そこに愛はッ! あるんかえッ!?」
ビャクヤがマントをシュバッ! と広げてから頭を抱えて苦悩のポーズをとる。
「知らん。それはリンネ次第だろ」
「吾輩はッ! そんな目的で体を重ねるのは嫌だッ!」
あら、ビャクヤがへそ曲げた。こいつは意外とこういうところあるよなぁ。だけどよ、お前は騙されたとはいえ夢魔のババァと、嬉しそうにまぐわってたろ。クハハ!
「もういいでしょ、その話は。それよりビャクヤ。珈琲を飲んだって事は【再現】の魔法を唱えるんでしょ?」
「ご名答ッ!」
ビャクヤが仰々しく手を振り払うと、野原で戦う騎士と盗賊の幻が再現される。
騎士の中に一人だけ絶対に、無視することのできない者がいた。リンネの父親アトラスだ。
「なんかお前の父ちゃん、色々とすげぇな・・・」
筋肉ムキムキの裸の上半身にどうやって固定しているのか解らない肩当て。ゴツイ無骨な小手。脚の筋肉でパツンパツンになった革のズボンに脚絆。そしていつも頬肉を上に押し上げての、不自然な笑顔。
「かっこいいでしょ?」
いや、そういう意味で言ったわけじゃねぇんだがよ・・・。
リンネの父ちゃんは、正面から迫りくる盗賊の前で、一々マッスルポーズをとってから、小手でパワフルに殴りつけ、囲まれると丸太のような足で薙ぎ払う。
素早い盗賊の動きにも負けてはいない。寧ろ、一呼吸分ポーズをとってから動くので、盗賊よりも素早くないとできない芸当だ。
「とんでもねぇ筋肉馬鹿だな・・・。騎士というよりは格闘家じゃねぇか」
アトラスがいる事で騎士団の士気も上がっているように見える。
「戦いながらのあの笑顔・・・。吾輩は恐ろしく感じるッ!」
「味方には頼もしい顔でしょ。ビャクヤは敵目線で見たからそう思ったのよ! ってか、怖いってなによ!」
ほんと父ちゃん子だな、リンネは。それにしてもあんだけ活躍してんのに、下級騎士ってのもおかしいだろ。
その理由は直ぐに分かった。リンネの父ちゃんは敵の戦意を挫く程にボコボコに殴った後、とどめを刺さない。弱った盗賊を他の騎士が捕縛したり倒したりしている。
父の活躍を誇らしく見ていたリンネだが、空中に何かが現れたのを見逃さなかった。
「ねぇ! これってイービルアイじゃない?」
父親の上に現れた黒いイービルアイは、アトラスを見て直ぐに消えた。
「なんだったんだ?」
「野良のイービルアイが野次馬に来たって感じではないわね・・・」
イービルアイが消えた途端、アトラスの顔からも笑顔が消えた。そして・・・。
「あ! 急に逃げ出した! そんな!」
「あのイービルアイがッ! 魔法やスキルを発動させたようには見えないッ! きっとお父上はッ! 何かの伝言を聞いたのではないかなッ!?」
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「そこまではッ!」
逃げようとしたアトラスの背中を、隠遁スキルで隠れていた盗賊の刺突剣が心臓を貫く。
「お父さん・・・」
どう見ても即死だな。盗賊にとっては会心の一撃だったろうよ。その盗賊もアトラスを殺された事で激昂した他の騎士に倒された。
6人パーティで一隊の騎士二隊は、盗賊の残党を次々と殺していく。これまでに捕縛された盗賊は幸運だと思えるほど容赦なく。騎士たちはかなり怒り狂っており、それだけアトラスに人望があったという事だな。
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