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第一章 海の惑星編
第五話「助けられ、戦わされて」
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緊急任務:依頼者マリエルの救出、『海の魔女』の正体の捜索、及び討伐
遂行者:八岐大蛇、アレス
犠牲者:0名
……。
…………あぁ、これを見るのももう何度目だろうか。何度死ぬ目を見れば気が済むのだろうか。
冷たさより息苦しさの方が強い。肺が限界を超えようとしている。それでも身体の力を抜き、浮力に身体を預ける。
「ごぼっ……!」
このままでは本当に溺れ死ぬ。折角あの巫女服の少女がくれたチャンスをこんな所で無駄にするのか。それだけは避けなくてはならない。
俺にはまだ、守るべき者がいる。アレスがこの時代で生きているんだ。きっとあいつもこの時代に何処かで生きているだろう。
それならここで死ぬなんて尚更御免だ。あの子が生きている希望が少しでも生まれたのだ。せめてこの目で見るまで死ぬ事なんて出来ない。
…………。
………………………。
なんだこの光は。海の中なのに、こんなに暖かいところがあるのか。段々光が強くなってきて……まるで俺を起こしに来てるかのような――
「うぅっ……」
俺が目を覚ましたときには、既に浜辺にいた。
「ここは……、どこだ……?」
体を起こせば、白い貴族っぽい服を着た銀髪の男が俺の前に現れた。
「お、目を覚ましたか」
恐らく俺をここまで連れてくれたのはこの人だ。とりあえず礼は言っておく。
「すまない、お陰で助かった」
「お、おう……というか君はどこの人だ? こんな格好している人、レイブンでもこの世界でも見ないが……」
「レイブン……?」
「はぁ……やっぱりか。君、向こう側から来たんだろ?」
「何故それを……」
突然青年が放った言葉に思わず驚く。レイブンという単語を知らないだけで異界人と見抜かれた。それほどレイブンというのはこの世界では有名なのだろう。
そんな反応をする俺に、青年は思わずため息をつく。
「はぁ……全く、カルマがいないたってのに今度は何も知らない迷子か。でも、国王様も言っていたな。人の出会いは必ず何かの縁があるって。
……すまない、紹介が遅れたな。俺はエイジだ。しばらくの間宜しく頼む」
エイジ。それがこの青年の名前か。というか俺は何て名乗れば良いんだ。そのまま八岐大蛇でいいのだろうか。
この時代に生まれてから名前が変わってたりとかしていなければいいが……
ただそれだけを心配しながら、俺もエイジに名を名乗る。
「……俺は八岐大蛇。お前の言う通り、ただの異界人だ」
「八岐大蛇……」
エイジは俺が思ったより驚く事は無く、小さな声で俺の名を呼び続ける。
「よし、覚えたぞ大蛇。申し訳ないが少し付き合ってほしい」
「い、いきなり何ですか……?」
俺はエイジに助けられてからいきなり付き合えと言われて何の事かと思った、その刹那。
「シッ!」
「っ――!!」
エイジは突然俺の顔面に蹴りを入れる。だが当たる寸前で俺はステップを踏んで避けた。
「なるほど。やはり君は普通の人間ではない。なら、遠慮は無用だ!!」
「な、何をいってるんだ!?」
エイジの意図を脳内で探っている内に、エイジは俺に向かって殴りかかってきた。俺はとっさに右手の拳を握って構えた。
「うぉぉおおっっ!」
エイジは殴ると思わせて俺の腹に蹴りを入れる。身体を反らして避けようとするが、エイジの蹴りの方が速かった。
「ちっ――!」
俺は大きく吹き飛ばされ、岩場に背中を強くぶつける。あまりの痛さに歯を食いしばる。
フェイントとは中々卑怯な手を使うな。こっちが殴って来るのを予知していたのか……。
「ふっ……!」
流れに任せるままエイジが一気に間合いを詰めてくる。このまま一気に片を付けるつもりなのか。
「させるか……よっ!!」
蹴られる瞬間、俺はとっさに左手でエイジの蹴り足をはたき落とした。
「なっ――!」
エイジははたき落とされた勢いで砂浜に顔面から転び落ちる。俺はそれを逃さず、岩場を蹴って飛び、エイジの背中目掛けて踵落としを入れる。
「甘いっ!」
この動きを読むかのように、エイジはうつ伏せの状態から起き上がり、その勢いで俺の脛に左足の踵で蹴りを入れた。
「くっ……!」
弁慶の泣き所を狙うとは……、さっきのフェイントといい貴族のくせに卑怯な戦法だっ……!
そこまでするならこっちも仕返しをしてやろうと思い、俺は右手に魔力を籠めた。右拳から禍々しく黒い波動が放たれる。
「お試し程度だが……っ!」
身体は違えど、魂は過去の記憶を引き継いでいる。それなら、今まで習得した技の一部も使えるはずだ。
「させるかっ!!」
そうはさせまいとエイジがもう片足の脛に蹴りを入れようとしてきた。
だが俺は蹴られるより速く、目に追えぬ速さでエイジの懐へと突っ込み、左足を踏み込む。全身を撚る。右手の拳により強く力を加える。
その勢いのまま腹めがけて全力の一撃を放つ。
「黒壊!!」
俺の黒い拳が閃光の如くエイジの腹を穿ち、肋の骨が何本か折れる音がした。
「がはっ……!!」
衝撃でエイジは海まで吹っ飛ばされる。大きな水しぶきを立てた後にプカプカと身体が浮いているのが見える。
今の一撃が余りにも強すぎたからか、よく見るとエイジは気絶していた。
……この時代でも過去に習得した技は使えるのか。
右手の5本の指を動かしながら技を使った後の状態を確認するが、全くの無傷だ。
それと今ので確実にエイジの骨を折った。貴族の骨を折った事をこの世界の人に知られたら面倒だな……
それは避けなければと思い、俺は沖に流れてきたタイミングでエイジを砂浜まで引き摺り、左手をエイジの前に翳《かざ》す。
「治癒」
翳した左手から若緑の風が気絶しているエイジを優しく包み込む。風が当たる度に徐々に凹んだエイジの腹部が元に戻っていく。
「この程度で十分か」
俺が治癒魔法を唱えて3秒も経たずに気絶してるエイジの肋が全回復し、エイジはふと目を覚ました。
「痛ったっ……って、えっ? 腹全然痛くないんだけど。大蛇、俺に腹パンした後何したんだ?」
「何、治癒魔法だ。その中でもかなり初歩的なものだがな」
「ち、治癒魔法っ!? す、すごいな! それさえあればどんなに重症でも3秒で回復するのか!?」
「いや、いくら3秒とて怪我が重ければ重いほど回復は難しいんだが……」
説明を聞き終えて、更に治癒魔法に興味を持ったエイジだが、突然俺の胸ぐらを掴みながら言ってきた。
「それより大蛇ィィ!! どうやってこの俺の鉄壁の腹筋を打ち破ったんだ!?」
「ただ一撃かましただけだが……」
「いやそうじゃなくて……、お前腹パンする前になんか黒いオーラ出てただろ!?」
「さっきの腹パンした時に出した技の事を言っているのか。あれは『黒壊』、魔力を物理攻撃に応用させた技だ」
魔力を応用……とは言ったが、この技はただ拳に力を入れて殴るだけなのでかなり初歩的な技だが、この時代に使えるのは俺くらいしかいないだろう。
「なるほど。どうりで俺の肋を折るわけだ。すごいな……その技はっ!!」
丁寧に説明してくれたお礼と捉えて良いのか分からないが、突然エイジが俺の顔に膝蹴りを繰り出す。今度もしっかり直撃する。
「ぐっ……!!」
顎が砕けそうになるくらい痛かった。骨は折れていないと思うが、それでも歯を食いしばろうとしても痛くて食いしばれない程だ。
「はぁ、はぁ……、まだまだ甘いな大蛇!」
戦いはまだ終わってないぞと言わんばかりのエイジだったが、いつの間にか視界に俺の姿は無かった。普通なら目の前で倒れているだけだ。
「っ――! どこに行った!?」
「まだまだ甘い、か。一体誰に言っている?」
俺は背後からエイジに話しかける。まるで悪魔の囁きかのように。
「くっ……!」
エイジは背後を狙って勢いをつけて右肘を突くが、それを見越して避けると同時にエイジの頭上まで飛ぶ。
「その言葉……そっくりそのままご返却だっ!」
「なっ! 頭上だと……!?」
貴族だろうが関係なくさっきと同じ技を今度は顔面に喰らわせる。
「黒壊!」
エイジの顔面に黒い閃光が迸る。閃光は真下の砂浜に直撃し、数秒間大きな砂嵐を起こした。
「がっ……!」
砂嵐が止んだが、エイジは血を流しながら倒れている。もう気絶どころでは無くなった。
だが、まだ少し息はしている。やはりこの人間は只者ではない。
「治癒」
俺は死ぬ寸前のエイジに早急に治癒魔法をかけ、目を覚まさせた。
「ず、ずるいぞ!! 頭上からその技出すのは!!!」
いや、説明の途中に攻撃してきたお前が言う事かよ……と言わずにはいられない俺だった。
遂行者:八岐大蛇、アレス
犠牲者:0名
……。
…………あぁ、これを見るのももう何度目だろうか。何度死ぬ目を見れば気が済むのだろうか。
冷たさより息苦しさの方が強い。肺が限界を超えようとしている。それでも身体の力を抜き、浮力に身体を預ける。
「ごぼっ……!」
このままでは本当に溺れ死ぬ。折角あの巫女服の少女がくれたチャンスをこんな所で無駄にするのか。それだけは避けなくてはならない。
俺にはまだ、守るべき者がいる。アレスがこの時代で生きているんだ。きっとあいつもこの時代に何処かで生きているだろう。
それならここで死ぬなんて尚更御免だ。あの子が生きている希望が少しでも生まれたのだ。せめてこの目で見るまで死ぬ事なんて出来ない。
…………。
………………………。
なんだこの光は。海の中なのに、こんなに暖かいところがあるのか。段々光が強くなってきて……まるで俺を起こしに来てるかのような――
「うぅっ……」
俺が目を覚ましたときには、既に浜辺にいた。
「ここは……、どこだ……?」
体を起こせば、白い貴族っぽい服を着た銀髪の男が俺の前に現れた。
「お、目を覚ましたか」
恐らく俺をここまで連れてくれたのはこの人だ。とりあえず礼は言っておく。
「すまない、お陰で助かった」
「お、おう……というか君はどこの人だ? こんな格好している人、レイブンでもこの世界でも見ないが……」
「レイブン……?」
「はぁ……やっぱりか。君、向こう側から来たんだろ?」
「何故それを……」
突然青年が放った言葉に思わず驚く。レイブンという単語を知らないだけで異界人と見抜かれた。それほどレイブンというのはこの世界では有名なのだろう。
そんな反応をする俺に、青年は思わずため息をつく。
「はぁ……全く、カルマがいないたってのに今度は何も知らない迷子か。でも、国王様も言っていたな。人の出会いは必ず何かの縁があるって。
……すまない、紹介が遅れたな。俺はエイジだ。しばらくの間宜しく頼む」
エイジ。それがこの青年の名前か。というか俺は何て名乗れば良いんだ。そのまま八岐大蛇でいいのだろうか。
この時代に生まれてから名前が変わってたりとかしていなければいいが……
ただそれだけを心配しながら、俺もエイジに名を名乗る。
「……俺は八岐大蛇。お前の言う通り、ただの異界人だ」
「八岐大蛇……」
エイジは俺が思ったより驚く事は無く、小さな声で俺の名を呼び続ける。
「よし、覚えたぞ大蛇。申し訳ないが少し付き合ってほしい」
「い、いきなり何ですか……?」
俺はエイジに助けられてからいきなり付き合えと言われて何の事かと思った、その刹那。
「シッ!」
「っ――!!」
エイジは突然俺の顔面に蹴りを入れる。だが当たる寸前で俺はステップを踏んで避けた。
「なるほど。やはり君は普通の人間ではない。なら、遠慮は無用だ!!」
「な、何をいってるんだ!?」
エイジの意図を脳内で探っている内に、エイジは俺に向かって殴りかかってきた。俺はとっさに右手の拳を握って構えた。
「うぉぉおおっっ!」
エイジは殴ると思わせて俺の腹に蹴りを入れる。身体を反らして避けようとするが、エイジの蹴りの方が速かった。
「ちっ――!」
俺は大きく吹き飛ばされ、岩場に背中を強くぶつける。あまりの痛さに歯を食いしばる。
フェイントとは中々卑怯な手を使うな。こっちが殴って来るのを予知していたのか……。
「ふっ……!」
流れに任せるままエイジが一気に間合いを詰めてくる。このまま一気に片を付けるつもりなのか。
「させるか……よっ!!」
蹴られる瞬間、俺はとっさに左手でエイジの蹴り足をはたき落とした。
「なっ――!」
エイジははたき落とされた勢いで砂浜に顔面から転び落ちる。俺はそれを逃さず、岩場を蹴って飛び、エイジの背中目掛けて踵落としを入れる。
「甘いっ!」
この動きを読むかのように、エイジはうつ伏せの状態から起き上がり、その勢いで俺の脛に左足の踵で蹴りを入れた。
「くっ……!」
弁慶の泣き所を狙うとは……、さっきのフェイントといい貴族のくせに卑怯な戦法だっ……!
そこまでするならこっちも仕返しをしてやろうと思い、俺は右手に魔力を籠めた。右拳から禍々しく黒い波動が放たれる。
「お試し程度だが……っ!」
身体は違えど、魂は過去の記憶を引き継いでいる。それなら、今まで習得した技の一部も使えるはずだ。
「させるかっ!!」
そうはさせまいとエイジがもう片足の脛に蹴りを入れようとしてきた。
だが俺は蹴られるより速く、目に追えぬ速さでエイジの懐へと突っ込み、左足を踏み込む。全身を撚る。右手の拳により強く力を加える。
その勢いのまま腹めがけて全力の一撃を放つ。
「黒壊!!」
俺の黒い拳が閃光の如くエイジの腹を穿ち、肋の骨が何本か折れる音がした。
「がはっ……!!」
衝撃でエイジは海まで吹っ飛ばされる。大きな水しぶきを立てた後にプカプカと身体が浮いているのが見える。
今の一撃が余りにも強すぎたからか、よく見るとエイジは気絶していた。
……この時代でも過去に習得した技は使えるのか。
右手の5本の指を動かしながら技を使った後の状態を確認するが、全くの無傷だ。
それと今ので確実にエイジの骨を折った。貴族の骨を折った事をこの世界の人に知られたら面倒だな……
それは避けなければと思い、俺は沖に流れてきたタイミングでエイジを砂浜まで引き摺り、左手をエイジの前に翳《かざ》す。
「治癒」
翳した左手から若緑の風が気絶しているエイジを優しく包み込む。風が当たる度に徐々に凹んだエイジの腹部が元に戻っていく。
「この程度で十分か」
俺が治癒魔法を唱えて3秒も経たずに気絶してるエイジの肋が全回復し、エイジはふと目を覚ました。
「痛ったっ……って、えっ? 腹全然痛くないんだけど。大蛇、俺に腹パンした後何したんだ?」
「何、治癒魔法だ。その中でもかなり初歩的なものだがな」
「ち、治癒魔法っ!? す、すごいな! それさえあればどんなに重症でも3秒で回復するのか!?」
「いや、いくら3秒とて怪我が重ければ重いほど回復は難しいんだが……」
説明を聞き終えて、更に治癒魔法に興味を持ったエイジだが、突然俺の胸ぐらを掴みながら言ってきた。
「それより大蛇ィィ!! どうやってこの俺の鉄壁の腹筋を打ち破ったんだ!?」
「ただ一撃かましただけだが……」
「いやそうじゃなくて……、お前腹パンする前になんか黒いオーラ出てただろ!?」
「さっきの腹パンした時に出した技の事を言っているのか。あれは『黒壊』、魔力を物理攻撃に応用させた技だ」
魔力を応用……とは言ったが、この技はただ拳に力を入れて殴るだけなのでかなり初歩的な技だが、この時代に使えるのは俺くらいしかいないだろう。
「なるほど。どうりで俺の肋を折るわけだ。すごいな……その技はっ!!」
丁寧に説明してくれたお礼と捉えて良いのか分からないが、突然エイジが俺の顔に膝蹴りを繰り出す。今度もしっかり直撃する。
「ぐっ……!!」
顎が砕けそうになるくらい痛かった。骨は折れていないと思うが、それでも歯を食いしばろうとしても痛くて食いしばれない程だ。
「はぁ、はぁ……、まだまだ甘いな大蛇!」
戦いはまだ終わってないぞと言わんばかりのエイジだったが、いつの間にか視界に俺の姿は無かった。普通なら目の前で倒れているだけだ。
「っ――! どこに行った!?」
「まだまだ甘い、か。一体誰に言っている?」
俺は背後からエイジに話しかける。まるで悪魔の囁きかのように。
「くっ……!」
エイジは背後を狙って勢いをつけて右肘を突くが、それを見越して避けると同時にエイジの頭上まで飛ぶ。
「その言葉……そっくりそのままご返却だっ!」
「なっ! 頭上だと……!?」
貴族だろうが関係なくさっきと同じ技を今度は顔面に喰らわせる。
「黒壊!」
エイジの顔面に黒い閃光が迸る。閃光は真下の砂浜に直撃し、数秒間大きな砂嵐を起こした。
「がっ……!」
砂嵐が止んだが、エイジは血を流しながら倒れている。もう気絶どころでは無くなった。
だが、まだ少し息はしている。やはりこの人間は只者ではない。
「治癒」
俺は死ぬ寸前のエイジに早急に治癒魔法をかけ、目を覚まさせた。
「ず、ずるいぞ!! 頭上からその技出すのは!!!」
いや、説明の途中に攻撃してきたお前が言う事かよ……と言わずにはいられない俺だった。
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