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連載

嫁入り支度 70

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「エリーゼ、少し屈んで頂戴」

言われるまま屈むとお母様が手ずから桃の髪飾りを挿して下さった。

「ふふっ……こんな風にエリーゼの髪に挿すのはいつ振りかしら?」

サラリとお母様の手が私の髪を撫でる。そういえばいつからお母様は私の髪に触れなくなったのかしら……

「……愛娘の髪すら触れる事が許されないなんて……」

ドキリとする様な低い声で呟かれる。そうだ……王都に行ってからお母様は私に触れなくなっていて、それはお父様もで……でも、領地に帰って来ている時だけは沢山……
領地なら人の目に触れる機会が少ないから?確かに王都の邸には始終お客様が来ていたし……
王室典範には載っていなかった気がするけど、誰かがお父様やお母様にそう言っていたの?典範にすら載ってない事を?

「お母様……誰がそんな事を……」

「過ぎた事です。今は関係の無い事だわ」

お母様の顔が見えないけど、声は落ち着きを取り戻してる。

「まぁまぁ!お似合いですわ!」

鏡を持った奥方がやって来て、髪飾りを見せてくれてますが思ったより似合ってて可愛いです。

「本当……」

「では、こちらを届けて頂戴。勿論、エリーゼによ」

お母様、お仕事早いです!

「畏まりました!」

奥方……元気いっぱいで返事しましたね。でも、リボンと違って櫛や簪みたいな髪飾りは可愛いし使い勝手も良さそう。
何よりも布製なのが嬉しい。
あ……ちょっとお腹空いてきた……

「さて、そろそろ邸に戻りましょうか」

「はいっ!」

良かった!お母様もお腹空いてきてたのね!ってコッソリ確認すれば、そろそろお昼になろうという頃合いでした!

「では、よろしくね」

「お任せ下さい!」

お母様が奥方にそう言うとニコニコ顔で私を手招きし、クイッと手を掴むと歩き出した。

「では、また!」

また来るだろうから、そう挨拶してお母様と一緒に出て歩き出した所で木々の間から手を振るサテュロスの雌とその娘達に手を振り返して歩く。
木々の上には天蚕達がムニムニと体を起こして揺れていた。
きっと手を振る様なつもりで体を揺らしてるんだと思う。なんか可愛くて、ユーモラスで小さいぬいぐるみでもあれば癒されるかも知れないと小さい天蚕を見て思った。
……いや、前にも思ったな……チビ天蚕のぬいぐるみ……
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